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女子高生は橋の中で暮らしてます~登校前に橋脚へしがみつくのがお仕事です~  作者:


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第二十八話 スポンサー

 父さんはカラーコーンを片付けながら、潤子に声をかけた。

「一度、戻ろうか」


 それに頷くと、欄干にしっかりと結んでいた二本のロープを解き、綺麗に巻き上げる。

 巻き上げたロープを腕に通すと、ギャラリーの方へと身体を向け、ペコリとお辞儀した。


「クラウドファンディングに寄付をして下さった方、本当にありがとうございました。お陰様で目標額に到達しました。橋は必ず直して、みなさんをお祭りに招待したいと思います!」


 途端に歓声と拍手が湧き上がった。

「やったー」

「楽しみに待ってるよー」


 戻る途中で、夏子が今回の寄付のことについて話してくれた。

「全国から寄付は集まったんだけど、人数的にはやっぱり地元の人のが一番多かったよ。山下のおばあちゃんとか、お姉ちゃんが川で助けたあの女の子からも寄付あったし」

 あかりちゃんだ。みんな……ありがとう。


 キッチンに入り、麦茶を飲んでいるときに、潤子のスマホがメロディを鳴らした。山形からだった。


「先ほど潤子さんのスポンサーになりたいという企業から、打診を受けましてな。一度、事務所でその話をしましょうかと伝えました」


 彼の対応に感謝した。もし直接打診が来ていたら、どう対応していいか、おそらく分からなかった。


「はい。こちらこそ、それでお願いできればと。今は夏休みなので、私の方はいつでも大丈夫です」

「了解です。それでは先方にもそう伝えます」


 ――その二日後。潤子は『古き善きものを愛でる会』の事務所に顔を出していた。窓際の席にはスーツを着た三人の男女が座っている。彼らから名刺を差し出されると、潤子も自分の名刺を渡した。


 渉外担当の若い男性がニコリと笑う。

「しかし、金銭の寄付は出来なくて残念でした。満額になるのが速すぎです」


 年配の女性が柔らかい笑みを見せた。

「まあその代わり、重機の提供や現場作業員の手配は任せて下さい」


 年配の男性が、自信に満ちあふれた表情を見せながら、自分の胸を叩く。

「山奥での作業ですよね。重機を、現地まで輸送する道路の整備はお任せ下さい」

 おお、道路まで。全員、痒い所をサポートしてくれる。


 ただ、ここで潤子は心配そうな顔を見せた。

「あの、申し出はどれも魅力的なものばかりです。ありがたく提案をお受けしたいのですが……その。代わりに御社で何か広報活動とか必要になったりはするのでしょうか。み、水着とかは出来ればご勘弁願いたいのですが」


 どうしてもというのなら、やるしかないが。でも母さんの方が映える。絶対に。どこが映えるとは言わないが。あ、母さんが出ると、父さんが嫌がるか。


 潤子のモジモジした様子に、三人は顔を見合わせると穏やかに笑い出した。若い男性が優しげな表情を向けてくる。


「ご安心下さい。水着なんて要求を出したら、それこそ時代遅れ企業として叩かれてしまいますよ。見返りは一切必要ありません……と言いたい所ですが、修繕の様子は撮影させて下さい」


 年配の女性も微笑みを見せた。

「もしよろしければですが。修繕の際、若手たちに伝統技能の指導をしていただけると助かります」


 年配の男性が切り出す。

「修繕した暁には、開催するお祭りに浴衣姿で出ていただければ嬉しいです。それを弊社のポスターに使えればと思っています」


 思っていたよりも、条件が厳しくない。いや、提供してもらうものに比べたら破格なのではないか。担当の三人に頭を下げた。

「ぜひその条件でご協力ください。鬼が金棒を三本くらい受け取ったような気分です」

 自分は鬼ではないが、金棒は欲しい。


 若い男性が笑いながら、その言葉に返答をくれる。

「実はですね。窓口が認定NPO法人でなかったら、ここまでの条件は出せなかったんですよ。控除を受けられないので。はは、本当に世知辛いですね」

 今晩からは夏子に足を向けて寝られないな。


 それと、潤子は一つ気になったことを聞いてみた。

「御社側からはかなり、破格の条件を提示して頂いたと思っています。どうしてここまでしてくれるんですか?」


 それに答えたのは、年配の男性だった。

「純粋に応援したいという気持ちもありますが、勿論打算もあります。この業界も人手不足でして。今回の貢献を通じて、この業界に夢を持ってくれて、人が集まってくれれば良いなという思いもあるんですよ」


 若い男性と、年配の女性が彼の言葉に大きく頷いた。この後、詳細な条件を詰め、スポンサー契約と重機と作業員の貸し出しに絡む、経済利益の供与の確約をもらった。


 満足そうに鞄を抱えたスーツ姿の三人を、潤子と山形の二人で見送った後、お茶を飲みながら一息ついた。


「協力して頂いた山形教授には、本当に感謝をしています」

「なに。大したことはしてません。歴史的価値のあるものを後世に伝える意義に比べればね」

「工事は来週からスタートです。その前に、蔵の初期調査を終わらせたいですね」


 その一言に対して、山形も大きく頷く。

「明日の調査が本当に楽しみでしてな。今日は眠れそうにありませんよ」


 父さんと奥潮見町との交渉の結果、橋守蔵は明日の朝十時に開かれることになった。山形は元教え子の理事の車で行くことになっている。


 お茶を飲んだ後、潤子は山形に(いとま)を告げた。ビルを出ると、バスの停留所へと歩いていった。ふと、一人だということに気付いた。ここ最近はいつも誰かといた気がする。


 なんとなく一人でいるのが寂しくなったので、尾崎にメッセージを送った。

『なんとか来週から工事を開始することができた。協力ありがとう』


 すぐに返事が来た。

『良かった。俺の協力なんて大したことないから、無視しといて』


 ――大したことあるよ。


 その返事に、何だかはがゆい気分になった。彼の言葉と存在に、どれだけ救われたことか。心と指が勝手に動いた。

『今一人なんだ。もし暇だったら、コーヒーでも付き合ってくれない?』


 送ったメッセージは、自分でも思ってもみないものだった。それに彼だって受験生だし、暇な訳がない。


 慌ててスマホをタップしようとしたら、その前にスマホがピコンと鳴った。


『すぐ行く。いまどこ?』

 返事を貰った後で、恥ずかしくなる。なんであんなメッセージを送ったんだろう……話し相手なら可奈や智子でも良かったのに。


 ――潤子はバスを降り、その足でショッピングセンターの中にあるコーヒーショップへ向かった。その途中でメッセージ音がバッグから響く。尾崎かと思ったが、妹からだった。


『お姉ちゃん、キャンプのとき、尾崎お兄ちゃんっていたでしょ。彼ね、三百五十万円寄付してくれてたんだよ。そして彼のお父さんは、なんと一千万円!』


「えっ!?」


 夏子のメッセージに、足が止まり、思わず声が漏れた。本当に約束を守ってくれたんだ……しかもそんな大金。

 

 店内に入ると、すでに尾崎がコーヒーカップを片手に持っていた。彼のスラックスと黒のジャケット姿は、普段の制服の時と比べてどこか大人びて見える。


 潤子は麦わら帽子を脇に抱え、白いワンピース姿で尾崎の前へと立つ。それは彼女にとってのよそ向きの一張羅(いっちょうら)。アイスコーヒーを載せたトレーをテーブルに置いた。


「待たせた? 今日は尾崎くんも、やけにおしゃれな服を着ているんだね。かっこいいよ、それ」

 そう言って取り繕う潤子の心臓は、その胸の中で(うるさ)く鳴り響いていた。

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