球技大会3
【7回表前:スタンドに咲く華と、轟く漢たちの情熱】
重苦しい空気のスタジアム。
それを一瞬で極上の聖域へと変えたのは、レインボースターが誇る『可愛い娘3人組』の可憐な声援だった。ピンク髪のリーダー・アオイ、緑髪のユズ、金髪ロングのコトネ。
「みんな、がんばってーーー!!」
彼女たちが笑顔を振りまくだけで、IQ漢のベンチにいるヘタレ3人組(せつな→コトネ、ごう→アオイ、けんと→ユズの一方通行の片思い)の脳内幸せメーターは一瞬で限界突破し、彼らのモチベーションは天を衝くほどに跳ね上がった。
対するIQ漢のスタンドからは
「漢を魅せろぉぉぉーーーっ!!」
と、チームの誇る『非力アピール3人衆』――
熊、ゴリラ、象の巨漢たちが地響きのような大音量で情熱的な男気応援を繰り広げる。スタンドのボルテージは最高潮へと達した。
【9回裏:1死3塁、カウント2-2。世界一バレバレな光のサイン】
試合は0-0のまま、運命の最終回、9回の攻防へ。
先頭の神速チーターが再び出塁を果たすと、二盗、さらには一気に三盗まで成功させた!
しかし、続く打者が倒れて状況は1死(1アウト)ランナー3塁。一打サヨナラの大チャンスだが、ここで打席に向かうのは、ランナー3塁での打率が驚異の【0%】の男、ゲッツーオーだった。
「ま、まずい……! あいつ、ランナーが3塁にいると完全に置物になっちまうんだ!」
IQ漢の捕手アイティもメガネを光らせて「計算通り、彼の打率は数学的に『無』です」と確信する。
緊迫のマウンド。カウントは2ボール、2ストライク。追い詰められたツーツーの局面。
その時、三塁ベンチのゲイリー監督の殻が「ビカァァァ!」と七色に発光した。なんと、その殻の表面に、LED電光掲示板さながらの鮮やかなネオンで、巨大な文字がクッキリと浮かび上がったのだ。
『 す . く . い . ず 』
「み、文字が浮かんでるーーーっ!?」と叫ぶペンタ。
かつて球界のボスがオールスターで見せた伝説のパフォーマンス。
あまりの堂々たる発光サインに、敵のアイティもメガネをガタガタ震わせる。
「データ解析するまでもありません! 全員に『スクイズやるぞ』って書いてあります! バレバレです!」
「打たなくていい。お前はただ、バットを前に出すだけでいい。走るのは俺たちの役目だ」
そう告げるかのようなゲイリーの男前すぎる光のカンペに、ゲッツーオーの涙腺は崩壊していた。
「あにき……! 敵にバレバレだろうが関係ねえ! 俺は意地でも転がしてやりますッ!!」
位置についたIQ漢の二刀流投手が投げた瞬間、神速チーターがホームへ猛チャージ!
しかし、投じられたのはキャッチャーの遥か上空を越える、誰もが目を疑うほどの世紀の大暴投だった!
「暴投だ! 転がさなくてもサヨナラだ!!」
誰もが確信したその瞬間、ゲイリーのネオンサインに脳を完全に焼かれていたゲッツーオーの身体が、涙で前が見えないまま大暴走を起こした。
「あにきぃぃぃ! 俺はスクイズを! バットに当てるって決めたんだぁぁぁ!!」
転がさなくても1点入る大暴投のボール球に対し、なぜか意地で体ごと飛び込んでバットを真横に寝かせたまま豪快にフルスイング!
当然、バットは空を切り、空振り三振。これで2死(2アウト)。
ここからの光景は、スタジアムにいる全員の目の中で、1コマずつのスローモーション(コマ送り)へと切り替わった。
・【コマ1】:空振りと同時に、大暴投の白球がバックネットのフェンスにガシャーーーン!!と激突。
・【コマ2】:物理法則が完全に崩壊。フェンスの網目に当たったボールが、爆速のままピンポイントで本塁方向へ跳ね返る。
・【コマ3】:その頃、キャッチャーのアイティ。「あ〜あ、ワイルドピッチでサヨナラ負けだウホ……」と、諦め100%の顔でトボトボとミットを下ろして立ち尽くしている。
・【コマ4】:バックネットから跳ね返ってきた弾丸ライナーの白球が、アイティが力なく下ろしていたキャッチャーミットの中に、何故か「スポォン!!」と寸分の狂いなく吸引される。
・【コマ5】:チーター、決死のヘッドスライディング! あと数センチでホームベースに指がかかる!
・【コマ6】:しかし、アイティが下ろしていたミット(勝負のためにボールが入った状態)の位置が、滑り込んできたチーターの頭部に物理的にジャストミートでごっつんこ(タッチ)。
・【コマ7】:球審・源さん師匠が「うんうん」と深く頷きながら、両足を真横に大きく広げる。
「アウト!!! ゲーーームセーーット!!!」
構造上あり得ないはずの『暴投空振りゲッツー(三振と走者タッチアウト)』でサヨナラの好機が消滅。ベンチではゲイリー監督の殻が、もはや完全に光を失い、燃え尽きた真っ白な灰のようになっていた。
その裏、IQ漢の攻撃。マウンドのレオは完全にハッタリのメッキが剥がれ、心の中でボロ泣き。
ここで、中盤戦のひたむきな雑用特訓で予想外の動きを身につけていたIQ漢のヘタレ3人組の打席が火を噴く。泥だらけになりながら「あ、ヤベッ、球が手から滑っ……!」「どこ投げてんの剛くん!」「我が魔眼が太陽の光で目眩しを!」と放った見事なポンコツコンビネーションが、レインボースターの守備の乱れを完璧に突き、奇跡的なサヨナラ内野安打となった!
ポーーーーン!!!
試合終了を告げる爽快なサイレンが響き渡った。
「試合終了! IQ漢チームの勝利です!」
【ハゲタカの失墜と、本物の聖域】
結果はレインボースターの敗北。
お互いにグダグダを尽くした世紀の凡戦だった。
試合終了の整列を終え、裏方にたたずむIQ漢のヘタレ3人組。そんな彼らの元に、ハゲタカのキンマの部下アニマルから、トイレの個室(ワンワン反響している)からセコセコと様子を窺うような1本の通信が入る。
『あ、もしもしぃ? その後なんか良い仕事見つけました? うちの条件はどうでしたかねぇ……?』
3人とペンタは顔を見合わせると、冷ややかな、しかし最高に大人のシブい声で一言だけ言い放った。
「一言で言うなら、あり得ないと思いました。特区の職業紹介窓口のメリー先生には、今回の面接での違法な説明もハラスメントも、この電話の件も含めて、すべてありのままに報告させてもらいますので」
後ろめたい自覚が丸出しのハゲタカ一味は『じゃ、じゃあ今回はご縁がなかったということでぇ……っ!』と逃げるように電話を切り、通信は終了した。
――実は試合の直前、俺たちはゲイリーアニキと一緒に、職業紹介所の責任者である羊の『メリー先生』の元へ行き、ハラスメントと違法な労働条件のすべての証拠を提出し、まっとうに報告を済ませていたのだ。
紹介所の綿密な調査室。メリー先生はトレードマークの眼鏡をキリリと光らせ、深くため息をつきながら書類に特大の『不適格』のスタンプを叩きつけた。
「時間のルーズさ、求人票の虚偽、そして何より我が校の生徒たちの容姿を著しく侮辱した行為――到底許されるものではありません。ハゲタカのキンマ、あなたを本日付で『今回の球技大会運営委員会』から一発で永久追放処分とします!」
スタジアムの裏方事務室で、追放令状を受け取ったキンマの顔が絶望で真っ青に染まる。
「そ、そんな!? 運営から干されたら、俺の今後の特区でのビジネスが……!!」
労働者を不当に搾取し続けようとした悪徳ハゲタカは、彼らのまっとうな告発のストレートによって、完膚なきまでに叩き潰されたのだった!
「さぁ! メリー先生への報告とお仕置きも終わらせて、完全にスッキリしたぞ!」
ユニフォームを泥と涙で汚しながらベンチ裏にたたずむヘタレ3人組。自分たちの不器用な戦いを終え、肩を落とす彼らの元へ、トコトコと軽い足音が近づいてくる。
見上げれば、そこには笑顔全開の3人娘――アオイ、ユズ、コトネが佇んでいた。
「みんな、お疲れ様! 私たちは負けちゃったけど、すっごく楽しかったね!」
リーダーのおっとりアオイが、ピンク色の髪を揺らしながら、眩しい太陽のような笑顔を向けてくれる。
「みんなが泥だらけになって一生懸命走ってる姿、本当にカッコよかったよ! また一緒に野球、やろうね♪」
「「「(っ……!!!!)」」」
社会には、理不尽に搾取しようとするハゲタカのような奴らばかりで、圧倒的多数が敵に見えるかもしれない。
だけど、そんな絶望の中でも、本当に信じられる存在を信じて、まっとうに自分を証明できる機会(公式参加券)を手放さずに足掻いたその先には。
自分たちの頑張りを100%肯定して、笑顔で「またやろう」と言ってくれる、本当の聖域(女神たち)が待っていたのだ。
頑張ってよかった。頼れる人がいて、本当によかった……!!!
胸の奥から溢れ出す圧倒的な感謝と多幸感に、ヘタレ3人組とペンタは涙をボロボロと流しながら、青空に向かって、魂の底から大歓喜の声を叫んだ。
「「「よっしゃーーーーーーーーーーー!!!!」」」」
ベンチの端では、真っ白に燃え尽いていたゲイリー監督の殻が、彼らの叫びに応えるように、じんわりと、最高にシブい「茜色」に優しく発光していたのだった。
――そして、伝説のゲッツーオーの伝説は、まだ続く。
(第一章:ヘタレ招集と悪徳ハゲタカの失墜・完)




