第16話 聞かれていた警告
「乃亜! 上から来てるぞ!」
『分かってるって! 和真、フォローして!』
「ったく、しょうがねぇな」
『僕がアイテム使います!』
上空から急降下してきたモンスターを、俺たちはぎりぎりでかわした。すぐさま歩久がアイテムを使い、削られていた俺たちの体力を回復させる。
『ナイス判断、歩久!』
『い、いえ! 乃亜さん、今です!』
『よっしゃー! これで決まり!』
乃亜の攻撃が決まり、巨大なモンスターが地面に倒れ込む。画面に討伐完了の文字が浮かんだ。
『やったー! 三人生存でクリア!』
「乃亜、いいとこ持ってったな」
『ふふん。やっぱり決めるのはあたしだったね』
『すごく頼もしかったです』
『歩久もナイス回復! さすがアルクレッド!』
『そんなにいじるなら、名前変えようかな……』
乃亜の笑い声につられて、俺たちも笑った。
最近は、こうして三人でゲームをすることが増えていた。歩久も冗談を返すくらいには打ち解けている。俺も、三人で遊ぶ時間を心から楽しんでいた。
『ごめん、ちょっと呼ばれてるから、少し抜けるね』
「おう、了解」
『はい。待ってますね』
乃亜のマイクがミュートになり、ヘッドセットにはゲームの音だけが残った。
さっきまでの賑やかさが嘘のように、沈黙が続く。
『……あの』
「ん?」
『僕、乃亜さんと和真さんとゲームできて、すごく楽しいです』
歩久の声は、いつもより少しだけ真剣だった。
「急になんだよ」
『僕、クラスではほとんど友達もいなくて。人と話すのも苦手ですし……』
歩久はそこで言葉を切った。照れ隠しのように、かすかに笑う。
『だから、お二人の仲間に入れてもらえて嬉しいです』
その言葉に、胸の奥がざわついた。
三人でゲームをするのは楽しいが、乃亜と二人きりで遊びたかった。
乃亜と漫画を読んだり、ゲームをしたりする時間は、俺と二人だけのものだったのに。
そう思うと、だんだん苛立ちが募っていく。
『乃亜さんも和真さんも、クラスで人気者なのに。こんな僕と遊んでくれて、本当にいい人ですよね』
そのまっすぐな言葉が、余計に腹立たしかった。
「あのさ……歩久。勘違いしてないか?」
『…………え?』
「お前、家が金持ちで漫画もゲームもたくさんあるから、俺も乃亜も付き合ってやってるんだよ」
口にした瞬間、胸の奥が痛んだ。
乃亜のことがなければ、歩久は普通にいいやつだ。一緒にゲームをしていても楽しい。そんなことは、俺自身がよく分かっている。
『そ……そうですよね。勘違いして、すみません』
素直に引き下がる歩久の声に、また苛立ちが湧いた。
「大体さ。歩久みたいな根暗で冴えないやつが乃亜に近づいてワンチャン抱けるとか思ってんの?」
『そ、そんなこと思ってませんよ!』
「下心が丸出しなんだよ、お前は」
歩久がそんなことを考えている証拠なんて、何もない。
『下心……ですか。乃亜さんはすごく素敵な人です。僕がそういうふうに見えていたなら、すみません』
「いい加減、邪魔なんだよ」
『ごめんなさい。もう邪魔はしないので……』
先ほどまでの明るさは消え、歩久の声は沈んでいた。
『乃亜さんと、どうにかなれるなんて本当に思ってません。ただ……お二人と一緒にゲームをするのも、駄目ですか?』
「乃亜はオタク趣味があるとはいえ、ギャルだぞ。歩久みたいな根暗オタクが、乃亜のゲーム仲間を名乗ることすらおこがましいだろ」
その言葉を最後に、歩久の返事が途絶えた。
胸は痛んだ。けれど、これで歩久も乃亜に不用意に近づこうとはしないだろう。
「じゃあ、これからは――」
『ねえ……何言ってくれてんの? 和真』
静かな声に、身体が凍りついた。
「の、乃亜……今の、聞いてたのか」
返事はなかった。
ヘッドセットから、ゲームのBGMだけが流れ続ける。歩久も何も言わず、沈黙が重くのしかかった。
『……うっ』
堪えていたものがこぼれるように、乃亜の声が震えた。
『うう……歩久、ごめんね』
鼻をすする音が、マイク越しに聞こえる。
『あたしが誘って、三人で遊ぼうなんて言ったから……嫌な思いさせてごめんね、歩久』
『僕は……大丈夫です。こういうの慣れてますから』
歩久の声も、いつもより小さかった。乃亜は何度か鼻をすすり、息を整える。
『和真ってさ……変わったよね』
「…………え?」
『あたし、見た目で決めつける人とか嫌いなの。ギャルのくせにオタク趣味なんて、とかさ』
「乃亜……」
『アニメとかゲームに興味ない子に、つまんない趣味って笑われたこともある。でも和真は、一緒に思いっきり楽しんでくれたよね』
乃亜の声が、また少し震えた。
『だから、和真は人のことを見た目や趣味で決めつけない人だって思ってた』
「乃亜……待ってくれ。ちょっとした冗談なんだ」
自分でも、見え透いた嘘だと分かっていた。
それでも、今さら本当のことを言うわけにはいかない。もう、後には引けなかった。
『そんなこと、冗談で言うんだ……。和真には、本当に失望したよ』




