第11話 生徒会の仕事
それから俺は、放課後に何度か生徒会室へ顔を出し、会長に頼まれて簡単な雑務を手伝った。
生徒会の先輩たちとは、自然に言葉を交わすようになっていた。
健君とも話す機会が増えた。仕事で失敗して会長に注意されることは相変わらずだったが、彼なりに一生懸命なのは伝わってくる。
そんなある日の放課後。手伝っていた作業が一段落したところで、俺は会長に声をかけた。
「瑞希会長。よかったら、一緒に帰りませんか?」
「ああ……すまない。今日は健君に教えておきたい仕事があってな。少し遅くなりそうなんだ」
会長は申し訳なさそうに眉を下げた。
「そうですか……」
思わず、声が沈む。
俺の顔を見た会長は、少し困ったように笑った。
「すまない。だが、必ず近いうちに時間を作るよ」
「本当ですか?」
「ああ。約束する」
会長の言葉に、沈んでいた気持ちが一気に明るくなる。
「楽しみにしています」
「うん。私もだ」
会長の笑顔に見送られ、生徒会室を後にした。
今日は一緒に帰れなかった。それでも、近いうちに時間を作ってくれる。その約束が嬉しくて、帰り道の足取りは軽かった。
◇◇◇◇◇
翌日、俺は放課後の生徒会室を訪ねた。
扉を開けると、会長と健君が並んで書類を確認していた。
「会長、昨日の件は……」
「あ、ああ……すまないが、もう少し待ってくれ」
会長は頬を赤らめ、健君から目をそらした。
「……失礼します」
声をかけると、会長がはっと顔を上げた。
「か、和真君。来てくれたのか」
「はい。何か手伝えることがあればと思って」
会長は笑いかけてくれたが、いつもよりどこかよそよそしく感じた。
「今日は、和真君に頼むような仕事はないんだ。いつも助かっているが、たまには休んでくれ」
そう言うと、会長は健君の手元へ視線を戻した。
「でも、せっかく来たので、何か手伝わせてください」
「実は……昨日は、思ったほど引き継ぎが進まなくてな」
会長はちらりと健君を見た。健君も気まずそうにうつむく。
「今日は健君に、一通り自分でやってもらうつもりなんだ。気持ちは嬉しいが、手伝いは大丈夫だ」
「そうなんですね……」
健君が立ち上がり、頭を下げた。
「和真先輩、すみません。僕がまだ仕事に慣れていないせいで、いつも会長に手間をかけてしまって」
「いや、気にするな。健君はいつも頑張ってるじゃないか」
何度も顔を出している俺には、健君が仕事に早く慣れようと、一生懸命に取り組んでいるのは分かっていた。
「和真先輩……ありがとうございます」
「ほら、健君。続きに戻るぞ」
「はい。えっと、これはどこに書けば……」
「そこは、こちらの欄に――」
説明しようと伸ばした会長の指が、健君の指先に触れた。
「あっ……」
会長は弾かれたように手を引いた。
「す、すまない」
「いえ、大丈夫です」
健君が微笑むと、会長は何か言いかけ、口を閉じた。頬が、ほんのり赤くなっている。
今のは、ただ手が触れただけだ。
いつもなら気にも留めず、説明を続けるはずなのに。
「……瑞希会長?」
声をかけると、会長ははっと顔を上げた。
「い、いや……なんでもないんだ」
二人は再び書類に目を落とした。俺も何か言おうとしたが、会話に入るきっかけをつかめなかった。
昨日、俺が帰ったあと、二人の間に何かあったのだろうか。
いや、会長は面倒見がよくて、健君は真面目に仕事を教わっている。それだけのことだ。
「じゃあ、俺は帰ります。また何かあったら言ってください」
「ありがとう、和真君。気をつけて帰ってくれ」
会長は顔を上げて笑った。けれど、すぐに健君へ視線を戻す。
「会長、さっきの続きなんですけど……」
「ああ、見せてくれ」
俺は二人に背を向け、生徒会室を出た。
◇◇◇◇◇
それからしばらく、俺が生徒会室に顔を出すことはなかった。
会長からは、生徒会の仕事も一段落したので、しばらく手伝いは必要ないと連絡をもらっていた。用もないのに何度も訪ねるのは、さすがに気が引けた。
そんなある日、会長から「少し話がしたい」と誘われた。
俺は浮かれていた。
会長がまた、俺のために時間を作ってくれたのだ。
久しぶりに駅前のカフェで向かい合うと、会長は少し申し訳なさそうに口を開いた。
「呼び出してしまってすまない。和真君と二人きりで話がしたくてな」
「俺も瑞希会長と話したかったので、嬉しいです」
二人きりという言葉に、胸が高鳴った。
今日こそ、想いを伝えよう。
「いきなり本題で申し訳ないが……健君とお付き合いをすることになったんだ」




