水泳大会2話
【
(前編・了)
【第四章:大爆笑の水上ゴザ走りと、カバ3姉妹の自爆ジェットストリームアタック】
午後の部。お肉の代わりにいちご大福パワーをチャージした両チームが激突したのは、水面に長く敷かれた、ツルツル滑る「ロングゴザ」の上を走り抜ける『水上ゴザ走り』。
「おっとっとー!」
アオイがポニテを揺らして激走するものの、途中で滑ってプールにザブーン!
「冷たいよぅ〜!」と笑いながら、後からヨロよろ走ってきたユズの足を引っ張って一緒に水に落とす。
コトネが「もう、二人とも〜」と言いながら自分の巨大浮き輪に二人を「ぎゅっ」と引き入れて、3人はひとつの浮き輪に密着した。
「ねえ、狭くない?」
「コトネのぬくもり、あったかいよぉ」
「ちょっとアオイ、密着しすぎよ……!」
水着越しに肌と肌が触れ合う近さに照れながらも、「あはは!」と水のかけ合いっこが始まり、プールサイドは黄色い歓声に包まれた。至高の百合癒やし空間がそこにあった。
対するアニマル側。
ここで満を持して、あの「でっぷりカバ3姉妹」が、陸上のリベンジとしてゴザの上での『水上ジェットストリームアタック』を敢行した!
赤いリボンのリーダー「ジェット」、青いストーム、黄色いアクト。
3匹が縦一列にピッタリと並び、お互いの丸くてでっぷりしたお尻と頭をギチギチにくっつけ合い、完全に一本の「モチモチしたイモムシ」のような体勢に入る。
「「「ジェットストリームアタックだ!!!(トコトコトコトコ!!!)」」」
短い足を猛烈なピッチで動かし、3匹が一列のまま突進を開始!
しかし、ゴザの上が滑りすぎるせいで、スタートした瞬間にジェットのお尻にストームの頭が「ムニュッ」とメリ込み、そのまま3匹お団子になってゴザの上をゴロゴロと転がり、陸上と同じくわずか1メートルも進まずに「ドボォォォン!!」と津波のような水しぶきを上げて自爆した。
「あはは! 飛び込みの点数なら100点満点だね!」
「ふふ、お尻がプカプカ浮いてて可愛い〜。よしよし〜」
コトネが水面に浮かんだ赤・青・黄の頭を優しく愛で、ユズも結局スマホを取り出して、水面でお団子になっているカバ3姉妹を連写し始め、またしてもキャッキャウフフの撮影会(平和)へと強制変換されてしまった。
◇
【第五章:最終決戦! 天使と悪魔のデッドヒートと、限界突破の必殺技炸裂】
そして迎えた最終種目、25m自由形。
アオイが出場する本番のレースだ。
『パンッ!』と開始のピストルが鳴る。
アオイは特訓の成果を爆発させ、ラコすけに教わった背泳ぎの姿勢から、ルカのドルフィンキックを連射して滑り出した。
しかし、そのアオイの真下から、凄まじい虹色の閃光が迫ってきた。
今回の水泳大会の真のライバル、デフォルメされたぷにぷにの透明なクリオネの『ネオン』である。
ネオンはレースがスタートした瞬間に本性を現し、頭部がパカッと開いて6本の半透明な虹色触手をガバァッ!と大展開!
「パタパタパタパタ!!!(バッカルコーン大展開!!!)」
触手をプロペラのように猛回転させて水中に凄まじい大推進力を生み出し、アオイの真下をマッハの速度で並走し始めたのだ!
「ひゃあああ!? 下から何かハグハグした触手が迫ってくるよぅ〜!?」
アオイが仰向けのまま水面でキャッキャとパニックになり、スクール水着の裾をなびかせる。
その瞬間、プールサイドの特等席でその光景を凝視していたペンギンのペンタは、脳内の全エネルギーが臨界点を突破していた。
(クェェエエエーーーッ!!! 水着! 触手! パニックを起こして頬を染めるアオイちゃん! これぞ僕が何百回と薄い本で夢見た神シチュエーションクェーーーッ!!! フシューーーッ!!!)
ペンタはクチバシから物凄い勢いで鼻血(妄想の熱量)を噴き出し、白目を剥いてそのまま横倒しに『尊死』。当然、これ以降は1ミリも動かない。
そのあまりの熱気に、外の特設巨大ビニールプールにいるクジラのグランも大興奮!
「ブシュウウウウウウーーーッ!!!!」と、もはや津波のようなダイナミックな水しぶきを室内に降らせる。
その降り注ぐ水しぶきの中、ベンチから二人の「本物の師匠コーチ」が身を乗り出した!
ラコすけがマイ貝殻を石で「カンカンカンカン!!!」と猛烈な早さで連打する!
ルカが水面を尾ヒレで激しく叩きつける!
「「アオイ!! 特訓で授けた『一瞬の神速の加速概念』を解放しろ!! いっけェェェェ~~~~~!!!!」」
「うん!! 二人の師匠、ありがとーーーっ!!!」
仲間たちの熱い大絶叫と、コトネとユズの「アオイちゃんがんばれー!」の声に応えるように、アオイの瞳に神の炎が灯った。
一瞬の加速を可能にする、師匠直伝の必殺技が今、ここに炸裂する!
「喰らいなさい! これが私の……『超音速・流星ドルフィンラッコ泳ぎ(メテオ・ドルフィン・バックストローク)』だぁぁぁーーーッ!!!!」
アオイの腰としなりが、イルカのルカを越える完璧な曲線を叩き出す。
マッハを超えた神速のドルフィンキックにより、プールの水面が「ドパパパパパァァァン!!!」と激しく爆ぜ、アオイの体はまるで夜空を駆ける流星のように、水面を滑り、半分飛びながらゴールへと突き進んだ!
しかし、ゴール直前。
プールサイドで応援していたコトネが、おやつ用に持ってきていた「冷やしいちごゼリー」をスプーンですくって一口食べた。ひんやりと甘いいちごの香りがプールいっぱいに広広がる。
『ピクッ』
その匂いを、クリオネのネオンの触手が敏感にキャッチした。
ネオンはゴールラインの手前1メートルでピタッと静止。一瞬で頭の触手をシュルシュルと格納し、元の「ぷにぷにの可愛い天使」に戻ると、水面からパタパタと飛び出してコトネの胸元に、吸い込まれるようにフカッとダイブ着陸。
「わあ、クリオネちゃん可愛い〜! はい、あーん」
コトネがゼリーを一口あげると、ネオンは幸せそうに虹色にピカピカと輝き、アオイの必殺技がそのまま大爆発して1位でゴールイン!
「もーーう! 怖かったけど、勝てたよーーー!!」
プールから上がったアオイが、コトネとユズの首に思いっきり抱きつき、3人は水着のままぎゅーーっと固まって、
「冷たいよ〜!」
「あはは、アオイちゃんすごかったよ!」
とキャッキャウフフの大騒ぎ。
その足元では、またしても買収された仲間に向かって、
「コケエエッ!?(必殺技まで出させたのに、ただのゼリーで無力化されるなコケ!!)」
と、天才ニワトリのヤンが絶望の雄叫びを上げていたのだった。
◇
【第六章:エピローグ・やっぱりあの師匠】
すべての競技が終わり、夕暮れ時のプールサイド。
アオイ、ユズ、コトネの3人組は、約束通りお礼の『幻の極上生チョコいちご大福』を広げ、アニマルたちに少しずつ切り分けて差し出していた。
「あはは! 本当にみんな面白いね! すっごく楽しかった!」
アオイが尖っていたはずのチーターのハヤテをぎゅーっと愛おしそうに抱きしめながら、声を弾ませる。
「ええ。最初はカナヅチでどうなるかと思ったけれど……最高の水泳大会になったわね」
ユズもハチマキを解き、いつもの冷静な表情の裏に、優しい笑顔を見せた。
「うん、またみんなで一緒に遊ぼうね!」
コトネのおっとりとした聖母の言葉に、アニマルたちもそれぞれの鳴き声で、嬉しそうに賛同の声を上げた。プールサイドは極上の百合癒やし空間に包まれていく。
クリオネのネオンは水槽の中でぷにぷにとパタパタ泳ぎ、ホタテ貝の高倉くんは、貞操を守るために殻を閉じたまま、
「(自分、不器用ですから……)」
と水底で静かに引きこもっている。特区アニマルたちの不条理な日常がそこにあった。
二人の本物の師匠(ラコすけ&ルカ)も、プールサイドのベンチでがっしりと腕を組み、弟子の見事な必殺技の炸裂と成長を、満足そうな「本物の師匠面」で見つめていた。
しかし、そんな温かい癒やしの輪の端っこで、レインボーカタツムリのゲイリーだけは、悔しそうに殻をバチバチと赤紫に発光させていた。ゲイリーは3人娘をギロリと睨みつけると、夕日に染まるプールを触角で指差した。
その瞬間、夕日の赤がプールの水面に反射してワインレッドに染まり、ゲイリーの背後に無駄にハードボイルドで重厚なオーラが立ち上る。ゲイリーは静かに殻のネオンを消し、夜の気配を纏いながらプールを見つめた。
「フッ……我がボスのゲイリー様が言っている。陸上では不覚を取ったが、次なる勝負……水泳大会こそが真のストリートだとな!」
裏での気づかいを忘れない精神論担当のゲイリーに代わり、通訳のアニマルが不敵に笑う。
「へえ、水泳大会! 面白そうじゃん、受けて立つよ!」
アオイが笑顔で拳を突き出すと、ゲイリーは「まだだ、まだ負けちゃいねえ!」と言いたげに殻をギラギラと1600万色のネオンへと輝かせ、次なるリベンジへの決意を固めるのだった。
(なお、このセリフの裏で、水底のケンさんの触手から必死に逃げ出した高倉くんが『次こそはマッハ3で引きこもる……!』とガチの貞操サスペンスモードに入ったのはまた別の話である)
最後に、校庭の隅の木の上で、後方腕組師匠面のサル、源さんがゆっくりと深呼吸をしていた。
源さんは空中お仕置きのダメージを感じさせないガッシロとした腕組みのまま、夕日に向かうかのような渋い目で楽しそうな3人とアニマルたちを見つめ、
(ふっ……ペンギンの尊死、そしてアオイの究極の必殺技……。うん、みんな成長したな……)
とでも言いたげな顔で、何もしていないのにお茶すら淹れずに、深く、深く、うんうんと満足そうに頷いていたのだった。




