ヨーイコの語り
そして王は死んだ。
結末A、と言った処でしょうか。そもそも王妃の傀儡王なる王子が即位してまったのも、間接的には魔女との契約を守り続けた結果……、どの道、限界だったのです。
兄上の始末が漸く終わった。私の最愛も此れで戻って来れる。
私はヨーイコ・コーカイ。私こそ、真の王太子。次期国王。
その筈だった。
私は今、断頭台に居る。
……古臭く、頭が固い老害共に庇われた兄上はギリギリ処刑を免れた。それにより兄上は男爵令嬢の家に廃嫡された状態で婿入りした。きっと苦労しているだろう。そう思っていた。
月日が経ち、父から王位を譲られた。正にその瞬間だった。
ーー契約は破棄された。これより封じた病が因果を背負って復活する。
そんな声が空から振ってきた。その声は国中に響き渡った。否、国民中に、と言った方が良かっただろう。来賓として戴冠式に参加していた他国の貴族には聞こえなかったのだから。
この様な事態は初めての事だ。何が起こっているのか分からなかった……。
幾日とも経たない内に、今はもう忘れ去られていた伝染病が国中を覆った。特効薬は役に立たなかった。次々と死人が出る。老人や子供等、抵抗力の無い者から病に掛かり、死んでいく。栄養状況が平民よりも満たされている貴族はまだ病になる比率が少ないが、時間の問題だろう。
……最早、誰も信じていなかった魔女伝説。あれが真実だったのだと縋り付く様に狂信する者が増えて行く。それを否定する事は出来なかったし、私もまた狂信者となった。
何としてでも兄上に王位を継いで貰わなければならなかったのだと知る。兄上から王位を簒奪するのではなかったと後悔する。それは私だけではなかった。
人智を越える現象は容易に人間を思考停止状態にし、短絡的にさせて行く。
ーー革命は起きた。
そうして私は断頭台へと引き摺り出された。いや、私だけでない。父上、母上、そして……、我が愛する妃、デスワ。誰もが瞳に絶望を映す。
あの日、幼い子供が、私とデスワの愛の結晶が、あの伝染病で死した時から私達は深い絶望と悲しみ……、そして後悔のるつぼに居る。
それぞれが平民の死刑囚の様な扱いを受け、拷問の罰を受け、そして今、処刑台に身体を固定されていく。その中で朗々と私達の罪を語る処刑人達。
ーー兄上。
その処刑人は兄上だった。「王族の血を引く者として責任を取る」為に、兄上は自ら私達を処刑する。その前口上である罪の説明は、時系列に沿って母上から始まった。
まだ赤子であった兄上への虐待が如何なるものだったかを兄上と証人である乳母が語る。
次に母上に盲目だった父上が真実を確認しようともせず、兄上に「愚か」とレッテルを貼り、それを周知してしまった罪が語られ、罷免された、当時の父上の側近がそれを認める。
そして私ヨーイコと、そんな国王夫妻に媚を売る公爵家の娘であったデスワは、自らを褒め称える、都合の良い綺麗な言葉しか信じず、王太子である兄に、婚約者に幾つもの不敬を犯し、王太子の座を簒奪した罪を語られた。証人は……、酷い顔色で、衰弱してフラフラな身体をした先代ドーロボ男爵夫妻。公爵家からの命令でハニートラップを仕掛けた事を認めた。因みに公爵一家は私達より前に公開凌遅処刑されている。
ドーロボ男爵家は兄上以外、既に感染しており、実行犯たる彼女はもう亡くなっている。特効薬の効かない伝染病であるが、基本的な症状は変わらない。今は人に伝染らない時期だ。だからこそ証人として居る。
……彼等は本来、口封じされていた。王族の婚姻を台無しにした名目で処刑されていた筈だった。兄上が庇われ、毒杯(幽閉からの暗殺含める)を免れた為に、兄上の行く先として生き残った一家だった。
其れ等は、まだ子供だった当時の私達が知らなかった事実であり、大人になってから必要悪として学んだ、色硝子の向こうの事実でもあった。
故に、色硝子を抜かれたのだと理解出来てしまう。
兄上は言う。
「起こった事実を変えられぬ。特効薬の無い因果を持つこの病は、国が滅びるまで変わらぬ。よって現王家の命を以て、この国を終わらせる。そして約束しよう。新たなダンザーイ国の始まりを。」
……私から兄上に王位を返した処で何も戻らない。破棄された魔女との契約は元に戻らない。只、幸いだったのは元々の契約が、「コーカイ国」に拘る形で成されたものだった事。王が死に、国名が変われば「コーカイ国」はなくなり、病から因果が消える。因果が消えれば特効薬も効くだろう。
そうーー、幸いな事に………。
幸いな………、幸い……、幸、、、
違うぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!!! 何が幸いなものかぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!!!!! 何故私がこんな目にぃぃぃぃっっっ!!!!????
次々と刃が下ろされていく。現王である私は最後。どんどん近付く死の気配が、急速に私を恐怖に追いたてる。喉が潰されていなければ、私の絶叫が辺りに響いたろう。
そんな私に兄上が近付く。そして告げられた。憎しみと嘲りがブレンドされた、醜悪な表情で。
それはきっと私にだけに告げられたものではなく、私達一家全員に告げられたもの。
ーー後悔してるか? だがもう遅い。ざまあみろ。
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
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