【覚醒! 幻の王道アイドルと、深淵からの地獄重低音】
第3話:【覚醒! 幻の王道アイドルと、深淵からの地獄重低音】
ゲイリーが恵んでくれた最高峰の神席。
そこに滑り込んだ剛、賢人、刹那の3人と、動物3匹。
ただカタツムリに助けられただけである。
しかし、修羅場を乗り越えたと勘違いしている彼らの表情は、宇宙一ふんぞり返ったどや顔に満ち溢れていた。
隣のレオも尻尾をブンブンと振り回し、胸を張っている。
――だが、現実に引き戻される時間は近かった。
ライブ開始の定刻と同時に、ステージを照らしていた照明が一瞬にしてすべて消灯した。
夜のプール会場は、完全な真っ暗闇へと変貌する。
「「「ひぇッ……!!」」」
さっきまでのドヤ顔は一瞬で霧散した。
暗闇の恐怖に、3人と3匹はお化け屋敷に放り込まれた小学生のように身を寄せ合い、ガタガタと震えだす。
その直後、夜の水面からエレクトロ・パレードの音楽が流れ始めた。
賢人は呼吸困難になりながら眼鏡を震わせ、刹那はパニックで自分の眼帯を逆に引っ張って目を潰しかけ、剛は意味不明な音を漏らす。
そして、その瞬間が訪れた。
『シュパァァァアアンッ!!!』
まばゆいスポットライトが水上ステージを照らし出し、星と月がデザインされた衣装に身を包んだアオイ、ユズ、コトネが降臨した。
照明が爆発するように弾け、パステルネオンの光が夜の水面をオーロラカラーに染め上げる。
その瞬間、剛、賢人、刹那の脳内で、3年分の感情が完全に大爆発を起こした。
小学5年生の春に出会ってから今日までの約3年間、不審者扱いされながらウジウジモジモジと過ごしてきた、あの黒歴史のすべて。
あの苦労が、この瞬間のためにあったのだと、彼らの目から涙がブチ上がった。
「「「アオイちゃんんんん!!! ユズちゃんんんん!!! コトネちゃんんんんんんーーーーーッッッ!!!!!!!(大号泣)」」」
3人組は両手にサイリウムを握りしめ、喉が裂けんばかりのファンコールを叫びながら、全力のオタ芸を最前列でぶちかまし始めた。
最初の1曲目と2曲目。
彼らは3年間の拗らせた想いをすべてサイリウムの炎に変え、喉を枯らして大号泣のコールを叫び続けていた。
その横では、特攻服のレオが吠え散らかし、ジンがどんぐりを激しくシェイカーのように振り、フローラが歓喜のドラミングを轟かせる。
――しかし。運命の3曲目が始まった、その瞬間だった。
3人娘にとってはちょっと可愛いロックアレンジのつもりだったその曲は、彼らにとって悪夢の旋律となった。
『ズウゥゥゥゥウウウウウウウウンンンンッッッ!!!!!』
地殻変動が起きたかのような、地獄の底から響く重低音がスピーカーをぶち破って客席へ襲いかかった。
圧倒的な音圧の暴力。
剛、賢人、刹那は何が起こったのか理解できず、その場で完全に硬直した。
本能的な恐怖に震えるしかない。
刹那の手はガチガチと激しく震え、賢人の眼鏡は冷や汗で曇り、剛は顎をガクガクさせて泡を吹きかける。
極限の恐怖に耐えかね、3人は藁にもすがる思いで後ろの動物たちを振り返った。
だが、彼らもまた、ただのヘタレであった。
「「「……(そわそわ、そわそわ)……」」」
恐怖のあまり耳をペタンと寝かせ、落ち着きなく足元を往復し始めるレオ。
どんぐりから謎の汁を染み出させ、目を白黒させるジン。
自分の巨体を小さく丸めようとするフローラ。
全員が完全にビビり散らかしていた。
最前列の6人が恐怖のドン底でパニックを極め、お互いにぎゅーーーっと身を寄せ合って震えていた、その時。
ステージの真ん中で、コトネがマイクを両手で握りしめた。
デスボイスが、文化祭の夜空を爆音で引き裂く。
「「「ド頭からァァ!! テンション全開フルスロットルで行くぞ野郎どもォォォーーーッ!!! 3年間のウジウジ黒歴史をここで完全に粉砕して灰にしろォォォオオオーーーッッッ!!!!!(ヘドバン大絶唱)」」」
「「「ギニャァァァアアアアアッッッッ!!!!!(白目尊死)」」」
一番の癒やし系だと信じていた推しの、狂犬への覚醒。
自分たちの3年間の黒歴史をピンポイントで抉るシャウトを浴びた剛、賢人、刹那。
あまりの衝撃により、鼻血をブチ上げながら一瞬で白目を剥いた。
そのまま、その場にバッタリと横倒しになり、尊死を遂げるのだった。
{状況に特に変化はない。
だが、その様子をロビーの隅からじーっと見つめている影があった。
ニワトリのアインシュタイン。アニマル界の魔術師である。
最前列で涙を流しながら手を合わせる男子3人組。
熱くハグを交わしているペンタ。
その狂気に本気でドン引きし、後ずさりしているジンやレオたちの姿。
アインシュタインは冷徹な眼光でそれらを見つめていた。
脳細胞が、再び静かにオーバードライブを始める。
(コケ……ある意味、これもあの『神の問い』に対する答えの一つの形なのだろうか……?)
ステージの上では、アニマルと少女たちが温もりを感じ合い、平和な光景を形にしている。
これを『 X 』とする。
ステージの下でも、人間とペンギンが種族の壁を超えて熱く魂を共鳴させている。
これを『 Y 』とする。
大きい意味で見れば、どちらも生き物たちが手を取り合う尊い光景。
同じ、はずなのだが。
(……何故だろう。なぜ X = Y の数式が成立するのか、我が頭脳でも記述できないコケ。どう見ても同じ美しい光景には見えない。むしろ、もの凄くおぞましい闇の儀式を見せられている気分になるのは何故なんだコケ……)
超高度な知能をもってしても、この不条理なデータの数式化は不可能だった。
宇宙の真理すら超越した絆を前に、天才は深く頭を抱えて苦悩する。
――まぁ、3歩歩いたら、その悩みも全てきれいに忘れるのだが。
魔術師が首を傾げて歩き去ったその横。
剛、賢人、刹那の3人はペンタの短い翼をぎゅっと握りしめ、泣きながら夜空を見上げていた。
「アニキ、俺たち絶対に日和りません! ここから這い上がって、いつかあの3人を世界のてっぺんへ連れて行きます!」
「ああ、お前らの泥臭い青春は、今ここで輝きに変換されたんだ。……俺たちのステージは、ここからだぜ」
クチバシから血を滴らせるペンギンと、異種族の壁を超えて成り上がりを誓う人間のヘタレ3人組。
人間の冷徹なルールを圧倒的な楽しさで塗り潰す「虹色の和解」が、ロビーの真ん中で熱く燃え上がっていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
文化祭ライブ編(ペンタとヘタレ3人組の成り上がり)、これにて終幕です。
ここで少し、作者からの小さな「裏設定」を……。
実はこのエピソード、第1話のペンタの妄想シーンと、第3話のラストの時系列が綺麗に「ループ」して繋がっている構成になっていました。
アオイたちに恋をして不審者扱いされてきた男子3人組の3年間の黒歴史が、コトネちゃんの地獄のデスボイス(ヘヴィメタル)によって粉砕され、同じく脳内妄想のプロであるペンタと魂の共鳴を果たす……。
アインシュタイン(ニワトリ)が「X=Yの数式が記述できない」と頭を抱えていましたが、種族を超えたドルオタの絆は、IQ500の知性すら超越する不条理な輝きを放っていたようです(笑)。
中盤のパロディ詰め合わせはまだまだ続きます!次回のエピソードもお楽しみに!




