4話 IF修学旅行クリスマス
大共演ステージも終わりの時間を迎え、いよいよ3人娘からの最後の挨拶が始まろうとしていた。
愉快な動物たちの紹介が和やかに進んでいた、ちょうどその時。
舞台の袖から、全身ボロボロになり、魂が抜けかけたヤドカリたち(庵、高倉くん、コウちゃん)が這うようにして戻ってきた。
「あ〜〜〜! みんな、どこいってたの? 心配してたんだよ?」
アオイがピュアな瞳でパタパタと駆け寄ってくる。
裏でイカ女教師のセクシー捕食の脅威から生き延びてきた面々は、壮絶すぎる旅路を語る気力すら残っていなかった。
なんとも言えない微妙な顔を浮かべながら、お行儀よくステージの端に整列する。
そして、いよいよ3人娘から観客たちへ、最後のメッセージが贈られる。
まずはマイクを持ったアオイが、両手を振って弾けるような笑顔を見せた。
「みんな〜! 今日は一杯あそんだね〜! 楽しかったね、またきたいな♡」
「「「アオイちゃーーーん!!(号泣)」」」
会場に温かい笑顔が咲き誇る。
続いて、コトネにマイクが手渡された、まさにその瞬間――。
ピキィィィィィンッッ!!!
会場全体に、凄まじい緊張感が走った。
観客全員の背筋が直角に伸び、誰一人として身動きができなくなる。
「今日は……まぁ、悪くなかった。……しかし! お前ら、まだこんなもんじゃねぇよなァ?」
「次来たときは、もうちょっとマシになってると期待する! ……できるよなァッ!?」
「「「はい!!! 総長ぉぉおおおッッ!!!(一糸乱れぬ敬礼)」」」
ビーチ全体に、軍隊さながらの狂った士気の咆哮が響き渡る。
コトネはすぐに「ふえぇ……また怒っちゃいました……」と涙目で口元を押さえた。
最後にマイクを受け取ったユズが、すっと前に歩み出た。
特別な演出など何も起きていないのに、ビーチ一面が息を呑むほど厳かな雰囲気へと包み込まれていく。
「皆さんと一緒に楽しめて、私はすっごく嬉しかったですよ?」
――ドォォォォォン。
盛り上がるという領域を遥かに超越した、魂の救済。
客席の全員が言葉を失って大粒の涙を流し、胸の前で十字を切る。
新興宗教さながらの信仰と圧倒的感謝の渦に包まれ、観客の脳内は完全にオーバーヒートしていた。
そんな神殿と化した会場の最前列。
すべての妄想力を出し尽くして真っ白な灰になったペンタが、夕日の海へ向かってハードボイルドに背中で語りかけていた。
(……この先の道はどうなってるか、誰も分からない。行ったものしか分からない。だから行けよ、行けばわかるさ……。もし、一人じゃつらいなら――俺が、お前の横にいてやるよ……ッ)
結局だっこは貰えなかったが、道を無駄にシリアスに熱く語り、世界のすべてを悟っていた。
一方、3人娘はステージの上で、振る舞われた巨大イチゴかき氷のトッピングに挑戦していた。
昨晩作った、あの少し微妙な味の手作り大福である。
「あむっ……!! 美味しい!!!!」
そう、昨晩ボルが指摘した致命的な弱点――モチの水分不足による硬さは、冷たいかき氷のシャリシャリした食感と合わさることで心地よい弾力へと昇華された。
生地の中で浮いていたイチゴの強い酸味は、濃厚で甘い練乳シロップと合わさることで、お互いを引き立て合う完璧な黄金比率へと変貌したのだ。
前夜の失敗が、この真夏のクリスマスビーチで『究極のイチゴ大福かき氷』という、奇跡のケミストリーへと昇華された瞬間だった。
「わぁ……本当に美味しいです。みんなで頑張って作って、本当に良かったですね」
コトネの聖母のような、すべてを癒やす笑顔が咲き誇る。
人間の作った冷徹なルールを圧倒的な楽しさで塗り潰す「虹色の和解」が、真夏のクリスマスビーチをどこまでも温かく包み込んでいくのだった
――なお、ステージの端でボロボロになって並んでいたヤドカリたちの、あの「もの凄く微妙な顔」の本当の理由。
それが明かされるのは、海底で繰り広げられた壮絶な『深海冒険ファンタジー』、あるいは『勇者ヤドカリの宿探し編』のなかで語られるかもしれない。
……そう、いつの日にか。
世界一優しくて、世界一カオスな聖夜の幕が、静かに下りるのだった。




