表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女子高生は橋の中で暮らしてます~登校前に橋脚へしがみつくのがお仕事です~  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/23

第十四話 入院

 尾崎は謝罪の意志を口にしたかと思うと、今度は頭を下げてきた。

「先週、教室で橋守に不躾な質問投げたこと後悔してたんだ」

 潤子は一瞬、うん? となり、記憶の引き出しを開けて、彼の質問を引っ張り出す。これか。

「えっと……家業を継ぐ話?」


 彼は顔を上げ、何度も頷いている。

「うん。無神経な聞き方だったと思っている。ごめんな……実はネット局の取材動画を見てさ。橋守の答えが分かった」

「あ……そう、なんだ」

 なんかドヤ顔でインタビューに答えていたと思う。そのことを思い出してしまい、顔に熱が籠ってくるのが分かった。


「橋守は地域のみんなの架け橋になるために、家業を継ぐんだろ? インタビューでの受け答えを見て、そう感じたんだ」

「えっと。どうなのかな……」


 どうしてか彼のその言葉に引っ掛かりを感じ、肯定の言葉を口にすることができなかった。

「多分違う。尾崎くん、あのときさ。興味がないから答えないって言ったんだけど……」


 一旦言葉を切って、床をじっと眺める。

「……実は答え自体、持ってなかったんだ。架け橋っていう言葉も、なんか自分の中でしっくり来てないし。だから尾崎くんが気に病んだり、謝る必要なんか全然ないよ」

 そう言って彼の方へ顔を向けた。


 目が合ったと思ったら、すぐに逸らされた。ここでようやく、公の場所で薄手のパジャマで彷徨(うろつ)いていたことに気づく。上着を羽織っておけばよかった。


「スマン。なんか決めつけてしまった」

「そう思うのは別にいいよ」


 ……沈黙が流れた。家族といるときと違い、やけに居心地が悪い。取りあえず、頭に浮かんだ言葉を口に出してみる。


「……こっちこそ祭りのとき、バカって言ってゴメン。真に受けるとは思わなかった」

「そうか。冗談で返す所だったんだな。あれ」

 真に受けるタイプだったか。いつもぶっきらぼうに喋っているから、そういうのは受け流すタイプかと思った。


 また、沈黙が始まる。今度は身を(かが)めた彼が、両手を膝の前で組んだ。暫くしてから、ポツリとその口が開いた。会話を提供してくれることに、どこかほっとする。


「実は俺、親から医者になれって言われてて。丁度、橋守が似たような感じだったから、どう思っているのか聞きたくてつい。最初からそう聞いておけば良かったな……」

 なるほど。そういう理由があったのか。


「うん。そこは参考にならなくてゴメン」

「気にしないでくれ。兄貴二人いるんだけどさ。どっちも超優秀で、志望してた医学部にすんなり合格して」


 彼はギュッと唇を結び、再び押し黙ってしまった。手持ち無沙汰になって、無機質な白い床を見つめ直す。


 数瞬の後、押し殺すような彼のか細い声が聞こえた。

「……それに比べて俺は出来が良くなくて。だからこの病院は、兄貴たちが継ぐだろうし。それとさ。俺は本当に医者になりたいのかなって、ずっと疑問に思ってた」


 なるほど、将来を悩んでいたのか。

「別に、お兄さんと比べなくてもいいと思うんだけどな。他にやりたい事とかある?」

「ない。何をやりたいのかもよく分からん……だから医者になるんだろうとは思ってる。あ、でもジオラマ作りは好きだ。特に橋を作るの」

 隼人と同じ趣味だ。なんか男の子っぽくて意外だった。


「へぇー、そうなんだ。案外、橋守の仕事とか似合うんじゃない?」

 尾崎がえっ、という顔でポカンと口を開けた。慌てて言葉を継いだ。


「冗談だよ。私もなんで橋守を継ぐのか、よく分からん。仕事は好きだし、継ぐことも決めてるんだけど」

 二人は顔を見合わせ、どちらともなく、くすりと笑った。


 そんな時、目の前に二つの人影が現れた。

「潤、見つけたぞ」

「潤子ちゃん。遊びにきましたよ。あ、お見舞いの間違いでした」

 可奈と智子だった。すぐに智子の鋭い視線が尾崎を射抜いた。


「尾崎さぁ、何やってるの?」

「見ての通り、橋守と話してる」

「それって、潤が人気出たから?」

「そんな訳あるか!!」

 尾崎がムッとした表情を見せ、智子を睨み返した。


「二人ともやめて。智子、尾崎くんはこの前の質問のこと、謝りに来ただけ」


 智子はそれには答えず、尾崎に向ける視線だけを強くしながら、彼の前に立ちはだかった。

「へぇ。病院まで来て? それって、この場で話すような事なのかなぁ」

「智子、本当にお願い。止めて」


 彼女は忌々しそうに尾崎を一瞥(いちべつ)すると、逆に潤子には困ったような顔を見せた。

「……ゴメン。少し言い過ぎた」


 そんな彼女に一度だけ頷くと、尾崎に(てのひら)を見せながら軽く振ってみせる。

「尾崎くん、またね。もし答えが見つかったら教える」

「おう、橋守。またな」

 彼は立ち上がると片手を上げて、立ち去って行った。思わず胸を撫で下ろした。


 可奈が不思議そうに智子を見る。

「ねえ、智子ちゃん。どうして尾崎君に敵意剥き出しなんですか?」

「なんかまた潤にちょっかい出してるのかと思ってさ。本当に変なことされなかったか?」

 彼の父親が経営する病院の中で変なことをするのは、流石に難しいと思う。


「うん、普通に話してただけ。話してみれば、普通の男子ってこと分かるよ。少し真面目すぎるけど。それより、可奈。ケーキ買ってきた? お金渡す」

「ばっちりですよ。智子ちゃんの誕生日と併せて、潤子ちゃんのお見舞い分も買ってきたので」


 可奈はそう言って、取っ手のついた白い紙箱を軽く振った。

「ナイス。休憩室ならケーキ食べても怒られないと思うから、そっちに移動しよう」


 休憩室に移った三人は、ケーキをテーブルの上に並べた。

「今回は豪勢ですね。智子ちゃんの誕生日祝いと、潤子ちゃんの退院前祝い。二つずつ食べられますよ」

「可奈っち。そこは仮退院祝いとかにしとこうぜ」

 どっちも同じ意味にとれるのは気のせいか。


 潤子と可奈は誰もいないことを確認すると、せーので、小声でハッピーバースデーを歌い出した。歌い終わるとパチパチと小さな拍手をする。


「ここでロウソクを立てるのは厳しいですよねー」

 可奈がケーキ屋で貰ってきたと思われる、小さな色付きのロウソクを、掌の上でコロコロと転がす。


「あ、ちょっと待って」

 潤子はスマホを取り出すと、それを素早くタップする。


「じゃじゃん」


 テーブルの上にスマホを置いた。画面の中に豪華なケーキと、十八本というステータスメッセージと、沢山の火のついたロウソクが立っている画像が映っている。ご丁寧にその火はユラユラと揺れていた。


「潤、なにこれ?」

 智子は吹き出しそうな顔になり、その肩は震えている。


「バースデーケーキアプリ。タップすると、ちゃんと火が消えるようになってる」

「凄いですね。智子ちゃん、やっちゃってください」

「おう!」


 智子がスマホに息を吹きかけたタイミングに合わせ、潤子はスマホをタップした。画面の中の火が消え、ろうそくの芯から黒くて細長い煙が立ち上る。


 三人はぱちぱちと小さく拍手をした後、頬を緩ませながら、ケーキを食べ始めた。


「潤と可奈っちは、夏休みはどうするの?」

「私は図書館で勉強してます……時々、隼人くんと一緒に。両親が三日間夏休み取ってくれたので、その日は温泉に行きます」


 可奈よ。時々と言わず、毎日でもいいのだぞ。弟は三ヶ月後には十五歳の元服を迎え、時間が取れなくなるだろうから。


「私は家族と一緒におじいちゃんを家の近くにまで送っていく。そのついでに二泊三日でキャンプかな」

 潤の言葉に二人の目が輝いた。

「いつ出発するのです?」

「今週の木曜日に出て、土曜日に帰って来る予定」


「なあ、潤。一緒に付いてくのは駄目か? ちゃんと金払うからさ」

「わ、わ、私も行きたいです。お金なら言い値で払えますから」


 うん。確かうちの車は八人乗りで、行けないことはない。

「ちょっと待って。メッセージ送ってみる」

 母さんにメッセージを送ると、すぐに返事が返ってきた。


『良いわよ。みんな連れて来なさい。楽しみね』


「大丈夫だって。キャンプで働いてもらえば、お金はいらないから。キリキリと働くのだ」


「「へへー。潤子さま」」


 二人とも、ノリノリだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ