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番外編 龍宮 アルトの憂鬱  作者: 紅p
第六章   覚悟を胸に孤独な闘いの始まり 
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057 ~成功 時間との戦い~

 ジュバの思い掛けない協力により、アルトは宝物庫に入る事が出来た。

 だが、そこにはとてつもない量の資料が聳え立っていた。

 この中から限られた時間の中で

果たしてアルトはラニーニャを救う手掛かりを探り当てる事が出来るのであろうか……。

 ジュバの背を見送ったアルトは急いで宝物庫に入り一六年前の手掛かりがないか探り始めた。

 すると、そこには想像以上の膨大な量の資料が聳え立っていたのである。

 そう、正面だけでなく右にも左にも資料が積み上げられた棚があったのだ。

 しかもその高さはいずれも見上げる程のものだった。

 これは骨が折れそうだね……。

 そう思ったアルトだったが、頷いてすぐに聳え立つ資料に立ち向かった。

 それからアルトは何時間も、何日も食事を取る事を忘れる程、没頭し手掛かりを探った。

 だが、その中には手掛かりは何一つ見当たらなかった。

「ふぅ……。ここまで探しても何も参考になる物がないなんてね……」

 手掛かりを求め何日かが経ったある日、ふとアルトの口から言葉が漏れた時だった。

 急に巻物の資料の山の一角がアルト目掛けガタンッと音を立てて崩れて来たのである。

「ぅわっ!?

 青みの強い薄い青紫色の着物が乱れる程の巻物達の襲撃を受けたアルトの口から思わず声が出た。

「痛たた……。全く、ついていないね……」

 そして、巻物の山の中で頭を押さえながらアルトは眉間にしわを寄せて愚痴を漏らしたが、

「これは……!?」

と、ふとある巻物に目がいき、思わず言葉を漏らしてしまった。

 その巻物は水鏡の国の守り神である青龍の絵物語が描かれている代物だった。

 しかも国宝級である。

 ちなみに絵物語の内容は美しき水の化身、青龍がその水を巡る醜い争いをする人間に激怒し、

その水があった島ごと海の底に沈めるといった恐ろしいものとなっている。

「へぇ……。絵本では見た事があるけど、本物を見るのは初めてだ!」

 アルトの言う通り、この絵物語は水鏡の国では絵本の御伽噺として知られている。

 アルトは息抜きを兼ねてその絵巻物に目を通してみる事にした。

 その絵巻物にはこんな事が描かれていた。

 一番右の絵には、空も海も薄暗い世界の海の上に一頭の青く美しい龍の姿。

 さらにその左隣の絵では、その龍の胸元に一点の赤い鱗が光り、

灰色の空に浮かぶ龍の下では人々が争っている事が描かれている。

 その左隣の絵では雨や雷が入り混じり、重い空に浮かぶ龍は赤い龍と変化しているにもかかわらず、

恐ろしい顔をした赤き龍の下、人々はまだ争いをやめていない事が描かれている。

 だが、その左隣の絵では青い海と空に浮かぶ龍以外何も無くなっており、

その龍の姿はまた青く美しいものとなっているのだ。

「まあ、本物はここまで迫力があるんだ。

 これじゃあ子供には見せられないね……」

 絵巻物を見終えたアルトは苦笑して、そっと閉じた。

 それから散乱してしまった他の巻物にざっと目を通していると、

「これって……龍宮 ベラトリックス様!?」

と、アルトは思わず叫んでしまった。

 そう、アルトの目に入って来たのは、龍宮 ベラトリックスの肖像画だったのだ。

 龍宮 ベラトリックスとは、龍宮家初代党首で水鏡の国の祖であり初代将軍の名である。

 そんなベラトリックスは女武者でその称号が示す様に水鏡の国では誰も敵う者はいなかったと言う。

 それは勿論、誰の水の盾をも破る水の矛を扱い、

誰からの水の矛を貫かれない水の盾を扱うと言った事に加え、数多くの武勇伝を持っているからだ。

 例えば、一人で千人もの敵を薙ぎ倒し、龍宮家の窮地を幾度となく救ったとか、

 迫りくる魔物の軍勢にたった一人で立ち向かい一掃したとか。

その地を苦しめる大山の様な巨大な魔物等を一人で幾度となく倒したやら……。

 この様に挙げればいくらでも出て来る程、ベラトリックスには武勇伝があるのだ。

「……って、婆やが好きなものだから、何度もベラトリックス様の武勇伝を聞かされたなぁ……。

 そう言えばベラトリックス様って黒髪以外、婆やに似てる!?

 しかも髪型までほぼ同じだなんて……」

 こんなベラトリックスの肖像画の感想を持ったアルトは、ふとある事に気付いた。

 それは正面を向いて腰掛けている若き姿のベラトリックスの腰に刀が刺さっていなかった事である。

 普通、歴代の将軍は己の強さを強調する為、戦支度である甲冑の姿ばかりなのだが、

ベラトリックスは紋付き袴に黒の羽織だけで、何一つ武器を持っていないのだ。

 付け加えると、どの肖像画もそうである。

 ちなみに今回描かれている袴は黒と灰色の縦縞で羽織はやはり黒色だった。

「この絵は初めて見るけど、この絵にも描かれてないんだ……。

 そう言えば、他のベラトリックス様が描かれているやつもそうだったね。

まあ、武器や防具なんかなくっても、ベラトリックス様はお強いからなんだろうけど、

結構、他の将軍なら水の矛を描いているのもあるって言うのにな……」

 ベラトリックスの肖像画を見たアルトの口から、つい溜息と共にこの言葉が漏れた。

 それは、到底アルトがベラトリックスと同じ水の矛を使える訳がないが、

何かの参考にならないかと思ったからである。

 どうしてもアルトは水の矛や盾を一人でを使える様にならなければならない。

 それは勿論、ラニーニャを守る力がほしかったからだ。

 だが、そんなアルトは以前からいくらそれを望んでも使えていない。

 以前はイヴの力になりたいと言った理由で水の矛や盾を扱おうと努力した。

 そう、アルトは水の盾や矛を使える様になる為、全ての将軍の多種多様な水の盾や矛を研究したが、

未だに水の矛を使える様な気を自身に微塵も感じれていないのだ。

「婆やはベラトリックス様は一度で数百人の敵を薙ぎ倒したとか、

見上げる程の魔物を一刀両断したとか、上空にいる数百体の魔物ですら瞬殺したとか言ってたけど……。

 どうやったらそんな事が出来るんだい?

 まあ、飛び道具みたいな水の矛があれば別だけど、歴代の将軍でそんな水の矛何て見た事ないし……」

 こんな言葉と溜息を漏らしたアルトはベラトリックスが描かれている巻物も、そっと閉じた。

 それから他の散らばった巻物にも軽く目を通しながら作業を進めていったがある絵巻物を見た時、

アルトの思考回路は止まった。

 その絵巻物には、こんな事が描かれていたのである。

 美しい太陽の光を波間に受ける青い海の上空には勿論、美しい青い空があり、

そして、その海には青い空から降り注がれる太陽の光を同じく受ける自然豊かな島もあった。

 さらにその島の中心には立派な山が聳え立っている。

 だが、そんな美しい自然を描いた中に、アルトの思考回路を停めさせたものが描かれていた。

「こ、これは……先輩とグラニュー様!?」

 そう、その美しい自然を描いた中に空飛ぶグラニューの背に乗ったラニーニャが描かれていたのだ。

 そのラニーニャは白い着物に黒の帯を巻いた姿で

地上の美しい風景を見ながら左手をその風景に向け伸ばして微笑んでいた。

 陽の光を受け輝いている黒髪の長さはやはり肩より少し下までの長さである。

 ど、どういう事だ?

 これは古の絵巻物のはずなのに、どうして先輩とグラニュー様が描かれてるんだ!?

 思考回路が止まっているアルトの頭にはこの言葉がずっと駆け巡っていた。

「そ、そうか……。これはグラニュー様が、スレイプニル様のお姿の時を描いたものか!

 ならば、この御方は初代救いの神子様の御姿なんだ……」

 だが、頭の中でカチッと何かが繋がる音が聞えた気がしたアルトはそう言ったものの、

一気に全身の力が抜けてしまい、頭を抱える程項垂れた。

 何で……何でもっと早く気付けなかったんだ!! 答えはこんな近くにあったのに……。

 アルトは項垂れながら己の無力さに後悔した。

 そう、己に力があったら。

 いや、己が何事からも逃げなければ今のこの世界を変えれたであろう事に。

 ラニーニャに、もっと笑ってもらえる世界をつくれていたのかもしれないという事に……。

 後悔したアルトだったが己を奮い立たせ顔を上げた。

 それは今さら後悔した処で何も変わらないからである。

 いや、寧ろ後悔している暇こそ時間の無駄で、

その時間を己の真の目的の為に有意義に使おうと思ったのだ。

 だが、そんなアルトがまた作業に着手しようとした時だった。

 アルトの背後から突如聞こえた声がアルトの全身を嫌らしく撫でる様に通り過ぎ、

アルトの体を震撼させた。

 そして、はっとして息を飲んだアルトが振り返ると、そこにまさかの人物がいた。

 次回【覚悟を胸に孤独な闘いの始まり ~絡みつくカルマ~】 

 投稿予定日は2026年11月2日☆

※この作品は無断転載禁止でございます♪

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