中間試験2
【第三章:神の問いと、魔術師の答え】
全5項目の試験時間が残り5分となったその時。
試験官の羊のメリーが、それまでの熱唱マイクスタンドの前に静かに立ち、どこか神妙な面持ちでグラサンをそっとずらした。
講堂を包んでいた喧騒が、嘘のようにピタッと静まり返る。
「さあ野郎ども、これが本当の最終問題だァ……。 『もしこの世界に神様がいて、願いを一つだけ叶えるなら何を願う?』……制限時間内に記述、または口頭で答えろォ」
その究極の問いに、講堂内は一瞬にして厳かなざわめきに包まれた。
アニマルたちは最初こそ驚いたものの、すぐに各々の野生の欲望のままに、頓珍漢な答えを叫び始める。
「毎日特上カルビ食べ放題に決まってるだろコラ、キャンキャン!」とヤンキー子犬のレオが前足をバタつかせて吠え、「あたいは世界一マッスルなイケメンゴリラと毎日イチャイチャしたいわ、ウホッ」とおねぇゴリラが乙女のポーズで身悶えする。
チーターのハヤテは「一生有給休暇で寝ていたい」と書き、ヤドカリの宿無し庵は「家賃も修繕費もゼロのタワマン仕様の殻」と、欲望まみれの現実的な回答が乱舞する。
――と、その時。
それまで欲望の濁流に呑まれていたペンギンのペンタが、ハッと何かに気づいたようにガタガタと震え出した。
『ク、クェェエエエーーーッ!!! 僕はなんて浅ましいんだクェ! 毎日おいしいお魚を食べたいだの、広い氷の上でゴロゴロしたいだの、そんな自分のことばかり考えていたクェ……!』
ペンタはクチバシをぎゅっと噛み締め、涙を浮かべながら、胸のフリッパー(翼)を熱く握りしめた。
『もし神様が本当に願いを一つだけ叶えてくれるというのなら……僕はッ! 僕は、あのアオイちゃんたちの尊くて眩しい、スク水やパジャマ姿のキャッキャウフフな世界を……! 宇宙が滅びるその日まで永久保存(デジタルアーカイブ化)して、毎日合法的に360度VRで眺められるシステムを構築してもらうクェェェエエエーーーッ!!!(フシューーーッ!!!)』
最後の最後で、全エネルギーを限界突破したガチの変態妄想に費やしたペンタ。
答えを叫んだ瞬間、あまりの興奮と脳内スパークにより、本日二度目の激しい鼻血を噴き出し、白目を剥いてその場にバッタリと横倒しになり、本日も美しく「尊死たっとし」を遂げた。
しかし、そんなカオスな欲望が飛び交う中、さすがの天才ニワトリのアインシュタイン(魔術師ヤン)も、この概念的かつ哲学的な問いには深い苦悩に陥っていた。
「コ、コケッ……(神の存在証明と多次元宇宙におけるエネルギー保存の法則、および精神生命体の幸福度を数式化した場合、最適解となる願いとは一体――コケッ? ……あ、計算のために2歩動いた。あと1歩でも足を動かせば全てを忘れるコケ!)」
人間の作った不条理なルール(筆記試験)や、自分たちの生態ではペンすら持てないという不条理。
この青い空の下で、もし本当に神様が来て願いを一つだけ叶えるというのなら、人間に振り回され続ける動物いきものたちは、一体何を願うのだろうか。
誰もが自分の欲望と向き合って頭を抱え、講堂が混迷を極める中。
アニマル界の魔術師は、まるっきり動揺していない風を装って、スッと白い翼を真横へと伸ばした。
冷徹な智将のごとき鋭い眼光のまま、彼がその翼の先でピシッと指し示したのは、講堂の入り口の『ある一点』だった。
そこには、試験を終えて一足先に合流し、七色に優しく、温かく発光しているカタツムリのゲイリーを真ん中にして、お互いのハチマキを直してあげながら笑い合っている3人娘の姿があった。
「あはは、アオイちゃん似合ってるよ」「ユズちゃんの眼鏡、水しぶきで曇って可愛いねぇ」「もう、コトネのぬくもり、あったかいよぉ」と、ぎゅーっと身を寄せ合ってキャッキャウフフと笑い合っている、眩しいほどに尊い光。
魔術師ヤンは、フッ……と不敵に微笑み、心の中でこう呟いたのだ。
(答えなんか、もう最初からそこに、あそこにあるじゃないかコケ……)
神様にお願いして人間に復讐をする必要も、特別な奇跡を起こしてもらう必要もない。
人間の作ったテストは0点かもしれない。けれど、大好きな人間(彼女たち)と、こうして傷つけ合うこともなく、お互いのぬくもりを感じて一緒に笑い合えている今この瞬間。
それこそが、いきものたちがずっと願っていた、最高の『ハッピーエンド(世界の答え)』なのだと、彼は言葉ではなく、その小さな背中で語っていた。
アインシュタインの指先を見たアニマルたちが、次々と静かになっていく。
「キャン……(あいつら、本当に楽しそうだなぁ、キャン……)」とレオのプロペラ尻尾が優しく揺れ、タケシも「ニャウ〜ン(みんなで一緒にいるのが一番ニャ)」とモチモチの体を丸める。
それを見た試験官の羊のメリーは、グラサンをそっと戻し、目元に光る涙を拭った。
「ふっ……ロックだな。お前ら全員、大正解だァ!!! ゴールはここだったんだァァエエーーーッ!!!」と、感動のあまり爆音で大絶叫。
『キーーーンコーーーンカーーーンコーーーン……』
本物の試験終了のチャイムが鳴り響く。
当然、ペンを持てない・3歩で忘れるアニマルたちは全員赤点(0点)。
しかし、ただ一人、ゲイリーの「レインボー発光」のみが「生態点100点満点」を獲得。
ユズは眼鏡をクイッと上げて、源さんがつけたアインシュタインの採点シートを覗き込んだ。
「……いえ、残念ながらアインシュタインは『答案白紙のため0点』ね。サルの源さん、点数に関しては容赦なく現実的ね」
「コケエエッ!?(ゲイリーの発光は100点で、必死に関数を表現した我が渾身のジェスチャーと哲学が0点とは不条理だコケーーーッ!!)」
アインシュタインが絶望の雄叫びを上げる横で、コトネとアオイはユリアンを真ん中にしてぎゅーーっと抱き合い、キャッキャウフフの大騒ぎ。
【第四章:試験終わりの打ち上げ! カラオケ大パニック】
「みんなお疲れ様〜〜! 打ち上げにカラオケ行こう〜〜!」
アオイが制服姿でポニーテールをブンブンと振り回しながら、廊下で大はしゃぎの声を上げた。
アニマルたちも「お肉の食べ放題つきプランがあるコラ! キャンキャン!」と子犬のレオが喜び、タケシも「フッ、漢(猫)の十九番を披露するニャ」と、赤点のショックを秒で忘れて大賛成。
こうして、3人娘とアニマル連合は、駅前のカラオケボックスの特大パーティールームへと雪崩れ込んだ。
ポテトや唐揚げをダチョウのオトシとチーターのハヤテが時速マッハで奪い合うカオスな空間の中、マイクを握ったのは、意外にもおっとり天然なコトネだった。
「じゃあ、私、歌いまーす♪」
コトネがふんわりとした笑顔でデンモクのスタートボタンを押す。
アオイが「コトネがんばれー!」とタンバリンを叩き、ユズが「コトネの歌声、癒やし効果が高そうだわ」とウーロン茶をすする。
――しかし、前奏が終わり、コトネが口を開いたその瞬間。部屋の空気が爆音で引き裂かれた。
「「「ド頭からァァ!! テンション全開フルスロットルで行くぞ野郎どもォォォーーーッ!!! デスボイスで刻めェェエエ!!!」」」
「「「ファッ!!???!??」」」
なんと、おっとり癒やし系のコトネの口から放たれたのは、地獄の底から響くような超本格派の重低音デスボイス(ヘヴィメタル)だった。
試験官の羊メリーのロックに脳のどこかのスイッチを押されてしまったのか、コトネはスカートを振り乱し、ヘッドバンギングをしながらマイクに向かって絶唱を続ける。
「ひゃあああ!? コトネちゃんが激しい! すっごく激しいよぉ〜〜!!」
アオイが恐怖と興奮でユズの制服の裾をギュッと掴んでキャッキャとパニックになり、ユズは「コ、コトネの音響出力、デシベルの計算が完全に限界を突破しているわ……!」と眼鏡をガタガタ震わせる。
二人は怖がりながらもお互いにぎゅーーっと身を寄せ合い、結果として最高に尊い密着キャッキャウフフ状態に。
アニマルたちもコトネの意外すぎるデスボイスの才能に完全圧倒。
ヤンキー子犬のレオは恐怖で「くぅぅん……(本物の狂犬だ……)」と丸くなり、マッチョ猫のタケシは白目を剥いて大福のように固まり、3歩で忘れるニワトリのアインシュタインは「コケッ(衝撃で3歩歩く前にすべてを忘れたコケ)」と泡を吹いていた。
ただ一人、レインボーカタツムリのゲイリーだけは、コトネのデスボイスの重低音(振動)に殻をディスコライトのように激しくビカビカとレインボーにシンクロ発光させ、最高のライブステージ演出を施している。
そして部屋の隅のソファ。
がっしりと腕を組んだサルの源さんが、激しく頭を振るコトネを渋い目で見つめ、
「ふっ……あいつも、裏の顔ヘヴィメタルを開花させるとはな……。うん、みんな成長したな……」
と、自分は1ミリも歌っていないのに、伝説の音楽プロデューサーのような顔で、深く、深く、うんうんと満足そうに頷いていたのだった。
(おわり)




