表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/24

12:神話と国と聖女の涙

その昔、神は一人だった。


神には話し相手がいなかった。だから、神を模した人を作った。


人は愚かだった。だから、神は箱庭に人を閉じ込めた。


だけど、神は優しかった。だから、人に知恵を与えた。


広大な箱庭に解き放たれた人間たちは、神から与えられた知恵を使い、いくつもの苦難を乗り越えた。


しかし時折、人間には乗り越えられない苦難が襲い掛かった。


その度、人々は天に祈る。

「神よ、我らをお導きください」「神よ、我らにお恵みください」と。


神は祈りを聞き届け、人々のもとへ使者を送った。

使者は女人の形をしていたが、神にも等しい力をふるい、人々を苦難から解放した。

人々は、神の祝福を受けたその女を“聖女”と呼んだ。


ある時、ある村の近くの山に、一匹の竜がいた。

竜は度々、村に降りては暴れまわり、畑を荒らし、家々を幾度となく壊して回った。


何人もの力自慢が竜に戦いを挑んだが、生きて帰ってこれた者はほんのわずか。

倒せた者は百年のうちに誰もいなかった。


そんな中、一人の若者が立ち上がる。

無謀にも剣一本で竜に挑むというのだ。


若者は善良で信心深く、誰からも好かれていた。

村人たちは思い直すよう何度も彼に諭したが、若者の決意は固かった。


旅立ちの前夜、若者は神に祈った。

「神よ、我が願い聞き届けたまえ。村に千代(ちよ)の平穏をもたらしたまえ」


次の日、若者は竜と対峙した。

戦いは苛烈を極めた。剣は折れ、鎧は壊れ、若者はなす術がなくなった。


竜の爪が若者をかすめようとしたその時、一人の聖女が天より遣わされた。

聖女は若者の手を取り、もう片方の手を天に手をかざした。

するとまばゆい力が竜を貫き、竜は深い眠りについた。


若者は聖女とともに村へ戻り、竜が眠りについたことを知らせると、村人たちはこれを大いに喜んだ。

村を上げての祝宴は三日三晩続き、四日目の朝、若者は村の長となり、この地に国を築くことを宣言した。


その様子を見た聖女は安堵し、一筋の涙を流した。

落ちた涙は宝石となった。

若者はそれを冠の(いただき)につけ、聖女へ永遠の感謝を表した。


------


「…というのが、ルノアール王国に今日(こんにち)伝わる建国の伝承です。王国ではこの伝承を元にして、“聖女の涙”と呼ばれる宝石を王位継承の証とすることが法律で定められています。今回の我々の計画では、この法律を利用します。つまり“聖女の涙”を奪取し、返還の引き換えに、新しい天上院議員任命勅令書への調印をルノアール王に求める、ということですね。では続いて、具体的な作戦についてですが…」

「ちょっと待って、質問」

「はい、アイリさん」


まっすぐ手を伸ばしたアイリに指示棒を向け、シャルルが指名した。


ダンスパーティーから1週間後。彼女たちの姿はルノアール王国の首都郊外に建つ、とある屋敷にあった。

ここは天下院議員の別荘の一つである。しかし普段は使われておらず、リアン(ユリウス)はルノアール王国に滞在する間はよく借りているらしい。城へのアクセスが良くリアンにとっては便利だし、また貸す側も維持管理ができるのでwin-winなのだそうだ。

今は先日のリアンの提案通り、作戦会議が行われている最中である。前提知識を揃えるために神話のおさらいをして、実際の段取りをいざこれから、といったタイミングだ。しかし、彼女が気になっていたのはそれ以前の話であった。


「ユリウ…リアンさんが首謀者で、協力者にシャルルさんがいるのは、まぁ関係的にわかるんですけど…なんでジジさんもここにいるの!?」


視線の先には、聖女付き侍女のジジがいた。

彼女は以前から「休暇を取る」と言っていて、今日がその日だった。朝から姿が見えないことに若干の寂しさを覚えつつも「休みを楽しんでほしい」とアイリは思いながら朝の支度を済ませ、城を後にしたのだ。なのにリアンの屋敷に来てみたら、あとから部屋に入ってきて平然と座り、当然のように会議に参加している。彼女に驚き、質問せずにはいられなかった。

ちなみに今日の彼女はメイド服ではなく、露出度の高い私服を着て足を組んでくつろいでおり、いかにもオフという感じである。


「何でってそりゃ、私もリアンの協力者だからですよ。アイリ様が事件の調査し始めたときにゴンティエに行くように仕向けたのも、その情報をリアンに共有したのも、ぜんぶ私ですもん」

「うそー!?何で言ってくれなかったのー!」

「言ったら密偵にならないでしょーぉ?でも一応忠告したじゃないですか、機密情報を簡単に漏らしちゃダメですよって」

「いやわかんないって!ジジさんのいじわる!」

「私はアイリ様のそういう抜けてるところ、可愛くて大好きですよ❤」

「うれしくなーい!バカにしてぇー!」


きゃいきゃい女子たちが可愛い言い合いを始めたので、やれ休憩だと言わんばかりに、部屋の片隅にリアン・イーヴ・シャルルが集まる。

男子チームは、仲がいいんだなー、とぼんやり女子たちの様子を眺めながら


「いいなー、アイリさん。そこ代わってくれないかな」

「え、何お前。まだ進んでないの?」

「リアンが国にいない間も一進一退の攻防があってな…俺の知る限りでは106戦106敗」

「イーヴ、情報が古い。最新は131戦131敗です」

「うっわ。よくやるね…っていうか、勝ち負けなのか?それ…」


こっちはこっちで恋バナに発展していた。

こうなるともう作戦会議などそっちのけである。話は脱線に脱線を重ね、軌道修正は難しくなる。

誰も真面目に話そうなんて気持ちにはならない。古い馴染みは少し会わないだけで、話題が溜まってしまう。近況報告、共通の話題、新しく見聞きしたこと。ありとあらゆる話のタネに花が咲いてしまう。

ワイワイガヤガヤ雑談が続き、しばらく経って。


「あー、いったん休憩にするか。もう昼だし。飯だ飯!」


埒が明かないので、会議は仕切り直すことになった。リアンの号令がかかると、シャルルとジジがぞろぞろと庭の方に出ていくので、アイリとイーヴもそれに従った。

お読みいただきありがとうございます。

やっとパーティーメンバーがそろいました。長かった…

次回は2/23(日)更新予定です。引き続き応援のほど、よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ