水泳大会 1
【第一章:千草中プール・秘密の特訓と、二人の本物の師匠】
大盛り上がりだった大運動会の後、アニマル連合のレインボーカタツムリのゲイリーから「次なる勝負、水泳大会こそが真のストリートだ!」と宣戦布告された仲良し3人組。
元気いっぱい、王道トップアイドルの輝きを放つポニーテールの『アオイ』。
冷静沈着な眼鏡っ子で、特別な演出なしで周囲を狂信者に変貌させる『ユズ』。
おっとり天然で、普段は控えめで優しい圧倒的癒やし枠の『コトネ』。
無敵の3人娘だったが、ここで大会を前にして致命的な問題が発考する。
なんとアオイは、陸上では無敵の脚力を誇るのに、水に入ると一瞬で沈む致命的な『カナヅチ』だったのだ。
水泳大会を数日後に控えた、放課後の千草中学校プール。
「うぅ……やっぱり沈んじゃうよぉ……」
スクール水着姿のアオイがプールのフチにしがみつき、涙目でブルブルと震えていた。
「もう、アオイちゃん大丈夫だよぉ。ほら、私の手を掴んで、力を抜いてぷかぷか〜ってしてみて?」
おっとりしたコトネがプールの中で、アオイの身体を後ろから優しく支える。
水着越しにお互いの柔らかい肌のぬくもりがダイレクトに伝わり、アオイは怖さもあってコトネの豊かな胸元にギュッと抱きついた。
「ひゃぅ、コトネ〜! 離さないでね、絶対に離さないでね!」
「あはは、くすぐったいよアオイちゃん。でも、アオイちゃんの体、引き締まっててすっごくスタイルいいねぇ」
「なっ、何言ってるのコトネ! 恥ずかしいじゃん!」
アオイが顔を真っ赤にしてコトネの腕の中で身をよじると、プールサイドからそれを見ていたユズが、眼鏡をガタガタと震わせながら声を荒らげる。
「ちょ、ちょっと二人とも! プールの中でそんな密着してイチャイチャしないの! 筋肉の比重の計算が狂うじゃないの……!」
「じゃあユズちゃんが見本見せてよー!」
アオイに濡れた手でくいっと足を引っ張られ、ユズは「ひゃんっ!?」と可愛い悲鳴を上げてプールにドボォォォン。
「も、もう! 水着が張り付いて冷たいじゃないの……! えへへ、アオイちゃんの髪、いつもサラサラで気持ちいいなぁ……」
コトネの無自覚な距離の近さに、ユズは「べ、別にただのプールよ(心拍数上昇)」と顔を真っ赤にして怒りつつ、アオイとコトネに左右からギュッとホールドされる。
3人で濡れた体のまま、お互いのぬくもりを確かめ合うようにぎゅーーっとハグし合う。そこには至高の百合癒やし空間が完成していた。
しかし、二人がどれだけ熱心に教えても、アオイの水泳スキルは1ミリも上達しなかった。
「フッ……見ていられんな。お嬢ちゃんたちの教育論は甘すぎるコケ」
プールサイドの影から、白衣(ミニ水着仕様)を着たアニマル界の魔術師が、ひよこのユリアンを頭の上に乗せて現れた。
後ろには、なぜか水泳帽子を被ったアニマル連合の教師陣がズラリと並んでいる。
「コケッ!(アオイ、私の計算した『完璧な推進力の流線型数式』を脳内に叩き込めば、3歩で25メートルなど……コケッ? ……あれ? 私は今、なんでプールサイドにいるんだコケ?)」
案の定、3歩歩いた瞬間にすべての作戦を忘れたニワトリ。
そのままプールに足を踏み外して「コケエエッ!?(溺れるコケ!)」と鳥かきでジタバタ。アニマル側の狂気カオスが静かに幕を開けた。
「ハァ……使えない鳥ね。アオイ、俺のこの『プロテインで鍛え上げた大胸筋(脂肪)』の浮力を見習うニャ!」
垂れ耳白猫のタケシが、アオイを威嚇するようにプールサイドでヤンキー風マッスルポーズを決めた。
しかし、お肉の食べすぎでシルエットがただのモチモチした大福餅なため、アオイたちに、
「わあ、タケシくん水泳帽被ってて可愛い〜!」
「お腹タプタプ〜!」
とキャッキャとわしゃわしゃ揉まれるだけの癒やしグッズにされ、威嚇は秒で強制終了させられた。
水底からは、貞操を守るために殻の密閉度をマッハ3に固定した引きこもりホタテ貝の高倉くんが、殻をピチッと閉じたまま、水中に沈んだ文字(自分、不器用ですから…)で、
「(沈めばいい……男は黙って水底で耐えるもの……)」
と、全く参考にならない硬派な引きこもりアドバイスを送ってくる。
さらに特設水槽のサンゴのコウちゃんは、
「私の美しいポリプの開き方を真似すれば、水面なんて一瞬で……ピキピキ!(美しさを意識しすぎて繊毛が攣った)」
と、水中に入る前からマセた美意識のせいで勝手に限界を迎えて悶絶していた。
アニマルたちのポンコツな奇行にほっこりしながら笑い転げていると、プールの奥から「カン、カン、カン……」と、気の抜けた音が響いてきた。
「フッ、お前たちの『泳ぐ』という概念は、そもそも固定観念に縛られているな」
プール中央。
仰向け(背泳ぎ状態)のまま、お気に入りのマイ貝殻を石でカンカン叩きながら、ぷかぷかと浮いている影があった。ラッコの『ラコすけ』である。
「アオイちゃん、あのラッコさん、すっごく上手に浮いてるよ〜」
コトネが指を差すと、ラコすけはあざと可愛い顔でアオイを見つめた。
「前を向いて泳ぐから、水が怖くて沈むんだ。……俺を見ろ。空を見て、ラッコになれ」
その言葉に、アオイの脳内に電撃が走った。
後ろを向けば、お顔に水がかからないのだ。
さらにその横から、流線型の美しい青い肉体を躍動させ、水面を滑りようにイルカの『ルカ』が躍り出た。
「キューーーッ!!(その通りだアオイ! 背中の浮力を得たならば、今度は腰を波のようにしならせ、俺のドルフィンキックの真髄を叩き込め!)」
二匹は、本気で大会に出ると競技のバランスが崩壊するため、今回はコーチ(師匠枠)として指導に徹することに決めていたのだ。
アオイはコトネとユズの柔らかい手に支えられながらゆっくりと仰向けになり、水面に背中を預けた。
ラコすけの脱力背泳ぎと、ルカのドルフィンキックがアオイの身体の中で一つに噛み合っていく。
「キューッ!(いいかアオイ、ここからが奥義だ。水着の摩擦をゼロにし、己の限界を超えて一瞬の神速の加速を生み出す必殺の概念――『流星の如き爆発力』をイメージするんだ!)」
アオイのバタ足がトポトポから凄まじい波打ちへと変化し、仰向けのまま「スーーーッ!」と驚異的なスピードで水面を滑り出した。
「やったぁぁぁーーー!!! 私、泳げてるよーーー!!!」
プールから上がったアオイが、水着のままユズとコトネに思いっきり飛びついた。
ラコすけとルカはプールサイドでがっしりと腕を組み、誇らしげな「師匠面&コーチ面」で頷き合い、本番での弟子の成長を見守るのだった。
◇
【第二章:水泳大会開幕! 妄想ペンギンの尊死と、クジラの豪快水しぶき】
そして迎えた『夏季水泳大会』当日。
私立千草中学校の屋内プールは、午前中の開幕と同時に、凄まじい熱気と水しぶきに包まれていた。
「よーし! 二人の師匠に教わった背泳ぎとドルフィンで、今日も1位を目指すぞー!」
スクール水着のハチマキをキッと結び直すアオイ。
「アオイちゃん、水着とっても似合ってるよぉ。スタイル良くて眩しいねぇ」
コトネがアオイの細い腰を後ろからぎゅっと抱きしめ、おっとり微笑む。
「ちょっと二人とも、プールサイドでイチャイチャしないの! ほら、日焼け止めを塗るから、アオイ、背中を向けなさい」
ユズが顔を真っ赤にし、恥ずかしさに耐えながらもアオイの白い背中に優しくローションを伸ばしていく。
「ひゃっ、冷たいよユズちゃん!」「あはは、くすぐったい!」と3人が濡れた体でさらに密着し、グラウンド以上のキャッキャウフフな百合の嵐が巻き起こる。
――その瞬間、プールサイドの隅で「フシューーッ!!」と物凄い鼻息が響いた。
ペンギンの『ペンタ』である。
彼は大会開始直後、3人娘のまぶしすぎる水着姿と密着スキンシップを目撃した瞬間、脳内の妄想回路が完全に大爆発を起こしていた。
(クェェエエエーーーッ!! スクール水着でのローション塗り合いっこ……! ぼ、僕の脳内キャンキャンが、尊さのあまりピンク一色に染まっていくクェ……!!)
本来なら水中最強・最速のペンタだが、全エネルギーを「いけない妄想」に消費した結果、一歩も泳げずにその場でピキピキと固まり、尊さのあまり白目を剥いてバッタリ倒れ込んでしまった。
「あら、ペンタくんまた倒れちゃった。競技に出なくて大丈夫かな?」
「ただの知恵熱(妄想)よ、放っておきなさい」
当然、ペンタはこれ以降1ミリも動けず、競技は不参加となった。不条理な自爆である。
その時、プールの外の窓から『ブシューーーッ!!!』と、滝のような水しぶきが降り注いだ。
25mプールに体が収まらないため、外の特設巨大ビニールプールにいるクジラの『グラン』が、応援のために潮吹き穴から豪快に水を吹き上げたのだ。
「わあ,涼しいー! グランくん応援ありがとーー!」
アオイたちが手を振ると、グランは大興奮して「プシューー!」とさらにメガ消火水しぶきを上げ、プールサイドを涼やかなお祭りムードに変えていた。
コーチのラコすけとルカは、プールサイドのベンチから鋭い指導者の視線で3人娘を見守っていた。
第三章:水中宝探しの絆と、こじらせ海洋生物たちの自爆】
プログラム第3種目、『水中宝探し』。
25メートルプールの水底に沈められた100個の「カラー真珠(お宝)」を拾い集める競技である。
赤色のレア真珠を拾うと、あの『幻のいちご大福』の追加トッピング券が貰えるという。
「みんな、頑張ろうね!」
プールサイドでアオイが元気に声をかけるが、彼女の腰には大きな「ひよこちゃん浮き輪」ががっちりはまっていた。背泳ぎはできても、アオイはまだ潜ることができない。
「アオイちゃん、無理しちゃダメだよ。浮き輪でぷかぷかしててね」
コトネがプールの中で、アオイの浮き輪を優しく引っ張ってあげる。
「そうよアオイ。赤のレア真珠の沈下位置は、水流から計算してプール中央の最深部よ。ここは私とコトネで、アオイの分まで確実に回収してみせるわ!」
ユズがゴーグルをキッと装着し、二人はアオイのために奮起して水中に潜っていった。
一方、水底ではアニマル連合の海洋生物たちが、それぞれの本能とこじらせた性格で大迷走を始めていた。
ピンク色のサンゴ、コウちゃんは水中に入ったことでそのポリプがパァァァッとネオンピンクに発光! 自らライトアップして周囲のお宝をめちゃくちゃ見えやすくしていた。
しかし、いざ目の前の赤真珠を拾おうとした瞬間、ハッと気づいて固まる。
「……待って。今、お尻を突き出して真珠を拾おうとした私のポーズ、美しくなくない!? 宝石としてのプライドが許さないわ!」
マセた美意識が邪魔をして、真珠の目の前で触手をシャキーン!と満開のまま完全にフリーズ。
ホタテ貝の高倉くんは、生物としてはプランクトンを吸い込む「捕食のスペシャリスト」だ。その気になれば、水流を発生させてお宝を一網打尽にできる。
「(自分、不器用ですから……)」
高倉くんは勢いよく殻をパカパカと開閉して水流を起こした!
しかし、不器用さが災いしてコントロールが完全に崩壊。お宝を吸い込むどころか、自分の激しい殻の開閉によるジェット噴射(マッハ3)で、水底を「ズババババ!」と全速力で後ろ向きに暴走。
あやしく無数の触手をうごめかしていた巨大イカ女教師、ケンさんの太い触手に豪快に激突した。高倉くんはそのまま気絶し、ケンさんは「あら、大胆な男の子ね、ペロリ❤️」とねっとり舌舐めずり。暗黒サスペンスの火蓋が水底で切って落とされた瞬間だった。
この大混乱の隙を突き、「フッ、これぞスマートな漁夫の利だ」とトコトコ現れた全裸のヤドカリ、宿無し庵。伝説の巻貝を求めるミニマリストであり、真珠を拾い放題の神ポジションだが、ここでも「意識の高さ」が禍をなす。
「ふむ……この青い真珠は私の今期のラッキーカラーではないな」
「この黄色い真珠はQOL(生活の質)を損ないそうだ」
贅沢なえり好みを始め、お宝を手に取ってはポイポイと投げ捨てる。そうしているうちに制限時間がガリガリ削られていくのだった。
アニマルたちが水底で勝手に自爆している横を、アオイのために固い絆で結ばれた二人が進む。
ユズは無駄のない潜水フォームで水底へ。コトネも完璧なバタ足で、次々とお宝を回収していく。
そしてついに、水底の一番深い場所で怪しく光る「赤のレア真珠」を発見!
ユズとコトネは同時に手を伸ばし、二人の手が水中で「ギュッ」と重なり合いながら、見事に赤真珠を掴み取った。
水中で二人は顔を見合わせ、ブクブクと泡を出しながら、お互いの健闘を称え合うように嬉しそうに目を細め合う。
ぷはっ! と二人が水面に顔を出す。
「アオイ! 獲ったわよ! 赤のレア真珠!」
「アオイちゃん、やったよ〜〜!」
「わあぁぁーーーッ!! 二人ともすごい! 大好きっ!!」
アオイが嬉しさのあまり、浮き輪に乗ったまま二人の首に左右から思いっきり抱きついた。
おかげでバランスが崩れ、3人は「ひゃあ!?」「あはは!」とキャッキャと悲鳴を上げながら、プールの中でぎゅーーっと折り重なるようにハグ。
「もうアオイ、引っ張らないで……! でも、これでいちご大福は完全なものになったわね」
ユズが濡れた眼鏡を直しながら赤面し、コトネも「アオイちゃん、ユズちゃん、お疲れ様❤️」と微笑む。
3人は水着のまま頭をコツンと寄せ合って、これ以上ないキャッキャウフフな大勝利に酔いしれるのだった。




