20蹴 侮り、悔い
1回戦、2回戦と、俺たちは順当に勝ち進んだ。そして、準々決勝。これまでの調子を見ていると、勝てる。そう確信していた。油断しなければ、いや、多少油断しても勝てる。慢心は、あった。
相手は軍隊ばりの組織サッカーを行う、カイザー松原であった。指示に従うことを徹底、従えない場合は…と別にアニメの悪役のようなことをしているわけではない。ただ、やはり決められた役割をこなすことができる者を優先してスタメンに起用していた。監督は合理主義で知られる安藤 ひろ子。元行員のキャリアで得た知識をフル活用し、チーム運営を行っている所であった。
うちのチームは優勝候補の一角とされていたので、完全に対策をされていた。マンマークの徹底、俊足選手を集めて対抗、さらにパスコースの限定といった高等テクニックを用いて、俺たちを追い詰めた。戦術を切り替えようにも、打開可能な友好的な戦術が、持ち合わせの手札にない、そんな状況だった。
前半が終了し、2対0と苦しい状況だった。いつもであればこの差がつくことはなかったし、あっても逆転できていただろう。だが、相手は此方の得意戦法に完璧に対策をしてきている。悩みまくっていた時に…
「藤、後半は交代だ。木之元と変われ」
監督がそういった。
「待ってください!藤がいないと!」
そう言ったのは武内であった。チームの戦力が落ちる、そう言いたかったのだろうが、監督はそれを遮り、
「この状況は、お前たちの藤への甘えが引き起こしたものだ。藤、お前はほかの戦術をあまり練習していなかった。それがこの窮地を生み出した。」
ぐうの音も出ない。たしかに、侮っていた。ドイツでも通用した俺の技術があれば、なんとかなると思っていた。チームメイトへの信頼もあったし、彼らは技術もあった。武器はあった。だが、使い方が読まれていては勝てない。
「…分かりました。木之元先輩、後は頼みます…」
「今日は俺の勝ちだな。後半、ベンチで頭冷やしてな。勝つから。次の試合にこの経験を生かせ」
木之元はそう言って、ピッチに走っていった。
尊は悔いていた。今更遅いのだが、相手を見下していた。あれほど、調子に乗ると痛い目を見る、と言い聞かせていたのに。自分の力では、勝てなかった。
木之元が入り、戦術が大きく変わった。安藤は、これまでの対策ではいけないと、ポジションを大きく変えた。これまでの得点を守り抜けば勝ちなのだ。もう、全員ハーフラインを超えないように守備に就く、それでよかった。唯一の誤算は、木之元の成長を見極められていなかったことである。
木之元は、5年生でチームのエースだった。しかし、藤が来た後にスタメンから外された。確かに藤は上手かった。だから、対抗心を燃やし、死ぬ気で練習した。結果的に、この大会までに藤に追いつき、追い抜くことができなかったのは、最初のメンバー発表の時点で明らかだろう。それでも木之元は、5年間チームに貢献し続けていたのだ。メンバーからの信頼も尊より遥かにあるのだ。
「ただ3点取るだけだ!気楽に行こう!」
そこからチームの動きが変わった。強弱をうまくつけるようになったのだ。藤をキャプテンに置いていた時は、攻守のスイッチは上手く切り替わっていた。だが、強弱のコントロールまではできていなかったのだ。年季が違った。木之元に代わると同時に、戦況がひっくり返った。あっという間に、4得点を取り返し、チームは劇的な逆転勝利を果たした。下馬評では圧勝するとみられていた相手に、である。神のようにあがめられていた藤の評価はここで現実的なものに変わって行ったのである。これからの成長に、期待を込めて。
「木之元先輩…あの…」
「どうした藤。言いたいことがあるならはっきり言え。」
試合終了後、藤に話しかけられた。
「すみませんでした。」
うすうす感づいていたが、藤は俺を見下していたという。
「そんなつもりはなかったのですが…心の底ではそうだったのでしょう。正直、侮っていました」
消え入りそうな声でそう言う。さすがに腹が立ってきた。
「もっとはっきりしゃべれ!そんなんじゃ、司令塔にはなれんぞ!」
藤は顔を上げ、俺の顔を見た。
「確かに、俺はお前より、個人技術では劣っているかもしれない。だがな。サッカーはチームスポーツだ。チームメイトはみんながみんな頭であり、足であり、腕なんだよ、藤」
俺は続ける。
「仲間を見下すような奴は、仲間に裏切られる。それはわかってるんだろ?だからさ、もっと認めてやれ。俺より上手いんだからさ、俺よりすべてにおいて、勝つ!くらいの勢いでいろ」
藤は最後にまたすみませんと言って、荷物をまとめていた。
負けた。俺は完璧に負けたのだ。下だと思っていた。侮っていた。木之元先輩にも、相手のチームにも。俺は、自分が思うよりちっぽけな存在だったことに気づかされた。気づいていたようで、気づいていなかったのだ。猛省した。




