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悪妻は退場しましたので【書籍化&コミカライズ予定】  作者: 中村くらら


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48 初めての(?)共同作業

 思いもよらない提案に、私は小さく息をのむ。アドルファスの表情が険しくなった。


「聖女ロジーもだと? 彼女を前線で戦わせるつもりは――」

「やります!」


 アドルファスの言葉を遮り、私は勢いよく右手を挙げた。


「私にできることなら、やらせてください!」

「しかし……」

「せっかく苦労してここまで来たんです。やれることがあるならやってみるべきです」


 私は目を逸らすことなくアドルファスを見つめ続ける。

 やがて彼は観念した様子で目を伏せ、「わかった」と頷いた。再びその目が私を見つめた時、迷いの色は消え去っていた。


「聖女ロジー、俺と一緒に戦ってほしい」

「はい!」


 私は力強く応えた。


「それでは手短にご説明します」


 ナサニエルが、私とアドルファスに作戦を説明する。聞き終えたアドルファスが小さく唸った。


「確かにそれが実現できれば魔獣を倒すことができるだろうが……」


 言葉を切り、私の顔を窺い見た。

 ナサニエルの考えた作戦。それは、これまでに経験のない方法で聖魔法を行使する必要があるものだった。それができなければ、作戦は確実に失敗する。

 つまり、この作戦の成否は――『核』を倒せるかどうかは、私にかかっている。ものすごく責任重大だ。


「やったことはないですが……やってみます」

「駄目で元々だ。仮にうまくいかなかったとしても、全ての責任は俺が負う。あなたは気負わずにやってほしい」


 アドルファスの言葉に、重圧に圧し潰されそうだった心が軽くなった。

 前線に向かう私とアドルファスに、ナサニエルが「お二人の初めての共同作業、期待していますよ~」と、おどけたウィンクを寄越す。

 いや、言い方!

「励もう」とアドルファスが真面目な顔で応える。

 その言い方もどうなの!?


(でも、初めて……かどうかはともかく、これがアドルファスとの最後の共同作業になるんだろうな……)


 この討伐が終われば、アドルファスは王都に戻る。離縁届を王宮に届け出れば、今度こそ正式に離縁が成立するのだ。


(いやいや、今はそんなこと考えてる場合じゃない!)


 感傷を振り払い、私はアドルファスと並んで魔獣の前に進み出た。


「聖女ロジーと俺とで、最後の攻撃を試みる。皆、援護してくれ!」


 アドルファスの声に応え、騎士達が私達二人を守るような位置に移動する。

 魔獣も何かを察したのだろうか、二つの首が揃って私達に向かって伸びた。それを他の騎士たちが剣や魔法で防ぐ。

 そんな中、アドルファスが氷魔法を発動した。斜め上にのばした両手の先に、一本の氷の槍が出現する。さらに魔力を流し込み、槍を太く長くする。それを空中に維持したまま、アドルファスが私を横目で見た。


「聖女ロジー、頼む!」

「はい!」


 私はアドルファスのすぐ隣に立ち、彼の腕に両手を添える。そして、聖魔法を流し込んだ。

 ナサニエルの作戦、それはアドルファスの氷の槍に私が浄化魔法を付与し、それで魔獣の急所を貫くというもの。浄化魔法で瘴気を祓いながら攻撃することで、再生を防ごうという作戦だ。


(浄化魔法の付与なんて、やったことないんですけど……!)


 ……あ、だけど、アイスクリームを作った時、ロウェルの氷魔法に私の火魔法を混ぜたことならある。あの感覚に近いのでは……?


(ええい、魔法は妄想力だ! アドルファスの氷の槍に、キラッキラ~ンな聖なる光をまとわせる! いける気がする! 迸れ、妄想パワー!)


 気合いと共に魔力を注ぎ込むと、氷の槍が金色の炎をまとった。思ってたのとちょっと違うけど、強そうではある!


「行け!」


 氷の槍が勢いよくアドルファスの手を離れる。槍は空中で大きく弧を描き、真上から魔獣目がけて垂直に落下した。

 重く鋭い氷の槍が、魔獣の背に突き刺さる。すぐさま集まってきた瘴気を、金の炎がかき消す。槍は徐々に深く、魔獣の体に沈み込んでいく。

 魔獣が咆哮を上げ、のたうち回る。振り回される首や尻尾に巻き込まれないよう、私達は魔獣から距離を取る。

 槍はさらに深く沈み込み――けれど、あと少しのところで動きを止めた。見れば金の炎が消えかけている。


(浄化の効果が切れかかってる! あと少しなのに……!)


 考えるより先に、私は前に飛び出していた。


「待て! 危険だ!」


 アドルファスの制止の声にも足を止めず、魔獣に接近する。両手の中で浄化の炎を練り上げ、魔獣の胸を目がけて投げつけた。 

 魔獣の胸の真ん中で、花火のように金の炎が弾ける。次の瞬間、氷の槍が魔獣の体を貫通した。


「ギャオォォォン!」


 魔獣の咆哮が洞窟内に響く。その巨体がドォンと音を立てて倒れる。しばらく苦しげにもがき、やがて魔獣は動かなくなった。


「やった! 『核』を倒したぞ!」


 騎士達から雄たけびのような歓声が上がった。私もようやく、詰めていた息を吐き出す。


「聖女ロジー、無事か⁉」


 アドルファスの声に、後ろを振り返る。駆け寄ってくるアドルファスに、「大丈夫でーす!」と笑顔で応えた。


「いや~、お見事、お見事。素晴らしい共同作業でしたねぇ」


 ナサニエルがニコニコと笑顔で拍手する。


「だから、言い方――」


 口を尖らせてツッコミを入れようとした時、何か冷たいものに足を取られ、私はよろめいた。転ばないよう踏みとどまろうとしたが、さらに強く足首を強く引かれる。


(え、何……⁉)


 体勢を崩しながら足元に目をやった私は、信じられない光景に息をのんだ。水が、まるで触手のように足首に絡みついている。その触手のような水は脇を流れる川からのびていて、私を水中に引きずり込もうとしていた。

 強い力で足首を引かれ、抵抗する間もなく体が川の方に投げ出された。リリアナがニヤリと口角を上げるのが視界の隅に映る。アドルファスが血相を変え、私に手をのばす。私も彼に手をのばし、けれどわずかに届かず虚しく宙を切った。アドルファスの顔が絶望に歪む。

 叩きつけられるように川に落下した。冷たい水に体が沈む。ゴポリと肺の中の空気が漏れた。


「ロザリンド!」


 アドルファスが私の名を叫ぶ。

 その声を聞いたのを最後に、私の意識は急流に呑み込まれた。



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