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JKだけど異世界で真の漢に俺はなる  作者: 相川ミサヲ
第1章
20/78

◇レオ視点◇

寝オチしてしまった。…


 熱に浮かされて夢を見ていたようだ。

 とりとめのない映像が浮かんでは消え、消えては浮かんで消えていく。

 その中で特に、俺を庇って兄さんが刺された時の画面が何度も再生される。

 「にいさーーん」

 涙でぐちゃぐちゃになった視界の中で、兄さんの美貌が苦痛にゆがむ。

 兄さんは、今の俺ぐらいの年齢で、刺した女は、兄さんより随分年上の女性だった。


 兄さんを粘っこい視線で見る女はこいつだけじゃなかった。

 兄さんの行先に先回りして待ち伏せしたり、自分勝手な内容の手紙を渡そうとしたり、時には怖いものを小包にして送り付けたりしてきた。

 そんな女にはいろんなタイプがいた。化粧でゴテゴテにした女やら変な事が一見でわからない女もいた。


 兄さんは、刺された事をきっかけに、人の方の顔で、外に出ることが少なくなった。

 王都では、英雄の系譜として俺達家族は認識されていたから不便はなかったけれど、一歩、王都の外へ出ると獣人の特徴上、軽く見られたりして悔しい思いもしたと思う。


 何よりも、豹の顔は怖がられた。二人の姉と違って、兄は頭部全体が豹の顔になる。

 表情も読み取りにくくなるのか「何を考えているのかわからない」とか不気味がられたりした。よく見れば、兄の表情は豊かであり、いつも優しげに微笑んでいるのがわかるのに。


 二人の姉を除いて、俺は女性が苦手になった。

 それは騎士学校へ入ってから特に。

 学校の門のところで待ち伏せされたり、よくいく店でも俺を見るためだけに人が集まった。

 気持ち悪かった。得体がしれなかった。いつ熱に浮かされたような目をした女が俺を刺しにくるのかと怖かった。


 兄が騎士になってすぐ、職場の部下だという女性が家にやってきた。

 兄は留守で家には俺と下の姉しかいなかった。


 家人がやんわり断ったのだが、家の中まで上がりこんできた。

 身分の高い人だったらしく家人も強く言えなかったようだ。

 

 物音がして俺と姉が廊下に出ると、血の海の中に知らない男が倒れていた。

あの身分の高い女の従者だった。

 俺と目が合うと女は口角をつりあげて笑った。

 手には剣を持っていた。そして女は言ったのだ---------


 「まぁウィルにそっくり、あなたも私のコレクションになる?」


 自身の行動を諌めようと止めた、自分の従者を斬り捨てた直後だったのだ。


 それからの事はあまり覚えていない。姉に庇われて、隣の家に逃げ込んだ。

 女は通報によってかけつけた警備隊に連れていかれたが、あとの顛末が怖かった。


 女の家からウィルの髪と思われる毛髪、盗まれた隊服、書き損じの書類、使っていたペン。学生時代の教科書、使用後の食器類などが綺麗に箱に入れられた状態で見つかったのだ。


 「ごめんな。ごめんな」

 知らせを受けて駆け付けたウィルは姉と俺を抱きしめて泣いた。


 それからのウィルは過保護なくらいに俺達の事を心配するようになった。

 自分の生活を犠牲にしてまで家族を守るウィル。

 何かに憑りつかれたように自分を鍛えるウィル。


 それは、他国で仕事をしていた両親が戻るまで続いた。


 兄が、俺達を守るために費やした時間や労力を思うと申し訳なく思う。


 俺はいつの間にか、そんな兄の力になりたくて郵便物をチェックしたり、家の周囲を巡回したりするようになった。

 人の顔を覚え、危険人物をリストアップした。

 ある程度力がつくと「害虫狩り」と称して、駆除してまわった。


 兄の周囲は特に危険だ。

 魅力的な花に引き寄せられるように、害虫が群れていた。

 赴任地であるアジャールに行ってからは、だいぶその数は減ったようだったが、 目を離すと、毒虫共がすぐ湧く。

 

 学年末の休み毎に、兄の周辺を探りにいった。

この休みもそうするつもりで来た。


 王都に比べると、アジャールは居心地がよかった。

 生きるのに精いっぱいな土地柄では、強ければ豹頭であろうと犬頭であろうと関係がなかった。魔獣より強く、町を守ってくれるならそれでよかった。

 兄も、王都にいたときよりも、生き生きして楽しげだ。

 俺もこの町が故郷の同級生とつるんで遊んだりした。


 町の人の多くが生活することに忙しくて他人の顔の造作など、どうでもいいようだった。


 そんな日だった、兄がアリサという女を拾ってきて家に住まわせるようになったのは。


 記憶をなくしている、と聞いた時には気の毒だなと素直に思った。

 初対面で足払いをかけようとしてきたり言動は乱暴でよく言えば快活で活発、俺の知っている女子とはちょっと違う。

 兄に対してもおもねったりしてはいないようだ。そして常識は疎いというより、ない。

 ちょっと脅しておこう。

 兄に二心あるようなら、怖がらせれば逃げるかも。


 しかしギルドでの一件では、うまく対処されてしまった。何だか胡散臭い。


 魔獣の襲撃の時には気丈だった。俺の方が怖がっていたかもしれない。

 でもそのあとの被害者へ救助にむかうその姿は、まるで経験があるかのようで頼もしいくらいだった。おまけに、高度の治癒魔法すら使ってみせた。

 やっぱり胡散臭い。


 砦からの帰りに寄ったギルドの解体所で、魔獣の名前を聞く態度に不審を覚えた。

 一方では詳しすぎるし、ある点では物を知らな過ぎた。

 知識の偏りと記憶の欠如、それはなんだかわざとらしさを感じさせるものだった。

 目を見ればウソをついている者独特の落ち着きのなさが見てとれる。

 「君、何も知らないんだね。一体どんな生活をしてきたの?」

 嫌味をこめて聞いてみたが、はぐらかされた。

 こちらが疑っていることはわかっているみたいだった。



 イライラする。

 アリサを見ているとイライラする。

 わざとらしい男っぽい態度に、行動。

 嘘をついて、平気でウィルの家に居座っている。ずうずうしい。


 早朝、アリサは自己鍛錬をしているようだ。見たことのない型の武道をしている。

 兄も気が付いていて、「がんばるな」と褒めていた。

 あれは兄に対するアピールに違いない。

 ムシャクシャする。


 家の周りをうろちょろする気に入らない害虫を退治した日の朝、

 俺は水浴びをしているアリサを偶然見てしまった。

 あんなガサツ女でも恥じらいというものがあるのだろうか、木陰で隠れるように着替えをはじめた。

 覗くつもりはなかったが出ていきずらかった。

 偶然、チラリと見えた日に焼けていない身体のやわらかな曲線が目に眩しい。

 あんな男女でも触れたくなるような、なめらかな肌をしているようだ。


 …何をしているんだ、まるで覗きじゃないか。


 舌打ちをしたくなるのを堪えて、アリサが髪を乾かすために屈んだのを幸いと見つからないように家に入った。


 兄が稽古をつけてくれるというので、朝、木剣を持って庭に出るとアリサが外で立って待っていた。

 時々、兄との鍛錬をアリサが見学しているのに気が付いていたが、別に嫌な視線ではなかった。でも、「見られること」に敏感になっていた俺はついアリサに嫌味を言ってしまっていた。


 兄に対するアピールで剣をふっている癖に…

 その証拠にアリサの腕は一向にあがっていないようだった。

 毎朝、アピールのためだけに早起きしているのならばご苦労なことだ。

 言った時は、スっとした気持ちだったが、すぐ後悔することになった。

 アリサは目を瞠って俺を見た。泣きそうな傷ついた表情だった。


 動機はともかく、努力している者に対する言葉ではなかった。

 そうは思ったが、害虫に優しい言葉なんかかけてたまるかと意地になった。


 とはいえ、なんだかそれ以来、アリサと顔を合わせずらくなって、俺は友人の家に入り浸るようになった。

 顔を見れば嫌味を言ってしまっている。なんだか自分がおかしい。

 他の害虫にはクールに振る舞えるのに。


 町中でアリサを見かけた。冒険者風の恰好をした仲間と一緒だった。

 同じ位の年頃の若者の中で生き生きと話し、笑っていた。

 両隣をちょっと年上の青年達に囲まれていた。

 アリサは俺より2~3歳年上だ。おそらく両隣の青年は結婚相手として意識しているのだろう。アリサとて、結婚適齢期なのだ。

 あんな男女のどこがよくて、と思わないでもなかったが、この町の事情上、女冒険者はモテるという話を聞いたことがある。案外冒険者の青年から見たら魅力的に見えるのかもな、と思ったら何だかモヤっとした。


 兄さんに一途じゃないのか。

 誰でもいいのかよ。

 ビッチめ。


 言いがかりのような気もしないでもないが、アリサがますます憎らしくなった。

 あんな女、一度痛い目をみればいいんだ。


 スミス夫人がアリサのことを心配していた。

 上流家庭に仕えてきた彼女には、アリサは危なっかしく思えるらしい。

 「酒場に出入りするなんて」

 「まぁ。若いし、いろんな事に興味があるんだろう。あまり窮屈にさせすぎても」

 兄が父親みたいな事を言っていた。

 「とはいえ、若い娘だからな。信頼のおける者にそれとなく頼んでおくよ」

 あんな害虫に優しくしてやらなくてもいいのに。


 俺は、兄に心配をかけるアリサがさらに憎らしくなった。


「遅いですわねぇ」

 泊まりでの狩りということで、もうずっとスミス夫人は気に病んでいる。

 あまり友人の家に入り浸りというのも何なので、俺は久しぶりに家に帰っていた。

 「男女一緒という事ですし、何かあったら…」


 あんなビッチ、とっくにとっかえひっかえしてるさ。

 自分の考えにさらにイラっとくる。

 兄さんに保護されている分際で自由すぎだろ。

 「子どもじゃないじゃん」

 俺がまだ入れない酒場で男どもにチヤホヤされて悦にはいっているだろう姿が目に浮かぶ。

 ふん。ばかばかしい。そうやって男をなめてると、泣くことになるんだぜ。

 泣く、であの朝の泣きそうな傷ついた顔を思い出した。

 あいつが泣いたら、兄さんは責任を感じるだろう。

 くそ、イラつく。


 兄さんにまた心配をかけて気をひこうってそうはいかない。

 「どの店にいるって?」

 窓の外を見ると雨がふりだしていた。俺は傘をもって家を出た。



 酒場の隣の宿屋から男連れで出てきたアリサに俺は怒り心頭だった。

 この・・・ビッチ!・・・アバズレめ!


 「いい機会だから話しをしよう」

 男連れだったことに悪びれないアリサを無理やりに馬小屋へ連れ込んだ。

 冷静に話ししようとしたが「アンタには関係ない」

みたいな事を言われ、タガがはずれた。

 気がつくと往復ビンタをしていた。


 兄さんに心配をかける、という時点で俺に無関係ということはない。

 アリサの態度は許せなかった。


 自分の中の加虐性に火がついて歯止めが効かなくなっていた。

 気が付けば両手両足からの反撃を馬乗りになって抑え込んでいた。

 こうやって脅かせば、大抵の女は泣いて許しを請う。

 褒められた方法ではないが、一部の害虫には有効な手だ。


 だが俺の恫喝をこめた脅しにも、アリサは逆らって認めようとしなかった。

 「聞く耳をもたない」そういう意識表示に逸らされた首筋が白く、艶めかしく、

 不覚にも俺は欲情を覚えた。

 …あのままだったら、どうかしてしまっていたかもしれない。

 木陰から覗いた、白い柔らかそうな肢体が脳裡に甦って喉が渇いたようになった。


 これは、脅しだ。アリサだってはじめてじゃないはずだ。

 そう言い訳しつつ、耐えがたく、誘われるままその首筋に吸いつこうとして…

 俺は魔法をくらった。

 容赦ない攻撃だった。

 正直なんかときめきを感じた。







 ……熱から覚めて

 やっちまった感が俺を襲う。

 欲望に負けるだなんて…俺としたことが…

 「無様だな」

 魔法が使えるという事実もそうだったが、俺はアリサをちゃんと見ていなかった。

 何かで目が曇っていたとしか思えない。


 でも気分は良かった。

 熱と一緒になんだか憑き物も抜け落ちた感じだ。


 兄の命令でアリサと仲直りさせられた。

 兄弟喧嘩の仲裁でもあるまいに、「お互いにごめんなさい」はないだろうと思ったが、あの美貌のせいでその手の経験値が少ない兄らしいといえば兄らしい方法だった。

 そうだ、あの兄だってもうあのころの少年じゃないんだ。

 俺は何に拘って兄に執着していたのだろう?


 なにかひさびさに、晴れ晴れとした気分だった。

 アリサは、と見れば、まだ俺を警戒したような目で見ている。

 この気持ちは何だろう?アリサが嫌がったり、困ったりするようなことを仕掛けてみたくなる。

 アリサはどんな反応をみせるだろうか?

 腕に閉じ込めてその反応をじっくり見て楽しみたい。

 そして粗野ぶってるその仮面を剥いで見てみたい。

 そんな事を考えながらアリサを見つめると明らかにブルって後ずさった。

勘はいいらしい。



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