コンビニダンジョン
「十分も歩けばコンビニがあったはずだよな?」
自分の登下校時に使う道であれば、チャリで二、三分。歩きなら十分もすればたどり着ける距離にコンビニエンスストアがある、というのは分かっていた。
最初はチャリを使おう、と思っていたのだが駐輪場は幾人もの血肉で塗れてどの自転車にも飛び散った肉の破片や固形となった血が付着していた。さらに、これはゴブリンたちの所業なのだろうけど、殆どの自転車は運転不可能なまでに変形してしまっていたのだ。
これじゃあ使えない。というか使いたくない。という意見が一致したので徒歩という移動手段を選ばざるを得なかったわけだ。
蓄積した疲労からか、いつもより幾分か重く感じる下半身を動かし、車一つ動いていない、というか人一人見当たらない道路を歩く。昼間にも関わらず今までにないほどの静けさ。これにはいくらなんでも不気味さを感じてしまう。
「ねぇ、なんかおかしくない?」
俺と同様にその違和感を感じ取ったのか藤宮が口を開く。
「ん……ああ」
おかしい。絶対におかしい。そう思いながらもその疑問を解消させる手段はなく、それに答えてくれるような人間はいま、ここにはいない。だからこそ俺は曖昧に短く返事をするだけに留めた。
結局俺たちはその疑問を抱えたまま、徒歩十分の道のりを超え、最寄りのコンビニへと到着する。
「やっと着いた……」
フゥと息を吐く藤宮。彼女も俺と同じように強い疲労が見られる。その証拠に額にはうっすらと汗が滲み、少し呼吸が荒くなっている。もしかしたら彼女の疲労度は俺よりも酷いものなのかもしれない。
もしこの状態で襲われでもしたらちょっと危険かもしれないな。頭の片隅で考えつつ慣れた所作でコンビニのドアの前に立つとウィーンという機械音と共に自動でドアが開かれる。店内をぐるりと見渡し、そしてまたしても感じる違和感。
「なんか、いつもより広くね?」
いつも訪れるコンビニはもっと狭苦しくて夏場はクーラーがついていても特に暑苦しい。そんな場所だったはず。間違ってもこんなに広々とした空間ではなかった。
「あれ――?」
この感覚、前にもどこかで……これって、なんか既視感――デジャヴってやつじゃないか?
そう、ついさっきも感じたような……
「――ッな!?」
隣から、驚愕によって漏れ出た息の音が聞こえる。脊髄反射でバッと振り向くとちょうど藤宮の真横、俺からは死角になって見えていなかった場所から一つの影が飛び出していた。藤宮は咄嗟に短剣を構えて体を庇う。ガキィンと硬質な音が無駄に広くなった店内で反響、藤宮の体は突進の威力を殺しきれず数歩分後ずさる。対して奇襲を仕掛けてきた影の主は4本の足を地につけてグルルゥと牙をむき出しにして低く唸る。
「アォォォン!!」
鋭く目を光らせて、遠吠え。なのんつもりだ? と首を傾げていると四方からいくつもの足音が近づいてくるのを感じた。
「これって、もしかして……」
タラリ。冷や汗が額を伝う。犬、又は狼にも見えるこの生き物が発したその遠吠えの意味をいま悟った。仲間を招集し、獲物を狩るときの合図のようなものだと。つまり俺たちはいま、こいつらに獲物として認識されている、というわけだ。
「ふざけやがって」
暖かそうな赤茶色の体毛に覆われた爪は恐ろしいほどに鋭利で、そこらへんで売っているナイフよりも遥かに鋭い切れ味を持っていることだろう。そんな凶悪な武器を有するモンスターが計五匹。俺たちは武器として短剣を持ってはいるが、疲労困憊。数でも負けているというのにこれでは勝ち目が薄い。
ギリッと悔しさから歯ぎしりする。戦闘は困難。戦ったとしても勝てる可能性はあまりにも低い。だから
「藤宮、逃げるぞ」
俺たちが取るべき選択は逃げの一手。短剣片手に狼のようなモンスターを睥睨する藤宮の手を引いて後退していく。ジリジリと少しずつ後ずさり、ドアの前に立つ。だが――
「――はぁ!? なんで開かないんだよ!」
自動であるため、ドア前に行けば勝手に開閉を行ってくれるはずが、ドアは一向に開くことはなく、退路を完全に絶たれた。
「まじかよ……」
たまらず舌打ちと同時に悪態をつく。
「グタグタ言っててもしょうがないだろ。……戦うよ」
男よりも男らしく藤宮が俺の前に立って短剣を構える。刃を前にして体は半身。ピシッととした綺麗な姿勢と切れ長の瞳は相手に威圧感を味方には安心感を与える。
「分かってるよ。逃げられないなら戦うしかない。生き残るためには――殺られる前に、殺る!」
コイツにばっかりいいカッコさせてやるわけにはいかない。俺も藤宮に倣って、ということではないが少し刃毀れした短剣を右手に構える。




