第13話 乃亜を俺の女にする
俺には、もう乃亜しかいない。
ひなたも、紗奈も、瑞希会長も、俺のそばからいなくなった。けれど乃亜とは、まだ趣味の話で盛り上がれる。俺の家に遊びに来る約束だってしている。
今度こそ、失うわけにはいかない。
乃亜を、俺のものにする。
派手な見た目でクラスでもひときわ目立つ乃亜は、アニメやゲームが大好きだ。飾らない性格で、男子生徒からも人気がある。
教室に入ると、乃亜がスマホを見ながら楽しそうに笑っていた。俺は彼女の席へ歩み寄る。
「おっす、乃亜」
「お、和真。なんか久しぶりじゃん」
乃亜はスマホから顔を上げ、屈託のない笑顔を見せた。
「最近、なんかハマってるゲームあるか?」
こうして見ると、モデルのようなスタイルに整った顔立ち。趣味の話もできるし、気取らずに話せるところもいい。
付き合うなら、乃亜みたいな子がいいのかもしれない。
「うーん。最近は『モンキル』ばっかかな」
「そういえば、アプデも入ったよな」
「そうそう。鬼畜なクエストまで追加されてさ。新しいモンスターも動きがヤバいって感じ」
「それは面白そうだな。久しぶりにマルチやらないか?」
「やろやろ! いつやる?」
乃亜が最近ハマっているのは、『モンスターキリング』。通称、モンキルだ。
以前、俺の家で一緒に遊んだのをきっかけに、乃亜もハマった。その後は自分でもソフトを買い、何度か二人でマルチプレイを楽しんだ。
思った以上に、乃亜は乗り気だった。
まずは二人で遊ぶ時間を作る。そこから少しずつ距離を縮めていけばいい。何もせずに待っていたら、また誰かに奪われる。今度こそ、そんな思いをするのはごめんだった。
◇◇◇◇◇
その日の夜、俺は自宅でヘッドセットをつけ、乃亜からの通話を待っていた。
『もしもし、和真? 聞こえる?』
「お、おう。聞こえてる」
何度か通話したことはある。それなのに、今はヘッドセット越しに聞こえる乃亜の声が、いつもより近く感じられた。
乃亜を意識してから、声を聞くだけで胸が落ち着かない。
『じゃあ、始めよっか!』
「そうだな」
ゲームが始まると、そんな緊張もすぐに消えていった。
「乃亜、右から来るぞ!」
『分かってるって! 和真こそ、そっちの攻撃避けて!』
「危なっ……!」
『ナイス回避!』
画面の中でモンスターが大きく吠える。俺たちは声を掛け合いながら、息の合った連携で攻撃を続けた。
「乃亜も上手くなったな」
『和真こそ、相変わらずいい動きだね』
こんなふうに掛け合いながら遊ぶのも久しぶりだった。
気づけば、俺たちは時間を忘れてゲームに熱中していた。
「いや、この新クエスト、ほんとに鬼畜だな」
クエスト失敗の表示が出て、俺たちはいったん休憩することにした。
『あ、そうだ。助っ人呼んじゃう?』
「助っ人?」
『うん。ゲームうまいし、誘ったら来てくれると思う』
せっかく二人きりで遊んでいたのに。少し残念だったが、乗り気になっている乃亜に、嫌だとは言いづらかった。
「別にいいよ」
しばらくすると、ボイスチャットに『アルクレッド』が参加した。
『ど、どうもです』
ぼそぼそとした、少し聞き取りづらい声だった。
『紹介するね。同じクラスの東堂歩久だよ』
東堂歩久……。確かに、そんな名前の男子がクラスメイトにいた気がする。
『本名が歩久だから、ゲーム名はアルクレッドなんだって。マジでウケるよね』
『の、乃亜さん。やめてくださいよ』
乃亜は面白そうに笑っている。
「東堂くんは、俺のこと知ってるのか?」
『はい。乃亜さんからよく話を聞いてます。同じクラスの和真さんですよね?』
『ちょ……変な言い方すんなし』
乃亜の声には、少し照れが混じっていた。
その響きに、胸が弾む。
『あ……乃亜さんがいつも「和真」「和真」って呼んでいるので、つい下の名前で呼んでしまって。すみません』
「いや、いいよ。俺も歩久って呼んでいい?」
『はい。嬉しいです、和真さん』
歩久は素直なやつだった。話してみると物腰も柔らかく、接しやすい。
再開したゲームでは、聞いていたとおり見事な腕前を見せた。苦戦していたクエストも、歩久が加わると、ぎりぎりで攻略できた。
『いやー、マジで神! うちら最高のパーティじゃない?』
『ぼ、僕は大したことしてませんよ。お二人の連携がすごかったです』
三人でのゲームは楽しかった。
歩久は俺たちよりずっとやり込んでいて、このゲームにも詳しい。それなのに自分が目立つプレイはせず、俺たちを楽しませるように歩調を合わせてくれている。
いいやつだと思う。
だからこそ、胸の奥に不安がよぎった。
こういうタイプは、気づけば乃亜の隣にいて、俺の入り込む隙をなくしていく。今までだって、そうだったじゃないか。
歩久には悪いが、今度は俺が先に動く。
乃亜を、誰にも渡すつもりはなかった。




