ダメ人間たちによる時間消失トリック
一方そのころ。
3人娘が眩い光の中で輝いていたステージの裏側。
そこでは、3年間のウジウジした黒歴史が炸裂していた。
遡ること約3年前――小学5年生の春。
それが、ヘタレ男子3人組こと『剛』『賢人』『刹那』の3人が、アオイ、ユズ、コトネに恋をしてしまった運命の始まりだった。
当時の彼らは、巨大すぎる感情の処理方法を見事に間違えた。
普通に話しかければいいものを、歪んだ自意識のせいで最悪なアプローチを繰り返したのだ。
アオイに恋をした剛は、「おいアオイ! お前のそのポニテ、犬の尻尾みたいでダセえな!」と気を引きたいがために小突き回し、普通に嫌われる土台を築き上げた。
ユズに一目惚れした賢人は、「君の眼鏡の度数、僕の計算によると近視の極みだね。まぁ僕の知性には敵わないけれど」とインテリぶったかっこつけを連発。要注意リストに最速で登録された。
コトネに心を救われた刹那は、「くっ……離れろ! 俺の左腕に宿る邪眼が、お前の眩しすぎる光に……!」と、消しゴムを拾ってもらっただけで顔を真っ赤にして逃走。いつもおててが痛そうな大変な男の子として遠い目で見守られる存在になった。
そんな3年間を積み重ねた結果、中学2年生になった現在の関係性は、文句なしの不審者だった。
そんな3人が、本日の文化祭で「お近づきになりたい」という無謀な妄想からスタートする。
文化祭の期間中だけは、アニマル特区が一般にも完全解禁される。
付き合った先の妄想を爆発させていた彼らだったが、ゲートをまたいだ瞬間にその自尊心は粉々に粉砕された。
フリフリエプロンの猛獣たちがパワーのせいでティーカップを物理粉砕しているメイド喫茶など、本物の野生の迫力を浴びた3人。
彼らはゲートの隅っこで小さくなって、ガタガタと震えだした。
慌ててパンフレットをめくると、3人娘のライブ情報を見つけた。
だが、怯えて時間を無駄にしたせいで、昼の部の開始まであと15分。
完全に終わったと絶望しかけた時、ライブが昼と夜の2部構成であるという情報を見つける。
だが、この夜の部があるという猶予が、彼らにとって最大の罠となった。
「時間がある」「完璧な作戦が練れる」という、思考のループにはまってしまったのだ。
バーガーショップでポテトを食べながら、不純な妄想混じりの作戦会議を続ける3人。
時間は超高速で溶けていく。
気がつけば夜の部の入場規制アナウンスが流れ、次のライブまでもう3時間を切っていた。
夕暮れの体育館の裏手でパニックになっていたその時。
彼らの性格にどこか似てしまっている動物たち――リスのジン、ポメラニアンのレオ、ゴリラのフローラが現れた。
うじうじしている人間の少年3人組を見るなり、動物たちは胸を張った。
「夜の部の最前列エリアの確保など、僕たちの智謀をもってすれば容易いね。最前列まで力強く俺たちに任せろォォォーーーッ!!」
根拠ゼロの宣言。
それだけで、剛、賢人、刹那は失っていた自信を120%取り戻してしまった。
状況は何も変わっていない。
なのに、彼らの全身からは圧倒的な勝利の覇気が漲っていた。
まだ一次面接すら始まっていないのに、内定を貰ったと確信している就活生のような姿だった。
勘違いの無敵モードで進軍を始めた直後。
スタッフのアナウンスが響き渡る。
「チケットのない方は入場できません」
6つの影が同時に硬直した。
誰もチケットを持っていないという現実。
無敵の覇気は一瞬で霧散し、履歴書をシュレッダーにかけられたような絶望が彼らを襲う。
「「うわあああどうするよコレ!! あと1時間で入場規制がかかるぞ!!」」」
追い詰められた3人は、プライドをドブに捨てた。
3人娘の控室へ直接行き、土下座でチケットを譲ってもらうという暴挙。
地響きを立ててテント手前まで猛ダッシュした3人と3匹。
しかし、幕の目の前に立った瞬間、ヘタレ男子たちのチキンハートに急ブレーキがかかった。
極限の緊張で一歩も動かなくなる。
本人の気配がすぐ近くにあるというだけで、直立不動のカカシ状態に陥ってしまったのだ。
「く、くっ……静まれ我が魔眼よ……! 今テントに入れば、緊張のあまり我が漆黒の右腕が勝手に暴走して……!」
眼帯を抑えて刹那がガタガタ震えだすと、賢人がパニックで呟いた。
「ま、まずいね。脳内メモリが完全にバグを起こしているよ。ええと、三平方の定理は……いや、そんなこと計算してる場合じゃないね……!」
剛にいたっては、口をパクパクさせたまま魂が抜けた白目で直立不動。
言い訳すら機能しないレベルで挙動不審になり、ただの置物のように突っ立っていた。
その時だった。
「フッ、随分と賑やかなストリートじゃねえか。だが、そんなところで直立不動のダンスを踊って、この俺に勝てると思ってるのかい?」
背後から響く、エコーのかかったハスキーボイス。
振り返ると、そこには背中の殻をレインボーに明滅させたカタツムリのゲイリーが、ラジカセを抱えて不敵に笑っていた。
夜のライブの演出確認のために通りかかったのだ。
ゲイリーはテントの前で震える少年たちをじーっと見つめる。
(……ん? こいつら、さっき楽屋でアオイちゃんたちが『またあの変な奴らが来たら要注意よ』とか噂してた知り合いかな?)
持ち前の勘で察した。
「おい、ブラザー。何かトラブルかい? 悩みがあるならこの俺にぶちまけてみなよ」
その一言に、3人組の心のダムが完全に決壊した。
「ゲ、ゲイリー先輩ィィィエエエーーーッ!!!!!」
剛、賢人、刹那はプライドをドブに投げ捨て、ゲイリーの足元にすがりついた。
涙と鼻水で顔を濡らしながら、大失態をすべて白状する。
こうして、ゲイリーの男気により、奇跡的に夜の部の最前列チケットを手に入れることに成功した。
――しかし、ここで忘れてはならない存在がいた。
交渉の間、何一つ貢献していない動物3匹。
彼らは男子3人組が必死に泣きついている間、ただ後ろでどんぐりを齧ったり、可愛くポーズを決めていただけだった。
「「「フッ……さすがは僕たちのゲイリー先輩だね。さあ、用意された最前列まで一緒についていってあげるわよ!」」」
チケットが手に入った瞬間、当然のような厚かましさで剛たちの横に合流した。
「ちょっと待てお前ら!! 交渉のとき、後ろで無言でどんぐり齧ってただろ!!」
剛のツッコミを完全に無視し、動物達はまるで自分たちの手柄であるかのような顔で、特等席へとついていくのだった。




