↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/20

第12話 もうあとはない

 聞き間違いかと思った。


 会長が、健君と……?


 会長は頬を赤らめ、指先で黒髪をひと房つまむと、落ち着かない様子でくるくると弄《もてあそ》んだ。


「健君と……ですか?」

「ああ。少し前に、告白されてな」


 会長は照れたように目を伏せる。


「最初は驚いたよ。私のような堅物を、恋愛対象として見てくれる一年生がいるとは思わなかった」

「……そうだったんですね」


 声がうまく出ているか、自分でも分からなかった。


 会長は、自分がどれほど魅力的なのか分かっていない。


 美人で、凛としていて、付き合いたいと思っている男子は、学年を問わずいくらでもいるはずだ。


 ただ、あまりにも高嶺の花で、想いを伝える勇気が出ないだけだ。


「冗談ではないかと思ったが、『僕は本気です』と、まっすぐ伝えてくれてな。健君は生徒会の仕事にも一生懸命取り組んでいるし、悪い子ではない」

 

 会長は黒髪を指に巻きつけたまま、小さく笑った。


「手のかかる後輩だが、どこか放っておけないんだ。頼りないところもあるけれど、そこは私が支えてやりたくなってしまう」

「それで、付き合うことにしたんですか」

「ああ。突然のことで、すぐには答えを出せなかった。だが、返事を待つ間も、健君は変わらず真剣に向き合ってくれてな」


 会長の頬が、また赤く染まる。


「恋人ができたのは……初めてなんだ」


 胸が、ぎゅっと締めつけられた。


 嫌だ……会長の初めての恋人になるのは、俺だったはずだ。


 どうしてもその事実を受け入れられなかった。


「それって……恋人とは違うんじゃないですか」

「……え?」

「瑞希会長は、手のかかる後輩を責任感で面倒見ているだけなんじゃ……。それで付き合うというのは――」


 言いかけたところで、会長の悲しそうな顔が目に入り、言葉が途切れた。


「そんなふうに言うのはやめてくれ……。私だって、たくさん悩んだんだ」


 会長の目には、じんわりと涙が浮かんでいた。


「恋愛のことなんて何も知らない私が、健君の言葉にどう向き合えばいいのか……どれだけ必死に考えたか、和真君には分からないだろう」


 会長は涙をそっと拭い、気丈に顔を上げた。まっすぐな眼差しが、俺を捉える。


「す、すみません」

「私は、責任感だけで健君と付き合うことにしたんじゃない」


 会長の声には、少しずつ熱がこもっていく。


「健君はああ見えて、男らしいところもあるんだ。二つも年下なのに、私をエスコートしようと一生懸命なんだ」

「…………」

「私に頼ってばかりではいられないと、毎日努力をしている。そんな彼を……私は愛おしいと思うようになったんだ」


 会長は目を伏せ、席を立とうとした。


「会長……待ってください。俺は、あなたが好きです」


 口にした瞬間、胸の奥が痛んだ。今さら伝えても遅い。それでも、言わずにはいられなかった。


「君はどうして……今になってそんなことを言うんだ」


 会長の声が震える。


「本当は、君に生徒会に来てほしかった。君と過ごす時間が好きで、もっと一緒にいたいと思っていたんだ。でも、私の心にはもう健君がいる」

「それでも……好きなんです」

「頼むから、もう私を困らせないでくれ」


 会長は伝票を手に取り、席を立った。


「和真君には感謝している。生徒会を手伝ってくれたことも、話に付き合ってくれたことも」


 会長は、再び凛とした表情を取り戻していた。


「君への感謝まで失いたくない。だから……もうそんなことは言わないでくれ。君にはきっと、私より素敵な人が現れる」


 そう言い残し、会長はカフェを出ていった。


 すぐには席を立てなかった。俺はしばらく、会長が座っていた席を見つめていた。


◇◇◇◇◇


 翌日、教室前の廊下の窓から外を見ると、会長と健君が中庭を並んで歩いていた。二人は楽しそうに話し、ときおり顔を見合わせて笑っている。


 その光景を見た瞬間、胸の奥がどす黒く濁った。


 本来、会長の隣にいるのは俺だったはずだ。


 生徒会の書記も、会長の彼氏も。俺が手に入れるはずだった。


 それなのに、健君は何もかも奪っていった。


 会長目当てで生徒会に入った卑しいやつ。


 可愛い顔をして、まだ子どもみたいな見た目のくせに。要領も悪くて、会長を困らせてばかりだ。それなのに、真面目で一生懸命な後輩を演じて、まんまと懐に潜り込んだ。狡《こす》い奴だ。


 会長は俺のことが好きだったはずだ。本当は俺のことを待っていたはずなんだ。


 それなのに、あんなチビに簡単に口説き落とされるなんて。


 ……会長も、案外チョロい女だったんだな。


 ひなたもそうだ。幼馴染としてずっと俺のそばにいたくせに、いつの間にか俺の親友と付き合い始めた。


 紗奈だって、あれだけ俺に絡んできたくせに、御手洗先輩に一度助けられただけで、あっさり鞍替えした。


 俺も、もう……手段を選んでいる場合じゃない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。