第2話 小さな違和感
昼休み、俺は友達の大和と弁当を食べていた。
大和とは一年の頃から同じクラスで、今では一番仲のいい男友達だ。
「和真は、来週の小テストの勉強した?」
「まだ何もしてない。ゲームばっかりしてる」
「新しく出たやつだろ? 面白いのか?」
「まあまあかな。前作の方が俺の好みだったかも」
いつもの調子で話していると、大和がふと思い出したように言った。
「そういえばさ……ひなたちゃんって可愛いよな」
箸を持つ手が、ほんの一瞬止まる。
「……急にどうしたんだよ」
「いや、いいよなって。あんな可愛い幼馴染と、今朝も一緒に登校してただろ」
「ひなは、可愛いっていうより……子供っぽいだけじゃないか?」
「そうか? 普通に可愛いし、いい子だと思うけどな」
大和は何でもないことのように言い、弁当を口に運ぶ。
「俺にとっては、妹みたいな感じかな……」
「妹ね。あんな幼馴染がいたら、俺は嫌でも意識しちゃうけどな」
「そういうもんか?」
そう言って、俺たちは笑い合った。
それでも、大和の言葉は妙に耳に残った。
◇◇◇◇◇
それから数日後、ひなたに相談を持ちかけられた。
大和から、放課後に二人で遊びに行かないかと誘われたらしい。
「私……どうしたらいいかな?」
「大和はいいやつだし、ひなが嫌じゃないなら、行ってみればいいんじゃないか?」
本当は、少し嫌だった。
けれど、大和を悪く言う理由はない。俺は自分の気持ちを押し隠して、そう答えた。
「ちょっと無理かも。大和くんのこと、あまり知らないし」
人見知りのひなたは、考え込むように視線を落とす。
「でも……かずくんが一緒なら、大丈夫かも」
「俺も一緒に行くのか?」
「うん! お願い、一緒に来てよ」
ひなたは、俺の顔を覗き込んだ。
大和から誘われたのに、ひなたが頼ったのは俺だった。
そのことに、心のどこかでほっとしていた。
「駄目……かな?」
「わかったよ。俺がついていってやるからさ」
頭をぽんぽんと撫でる。
「ありがと、かずくん!」
俺も一緒に行くことになったと大和に伝えると、返ってきたのは意外な言葉だった。
「和真も来てくれるのか。助かるわ。俺も二人きりだと、何を話せばいいかわからなくてさ」
成り行きでそうなっただけなのだが、俺が仲を取り持ってくれると思っているらしい。
ひなたが好きなのは、きっと俺だというのに。
放課後、俺たちは三人で駅前へ向かった。大和が少し先を歩き、ひなたは俺の隣に並んでいる。
「ひなたちゃん、今日は来てくれてありがとな」
「ううん。かずくんも一緒だし……」
ひなたの視線が、ちらりと俺に向いた。
「じゃあ、どこ行く?」
俺が尋ねると、大和が口を開いた。
「えっと……駅前のゲームセンターとか、どうかな。和真、ゲーム好きだろ?」
「ゲームセンターか。たまにはいいかもな」
「うん。私も久しぶりかも」
大和は俺に話を振り、ひなたもそこに加わる。会話は続いているものの、二人の間にはまだ少し遠慮があった。
ゲームセンターに入ると、俺と大和は昔よく遊んだ対戦ゲームの台に並んで座った。
「和真って、いつからゲーム好きなんだ?」
「かずくんは小さい頃から、ずっとゲームばっかりだよ」
俺の代わりにひなたが答えた。
「そんなことないだろ」
ひなたは、くすくすと笑った。
「よく携帯ゲーム機を持ち歩いて、外でも遊んでたよね」
ひなたは俺たちの対戦を眺めながら、楽しそうに話す。
「和真らしいな。でも、俺も昔はそうだったよ」
「大和くんもなんだ。男の子って、みんなそうなんだね」
ひなたの表情が、少しずつ明るくなっていく。
「昔はかずくんに、よくゲーム教えてもらったな」
「ひなは本当に下手だからな」
「もう……そんなことばっかり言って。実際、下手なんだけど」
大和が笑い、ひなたもつられて笑った。
やがて話題は、俺がやらかした失敗談に移った。ひなたが思い出を語り、大和がそれに反応する。二人は俺をからかいながら、楽しそうに笑い合っていた。
近くのカフェで休憩する頃には、最初のぎこちなさもほとんど消えていた。
気づけば、俺が口を挟まなくても、二人だけで会話が続いている。
こうして話してみれば、案外気が合うのかもしれない。
二人の楽しそうな様子に水を差す気にはなれず、俺は胸の奥に生まれた小さな違和感を、見ないふりした。




