052 ~闇の番人の意味深な言葉と笑い~
ケレスが新生スレイプニルと箸渡しをしている間、アルトは色々と考えていた。
すると、そんなアルトにヘルは話し掛ける。
そして、相変わらずな事を言われアルトは少々苛立ったが、
それでもヘルは話を続ける……。
瞳を閉じたケレスが"箸渡し”をしている間、静かな時が流れていた。
さて、彼を信じて……と言いたい所だけど、箸渡しの相手が神だからね。
どれだけ彼のマナが持つのか心配だよ……。。
それに先輩だ。
いくら先輩が救いの神子だからと言ってもあれだけの力を使ったんだ。
全く姉弟そろって無茶ばかりするんだから……。
にしても、ケレスは箸渡しの力が使える癖にどうして霊獣とかの気持がわからないのかな?)
アルトの頭の中は色々な考えが駆け巡っていた。
「お坊ちゃん? 僕ちゃん達が心配かい?」
すると、アルトの右隣に座っているヘルから呑気に聞かれたのである。
そのヘルは横向きに寝転がって後ろ足を伸ばしていた。
だが、上体を起こしており、前足はしっかり地面につけていた。
「それはそうでしょう。何て言ったってケレスですよ?
彼はジャップと同じで無謀な処が多い。
それに先輩は無理をしていても他人には絶対に言いませんからね。
だから心配にもなりますよ」
そう答えたアルトは大きな溜息をついた。
ちなみにアルトは左膝を立てその上に左肘を置き、
右足は左足とほぼ直角になる様にして地面につけてその足に右手を置く形で座っている。
「おやおや!? お坊ちゃんもそんな気遣いが出来る様になるなんて変わりましたな♪」
「変わりましたねって……。
僕はあなた様と出会って日が浅いのにその様な事を言われる筋合いはありませんが?」
「んぅ~ん? つれないねぇ……。
俺様は結構、昔からお坊ちゃんを見てたぁってぇのにさ?」
ヘルから揶揄われたアルトは少々苛立ちながらも反論した。
だが、ヘルから意味深な事を言われたのである。
「それはどういう意味ですか?」
「そぉねぇ……まっ、俺様は昔から色々と見てたのよ♪
あの嬢ちゃんを守ってくれる人の子をな……♫」
ヘルの話に少しアルトが興味を持つとヘルの瞳は不気味に輝いた。
その輝きにアルトは何度も瞬きする。
「僕が先輩を守れると昔から思われていたのですか!?」
「そぉーよ! それも、お坊ちゃんがまだまだお子ちゃまだった時からね♪
俺様はお坊ちゃんの様に知的で力のある者だったら、
絶対あの嬢ちゃんを守ってくれるって思ってたんだぜ?」
「ヘル様。それは違いますよ……」
ヘルは嬉しそうに目を細めたがアルトの胸は苦しくなり、それ以上何も言えなくなってしまった。
今度はそのアルトを見ていたヘルが何度も瞬きする。
「おんや? それはどういう意味でい?」
「あなた様だって僕を見て来たのならおわかりでしょう?
僕には人を守る力なんて、ない……。
龍宮家の癖に一人では水の盾も矛も使えないのですから……」
アルトに乾いた笑いが生まれる。
「それはどうかな?
俺様的にはお前の姉よか、お前の方がスゲエ力を秘めてると思うがな……♫」
だが、その笑いを飲み込む様な声で言ったヘルは歯を見せつける様に口を拡げ不気味に笑ったのだ。
「ヘ、ヘル……様……?」
そのヘルの迫力にアルトは息を飲んだ。
「まあ、お坊ちゃん。もっと自分を信じなさいな♪
俺様が保証すんぜ? お前はスゲエ奴だってな!」
すると、ヘルは先程とは打って変わって楽し気な声で言ったので、
「……ありがとうございます!」
と、ほっとしたアルトは素直に言えたのである。
そんなアルトに ぴゅーけんが何か言いたげな顔で近付いて来た。
「ぴゅーけん君、どうしたんだい?」
「そろそろじゃな……」
優しいアルトの声の後にユミルの静かな声が静寂の中響いた。
「ユミル様?」
ケレスの頭の上にいるユミルをアルトが見た時だった。
ケレスがそのまま倒れてしまったのである。
「ケレス!?」
そのケレスに慌ててアルトが駆け寄ると、瞳を開けたラニーニャの目には涙が見えた。
座り込んでいるラニーニャはケレスの右手を自身の両手で包み込む様にして握っていた。
「大丈夫じゃ。小童は気を失っておるだけじゃて」
「そうですね……彼の顔色、呼吸を見ても、すぐに目を覚ましますよ?」
ケレスの頭の上にまだいるユミルの話を聞いたアルトはほっとした。
そして、優しくラニーニャを見てそれを伝えると、潤んだ瞳のラニーニャは微笑んで頷いた。
「でっ、嬢ちゃん? どうだったんでい?」
そんなラニーニャに興味津々な顔のヘルが聞くと、ラニーニャは頬を少し赤く染めて頷き、
「そぉーか! よかったな嬢ちゃん♪」
と、言ったヘルが目を細めてリズムを取りながら首を横に揺らすと、ケレスは目を覚ましたのである。
「姉ちゃん……。そんな顔するなよ。グラニュー様にも、言われただろ?」
ケレスがそう言って笑うと、悲しそうな顔に戻っていたラニーニャも笑った。
ケレスの奴、箸渡しを成功させたのか……。
さすが、ヘル様やユミル様が一目置くだけあるね。
そのケレス達をアルトが見ているとケレスは上半身をゆっくりと起こした。
それから何かを確かめる様に地面に足を付けたケレスは立ち上がった。
「人の子よ。私は、貴殿にも感謝する」
そのケレスに新生スレイプニルは一礼し、
「ここに集い氏ものよ!! 私の名は、グラニュー!
今宵、ここに新たに誕生した。ここで、皆と共に生きようぞ!!」
と、夜空に輝く満月と星々に向かい新生スレイプニルこと、グラニューは叫んだ。
すると、全方向からその叫びに応える様に色んな生き物達の声が響いてきたのだ。
その声の迫力は凄く、鳥肌が立ったアルトは暫く動けそうになかった。
それから動ける様になったアルトが辺りを見渡すと、いつの間にか精霊や霊獣、
動物が大勢集まっており、彼等はグラニューを中心にし、喜びを全身で表していた。
みんな、よかった……。
そんな彼等の姿を見たアルトの顔が綻ぶと周りに数体の小さな彼等が集まって来た。」
そして、、宴の輪に誘う。
「僕でいいのかい?」
穏やかに笑ったアルトは誘いを受けた。
「バル? どうした?」
だが、鳴きながらバルがケレスの服を引っ張っても、
相変わらずケレスにはバルの意思は伝わらなかったのである。
「一緒に踊りたいみたいだよ」
「踊るっていわれても、俺、踊れない!」
そのケレスにアルトがバルの気持を伝えるとケレスの左口角がピクピク動き出した。
しかも助けを求める様にアルトを見つめてくる。
「成り行きに任せなよ」
なのでアルトはアドバイスした。
すると、ケレスはアルトの両肩にのっている彼等に気付いた。
「アルト……そいつ等は、一体?」
「僕も誘われているから、失礼!」
そのケレスに一言残したアルトは右手で髪をかき上げ、舞踏会の輪へ歩いて行った。
誘われた舞踏会では小鳥が囀り、霊獣や精霊、動物が口ずさむ様に鳴き、
それらは共鳴し合い、心地良い音楽を奏でていた。
「素敵な舞踏会だね……」
そんな彼等の姿に見惚れていたアルトだったが集まって来た多くの彼等から急かされてしまった。
「ちょっと待ってくれるかい? 順番だからね?」
そして、アルトがその一つ一つに対応していると、
「よお、お坊ちゃん? 大人気ですな♪」
と、楽しそうな声のヘルに声を掛けられた。
「はい。大人気ですよ?」
「それは良かった♪
んじゃあ、俺様はあっちの寂しい者の集まりに顔を出してくんわ!」
そんなヘルにアルトがふっと笑うとヘルは闇に消え、
一瞬でかなり離れた処に座っていたケレスの傍まで移動したのである。
すると、ケレスは飛び跳ねる程驚き、そのケレスを見たヘルはとても喜んでいた。
「ヘル様。相変わらずですね……」
そんなヘルの悪戯を見たアルトの口から呟く様に言葉が漏れると、
アルトの周りに集まっていた彼等にまた急かされ、
「すまないね。じゃあ、君からお相手願えるかな?」
と、言って、穏やかな顔のアルトは舞踏会に参加する事となった。
その舞踏会では色々な生き物が自分なりに踊り舞っており、
グラニューにその雄姿を見せつけ、アルトは多くの誘いを受け楽しかった。
そんな中、ラニーニャは炎の傍で偶にヘルのちょっかいを受けながら皆を幸せそうに見守っており、
ケレスはと言うと、色んな彼等に振り回され、いつもの様に慌てふためいていた。
だが、そういった楽しい時は早く過ぎ去り、辺りに舞踏会の終焉を知らせる朝焼がしてきた。
次回【宴の終わり そして、新たな苦しみの始まり】
投稿予定日は2026年9月28日☆
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