1章 アニマルもいる運動会 2話
午前の最終種目、『クラス対抗リレー』。
走順は、第1走者がユズ、第2走者がコトネ、アンカーがアオイ。
対するアニマル連合は、第1走者に天才ニワトリの魔術師、第2走者にレインボーカタツムリのゲイリー、アンカーに食いしん坊ダチョウのオトシを配置してきた。
『パンッ!』
ピストルの音が鳴り響いた瞬間、ユズと魔術師が猛スタート!
魔術師は驚異のダッシュを決め……たが、案の定、3歩走った瞬間にここがリレーのコースであることを完全に忘れた。
「コケッ?(おや、あそこに美味しそうな虫が……)」
コースを派手に外れてトコトコと虫を追いかけ始めるニワトリ。アニマル側は開始早々、絶望的に出遅れる。
その隙にユズは美しいフォームで快走し、コトネへのバトンパス!
「コトネ、次よ! 受け取って!」
「うん、ユズちゃん、まかせて〜!」
コトネがバトンを受け取る瞬間、ユズの手とコトネの手がギュッと重なる。
「ユズちゃんのぬくもり、確かに受け取ったよ!」
コトネが極上の聖母スマイルを浮かべると、ユズは「ひゃっ」と少し照れて顔を赤くしながらも、コトネの背中を優しく押した。コトネはキャッキャと嬉しそうに走り出す。
一方、大きく遅れてようやくバトン(どんぐり)を繋いだアニマル側。
第2走者のゲイリーは、本人は普通のカタツムリの100倍という超スピード(人間の早歩き)で必死にヌルヌル進んでいた。
(フッ、風の音が心地いいぜ……。三人娘(彼女たち)の未来を照らすため、俺は俺のストリート(トラック)を狂い咲く……!)
裏での気づかいと、無駄にハードボイルドな精神論を胸に秘め、ゲイリーの殻は悔しさと情熱で「1600万色ネオン」に激しく発光していた。しかし、コトネにはどんどん引き離されていく。
コトネは「はぁ、はぁ……アオイちゃん、繋ぐよ〜!」とアンカーのアオイへ!
「コトネ、ナイスラン!」
アオイはバトンを受け取りつつ、ヘトヘトになったコトネを胸にギュッと軽くハグ。
二人は「あはは!」「あとは任せて!」と眩しい笑顔を交わし、王道トップアイドルの輝きを纏ったアオイがゴールへ向けて猛ダッシュ。
アオイが快調にゴールを目指す中、アニマル側はカタツムリのゲイリーがようやくアンカーの『ダチョウのオトシ』にタスキを繋いだ。
「クェェーーーッ!!(飯ぃぃぃ!!)」
オトシは凄まじい快速足を持っているが、その脳内は100%純粋な食欲。
ゴール地点で待っているコトネのポケットから、昨日お昼休みに遭遇した『ハッピー・ベリー・カフェ』の高級いちごクッキーの甘い匂いを野生の嗅覚で探知してしまったのだ。
「クェ、クェェーーーッ!!(あのお姉ちゃんが美味いもの持ってるクェーーー!!)」
オトシの目が血走り、時速数十キロの恐ろしい獣の速度で、地響きを立てながら爆走を開始した!
オトシを誘導したアオイをあっという間に抜き去り、マッハの速度でゴール……ではなく、ゴールラインを完全に無視して、応援席にいるコトネに向かって一直線に突進してきた!
「ひゃあああ!? ダチョウさんがこっちにすごい顔で走ってくるよぉ〜!?」
コトネが涙目でユズの後ろに隠れる。
「ちょっと! コースを逆走してるわよ!」
3人はお互いにぎゅーーっと抱き合ってキャッキャと大パニック。
オトシは3人の目の前でズサーーーッと豪快なスライディングを決め、コトネのポケット(いちごクッキーのありか)を狂ったように突きまくる!
「く、くすぐったいよぉ……! も、もう、やめてくださいぃ……っ!」
オトシの激しい突撃に揉まれる中、おろおろしていたコトネの背後から、一瞬だけ、地の底から湧き上がるような漆黒のオーラが立ち上った――ような気がした。
「(……チッ、日和ってんじゃねぇよ鳥頭が……ツラ貸せや……)」
「クェッ!?」
どこからか響いた超重低音の覇王色の呟きに、本能的な恐怖を察知したオトシがピキリと硬直する。
しかし次の瞬間には、コトネは「ふぇぇん、怖かったですぅ〜」といつもの聖母の笑顔に戻っていた。
結果、アニマル側は盛大なコースアウトにより文句なしの「失格」処分!
その隙に、真面目にトラックを走っていたアオイが、満面の笑みで1位のテープを切ってゴールイン!
「怖かったけど……やったぁぁ! 私たち、勝っちゃったね!」
アオイが駆け寄り、3人は再びぎゅっと抱き合って大喜び。
限定3パックの『幻の極上生チョコいちご大福』へ向けて、三人娘は最高のスタートダッシュを決めるのだった。
(第1話・了)
【第五章:大バーベキュー大会! 肉の匂いに狂喜乱舞する地上班】
待ちに待ったお昼休み。
プールサイドの広場には、香ばしい炭火の香りとジューシーな肉の匂いが立ち込めていた。
今回の運動会は特区との合同なため、お昼はなんと豪華な「大バーベキュー大会」なのだ。
「わあぁぁ! すごい! お肉がいっぱいだよ、二人とも!」
体操服の上から大きなバスタオルを羽織ったアオイが、ポニーテールを揺らしてキャッキャと大はしゃぎ。王道トップアイドルの輝きがプールサイドを優しく照らしている。
「みんなー、焼き上がったよ。あーんしてね〜」
コトネがおっとりとした聖母の笑顔で、焼き立てのフランクフルトをアオイの口元に差し出す。
アオイが「ガブッ! ん〜、美味しい!」と頬張ると、コトネが優しく口元を拭いてあげて、二人は「あはは」「コトネの焼いたの最高!」と顔を見合わせてキャッキャウフフ。
ユズはすかさずスマホのカメラでその尊い瞬間を狂信的な手つきで高速連写していた。
そこへ、お肉の匂いに引き寄せられた、午前中に不完全燃焼だった地上班アニマルたちが物凄い熱気で集まってきた。
「フッ……チーターのこの俺が、ただの和牛ごときに魂を売ると思うなよ」
ベンチでダルそうに尖っていたチーターのハヤテ。
しかし、コトネが「ハヤテくん、特製タレを絡めた極上ロースだよぉ〜」とお皿を差し出した瞬間、時速マッハの超音速スライディングを敢行。
「ニャウーン(これ、我が人生最高の肉)」
野生のプライドを秒でドブに捨て、コトネの膝の上にでっかい頭を乗せてゴロニャンと甘え始めた。
「ハハッ! お前ら、肉の匂いに理性を失うとは浅はかだなコケ!」
高みの見物を決め込む、IQ500の天才ニワトリの魔術師。
インテリぶって黒コショウの瓶を分析していたが、
「コケッ? (……3歩首を動かした)……あれ? 私は今、なんで白衣を着ているんだコケ? この網の上の美味しそうな肉はなんだコケ?」
やっぱり脳細胞の『3歩の猶予メモリ』が切れてすべてを忘れ、ただの野生の鳥へと退化。愛弟子のひよこユリアンと一緒に、一心不乱に肉をツンツン突き始める始末だった。
「フ、フンッ……お前たち、俺のこの鍛え上げた大胸筋を見ろニャウーーン!!」
台の上では、白猫のタケシがヤンキー顔で渾身の「マッッスル威嚇ポーズ」を決めていた。
しかし、すでにお肉を大量に盗み食いした直後のため、お腹のタプタプ感が通常の2倍に膨れ上がっており、そのシルエットは完全に「網の上で膨みすぎたお餅」だった。
「わあ! タケシくんお腹ぽんぽんだよ! 触らせてー!」
アオイとコトネが、無防備に突き出されたタケシのタプタプお腹を二人でわしゃわしゃと揉み始める。
「うにゃうぅぅ〜〜(幸せ)」
タケシは野生の威嚇を秒で諦めて地面にゴロンと転がり、三人娘の極上の癒やしグッズへと成り下がった。
「もう……本当に地上班はみんな自由奔放ね」
ユズも呆れつつ微笑み、3人とアニマルたちはシートの上でキャッキャウフフとお肉を分け合って、大満足のお昼休みを過ごすのだった。
――が、そんな極上癒やし空間のすぐ後ろから、またしても『ザパーーーッ……』と、水も滴るがっしりと腕を組んだまま垂直に現れたサルの源さん。
源さんは、網の上の肉から立ち上る煙を渋い目でじっと見つめ、
(ふっ……炭火の火加減、そして地上班の肉への執念……。うん、みんな成長したな……)
と言いたげに、自分はお茶すら淹れず、肉も焼いていないのに、完璧な「BBQの師匠」のような顔で深く、深く、満足そうに頷いていた。
――スパァァァン!!!
「痛いコケッ!?(※サルです)」
「何もしないで偉そうに頷いてんじゃねぇよバカザルが。少しは肉をひっくり返せ」
どこからともなく現れたインコの毒舌分析官・ボルが、超常識人の冷徹な瞳で処刑ハリセンを炸裂させる。源さんはそのままプールへと華麗に一回転して沈んでいった。
◇ 次回 応援合戦から




