表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/24

18:何を見るかは自分次第

収穫祭の開会セレモニーで魔法を披露するという大役を終えたアイリは、早々にお役御免となった。


というのも、彼女が散々ごねたのだ。「祭りに行きたい」「屋台を見て回りたい」「焼きそば食べたい」「わたあめ食べたい」「スーパーボール掬いしたい」と、まるで駄々っ子の勢いだった。

本来ならトラブルが起きそうなことは避けてほしいのだが、城の関係者たちはもうすっかり学習していた。彼女は言い出したら聞かないのである。彼らは聖女のことを、本当に駄々っ子だと思っていた。

そこで最低限、聖女の仕事をこなすことを条件に許可が下りた。その仕事というのが、魔法のお披露目だった。

魔法のお披露目は、国の内外にその権威を示す大切な儀式である。この世界において「聖女がいる」というのは、「正義がそこにある」ということと同義であった。まぁ近年で言えばその聖女起因で滅びる国も少なくないので、その意味合いは薄らいでいるきらいもあるのだが…それでも彼女らが起こす奇跡の力は、民の心をまとめ、他国を牽制するには十分な力がある。国にとっての聖女とは、体のいい崇拝的対象アイドルであった。


アイリはしっかりその役目を果たしてきた。しかし内心は、あまり気乗りしていなかった。自分の魔法があまりにもショボいので、どう思われるのかが怖かったのだ。


(花火のほうが目立ってたしなぁ…)


と浮かない顔のまま、式典を後にし、服を着替えてイーヴを伴い町へ繰り出す。


基本的に顔は知られていないので、服装さえ気をつければ周りにバレる心配はない。だから堂々と歩こうとして…、やっぱり少し足早に歩いた。ゆっくり歩くと、町の人達が聖女の噂をしているのが聞こえてきそうだったから。

もしかしたら悪い噂ではないかもしれないが、誰かが自分のことを話していると思うだけで怖い。これは自己肯定感の低さ故の感性である。


自分の気持ちをごまかしながら、熱心に屋台を見て回った。焼きそばもわたあめもスーパーボールもなかったが、いろんな出店で見たことのない食べ物がたくさん売っていて、いずれも空腹感を誘う匂いを漂わせている。カラフルな土産物も、芝居小屋や路上の曲芸師たちも、見るものの好奇心を刺激する。初めての光景の連続に、いつしかアイリは童心に帰ったように心躍らせていた。


いくつもの屋台を次々に眺めていると、ふと、景品として並べられたアクセサリーが目に留まった。


別に作りがいいわけでもないし、特別価値のあるものでもない。造花を使ったただのブレスレット。カラフルな花びらがかわいくて、どう見ても子供向けのアイテムだ。

だけどなんだか、アイリにはそれがとても魅力的に見えた。

飾られているのは、射的屋の景品棚だ。アイリはふらふら近づいていき、挑戦してみることにした。


マスケット銃のような大きな銃にコルクを詰めて、撃つ。しかし思ったように弾が飛ばない。途中で失速してしまい、的までまったく届かなかった。


何故だろうと不思議に思っていると、後ろから「貸してください」と声がした。イーヴである。

言われるままに銃を貸すと、コルクを詰めてアイリに手渡した。見ると、先ほど自分で詰めたより弾がだいぶ奥に入っているのがわかる。


そのまま撃ってみると、先ほどより断然飛距離が伸びた。さっきはどうやらコルクの詰め込みが甘かったらしい。とはいえ、的からは大きく外れた。コルクは的の向こうに下がっているテントの幕に当たり、落ちていった。

最後の弾こそはと意気込んで詰めるが、まぁそうはうまくいかない。三発目もあさっての方向に飛んでいき、アイリの射的チャレンジは幕を閉じた。


スパンッ


すると隣の客が的に弾を命中させ、落としたのが聞こえた。

ふと気になって撃ち手の方を見ると、そこには見慣れた気障な男の姿があった。しかし目つきは鋭く真剣で、アイリの知らない表情をしている。

リアンは次々に的を撃ち落とし、ノーミスでクリアした。店主がハンドベルをガンガン鳴らして祝福する。景品を選ぶように店主は言うが、リアンは待ってほしいとそれを制し、アイリの方に近づいてくる。


「どれが欲しかったの?」

「え?…あ、あれです」


咄嗟に聞かれたことに答えると、リアンはアイリの言ったものを店主に告げ、店主は景品棚に向かっていく。


「お上手なんですね」

「接待で狩りに行く機会もあるからね。銃も一通りは…はい、どうぞ」

「いいんですか?」

「もちろん」


店主が渡してきた景品のブレスレットを、そのままアイリに手渡す。欲しかった景品を手に笑みを浮かべるアイリを見て、リアンは満足げに微笑んだ。


アイリとリアンは店を後にし、一緒に歩いた。少し後ろからイーヴがついてくる。アイリの腕には、もらったばかりのブレスレットがついていた。


「見えたよ、君の魔法。綺麗だった」

「私にはよくわからなくて…役に立つ魔法でもないし」

「そうかな?俺は好きだし…みんな喜んでるみたいだけど」


暗い顔を浮かべる彼女に、周りを見てみるようリアンは視線で促した。恐る恐る周りを見ると、町の人たちは活気にあふれた表情をして楽しげに話している。

その中には聖女の話題も多く「聖女様ってどんな方なのかしら」「魔法が素晴らしかった!この国もしばらく安泰だな」「お役目をしっかりお務めになって、ご立派ですね」など、ポジティブな声が聞こえてくる。


「君がやることを評価する人は、絶対にいる。批判は怖いかもしれないけど、それだけを見て恐れる必要なんてないんだよ」


アイリは「ああ…」と思った。「きっとリアンさんは、勇気づけに来てくれたのだ」と。

同時に、自分がだいぶナーバスになっていたことにも気づく。無意識にピリピリして、いつもより他人の目を恐れていた。


「…そうですね。あの、リアンさん」

「?」

「ありがとう」

「どういたしまして」


作戦開始まで、あと九時間。

一時の安らぎの時間であった。

お読みいただきありがとうございます!

次回は4/6(日)更新予定です。よろしくお願いいたします!

(更新時間はいつもより遅くなりそうです)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ