失われた記憶
ナイトの切なさがシンドイ回でした、、
目を覚ましてから半年ほどが過ぎた頃ーーー
「お嬢様、どちらへ」
執事長が声をかける。
「少し庭園を散歩してきます」
「誰か1人つけますか?」
少し考えて。
「ありがとうございます。1人で大丈夫です」
執事長は一礼すると、背後の使用人へ小さく視線を向けた。
「旦那様にご報告を。 お嬢様の視界に入らない位置から、いつでも動けるよう見守っていなさい」
使用人は静かに頭を下げる。
「お茶のご用意をしてお待ちしております。いってらっしゃいませ」
「ありがとうございます」
1人庭園に向かって歩いていく。
庭園には色とりどりの花が咲いている。
それだけなら普通なのに、不思議なくらい隅々まで綺麗に整えられていた。
〈すご~……。毎日どれだけ手入れしてるんだろ〉
「ほんと広い庭だこと、1日で回れるのかしら?」
ゆっくりと庭を見回した後、空を見上げ、太陽の日差しを手で遮りながら。
「眩しーっ」
〈あの夢に毎回出てくる人、、怖いとか悲しいんじゃなくて、 懐かしく温かい気持ちで満たされるのは何でなのかな〉
庭園を色々考えながら歩いていると、後ろから声をかけられた。
ナイトは考え込む彼女の背中に歩み寄り、驚かせないよう静かな声で彼女を呼んだ。
「令嬢、何をそんなに悩んでいるんだ?......風が冷たくなってきた、あまり無理をしないでほしい」
「ありがとうございます。大公さんは寒くないですか」
「ああ。大丈夫だ。……少し歩こうか」
彼女の歩幅に合わせ、ゆっくりと歩きだした。
「屋敷での生活はどうだ」
「はい。皆さん、とても優しくて、楽しくすごさせていただいております」
「そうか」
屋敷での出来事などの話しを聞きながら穏やかに時間は過ぎていった。
「疲れただろう。レオンが茶を用意してくれている。
そろそろ戻ろうか」
「はい。今日のお菓子は何でしょうね?楽しみです」
「そうか、楽しみにしてくれているのか」
〈食いしん坊がバレちゃった。〉
屋敷へ戻ると、執事長が一礼した。
「お疲れ様でございました。お茶の用意が整っております」
執事長に案内され、2人はテラスへ向かった。
テーブルには紅茶と焼きたてのクッキーが並んでいる。
〈今日はクッキーだぁ〉
「この紅茶、すごく香りがいいです」
「そうか、気に入ってくれたなら良かった」
「クッキーもすごく美味しいです」
満面の笑みでナイトを見る。
「沢山あるぞ、好きなだけ食べてくれ」
クッキーの入ったバケットを渡そうとナイトが立ち上がった時、その後ろの夕日が目に入った。
「大公さん、見てください!夕日がとても綺麗ですよ」
ナイトの顔を見上げた瞬間、逆光に照らされた姿が夢の中の人と重なった。
「あ、大公さん…あなた…」
ナイトの頬に手を延ばしかけた時。
「っつ」
何かを思い出しかけたが、頭に痛みがはしる。
ナイトは咄嗟に体を支え、痛みに顔を歪める彼女を心配そうに覗き込んだ。
「大丈夫か」
「……すみません」
ナイトは彼女の手を包み込んだまま、その瞳をじっと見つめ、ゆっくりと額へ手を添える。
「無理に思い出そうとしなくていい。……少し目を閉じるんだ」
〈無理をするな。過去がどうあろうと、今ここに君がいる。それだけでいい。……それだけで、いいんだ〉
ナイトのメンタルが心配な作者です。
ここから少しずつ物語が動き出しますーー




