2話 イチゴ大福を作った!
【その頃の調理実習室】
調理実習室へ突入した一同だったが、そこは驚異の「無能の渋滞(実質、フローラねぇのワンオペ)」だった。
台車の上から動けない鶏(知将)がレシピを出力する。
「コケッ。アミロースとアミロペクチンの比率を最適化すべく、熱水による澱粉のα化を均一に進行させよ。次いで、ショ糖の浸透圧による脱水を防ぐため……」「ハッ! いちいち理屈っぽくて小難しいネ!」
すぐさまボルがカートの上から噛み砕いて通訳する。
「要するに『粉にお湯を入れてダマにならないように素早く混ぜろ、イチゴの尖ってる方を上にして優しく包め』って言ってるネ! 分かったらさっさと手を動かすネ!」
調理手順を完璧に把握したフローラねぇの漢力の前に、空気と化していたアニマルたちも強制労働システムに組み込まれた。
「そこのヤンキー犬! 驚異のヘドバンであんこを均等に30グラムずつ量り分けなさいッ!」
「マッチョ猫! その無駄な大胸筋のパワーで、ダマが消えるまでボウルを1秒に5往復で高速シェイクしなさいッ!」
レオとタケシは涙目で「あいっす……!」
「ニャーッ!」と完璧な助手としてこき使われる
源さん(サル)は調理室の片隅で腕を組み、深く頷きながら
「……始まりやがった……」とだけ呟いていた。
【その頃の路地裏】
カラスの鋭いクチバシが、ゲイリーの脳天をめがけて爆速で突き刺さる!
ゲイリーはアスファルトの熱をポエムの精神力だけでねじ伏せ、カタツムリの限界を超えた超反応で「紙一重」で首を殻の中に引っ込めた。ガツンッ!とアスファルトが火花を散らす。
「カーッ!?(避けたウホ!?)」と驚くカラスたち。今度は3羽同時に、ゲイリーの殻をひっくり返そうと鋭い爪を立てて襲いかかる!「基本を疎かにした野生の攻撃など、我が智謀の敵ではない……!」
ゲイリーは殻を思い切りアスファルトに叩きつけ、摩擦熱と残った全てのエネルギーを殻に集中させた。
「ビカァァァァァッッッ!!!」路地裏の闇を真昼の太陽に変えるほどの、1600万色ネオン大爆発(エレクトリカル目潰し)が至近距離で炸裂する!
「カ、カーー!?(目が、目がぁぁぁ! 構造上あり得ない輝きウホ!)」網膜に残像を焼き付けられたカラスたちは、悲鳴を上げながらお互いに激突し、ほうほうの体で路地裏の彼方へと退散していった。
全てのエネルギーを使い果たし、殻の底をアスファルトで激しくすり減らしたゲイリー。
「……これで、シートは守られた……(※声にならない声)」
満身創痍の男は、再び学校へ向けて這い始めるのだった。
【再び、調理実習室】
「もおおおお!! あんたたち全員まとめて、この握力であんこの形にしてやろうかァァァッッ!!!」
怒鳴り散らしながら、触るものすべてを破壊してきたその剛腕で、誰よりも優しく繊細にもち米をこね、超高速であんこを丸めていくフローラねぇ。
一方その横では、ピンクの可愛いエプロンをつけた3人娘が、お互いの顔に白い粉をつけ合いながら、涙目で四苦八苦していた。
「うわぁ〜ん! 生地が手にくっついて離れないよ〜〜!」
「あんこを包しようとすると、お尻からイチゴがニュッて飛び出ちゃうよぉ……上手くいかないよ〜」
猛烈な勢いと手つきで人材を使いこなす喧嘩師と、ワタワタと苦戦する3人娘の圧倒的な対比。
しかし、料理とは良くも悪くも、いつかは出来上がるものである。
調理室に立ち込める甘く瑞々しい香りと共に、ついに2つのトレイにイチゴ大福が完成した。
最初の試食は、3人娘が作った大福からだった。
見た目は問題ない。砂糖と塩を間違えたというベタな失敗もない。
ボルが一口ペロッと舐め、レオとタケシがモグモグと噛みしめる。
全員が、なんとも言えない複雑な表情でフリーズした。
ボルがカートの上で首を傾げながら呟く。
「……ハッ! 食べられないことはないネ。多分。……でも、何故かもの凄く微妙ネ……」
不味くはない、だけど決して「美味い!」とは言えない、14歳女子のリアルな初手作りという絶妙なクオリティ。
3人娘は「えぇ〜、やっぱり特訓足りなかったかなぁ」と肩を落とす。一方、フローラねぇの方の出来栄えは見事だった。
艶、形、色彩、すべてがパーフェクト。
何より凄かったのは、その大福が乗せられた、息を呑むほど高貴で上品な白磁の皿だった。
『料理は器で食わせる』その言葉を今、調理室にいる全員が本能で思い出していた。
高貴なお皿の曲線と完全に一体化し、ひとつの完成された芸術としてそこに鎮座していた。
ボルが震える足で大福に近づき、一口齧った瞬間、可愛い丸い目がカッと見開かれた。
「ウホォオオッッ!! 悔しいけど……悔しいけど美味すぎるネ!! 喧嘩師の剛腕でギリギリまで練り上げられたモチの弾力が、高貴なお皿の上で完璧に調和して、口の中でイチゴの果汁が大気圏を突破するネーーーッッ!!」
「あにきぃぃ! 漢の甘味、最高っす!」と大号泣するレオとタケシ
台車の上にガッチリ固定された鶏も涙を流し、源さん(サル)は腕を組んだまま静かに涙を流して深く頷いている。
アニマルたちが究極の味に大狂乱している横で、3人娘がタッパーを抱えてニコニコと笑い合った。
「そっかぁ、私たちの『微妙大福』はまだまだだね!」
「でも、みんなでワイワイ作ったから楽しかった!」
その眩しすぎるピュアな笑顔を見た瞬間、フローラねぇの顔面の傷が優しく歪んだ。
(……あら。女の子の手作りを前に、男たちのガチ料理をドヤ顔で出すなんて、無粋もいいところよねェ)
フローラねぇは、自分が作ったあの高貴なお皿の究極大福を、驚異のスピードでソッと調理台の影(背後)に隠した。
レオやタケシたちも、涙を拭って必死にそれを手伝う。
「何言ってるのよォ、あんたたちの作った大福、フローラねぇは世界一愛おしいと思うわよッ! さぁ、みんなで一緒に食べましょッ!」
ハートのエプロンを揺らすフローラねぇのその言葉に、3人娘が「わーい!」と抱きつく。
みんなで「微妙だけど愛の詰まった大福」を笑顔で囲む、温かい大団円の光景。
それを調理室の隅から見つめていたサルの源さん師匠が、深く深く頷き、まるで自分が全てを導いたかのような貫禄で呟いた。
「……自分たちの未熟さを知った、これからのあいつらの成長が楽しみだぜ……」
「ハッ!! お前はさっきからお茶すら淹れずに『うんうん』言てっただけネ!! どの口が師匠面してるネッ!!」
ボルの容赦ないツッコミが響き渡る中――ガラッ……と調理室のドアが弱々しく開いた。
「……はぁ……はぁ……つ、着いたぞ……みんな、片付けに便利なクッキングシートと、手を守る手袋を持ってきたぞ……」
そこには、全身のエネルギーを使い果たし、消えかけたレインボーの光を明滅させながら、奇跡のゴールを果たした満身創痍のゲイリーが立っていた。
3人娘が笑顔で駆け寄り、手作りのイチゴ大福をソッと差し出した。
「ゲイリー君もお疲れ様! ゲイリー君がみんなに声を掛けてくれたから、こ〜〜んなに楽しい時間ができたんだよ! 本当にありがとね!」
実質、最初に声をかけただけで調理には関わっていないゲイリーだったが、その言葉は彼の冷え切った殻を芯から温めた。
「……ふっ。乙女たちの笑顔、それこそが……我が智謀の、終着駅だ……」
感動のあまり、ゲイリーの殻から本日最高出力の1600万色のレインボー発光が大爆発。
何もしていない男の無駄に神々しい光の祝福に包まれないがら、調理室全体が温かい笑い声に包まれる。
3人娘の可愛さとアニマルたちの優しさが詰まった、完璧なハッピーエンド。
――しかし。スーパーからの帰り道、カラスの襲撃を紙一重でかわし、激しい日差しによる乾燥の危機をポエムの精神力だけで乗り越え、アスファルトの過酷な摩擦に耐えながら、ゲイリーが人知れず『もうひとつの主人公』を演じていた過酷なドラマについては――また、別の話である。




