054 ~あなたに嫌われようとも僕は~
家族である彼女はラニーニャを傷付ける。
この時、アルトは今のこの世界で本当によいのかを考え始めた。
そして、一つの答えが生まれ……。
「お姉ちゃん……」
心優しきラニーニャを呼んだ者。
それは、後から合流した宝珠の国の皇女だった。
その宝珠の国の皇女はラニーニャに冷ややかな目を向けた。
さらに信じられない事に宝珠の国の皇女はこれからラニーニャを傷つける数々の言葉を
投げつけていく……。
「今まで、何をしてたの? みんな大変だったんだよ? それなのに、何なの、その格好は!?」
「何なのよ、その態度……」
まあ、お姉ちゃんなんていなくても、よかったけどね」
何を……言っているんだ?
大変だったのは、先輩だって同じと言うのに……。
それに、君達は家族じゃないのか?
それに、ここを救ったのはほかならぬ先輩だって言うのに……どうしてそんな事が言えるんだ!!
宝珠の国の皇女の言葉はアルトの心も傷付け、心の奥底にあった憎しみの炎を燃え上がらせた。
そして、ラニーニャは一度体をふるわせ、拳を握り絞めた後、
宝珠の国の皇女を見る事なくその場を逃げる様に離れた。
そのラニーニャを たぬてぃと炎が追いかけて行く。
「君って奴は、本当……」
アルトはそう言って憎しみの炎を抑えるべく歯を喰いしばり、
宝珠の国の皇女を怒りの眼差しで睨みつけ、ラニーニャを追いかけた。
ー●
どうしてこんな事になるんだ……。
何故、先輩があんな思いをしなくちゃいけないんだ……。
ラニーニャを追い掛ける間、苦しい心の中でアルトは考えた。
どうすればラニーニャがあんな思いをしないですむのか。
このまま世界に嘘をつき通す事が本当に世界の為になるのか。
ラニーニャの為になるのか……。
この時、アルトにある思いが芽生える。
それは、世界にラニーニャこそ本当の救いの神子であると言う事を知らしめるべきだという思い。
例え、ラニーニャがそれを望まなくとも、誰かから感謝される事を望まなくとも、
そうすべきだと思った。
そうすれば、少なくともラニーニャを傷つける者はいなくなるのだから……。
この思いに到達した時、アルトはラニーニャに追い着いた。
そこはミラの端にある港だったがアルト達が上陸した港ではなかった。
、そこには勿論、たぬてぃと炎がおり、
ラニーニャはアルト達に背を向けて陽の光が優しく照らす青い海を眺めていた。
そのラニーニャの右側から炎が優しく寄り添い何かを囁くと
ラニーニャは炎をそっと見つめた。
だが、アルトから見れたラニーニャの横顔は苦しそうだった。
先輩……。やはり、このままではいけませんよ。
だから、僕はあなたに嫌われようとも、世界にあなたこそが救いの神子だと認めさせます!
ラニーニャの悲し気な姿を見たアルトは、こう心に誓った。
すると、漸く息を切らしながらもケレスが追い付いた。
「姉ちゃん、よかった!」
ラニーニャとの再会に、ほっとした顔のケレスが声を掛けたが、
ラニーニャは寂しそうなままの顔をケレスに向けた。
「姉ちゃん?」
そのラニーニャにケレスが首を傾げると、ラニーニャはケレスに別れを告げる顔をしたのである。
「どうしたんだよ? そんな顔、するなよ!!」
それを悟ったケレスは気持ちをぶつけ、それから暫く二人は無言で見つめ合っていたが、
この船着き場に近づいてくる一際立派な白色の船がアルトの目に入った。
「あの船は!?」
アルトは叫んだ。
何故ならその船は龍宮家の大型船、ミアプラキドゥスだったからである。
ミアプラキドゥスが来たって事は水鏡の国に何かがあったんだ!
そうなると……。
この時、アルトに嫌な予感がした。
「アルト!? どうしたんだ?」
そして、驚いているケレスからアルトは見られ、
「アルト。何をしていたのですか?」
と、言いながらアルト達に近づいて来たイヴでアルトの嫌な予感は現実のものとなった。
イヴによるとイヴは花梨に同行しており、宝珠の国で花梨を守っていたが、
今回の件で発生した魔物達が水鏡の国へと侵略したという報告があった。
それを深刻な顔で話したイヴはこれから水鏡の国に帰還するのにアルトにも同行を求めてきたのだ。
「あ、姉上。僕は、その……」
「アルト。あなたは自分の立場をわかっていますね?」
どうするべきか迷っているアルトにイヴは決断を求めてきた。
それでもアルトは決めきれずにいた。
すると、アルトはラニーニャから微笑みを向けられたのである。
「先輩、僕は……」
そのラニーニャに本当の気持ちを伝えきれないアルトの眉は下がったが、
ラニーニャはアルトの背を軽く押してくれた。
「先輩……。わかりました! 必ず、僕は先輩の所へ戻りますから!」
その笑顔と手の温もりで覚悟を決める事が出来、そう言えたアルトの顔は凛々しくなった。
すると、ラニーニャは嬉しそうに頷いてくれた。
「あの、炎殿……。浦島を託します」
そして、万が一の事を考えたアルトはそう言って炎に小さな浦島を託した。
その浦島の大きさはアルトの片手に乗る程の大きさである。
「お前のやるべき事を成し遂げてこい」
そう言った炎は浦島を受け取り、頷いた。
そんな炎達と別れたアルトはイヴとミアプラキドゥスへ向かった。
ー●
どうか、僕の作戦が成功するまで先輩が無事でありますように……。
ミアプラキドゥスの一室で正座しているアルトは瞳を閉じてそう願った。
アルトの作戦とは龍宮の家に戻り、その宝物庫で資料をあさる事だった。
その資料に何かラニーニャを救う手掛かりがある事に期待していたのだ。
しかし、ミアプラキドゥスまで遣ってまで僕達を迎えに来るとなると、
水鏡の国はよっぽど状況は良くないんだね……。
だが、この事が頭を過ぎり、アルトはこの作戦の成功に一抹の不安を覚えた。
龍宮家が保有する豪華大型船 ミアプラキドゥス。
この船の名の意味は"静かな水”。
その名が示す様にこの船の航海時は決して海は穏やかで、荒れる事はない。
それは、ミアプラキドゥスに宿る龍神 青龍の加護のおかげである。
ミアプラキドゥスが順調に航海してるって事は青龍様のお導きがあるって事なんだろうね……。
でも、この導きは何への導きなのだろうか……。
考え事が増えたアルトの眉間のしわも増えると、
「アルト、どうしたのです?」
と、イヴから声を掛けられた。
そのイヴは先程の鮮やかな紫の半着を隠す漆黒の羽織を着用しており、
灰色の袴との相性は抜群によかった。
「あ、姉上!?」
そのイヴに驚いたアルトの声は大きくなる。
「何か、考え事ですか?」
「えっえぇ……。まあ……」
さらにそのイヴの吸い込まれる瞳を見たアルトはつい言葉を漏らした。
「先程の彼女が気掛かりなのですね?」
「……わかりますよね?」
そして、そのイヴの瞳と微笑みに負けたアルトも微笑んだ。
「わかりますよ。彼女を見るあなたの目が優しいですもの」
「そ、そうでしたか……」
「アルト……。彼女の事が好きなのですね?」
ふっと笑ったイヴにアルトの頬が赤くなると、
イヴはさらにアルトの頬を赤く染める事を涼し気な顔で言ったのだ。
「な、な な 何を冗談を言っているのですか!?
先輩はそんなんじゃないんですってば!!」
そう言ったアルトの顔はやはりさらに赤くなった。
さらに激しく揺れ動く心臓の音はどうかすればイヴに聞こえる程に大きくなった。
「アルト、その気持ちは隠す事ではないでしょう?」
「姉上。違うんです……。
確かに、僕は先輩の事が好きです。
ですが、それ以上なんです……。
上手く言えませんが、先輩が幸せでいてくれたら、それだけでいいんです……」
そして、イヴは涼し気な顔で追い打ちをかけてきたが
落ち付いてアルトがラニーニャへの気持を伝えると、イヴはキョトンとした顔になった。
「そうでしたか……。
アルト。あなたにとって、彼女は特別な存在なのですね?」
「はい! 特に先輩には感謝しています。
それに、ジャップとケレスにも!」
元の穏やかな顔に戻ったイヴにアルトはラニーニャ達への思いを改めて伝えた。
すると、イヴの口元は仄かに緩む。
「そう……よき友が出来たのですね、アルト?」
「姉上も先輩に感謝してくださいよ?
何て言っても、今 姉上が生きているのは先輩のおかげなんですから!」
「私が生きているのが、あの者のおかげ……?」
そのイヴの口元でアルトの口元も緩んだが、イヴは首を傾げた。
「そうです。
言いそびれていましたが、光の神殿で姉上を死の淵から救い出したのは先輩なんですよ?」
そんなイヴに一つ息を吐いた後にアルトは教えた。
「えっ? あれはあなたが私を救ってくれたのではなかったのですか!?」
「違います。僕はあの時、何一つ出来なかったんです。
もう、姉上は死んでしまったと思ったから……。
でも、先輩は違った。
最後まであきらめずに姉上を救ってくれたんです。
まあ、先輩の治癒術の力は僕なんか比べ物にならない程 凄いからなのでしょうが……。
ですが、そのおかげで姉上は助かった……。
あの時、僕は本当に先輩に感謝したんです。
そして、先輩に憧れ、見ている内に僕は先輩をもっと知る事が出来ました。
先輩は本当に優しくて、本当はとても怖がりな人です。
そのせいで自分の心を苦しめている癖に、それを他人に言えないのが玉に瑕ですが……。
そういう所全てを含めて僕は先輩が好きになりました。
だから、僕はどんな事をしても先輩を守りたいんです!」
驚きを全面に出しているイヴにあの時の真実を語ったアルトはラニーニャへの思いも告白した。
だが、それを聴き終えたイヴの顔は一瞬曇ったのである。
そのイヴにアルトは首を傾げた。
「……姉上?」
「アルト……私達は龍宮一族。
その使命を忘れない様に……」
すると、イヴはアルトの顔を見らずに離れて行った。
姉上……。わかっています。
ですが、僕はそんなものの為に先輩を守るつもりはありません。
僕は、僕の意志で先輩を守ると決めたのですから……。
そんなイヴの背を見送ったアルトは心の中でそう言って静かに水鏡の国までの時間を過ごした。
次回【覚悟を胸に孤独な闘いの始まり ~帰郷 そして、久しぶりな者達との再会~】
投稿予定日は2026年10月12日☆
※この作品は無断転載禁止でございます♪




