第14話 歩久の家
乃亜と歩久と一緒にゲームをしてから、学園でも三人で話すようになった。
歩久は髪がぼさっとしていて、姿勢も猫背だった。顔立ちもぱっとせず、声の印象どおり、冴えない男子だった。
こんなやつに乃亜を取られてたまるか。
昼休み、いつものように乃亜が歩久を連れて俺の席までやってくる。
「和真、昨日のアニメ見た?」
「見たよ。あの終わり方はずるいだろ。続きが気になって仕方ない」
「だよね! 二期なんて待ってられないし、原作の漫画読みたいんだよね。和真、持ってないの?」
「持ってないな。でも、俺も続きは気になってた」
今期話題のアニメだ。乃亜とは放送のたびに感想を話していたけれど、まさかあんなところで最終回を迎えるとは思わなかった。
「あ、あの作品はまだ完結してませんが、最新刊まで持ってます」
歩久が控えめに手を挙げる。
「えっ、ほんと? 歩久、持ってるの?」
「は、はい」
「いいなあ。読みたい!」
乃亜は目を輝かせ、歩久の顔を覗き込んだ。
「よかったら貸しますよ。和真さんにも」
「ありがとな」
歩久は優しい。頼まれれば、きっと嫌とは言わない。
だから、危険だ。
「じゃあさ、歩久の家に行ってもいい?」
乃亜の言葉に、歩久は目を丸くした。
「えっ、僕の家に……ですか?」
「うん! 漫画、持ってくるの大変っしょ。和真も一緒に行こうよ」
乃亜は、いつもの調子で俺にも笑いかける。
歩久の家に行ったら、二人の仲が深まるかもしれない。
ここは阻止しないと。
「歩久も困るだろ。急に家に行きたいなんて言われてもさ」
「えー、いいじゃん。和真の家にはよく行くじゃん。歩久の家にも行ってみたいな」
乃亜は悪びれずに言った。
「ぼ、僕は大丈夫です。部屋は散らかってるかもしれませんけど……」
「やった! さすがアルクレッド!」
「ちょっ……リアルでその名前を呼ぶのはやめてください」
歩久が困ったように肩をすくめると、乃亜はケタケタと笑った。
「ほんと歩久って面白いよね、和真」
「……おう。そうだな」
乃亜の笑顔を見ながら、俺は曖昧に頷いた。
◇◇◇◇◇
放課後、俺たちは三人で歩久の家へ向かった。
「歩久の家って、学園からどんくらいなの?」
「えと……歩いて十分くらいです」
「それなら、気軽に遊びに来られるね」
乃亜は上機嫌に歩きながら、歩久に話を振る。弾む足取りに合わせて、短いスカートの裾が揺れていた。
「歩久って、いつからモンキルやってるの?」
「発売日からです。最初は友達に誘われて始めたんですけど、気づいたら一人でずっとやってて」
「わかる! 素材集めって、始めると止まらなくなるんだよね」
「そうなんです。武器ごとの立ち回りを調べるのも楽しくて……」
そんな他愛のない話をしながら歩いていると、歩久が前方を指さした。
「そろそろ着きます。ここの角を曲がったところです」
歩久に続いて角を曲がると、立派な一戸建てが目に入った。
「大きい家だな……」
「ほお……」
思わず声を漏らした俺の隣で、乃亜も興味深そうに家を見上げていた。
歩久が鍵を開けて扉を押すと、乃亜はさっそく玄関へ足を踏み入れた。
「おじゃましまーす。歩久のご両親はいるの?」
「両親は共働きで、夜遅くまで帰ってこないんです」
歩久は、ほんの少し寂しそうに笑った。
「あっ、でもゲームとか漫画があるので、僕は全然平気です!」
俺たちの視線に気づいたのか、歩久は慌てて付け足す。
「そっか。じゃあ、時間を気にしないで漫画読めるね」
事情を察したのか、乃亜は詳しく聞かず、優しく微笑んだ。
「は、はい。どうぞ」
歩久に案内されて玄関を上がる。乃亜は廊下を見回しながら、楽しそうに歩久の後ろについていった。
「歩久の部屋、どんな感じなんだろ。えっちなものばっかりだったりして?」
「え、えっちなものって……! 普通ですよ。あまり期待しないでください」
「えー。そんなこと言われたら、余計に気になるじゃん」
乃亜はからかうように笑い、歩久は困った顔で頬を赤くした。
歩久が部屋の扉を開ける。
「どうぞ。散らかってますけど……」
「おじゃましまーす」
乃亜に続いて部屋に入った俺は、思わず足を止めた。
広い。一人部屋とは思えないほど、ゆったりとした空間だった。
壁際には大きな本棚がいくつも並び、漫画がずらりと収まっている。少年漫画に少女漫画、話題作から少しマイナーな作品まで、ジャンルも出版社もさまざまだ。
「うわ、すごっ! 漫画こんなにあるの?」
「はい。気になった作品を買っていたら、いつの間にか……」
「これ、あたしも気になってたやつ! こっちはアニメで見た!」
乃亜は棚の前に立ち、目を輝かせながら背表紙を追っていく。
俺の部屋にも漫画はある。けれど、乃亜が読みたがっていた作品も、今楽しそうに手に取っている作品も、俺は持っていなかった。
「和真さんも、好きなものがあれば読んでください。よければ貸します」
「ああ……ありがとう」
歩久は遠慮がちに笑った。
乃亜はさっそく棚から漫画を抜き取り、ベッドの端に腰を下ろす。
「やば。歩久の部屋、超居心地いいね。こんなに広いし」
「そ、そんなに広いですか? 友達の部屋とか、行ったことがないので……」
乃亜は漫画を開き、早くもくつろいでいる。
歩久は立ったまま、俺たちを交互に見ていた。
「えっと……そうだ! 僕、飲み物を持ってきます。和真さんもくつろいでください」
そう言い残して、歩久は部屋を出ていった。




