18:何を見るかは自分次第
収穫祭の開会セレモニーで魔法を披露するという大役を終えたアイリは、早々にお役御免となった。
というのも、彼女が散々ごねたのだ。「祭りに行きたい」「屋台を見て回りたい」「焼きそば食べたい」「わたあめ食べたい」「スーパーボール掬いしたい」と、まるで駄々っ子の勢いだった。
本来ならトラブルが起きそうなことは避けてほしいのだが、城の関係者たちはもうすっかり学習していた。彼女は言い出したら聞かないのである。彼らは聖女のことを、本当に駄々っ子だと思っていた。
そこで最低限、聖女の仕事をこなすことを条件に許可が下りた。その仕事というのが、魔法のお披露目だった。
魔法のお披露目は、国の内外にその権威を示す大切な儀式である。この世界において「聖女がいる」というのは、「正義がそこにある」ということと同義であった。まぁ近年で言えばその聖女起因で滅びる国も少なくないので、その意味合いは薄らいでいるきらいもあるのだが…それでも彼女らが起こす奇跡の力は、民の心をまとめ、他国を牽制するには十分な力がある。国にとっての聖女とは、体のいい崇拝的対象であった。
アイリはしっかりその役目を果たしてきた。しかし内心は、あまり気乗りしていなかった。自分の魔法があまりにもショボいので、どう思われるのかが怖かったのだ。
(花火のほうが目立ってたしなぁ…)
と浮かない顔のまま、式典を後にし、服を着替えてイーヴを伴い町へ繰り出す。
基本的に顔は知られていないので、服装さえ気をつければ周りにバレる心配はない。だから堂々と歩こうとして…、やっぱり少し足早に歩いた。ゆっくり歩くと、町の人達が聖女の噂をしているのが聞こえてきそうだったから。
もしかしたら悪い噂ではないかもしれないが、誰かが自分のことを話していると思うだけで怖い。これは自己肯定感の低さ故の感性である。
自分の気持ちをごまかしながら、熱心に屋台を見て回った。焼きそばもわたあめもスーパーボールもなかったが、いろんな出店で見たことのない食べ物がたくさん売っていて、いずれも空腹感を誘う匂いを漂わせている。カラフルな土産物も、芝居小屋や路上の曲芸師たちも、見るものの好奇心を刺激する。初めての光景の連続に、いつしかアイリは童心に帰ったように心躍らせていた。
いくつもの屋台を次々に眺めていると、ふと、景品として並べられたアクセサリーが目に留まった。
別に作りがいいわけでもないし、特別価値のあるものでもない。造花を使ったただのブレスレット。カラフルな花びらがかわいくて、どう見ても子供向けのアイテムだ。
だけどなんだか、アイリにはそれがとても魅力的に見えた。
飾られているのは、射的屋の景品棚だ。アイリはふらふら近づいていき、挑戦してみることにした。
マスケット銃のような大きな銃にコルクを詰めて、撃つ。しかし思ったように弾が飛ばない。途中で失速してしまい、的までまったく届かなかった。
何故だろうと不思議に思っていると、後ろから「貸してください」と声がした。イーヴである。
言われるままに銃を貸すと、コルクを詰めてアイリに手渡した。見ると、先ほど自分で詰めたより弾がだいぶ奥に入っているのがわかる。
そのまま撃ってみると、先ほどより断然飛距離が伸びた。さっきはどうやらコルクの詰め込みが甘かったらしい。とはいえ、的からは大きく外れた。コルクは的の向こうに下がっているテントの幕に当たり、落ちていった。
最後の弾こそはと意気込んで詰めるが、まぁそうはうまくいかない。三発目もあさっての方向に飛んでいき、アイリの射的チャレンジは幕を閉じた。
スパンッ
すると隣の客が的に弾を命中させ、落としたのが聞こえた。
ふと気になって撃ち手の方を見ると、そこには見慣れた気障な男の姿があった。しかし目つきは鋭く真剣で、アイリの知らない表情をしている。
リアンは次々に的を撃ち落とし、ノーミスでクリアした。店主がハンドベルをガンガン鳴らして祝福する。景品を選ぶように店主は言うが、リアンは待ってほしいとそれを制し、アイリの方に近づいてくる。
「どれが欲しかったの?」
「え?…あ、あれです」
咄嗟に聞かれたことに答えると、リアンはアイリの言ったものを店主に告げ、店主は景品棚に向かっていく。
「お上手なんですね」
「接待で狩りに行く機会もあるからね。銃も一通りは…はい、どうぞ」
「いいんですか?」
「もちろん」
店主が渡してきた景品のブレスレットを、そのままアイリに手渡す。欲しかった景品を手に笑みを浮かべるアイリを見て、リアンは満足げに微笑んだ。
アイリとリアンは店を後にし、一緒に歩いた。少し後ろからイーヴがついてくる。アイリの腕には、もらったばかりのブレスレットがついていた。
「見えたよ、君の魔法。綺麗だった」
「私にはよくわからなくて…役に立つ魔法でもないし」
「そうかな?俺は好きだし…みんな喜んでるみたいだけど」
暗い顔を浮かべる彼女に、周りを見てみるようリアンは視線で促した。恐る恐る周りを見ると、町の人たちは活気にあふれた表情をして楽しげに話している。
その中には聖女の話題も多く「聖女様ってどんな方なのかしら」「魔法が素晴らしかった!この国もしばらく安泰だな」「お役目をしっかりお務めになって、ご立派ですね」など、ポジティブな声が聞こえてくる。
「君がやることを評価する人は、絶対にいる。批判は怖いかもしれないけど、それだけを見て恐れる必要なんてないんだよ」
アイリは「ああ…」と思った。「きっとリアンさんは、勇気づけに来てくれたのだ」と。
同時に、自分がだいぶナーバスになっていたことにも気づく。無意識にピリピリして、いつもより他人の目を恐れていた。
「…そうですね。あの、リアンさん」
「?」
「ありがとう」
「どういたしまして」
作戦開始まで、あと九時間。
一時の安らぎの時間であった。
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次回は4/6(日)更新予定です。よろしくお願いいたします!
(更新時間はいつもより遅くなりそうです)




