51 二人でお迎え
ナサニエル率いる討伐隊の騎士たちに救出された私とアドルファスは、無事、ディウドの街に帰還した。
氷のドームにいた時は気が高ぶっていて気付かなかったが、私もアドルファスも体のあちこちに小さな切り傷や打撲を負っていた。川で流された時にできたのだろう。
もはや治癒魔法を使う余力はなかったので、詰所の救護室で手当てを受け、疲労回復効果のある薬草茶を貰って飲んだ。
救護班の班長さんは、先に帰還していたジェイクさん達から私が川に流されたことを聞いていたらしく、涙ぐんで喜んでくれた。
『核』の討伐成功と私たちの無事の帰還を受けて、今夜バロウ邸で祝勝会を行うことが決まったらしい。若様はその準備で慌ただしくしているようだったが、合間を縫って救護室に顔を出してくれた。
「本当に無事で良かった……」
私の顔を見るなり脱力してしゃがみ込んでしまった若様。本当に心配してくれていたのだと、胸が熱くなった。
救護室で少し休ませてもらい、日暮れ前に慌てて詰所を出ようとすると、門の手前でアドルファスが待っていた。
「祝勝会には出ないのか?」
「参加するつもりですよ。その前にロウェルをお迎えに行って、ハンナさん達にお願いしてきます」
「これから迎えに行くのなら、俺も一緒に行ってもいいだろうか?」
そわそわと落ち着かない様子でアドルファスが尋ねる。
「……もちろんです」
ほんの少し迷ってから、私は覚悟を決めた。
夕焼けに染まった町を、アドルファスと並んで歩く。教会が近づくにつれて、私もそわそわしてきた。
(パパと一緒にお迎えにきたよ~って言ったら、ローちゃんびっくりするかな? アドルファスも……びっくりするよね、そりゃ。どう思うだろう。ロウェルのこと、受け入れてくれるかな……?)
期待と不安で胸がいっぱいになった頃、教会に到着した。敷地の奥にある小さな礼拝堂に向かう。小さくノックし、思い切って扉を開けた。
「お世話になりまーす! ロウェルのお迎えにきた、んです、けど……?」
礼拝堂の中にロウェルの姿はなかった。一人で掃除をしていたシスターが不思議そうに首をかしげる。
「あら、ロジーさん。ロウェルくんなら、ついさっきお迎えの方が来られましたよ? ロジーさんの仕事が長引いてるから、代わりにって」
「え? あ、そうだったんですね。ハンナさん、お迎えに来てくれたんだ」
聖女の仕事で帰りが遅くなる時、ハンナさんが私の代わりにロウェルのお迎えに行ってくれたことが何度かあった。今日もハンナさんが気を回してお迎えに行ってくれたのだろう。
(ほんとにハンナさんにはお世話になりっぱなしだなぁ……)
そんなことを考えていた私は、続くシスターの言葉に固まった。
「ハンナさんではなくて、ロジーさんの仕事仲間だという若い女性が……聞いておられませんか?」
「いえ、何も……」
私の表情が強張ったことに気づいたのだろう、シスターの顔色もどんどん悪くなっていく。
「そんな……どうしましょう。王都の騎士団の制服を着ていたのですっかり信用してしまって……」
騎士団の制服を着た若い女性……おそらくリリアナだろう。王都から来た討伐隊の中に、他に女性はいない。
嫌な予感に腹の奥がひやりと冷たくなった。だって彼女は森の洞窟で、私を殺そうとしたのだ。
思わず震える私の肩を、アドルファスが抱き寄せた。
「急いで探そう。まだそう遠くへは行っていないはずだ」
「は、はい……!」
アドルファスと二人、教会の坂を駆け下りる。
坂を下ったところで、道は四方向に分かれる。詰所の方向ではない。もしそうだったら教会に行く途中にすれ違ったはずだ。そしておそらく、リコリス亭の方向でもないだろう。
残る道は二つ。
「手分けして探そう。俺はこちらに行く」
「私はあっちを探します!」
アドルファスと別れ、再び駆け出す。すでに体力の限界を超えた体は、少し走っただけで息が上がってしまう。疲労と焦りで足がもつれそうになるが、休むわけにはいかなかった。
「あのっ、若い女性騎士と小さな男の子の二人連れを見ませんでしたか?」
道行く人に尋ねながら、次第に薄闇に染まっていく街を走る。
幸い、女騎士と幼子の組み合わせは印象に残りやすかったらしく、数人から、目撃情報を得ることができた。
(ローちゃん、どうか無事でいて……!)
道は街の外れに向かっている。次第に道行く人の姿は減り、廃墟が並ぶ一角に至ると、完全に人通りは途絶えた。不安が膨らみ、吐き気が込み上げる。
崩れかけた民家の角を曲がった時、突き当りを流れる用水路のほとりに、騎士団の制服を着た小柄な人影があった。小さな男の子と手を繋いでいる。
「ローちゃん!」
私の呼びかけに二人が振り返った。
「あーあ、生きて帰ってくるなんてね。ざーんねん」
リリアナがつまらなそうに言う。その隣でロウェルがパッと顔を輝かせた。
「あっ、ままー!」
繋いでいた手を離し、笑顔で私に駆け寄ろうとしたロウェル。その襟首をリリアナが掴み、強引に引き寄せた。
「ロウェル!」
「動かないで!」
鋭い制止の声に、私は足を止めた。いや、正確にはリリアナの手にある物を見て。
鈍く光る短剣。その切っ先はロウェルの首筋に向けられている。




