甘味を作る1
甘味のない生活なんてありえない!今乙女の心に炎が宿る!
激闘の球技大会が、爽快なサイレンと共に幕を閉じた。
泥だらけの体操服のまま、アオイ、ユズ、コトネの14歳JK3人娘は売店へ向かって猛ダッシュしていた。
「あー、動いた動いた! 疲れた時はやっぱり甘い物だよね!」
「イチゴ大福! イチゴ大福!」
しかし、売店のカウンターに辿り着いた彼女たちの目に飛び込んできたのは、無情なプラスチックの空箱だった。
売り切れ。品切れ。完全終了
球技大会のやらかし敗北以上に、3人娘はその場で絶望の淵に叩き落とされた。
しかし、食い気に関しては彼女たちの辞書に「妥協」の文字はない。
「他にも甘味はあるじゃない」
という正論を言う奴がいれば、彼女たちはその口にあんこを詰め込んでいただろう。
今の3人の視界には【イチゴ大福】の5文字しか映っていない。それ以外は甘味とすら認めない。
「甘味のない生活なんてありえない……っ!」
「今、乙女の心に炎が宿ったよ!!」
売店の前でガチの炎を瞳に宿した3人娘は、謎の鉄の意志を固めていた。
「売ってないなら、自分たちで究極のイチゴ大福を作ればいいじゃない!」
とはいえ、作り方のレシピなんて当然知らない。
3人は、ひとまず頼れる(?)名将カタツムリのゲイリーに相談することにした。
ゲイリーの殻を明滅させながらの精神論に導かれ、クラスのアニマルたちから力を借りるべく「有志」を募ることにしたのだが――。
調理実習室に集まったクラスの馬鹿ども(アニマル)は、3人娘の大福づくりなどそっちのけで暴走を始めた。
「俺はバナナ大福がいいウホ!」
「漢ならプロテイン大福だニャ!」
各々が食べたいものを勝手に言い合い、調理室は一瞬で大騒ぎのカオスと化した。
その喧騒を、地響きのような威圧感が一瞬で切り裂いた。
「てめぇら……フローラねぇの聖域(甘味)の前でガタガタぬかしてんじゃねえぞォッッ!!!」
そこにいたのは、ゴリラ界の喧嘩師(本名:勇)。
「喧嘩師も心は乙女、甘味にはうるさい」の精神を持つ彼女(?)は、その2メートル超えの巨軀に、ピンクのフリルハート型エプロンを身に着けていた。
顔面の無数の傷跡をピキピキと震わせ、近くにあったドラム缶を素手で雑巾のように握り潰しながら放たれた漢力(おねぇ声)全開の一喝。
クラスの馬鹿どもは一瞬で白目を剥いて直立不動になった。
フローラねぇの圧倒的な恐怖政治により、調理室の治安は完璧にコントロールされた。
【アニマル特区・お買い物大名行列】
誰もレシピを知らない中、最後の砦として白羽の矢が立ったのは、アニマル界の魔術師ことIQ500の鶏(知将)だった。
ニワトリの宿命である「3歩歩いたらすべてを忘れる」という致命的なバグに対し、知将が導き出した今回のライフハックが「動かなければ記憶の揮発は防げる(物理)」。
自らスーパーの台車に乗り、足元を完全にロックして「動かない状態」を作り出した知将。
かつての大運動会で「手が羽でメモができないなら伝令を」と、彼が命がけで産み落とした愛弟子のひよこユリアンも、台車の上で不動の構えを見せる知将の雄姿に「わぁ〜! 今日のライフハックも最高に楽しそう〜〜!」と胸を張る。
こうして、3人娘がキャッキャと笑顔で台車(IQ500固定)を押し、ひよこを優しく胸に抱きかかえてスーパーを突き進む、客観的に見て不審すぎる大名行列が完成した。
その様子を、少し離れた後方から腕を組んで、深く「うんうん」と頷きながらついてくる師匠面したサル(源さん)。もちろん荷物を持つなどの協力は1ミリもしない。
さらにその後方から、レインボーの殻を必死に明滅させながら、時速数メートルで死に物狂いで這っているゲイリーが続いていた。
スーパーの製菓材料コーナーに到着。
フローラねぇは凄まじい眼光でイチゴのパックを睨みつけ、極上の素材をガチで吟味し始める。
その横で、3人娘のテンションが上がり始めた。
「ねぇねぇ、せっかく自力で作るなら、普通のじゃつまんなくない?」
「どうせなら、誰も見たことない最強のアレンジしよ!」
アオイはマシュマロとマカロンを挟んでチョコをドバドバかけると言い出し、ユズはアボカドとハチミツで高級フレンチを目指し、コトネはハバネロパウダーで大福の中にマグマを閉じ込めようと語る。
14歳女子特有の、根拠のない全能感が大爆発していた。
その時、買い物カートの取っ手にとまっていたカラフルなインコが、激しく羽をバタつかせた。
新メンバーの毒舌分析官、ボルである。
「ハッ!! どいつもこいつも、料理の基本すら知らんド素人が『しなくてもいいアレンジ』から入りたがるネ! バカのフルコースネ!」ボルは翼をビシッと3人娘に突きつけ、冷酷なド正論の号令を放った。
「いいかお前ら、よく聞くネ! アレンジってのは、1万回基本の形を作って、完璧な完成品が作れるようになった奴だけが許される神聖な領域ネ!
マカロンは口の中の水分全部持っていかれるし、アボカド大福はただの緑の泥ネ!
ハバネロにいたってはただの凶器ネ!
いいから黙って、普通のモチ! 普通のあんこ! 普通のイチゴをカゴに入れるネッ!!」
「は、はーい……」ボルの圧倒的な常識人の気迫に押され、3人娘はシュンとしてカゴに普通の材料を戻した。
「ボルちゃん、口は悪いけど、言ってることはお母さんみたいに正しいね……」
「ボルちゃんの言う通りよォ! 甘味の基本を汚すやつは、このフローラねぇが許さないわよッ!」
フローラねぇの吟味が長いため、完全に暇を持て余したヤンキーに憧れるポメ(レオ)と、マッチョになりたい猫は、こっそり雑貨・玩具コーナーへ移動していた。
レオは木刀を短い前足で構えてヤンキー座りで悪ぶり、タケシは筋トレグッズで大胸筋を追い込もうと、お換い「漢の強さ」を演じ合って背伸びをする。
しかし、近くの棚からコロコロと丸いカラーボールが転がり、エアコンの風で紙風船がふわふわと目の前を通過した瞬間、2匹の野生の本能が大爆発した。
「あにき! 動く丸いものがあるっす!!」「叩きたい、もの凄く前足でチョイチョイしたいニャアアア!!」
さっきまでの格好良さはどこへやら、耳をペタンと寝かせ、目をキランキランに輝かせながら、舌を出して紙風船を追いかけ回し、ボールに飛びついて「ただの可愛いペット」になってじゃれ合い始めた。
そこにボルが飛んでくる。
「ハッ! どこぞの総長も筋肉マニアも、しょせんはペットショップの売れ残りレベルの本能ネ! ざまぁないネ!」
「ちょっとォ! あんたたち何遊んでんのよッ! ゲイリーちゃんがまだ野菜売り場にも到達してないっていうのに、置いてっちゃうわよッ!?」
極上のイチゴを手に入れたフローラねぇの地響きのようなおねぇ声が一喝し、レオとタケシはボールをくわえたまま
「ヒエッ……!」と直立不動で固まるのだった。
カゴいっぱいに材料を詰め込み、お会計を済ませた3人娘とフローラねぇ。
「よーし!材料は揃ったから、急いで調理室へレッツゴー!」ワクワクしながら早足で学校へ向けて猛ダッシュを開始する一同。――その瞬間。サッカー台付近でまだお会計の余韻に浸っていたゲイリーは、スーパーに完全に取り残された。
「待ってくれ……魂の調理に、私を置いていかないでくれ……(時速数メートル)」
しかし、みんなが何を買ったか一切知らないゲイリーだったが、彼は「気づかいの達人」だった。
「ふっ。調理の補助、そして片付けのしやすさ……。これを買っておかねば、後で14歳女子たちが絶望することになるネ……」
卓越した智謀で、メイン食材ではないものの【クッキングシート】や【使い捨てポリエチレン手袋】といった、痒いところに手が届きすぎる神アシストの品々を自腹で購入。
自分の殻(マイバッグ代わり)の中にソッと詰め込み、遅れてスーパーを出発するのだった。
学校への近道のため、薄暗いアスファルトの路地裏へとルートを変更したゲイリー。
しかしそこは、学校周辺のゴミ捨て場を支配する、ガラが悪い【カラスのヤンキー集団】のナワバリだった
。光るカタツムリが、クッキングシートなどの物資を背負って移動している姿。
それは上空のカラスからすれば、動く最高級のルアー(光り物)のフルコースにしか見えない
。バサバサッ、とゲイリーの行く手を阻むように上空から3羽の巨躯なカラスが舞い降りる。
「カー、カー(おい見ろよ、美味そうな自販機のイルミネーションが歩いてるぞウホ)」
「……ふっ。この殻を差し出す気は毛頭ない。何より、この中には乙女たちの手を守る防壁(手袋)が眠っているのだからな……っ!」




