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番外編 龍宮 アルトの憂鬱  作者: 紅p
第六章   覚悟を胸に孤独な闘いの始まり 
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056 ~あなたに連れられて~

 水鏡の国に帰還したアルトは緊急会議に参加していた。

 その会議の中でアルトは考えていた。

 どうすれば己の望みが叶うのかを……。

 ジュバの言葉から始まった会議ではまず今の水鏡の国の状況が報告された。

 水鏡の国とは本土である稲叢島(イナムラトウ)を中心に数多くの小さな島々が点在する国である。

 そして、点在する島にはそれぞれその島を治める守り(ビト)と呼ばれる者がいるが、

その守り(ビト)は命に代えても己の治める島を守るという責が負わされている。

 だが、その報告の中で点在する島々の約六割は魔物達の襲撃により壊滅し、

さらに稲叢島(イナムラトウ)にもじわじわと魔物達の襲撃の影響が及んでいるという事が知らされた。

 ちなみにイブに平伏していた者達はこの守り(ビト)である。

 へぇ……まさかここまでだとはね。

 でも、壊滅した島を守っていた守り(ビト)はよくおめおめと帰って来てここにいれるね。

 いつも偉そうに力を鼓舞していた癖に……。

 そんな報告があっている中でアルトはイヴの後ろから正座しながら冷ややかに

ずらっと横並びに正座している守り(ビト)達を見ていた。

「昴はどうなっていますか?」

「はっ! それは私奴が報告させていただきます!」

 その中で静かなイヴの声が響いたが、透かさず糸目の彼の不快になる声が続いた。

 それによると、省略するが昴は鼓家により厳重に守られ今の処無事であるとの事だった。

 無事ねぇ……婆やならまだしも、君程度の者の話じゃ信用ならないよ。

 イヴの右前方で平伏しているとはいえ堂々と話す糸目の彼を見たアルトは瞳を静かに閉じた。

 アルトの執事である鼓 メイサは現鼓家の当主である。」

 そんなメイサは噂によるとジュバと肩を並べる程の実力の持ち主だが、

一度も将軍の座を巡る争いに参加した事はなく、唯 守り(ビト)としての務めを半世紀の間こなしてきた。

 そして、メイサは何故か守り(ビト)の座を糸目の彼に譲り、アルトの執事として仕えているのである。

 これも糸目の彼がアルトを良く思わない要因の一つなのだ。

 さて、糸目の彼達が出しゃばっているから昴には近寄り難いね……。

 となると、まずは当初の目的通り、宝物庫に行くべきか……。

 糸目の彼が話している間、アルトは自身がすべき事を考えていた。

 それは勿論、一六年前の真相を突き止める手掛かりを探す事だったが、

昴には糸目の彼達が居座っている為、まずは当初の予定通り龍宮家の宝物庫から探す事にした。

 だが、それにも問題があった。

 それは、ただでさえ部屋住み扱いされているアルトがこの一大事に宝物庫に入れるのかである。

 さらに、もう一つ問題があった。

 さて、どうするか……。宝物庫には厳重な鍵がかかっているし……。

 そう、アルトが頭を悩ませる様に宝物庫には鍵となる特殊な封印がされているのだ。

 その封印は決してアルトでは解く事は出来ない。

 出来るのは……。

「姉上、だけか……。やれやれ、仕方がないとは言え、厄介な封印がされているものだね」

 そう、その封印が解けるのはアルトが呟いた様に龍宮家の当主のみなのだ。

 そういう事もあって宝物庫に入る為にアルトが知恵を巡らせている間に会議は終了していた。

 そして、応接間は騒がしくなったがアルトはそれに気付いていなかった。

 すると、

「アルト。難しい顔をしてますが、どうなされたのですか?」

と、心配そうな顔をしたイヴに静かに声を掛けられてしまった。

 しかもそのイヴはいつの間にか立っていたのである。

「あ、姉上!? 申し訳ありません!」

 驚いたアルトは正座したままで大声を出してしまった。

 そのせいでアルトは少し正座を崩してしまった挙句ここにいる皆から注目を集めてしまった。

「アルトお坊ちゃん? まさかとは思いますが、怖気ずいた……訳ないですよねぇ?

 ……しっかりしてくださいよぉ?」

 さらに右口角をじわりと上げた糸目の彼にそう言われ、

「してくださぁーいっ!

 ……ふふふ♪」

と、右手で口を隠している嫌味な双子から同時に言われた。

 勿論、三人とも立っており、アルトを見下していた。

 アルトはと言うとその三人を見ることなく溜息で返事をしている間に正座し直した。

「アルト。私はこれから鼓家と昴へ向かいます。

 あなたはどうなさいますか?」

「姉上。僕は少々調べたい事があります

 ですので同行は遠慮させていただけませんか?」

 少し眉が下がっていたイヴをアルトは真直ぐ見つめる。

「アルト……」

 イヴの眉はさらに下がってしまった。

 そんなイヴは何か言いた気にアルトを見つめてきたが、

「イヴ様……。どうやら弟君は我々の足手纏いになる事を恐れている様です。

 まあ、水の盾も矛も使えないのですから仕方がありませんが……ねぇ?。

 ここは彼の意思を尊重してさしあげましょう」

と、糸目の彼が透かさず嫌味を言った。

「イヴ様、そうしましょう!

 ……いたって邪魔なだけだしね? ふふふ♪」

 それに嫌味な双子の姉が続き、

「その通り、アルニラム姉さん!

 ……もう少しましな言い訳ぐらい出来ないのかな? ふふふ♪」

と、嫌味な双子の妹が続くと応接間にいる者達からアルトに向け馬鹿にする多くの笑い声が沸いた。

 だが、そんな中、アルトは不思議な気持ちでいた。

 以前ならこの様な空気に耐え切れず逃げていたが、今は何とも思わない。

 その事に気付いたアルトが首を傾げていた時だった。

 バタンッ!!!!

 この場の雑音をかき消し、息を飲む様な静けさを齎す音が皆の耳を貫いたのである。

 それは、皆に背を向けていたジュバによるものだった。

 そう、ジュバは出入り口である引き戸を力任せに開けてその音を発生させたのだ。

 そのせいで引き戸は壊れていたが……。

「おぉっ!? 皆の者、すまんかった」!

 あまりにも蠅共の羽音が煩かったもんでな!」

 そんな事を全く気にしないジュバは振り返って先程の音を忘れさせる程の大声を出した後、

とびっきりの笑顔を応接間にいる者達に向けた。

「んじゃあ、アルトちゃん。行こっか?」

 それからその笑顔をジュバはアルトにだけ向けてきた。

「お爺様?」

「……他の者(もん)は少しはアルトを見習って知性を付けるこったな」

 アルトがジュバを不思議そうに見ていると

ジュバはアルトに背を向け先程とは打って変わって静けさの中に恐ろしさを含んだ声を出した。

 そして、ジュバはそのまま廊下を音も立てずに進んで行った。

 その迫力にアルトを除いて応接間にいた者は言葉を失い、

この場の空気はピンと張り詰めたものとなった。

 凄い迫力ですね……。

 将軍の座を退いたとは言え、これ程迄とは、さすがはお爺様!

 でも、お爺様は一体どこに行くのだろうか……。

 そう思いつつもアルトは急いで立ち上がりジュバに続いた。

ー●

「ここは……お、」お爺様!?」

 無言で歩くジュバに付いて行くと、そこはまさかのアルトの目的地である宝物庫だった。

 その事態に動揺しているアルトは言葉を失い動けずにいた。

 一方、ジュバは鼻歌まで鳴らし楽しそうに宝物庫の封印を解いたのである。

 ちなみに宝物庫の封印は龍宮家の当主のマナで解除出来る様になっている。

 そう、龍宮家の当主が己のマナを扉に埋め込まれている錠に流すと封印が解除され

宝物庫に入る事が出来る様になるのだ。

 って聞いていたけど……まさかその座を退いたお爺様のマナでも解除出来るなんて知らなかった!

 宝物庫の封印が解かれた事にアルトは感心した。

「おぉっ!? 見て見てアルトちゃん! 儂でも封印が解けたよ!」

 だが、ジュバは、はしゃぎ出した。

 そう、開いた扉を右手の人差し指で刺しながら、きゃっきゃっと笑っている。

 そのジュバにアルトの顔は鳩が豆鉄砲を食った顔となった。

「……えっ? お、お爺様? 出来るからなさったのでは……?」

「いや? 一応、試してみただけじゃ!」

 アルトはジュバから満面の笑みを向けられた。

 その顔でアルトの顔は一気に引き攣る。

「一応試しただけって、お、お爺様……。

 解除 出来なかったらどうなさるおつもりだったんですか?」

「そん時はこわ……まあまあ、いいじゃない!

 封印は解かれた訳だしのぉ? 儂、凄くなぁーいっ?」

 豪快に笑いながら話を変えたジュバはアルトを抱き寄せて髭面をすりつけてきた。

 突然の事に驚く前にアルトの顔は赤くなった。

「い、痛いですって!」

「おぉ お! 若い肌は気持ちがええのぉ!

 過度のスキンシップを始めた上機嫌のジュバからアルトは逃れ様としたが逃れられなかった。

 ジュバはぎゅうぎゅうとアルトを抱きしめ髭面をさらにすり寄せる。

「は、恥ずかしいですので、お爺様、そろそろやめていただけませんか?」

「えぇーーっ!? まだいいじゃない? 誰もいないんだし!

 さすがにイヴちゃんにはこんな事は出来んかったし、儂にもう少しだけ孫と触れ合う幸せを……」

 アルトは訴えたが妙に眉が下がっているのが目立つジュバに逆に訴えられてしまった。

 しかも何故かジュバは涙目となっている。

 ジュバのその目をを見たアルトは抵抗する事をやめた。

「……お爺様。そんな事をなさったら、姉上に殺されますよ?

 と言うか、そんな事を思っているってだけでも知られたら……?」

「……じゃな」

 アルトがふっと笑うと、ジュバはパチクリと瞬きし、アルトを解放した。

「さぁーーって! んじゃあ、儂はそろそろ行かにゃいかんのでな!

 アルトちゃん、外の事は気にせずにがんばるんじゃぞ!

 あっ! あと、食事とかは寿族に任せて人は誰も近づかん様に言っとくからの!」

 すると、そう言ったジュバは踵を返しさっさと廊下を歩いて行った。

「お、お爺様!? お待ちください!」

「……何じゃい、アルトちゃん?」

 アルトの呼び止めに振り返らずにジュバは足を停めた。

「お爺様、どうして僕がここで調べたいものがあるってわかったのですか?」

「ふん、そんな事かい?」

 ジュバの背にアルトが問うとジュバは意味深な声で笑った。

「それは、モチ! 儂がアルトちゃんのおじいちゃんじゃからに決まっておろう?」

 そして、あっけらかんとした顔だけアルトに向けたジュバは教えてくれた。

 だが、そんなジュバの瞳からはそれとは違う気持ちが伝わって来る。

 そう、大切な何かを託す様な、身が引き締まる様な気持ちが伝わって来たのだ。

 その気持ちをしっかりと受け取ったアルトはジュバの瞳を見つめ、深く頭を下げた。

 それは、この感謝の意を表すのに言葉はいらなかったからである。

 いや、言葉では表せられなかったのかもしれない。

 どちらにしてもそのアルトの気持を受け取ったジュバはまた楽しそうに鼻歌を鳴らしながら

この場を静かに離れて行った。

「お爺様、ありがとうございました……」

 ジュバの鼻歌が聞えなくなると、アルトは頭を上げそう呟いた。

 それからアルトは急いで宝物庫の中へと入った。

 次回【覚悟を胸に孤独な闘いの始まり ~成功 時間との戦い~】 

 投稿予定日は2026年10月26日☆

※この作品は無断転載禁止でございます♪

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