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19:作戦開始


「…ッくあぁ…あー、肩がバキバキする…」

「ふふ、お疲れ様です。お腹空いてないですか?」

「ああ、大丈夫。…イーヴ、お前見てないで手伝えよ」


夜も更けた23時。

三人の姿は、聖女の執務室にあった。


アイリもイーヴも普段から城住まいだが、もちろんリアンは部外者だ。本来ここにいるはずのない人間である。つまり、これは不法侵入であった。もっとも、忍び込んだのはずいぶん前だし、入り方自体は全くの合法だったが。


これが実現したのは、かねてからの準備が幸いした。


昼間。祭りの射的屋で落ち合った三人は、あれから適当に町中を見て回り、夕方ごろに城へ着いた。リアンはアイリとともに堂々と正面の扉から入っていき、そのまま部屋まで同行した。彼は普段から出入りしているので、見咎めるものなどいなかった。何なら門兵からは「いつもご苦労様です!」などと声をかけられる有様である。リアンが日ごろ笑顔を絶やさず、分け隔てなく挨拶をしてきたのは無駄なことではなかったのだ。


そんなわけで何の障害もなく、彼はニコニコヘラヘラしながらいつもの通り城へ侵入したのである。

そして先日よりアイリに送り付けていた大量の「プレゼントの山」の中に隠れて、この時間までやり過ごしたのだ。片づけることを諦められたプレゼントボックスの群れは、もはや部屋の風景の一部と化している。よもやここに人が入っているとは、使用人の誰も気づかなかった。


とはいえ、箱の中に数時間。お世辞にも居心地がいいとは言えない環境だ。すっかり身体は凝り固まり、リアンは箱から出るのに苦労している。近くには家族同然の幼馴染もいるものだから、つい文句も出てしまうというものである。しかしこれに、イーヴは意外そうな顔をした。


「?、男の手を借りたいのか?」

「…やっぱいい」


ちょっと考えて、やっぱりやめた。好きな子の前でみっともないこと言ったな、と思ったので。「かっこつけなくていいのか」と、イーヴからの無言のメッセージを汲み取ったのだ。癪だったが。


何とか狭い箱の中を抜け出し、大きく伸びをする。関節やら背中やらからバキボキ小さく音が鳴った。

その様子を見ながら、アイリがふと尋ねる。


「ところで、もし私が協力しないって言ってたらどうやって忍び込むつもりだったんです?プレゼント作戦はできなかったですよね?」

「その時はジジに頼んで、炊事場の食糧置き場か、洗濯物置き場あたりの隠れられそうな場所を見繕ってもらおうと思ってた。あとは…厩の干し草置き場とか?」

「過酷ですね…」

「マジでそれな。君の協力があって助かったよ、俺の尊厳のためにも」


やれやれ、といった顔をしながら、リアンは軽く身だしなみを整える。その間にアイリとイーヴは、普段の服装の上からフードとマスクをかぶり始めた。

すると同時に、窓の向こうの少し離れた場所から、けたたましい炸裂音が連続して聞こえてきた。音のする方を見ると、空の一部分が赤く見える。何かが燃えているらしい色をしていた。


「始まったな」


窓に近づき、状況を確認しながらイーヴが言った。


「準備は?」

「はい、大丈夫です」


アイリとリアンは目を見合わせて頷き合う。リアンは次にイーヴに視線を向け、これも小さく頷き合った。最後にリアンは自信もフードを被り、決意を込めて言った。


「よし、行こう」


燃える空を背にし、三人は静かに部屋を出た。

静かに、それでいてなるべく素早く、廊下を走る。

アイリの頭の中には、先日の作戦会議の内容が思い出されていた。


----------


「では改めて…今回の我々の計画では、“聖女の涙”を頂いた王冠を奪取し、その返還の引き換えに、新しい天上院議員任命勅令書への調印をルノアール王に求めます。まず“聖女の涙”の奪取ですが、これにはアイリさんの協力が必要不可欠です」

「え?私?」


淡々と説明するシャルルに急に水を向けられ、アイリはきょとんとした。


「ええ、そうです。なぜなら“聖女の涙”が保管されている“祈りの塔”にはいることができるのは、王族か聖女だけだからです」

「他の人が入ると、呪われちゃうとか?」

「そんな話が迷信的に信じられていますが、まぁ実際のところ、誰が入っても問題ないでしょうね。ただ今回の作戦は、聖女が我らに味方した、という大義名分が大切なので。それを台無しにするような方法は取れないんです」

「あ、なるほど」

「逆を言えば、中の警備は手薄…というか、皆無ですから。塔へ入ってしまえば安全です。念のためこちらで陽動もしますので」


----------


バチバチバチと炸裂する音が、城の中にも微かに伝わってくる。シャルルが大量の火薬に火をつけ、派手に引っ掻き回している音だ。火薬のもとになっているものは昼間に打ち上げた花火らしい。空は赤く燃えているが、煙は状況に似つかわしくないほどカラフルだった。実際燃やしているのは、例の強盗達に「おしおき」として集めさせた枯草ということらしいが、パッと見は完全に火事である。繊細そうな顔立ちをしていて、彼はなかなか豪快な男のようだった。


寝静まっている王族たちが起きるほどではないにしろ、さすがに兵たちは異変に気付いていた。何だ何だ、と窓を覗く巡回の兵たちが黒い影を作っている。

そこに、別の黒い影が一つ近づいていき、


「おい、手の空いている者は集まれ!教会が襲撃を受けている」


男にしては高い少年のような声で兵たちに声をかける。


「襲撃!?何者だ!」

「わからん、とにかく人手が必要だ。来てくれ!」

「だ、だが城の警備はどうする!?」

「今手分けをして非番を叩き起こしている。ここはそいつらに任せて、俺たちは教会だ!」

「わ、わかった!」


鬼気迫る伝令の声に、兵たちは連れ立って入っていく。

タタタタタッ…と走る足音が遠ざかるのを待ち、アイリたちは廊下の角から顔を覗かせる。するとピンクの頭をした伝令役の兵士が残っていて、アイリに向かって小さく投げキッスした。

ジジである。手分けして非番を起こすなぞ、もちろん嘘だ。彼女は陽動役として、城内の巡回兵をなるべく減らすのが任務だった。

安全が確保できたことを確認して、彼女は先へと走っていった。


無言で頷き合い、三人は人気のなくなった廊下を静かに駆け抜ける。


ほとんど人のいなくなった城の廊下は、嫌に静かだ。これから自分のやろうとすることと相まって、静かさがアイリの緊張感を高まらせる。いつも歩いている道のりが、今日だけはやけに遠く感じた。


しばらく走った。今は右にも左にも道がない、一本道の廊下である。ここを走り切れば“祈りの塔”にたどり着ける。


…というその時に、まさかの事態が起きた。向こうから巡回兵が談笑しながら歩いてきたのだ。

人数は二人。顔が赤く、足元もおぼついていないことから、飲酒しているであろうことが分かる。多分サボっていたのだろう。でなければ、普段の巡回兵の位置を把握した上で誘導して回っているジジが、取り逃すはずはなかった。


三人はまだ暗がりにいるおかげで向こうに気づかれていないが、見つかるのも時間の問題である。


どうしよう、とアイリが小さくこぼしたその時。


「アイリ様、こちらに」

「えっ」


返事をする間もなく急にイーヴに手を引かれ、アイリは壁に背を預けるような状態になった。これでは兵士から丸見えである。


「あっ、おい!」


友人の突然の乱心にリアンは抗議の声を上げるが、これをイーヴは足蹴にした。彼の思わぬ行動にリアンは蹴りをまともにくらい、声もなく暗がりの方へ転がっていく。そこはちょうど壺などの美術品を置く台が置かれていて、リアンはその陰にちょうどよく収まった。


何が起きているのか、アイリは脳の処理が追い付かない。気づいた時にはリアンは影の方に転がっていて、自分の顔の両脇には、壁に手をつくイーヴの腕が。目の前には、吐息がかかりそうなくらいの至近距離に、美しい男の顔があった。


「おいお前、何やってる!なっ…」


そうこうしているうちに、向かいから来た兵士二人がアイリとイーヴに気づく。その声色は明らかに驚き、狼狽えていた。

アイリは自分の正体がバレたかもしれないと思いつつも、最後のあがきで必死で顔を兵士たちと逆に向けて俯く。しかしイーヴは静かに視線を兵士たちに向けるだけで、全く動じていない。

やがて兵士たちは近づいてきて、気安く話しかけてきた。


「お前なぁ、逢引ならもっと人のいないところでやれよ。人騒がせな」


へらへらと下卑た笑みを浮かべた兵士が言う。アイリとイーヴの様子を見て、男女がいちゃいちゃと逢瀬を楽しんでいるのだと判断したらしい。…この二人、どうも外の騒ぎにすら気づいていないようだ。もしくは気づいていて知らんぷりをしているのか。どちらにせよ、兵士失格の二人である。


「ああ、すまない」

「まったく、最近の若いもんは…がふっ」

「ンゴッ!…」


冷やかしてやろうとイーヴの肩に手を置いた酒臭い顔の兵士は、ゼロ距離から繰り出される彼のパンチに即座に沈黙した。もう一人も、いつの間にか暗がりから出てきたリアンに後ろから絞められ、気絶させられる。


ドサドサッ…と男が二人崩れ落ちたところで、アイリはワンテンポ遅れてようやく状況を理解した。まさかイーヴが「壁ドンしていちゃついているカップルの振り」なんて手法を使うとは。


「は…びっくりした。…イーヴさん、こんな方法どこで」

「俺にこのやり方を教えたのは貴女でしょう」


ジト目で非難するように言うイーヴに、一瞬「え」と声を漏らしアイリは逡巡する。言われた瞬間は全く身に覚えがなかったのだが…

思い返してみると、確かに思い当たる節がある。ゴンティエの村へ調査の際、尾行がバレそうになった時に使った作戦が「恋人のふりをしていちゃつく」だったような気がしないでもない。いや、確実にそうである。

思い出した途端、妙に納得がいった。イーヴさんが自分でこんな方法を考るわけないよね、と謎の安心感があったのだ。


「あ、そうでした」

「何それ俺知らないんだけど」


話についていけないリアンが、不服を隠さず文句を言う。

するとイーヴは、珍しくリアンが不利な状況に立っているのを面白がって、フフンとドヤ顔をしてみせた。リアンをいじれる機会なんてそうそうないので、いじれるときにいじっておこうという魂胆だ。

そのままイーヴが走りだす。アイリとリアンも後に続くが


「は?うっざ」


リアンはこの状況の中でも、拗ねた子供のような顔をして走り出すのだった。

お読みいただきありがとうございます!

あと数話で終わるかな…どうかな…?というところまでたどり着きました。長かった…!

一応この話が終わった後も構想はあるのですが…

ひとまずこの話を着地させるのに全力投球します!

次回は4/13(日)更新予定です。よろしくお願いいたします!!

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