球技大会2
そして迎えた、運命のクラス対抗『球技大会・野球編』当日。
五月晴れのグラウンド。本塁ベースの後ろには、恐ろしいほどの威厳を放つ『アニマルオールスター審判団』が並び立っていた。
球審を務めるのは、がっしりと腕を組み、ただ後方で深く「うんうん」と頷いているサルの源さん師匠。一塁には、水泳大会で3人娘を苦しめたイルカのルカがなぜか陸上でビチビチと跳ねており、二塁にはお腹の上に審判用のインジケーターを載せたラッコが控えている。
主人公チームである『レインボースター』の前に立ちはだかるのは、IQ500を誇る鶏監督アインシュタイン、通称『アニマル界の魔術師』が率いる強豪『IQ漢』。
今回の公式参加券によって、あのヘタレ3人組はこのIQ漢のメンバーとしてスタメンに名を連ねていた。
ベンチでは副官のユリアンが早くも羽をプロペラのように回して、複雑な身振り手振りのサインを選手たちに送っている。
IQ漢の捕手、チンパンジーの『アイティ』がバナナ型のタブレットを叩きながら不敵に告げた。
「データ解析通り。我がIT野球の幾何学的迎撃シフト、1ミリの無駄もありません」
……しかし、実態は違った。アニマルなので、ただ「あの辺の草むらに美味しそうな虫がいそうだから、なんとなく全員あそこに集まっているだけ」だった。
対するレインボースターのゲイリー監督の殻が、静かに、そして美しく「プラチナゴールド」に発光する。
(おいおい、データがなんだって? 野球ってのはなぁ……魂の機動力で動かすもんだ。お前の空論ごと、俺の光で置き去りにしてやるよ)
言葉は一切発しない。だが、その気高き明滅だけで、ゲイリー監督はアインシュタインのデータ野球を完全に一蹴してみせた。
(※実はゲイリーの機動力はカタツムリ界では驚異の俊足だが、全生物の中では圧倒的最下位クラス。だからこそ、彼は機動力への憧れが人一倍強かったのだ)
「プレイボール!!!」
源さん師匠の無言の、しかし圧倒的なジェスチャーとともに、アニマル特区史上、最もまっとうで、最もポンコツな戦いの幕が切って落とされた。
【1回表:ハッタリ王者の無双】
マウンドに立つのは、レインボースターの絶対的エース、ライオンの『レオ・ネガティブ』。
「フッ、俺の辞書に敗北はない。なぜなら負ける選択肢を最初から破り捨てているからだ」
立派なたてがみを揺らし、圧倒的な王者の風格を漂わせている。……が、その裏で彼の心臓は
「打たれたらどうしよう、帰りたい、怖い」
とノミの心臓ばりにバクバク破裂寸前なのだが、持ち前のハッタリ顔だけで完全にそれを隠蔽し、IQ漢の打線をあっさりと三者凡退に仕留めてみせた。
【1回裏:虹色のネオンサインと、お尻直撃ゲッツー】
1回裏、レインボースターの攻撃。ゲイリー監督の殻が突如として「ピカァァァ!」と激しいエメラルドグリーンに発光した。
「監督の殻が緑に光った!『粘って泥臭く出塁せよ』のサインだ!」。先頭打者の神速チーターは、そのサイン通りに相手の剛速球をファウルで粘りに粘り、最後は四球をもぎ取って出塁する。
ノーアウトランナー一塁。次に打席に向かうのは、風格だけは世界一の『ゲッツーオー』。
彼は【ランナーなし:出塁率10割】【ランナー1塁:打率7割】【ランナー2塁:打率2割】【ランナー3塁:打率0割】という、使えそうで絶望的に使えない恐るべき戦績を持っていた。
ベンチでゲイリーの殻が、今度は「ビカビカビカ!」とサイケデリックなピンク色に明滅する!
「出た! ゲイリーアニキのピンク発光!『初球から即・二盗』のサインだ!」
チーターが自慢の俊足を飛ばし、二塁へ向かって完璧なロケットスタートを切った。
その瞬間、打席のゲッツーオーは、7割 of 打率をさらに超える10割のパワーを込めて、バットを豪快にフルスイングした。
ギィィィィィン!!!
凄まじい金属音がグラウンドに響き渡る。放たれたのは、音速を超えるライナー性の弾道!
が、その超高速ライナーが文字通り一直線に向かったのは、二塁ベースへ向かって猛スライディングを仕掛けようとしていた、チーターの丸出しのお尻だった。
「ぎゃうんっっっ!?!?」
お尻に強烈な直撃を受けたチーターが、そのままの勢いで地面をゴロゴロと転がっていく。
「あっと驚く珍プレー! 打球が走者のチーターを直撃! 守備妨害でランナー、1アウト!」
さらに、チーターのお尻で綺麗に角度を変えて跳ね返ったボールは、鶏監督の虫捕りシフト指示によって最初からそこへ待機していた内野手のグラブへノーバウンドで吸い込まれ、一塁へ送球。
「アウト! ゲッツー!!」
ノーヒットで『伝説の守備妨害ゲッツー』がここに完成。ベンチでは、ゲイリー監督の殻がショックのあまりドス黒い紫色に淀んでいた。
【2回〜6回:MLB級プレーの連続と、ヘタレのひたむきさ】
2回表、IQ漢の攻撃。ヘタレ3人組の打順が回ってくる。
眼鏡の「賢人」が「コースは読み切った」と空振り三振し、「一旦、笑顔で三振させてくれてありがとうございました」とシブい捨て台詞。
太っちょの「剛」が周囲の砂埃を吹き飛ばす空振り三振。包帯の「刹那」がボテボテの内野ゴロで3アウト。
ここから試合は、お互いに見事なまでのポンコツプレイを連発してスコアボードに「0」を並べるが、ビジュアルだけはメジャーリーグ級の超絶プレーの連続へと変貌を遂げていた。
外野フェンスに飛び込みながら打球を強奪するIQ漢のゴリラの超絶プレー。
それは現地アメリカのロサンゼルスに本拠地を置く球団の、あの若き超絶外野手を彷彿とさせる『ホームラン阻止3連発』(※実態は観客席のいちご大福に目が眩んだだけ)。
流れるような爆速の『芸術的6-4-3ゲッツー』(※実態は全員が手から球を滑らせてパニックになり放り投げ合っていただけ。マウンドのレオは恐怖で心の中で号泣)。
レインボースターのキツネが放った矢のようなノーバウンド送球。
かつてシアトルで数々の伝説を作ったあの「安打製造機」さながらの『レーザービーム』(※実態はサード賢人のポケットの油揚げの匂いに興奮して投げつけただけ)。
空間を切り裂くチーターの『爆速ランニングホームラン』
(※実態は1回裏のお尻直撃がトラウマすぎて『また尻に球が飛んでくる!』とパニックになり、ゲイリーのいるベンチへ全速力で逃げ帰ってきただけ)。
このメジャー級の超スピードの応酬を、最遅のゲイリー監督が「これこそが俺の求めていたストリートだ……!」とネオンをビカビカ光らせて魂を震わせる。
そんな超絶プレーの裏で、IQ漢のヘタレ3人組は泥だらけになって率先してチームの雑用をこなし、アインシュタインのデータ野球に負けないよう必死に自分たちの戦術をぶつけ合っていた。
彼らはアインシュタインの緻密なデータを無視して必死に泥臭く動くため、その予想外すぎるポンコツな動き(やらかし)が、逆にレインボースターの守備陣をじわじわと撹乱していく。
最初は下手くそで頼りなかった彼らのひたむきな姿は、バラバラだったIQ漢を一つにするには、もう十分すぎるほどの熱量を持っていた。
試合は0-0のまま、ついに運命のラッキーセブンへと突入する――。




