051 ~奇跡の後に見せた彼の力~
雪桜の園へ向かう間もラニーニャの体は白銀に光輝いていた。
その輝きに秘められたラニーニャの思いにあるとは共感し、見守る事にした。
そして、雪桜の園に到着したアルト達だったがそこにあの声が聞こえて……。
雪桜の園へ行く間、アルトの前を歩くヘルの背にいるラニーニャの体はずっと白銀に輝いていた。
そのおかげか満月と星達の明るさだけでも進むべき道は、はっきりと見えた。
さらにラニーニャの輝きが星屑の様に落ちて地面に触れるとその地が再生されていく事もわかった。
しかもその再生へ導く光は広がりを見せていったのである。
これも浄化と再生の力……。
先輩、あなたは、この地を救いたいのですね……。
ならば、僕は何も言わずあなたの望みを叶えるまでです!
ラニーニャにそう誓ったアルトは風のない少し肌寒い中を無言で歩いていた。
ミラの街から雪桜の園へ続く道は滅びの呪いに侵されていた。
若しくは、マナが無くなり滅んでいる。
そんな地を再生へ導くべく、ラニーニャは祈り、その力を星屑の様に鏤めていたのだ。
そうやって歩いて行くと二十分程で雪桜の園へ到着した。
だが、そこにある雪桜には以前見た輝きはなくなっていたのである。
その悲しい光景が目に入ったアルトは眉を顰めた。
すると、
「キャ……」
と、聞き覚えのある声がした。
「この声って、バルか?」
ケレスがその声が聞えた方を見ると月明かりの下、右の親指を咥えたバルが姿を現した。
「キャ!」
そのバルはケレスに何かを伝える様にまた鳴いたのでケレスはバルの前でしゃがんだ。
「バル? どうした?」
「君に危害を加えた事を謝りたいみたいだね」
だが、ケレスでは相変わらずバルの気持がわからなかった。
なのでケレスの右隣で澄ました顔で立っているアルトはバルの気持を言葉にした。
「危害って、気絶させた事か?」
「キャァ……」
そのアルトの言葉で漸くバルの気持を理解したケレスの目が丸くなると、
悲し気に鳴いたバルは頷いた。
「気にすんなよ! お前が助けてくれなかったらどうなってた事か……。
てか、俺を目覚めさせてくれたのもお前か?」
「キャー!」
そんなバルを元気付ける為かケレスがバルに笑い掛けると、
バルは嬉しそうに鳴きながら、ポンポン飛び跳ねた。
「じゃあ、あの何とも言えない苦味とえぐ味は……」
だが、ケレスはそう言いながら眉を顰めて舌を出していた。
よほどあれの味が忘れられないのだろう。
「バル君の花の蜜の味だね」
「やっぱり、そうか……」
そんなケレスに澄ました顔でアルトが教えると答え合わせが出来たケレスは一つ息を吐いた。
ちなみにバルが叫んだ時からバルの頭の上の白い花は小さいながらも咲いていた。
そして、今も月明かりに照らされて可愛らしく咲いている。
「まあ、ヒロ殿下はフィード様と共にいなくなってしまってね……。
何処に行ったのかは捨て置いて、僕達は先輩を非難させる事を優先させたんだ」
アルトはこれまでの成り行きをケレスに説明した。
「そうだったのか……。でも、どうして俺は連れて行ってくれなかったんだ?」
すると、ケレスはアルトに怪訝な顔を向けてきた。
「それは、僕ちゃんが頼りないからでしょ?」
「まあ、そうかもしれないけど、さぁ……」
そのケレスの左隣に目尻付近まで口角を上げたヘルが並ぶと
ケレスはヘルと目を合わさずにヘルの足元へ視線を落とした。
だが、ケレスの視線のその先ではいつの間にかドレスアップしていた
ぴゅーけんがケレスを見上げ不敵に笑っていたのである。
ぴゅーけんのドレスはフリルが袖とスカート部分にたくさんついた
白い袖なしのワンピースタイプだった。
さらにそのドレスには小さなスパンコールがちりばめられ銀色の星屑が輝いている様に見える。
すると、
「でえぇぇ!? ぴゅーけん? いつの間に?」
と、驚いたケレスは叫んで腰を抜かしたが、
「静かにせぬか!!」
と、ユミルの怒号が飛んで来たのだ。
「オサ殿?」
そして、首を傾げたケレスが見上げるとまた目を開けれなくなる程の白銀の輝きがアルトを襲った。
「先輩!?」
その輝きの中で叫んだアルトが目を開けると
目の前にある雪桜は月明かりの中、神々しい白銀の光を放ちながら美しく咲き乱れていたのである。
そんな雪桜の白銀の花は月明かりを反射し色んな色の金平糖の様な星屑を巻き散らしていた。
そう、雪桜の園は絵にも描けぬ美しさという言葉がぴったりな光景となっていたのだ。
その雪桜の中心では白銀の輝きを放っているラニーニャがアルト達に背を向け
右手を天に伸ばしていた。
アルト達とラニーニャとの距離は数メートル程か。
そのラニーニャがすっと手を下すとラニーニャの白銀の輝きは一瞬にして姿を消した。
さっきまでは雪桜は輝きを失っていたのに、一瞬でそれを……。
ラニーニャの力の前に言葉を失ったアルトは
雪桜の園の美しさの中にいるラニーニャの背を眺める事しか出来なかった。
「始まるぞ」
「始まるって、もしかして代替わりか?」
そのアルトの耳に静かなユミルの声が届き、ケレスの声も届いた瞬間、
月明かりと雪桜の光が一点に集まった。
すると、雪桜の花びらを纏ったそよ風が何処からともなく吹き荒れる。
そのそよ風はさらに光を集めながら渦を巻いていき、その強さを増していった。
そして、強さを増したそよ風は馬の姿へと具現化したのである。
「あれが、スレイプニル様!?」
その馬を見たケレスはそう叫んだ。
あのお方が、この地の守り神であるスレイプニル様……。
先輩のお爺様が仰っていた通りのお姿だ。
でも、少し違う様な……。
そう、アルトが見たその馬は体長は普通の馬と同じくらい、鬣は若菜色、
体毛はクリーム色で、黒いまつ毛の間から灰色がかった青緑色の優しい瞳を覗かせていたのだ。
そうか……代替わりで生まれ変わったという事はその御姿は若返っている、という事か。
アルトはそう分析した。
「そうとも言える」
「どういう意味だ?」
「先代の記憶を持って生まれた、新生スレイプニル様ってトコかな」
ユミルの言葉に首を傾げたケレスにアルトは自論を述べた。
「そう言えば姉ちゃんが言ってたな……」
そのアルトの持論を聞いたケレスは新生スレイプニルをまじまじと見た。
「ダーナの者よ。私は貴殿のおかげで誕生する事が出来た。感謝する」
すると、新生スレイプニルはアルト達に優しく吹き抜ける風の様な声で話し掛けてきた。
若いけど、あの時に聞えた声に似ている……。
そう、新生スレイプニルの声はあの時、
涙の粒を落としながら逃げたラニーニャを見る事しか出来なかったアルトに聞えた声に似ていたのだ。
そんな先代のスレイプニルの声をアルトが思い出していると、
ラニーニャは新生スレイプニルに何かを言いたそうに口を動かした。
だが、声を出せないラニーニャは今にも泣きそうな顔になってしまったのである。
「どうしたのですか? ダーナの者よ。まさか、言葉を失ったのですか?」
新生スレイプニルからそう聞かれたラニーニャは小さく頷いた。
「そうでしたか……。申し訳ありません。私のせいで……」
そのラニーニャを見た新生スレイプニルが悲しそうな声で言うと、
ラニーニャは両手で顔を覆って泣き出してしまった。
「あーあ!? お馬さんが、泣かしちゃったぁ……」
「こおーーれ! バカ虎!! 煽るでないわ!!」
それを目にしたヘルの口は大きく開けっ放しになり、ユミルは怒鳴った。
「でもさぁ、嬢ちゃんを泣かしたんだよ? どうするの?
嬢ちゃんが何かを伝えたいみたいだけど、今のままじゃ、無理じゃん?」
ヘルはさらに煽る。
え? どうして?
ダーナである先輩なら喋れなくとも意思を伝えられるはずなのに……。
そのヘルの言葉を聞いたアルトに疑問が浮かんだ。
「そうじゃが……その様な言い方はやめぬか!!」
そんなアルトが目に入らないユミルは体をふるわせ、ヘルと喧嘩腰になったが、
「なあ、二人共、やめてくれ。俺に考えがあるんだ!」
と、言ったケレスがある提案をしたのだ。
「ふむ……。それが小童に出来ると言うのか?」
「無理じゃね? 僕ちゃんだよ?」
そのケレスにユミルとヘルは疑いの目を向けたが、
「やってみせるさ!」
と、ケレスはヘル達の疑いを晴らす様な顔で笑って言ったのである。
「姉ちゃん。俺の手を触っててくれ!」
それからそう言ったケレスがラニーニャに右手を差し出すと、
ラニーニャはケレスの右手に、そっと自身の左手を添えた。
「あの、スレイプニル様。俺の手に触れてくれませんか?」
そして、そう言ったケレスがラニーニャが触れていない方の手を差し出すと、
「わかりました」
と、言って、新生スレイプニルはケレスのその手に自身の鼻を突き合わせた。
すると、ケレスは瞳を閉じた。
さて、拝見させてもらおうか……箸渡しとやらをね!)
そう、ケレスは今、喋れないラニーニャの為に"箸渡し”を実行したのである。
"箸渡し”とは、精霊と人との互いのマナを繋ぎ、心を伝える技で、
読心術の応用である。
これならば今のラニーニャと新生スレイプニルはケレスの心の中で話す事が可能だ。
そう、ケレスとラニーニャが読心術で心を繋ぎ、
それと同時にケレスと新生スレイプニルが"箸渡し”で心を繋ぐ。
だが、"橋渡し”を使える者はごくわずかで、さらに精霊神との対話でそれを使った例等、
アルトは聞いた事もなかった。
しかも読心術と同時進行と言ったかなりの高度な術が求められる。
それでもアルトは何故かケレスを信じる事が出来たのである。
そんなアルトは座って静かにケレス達の様子を見守る事にした。
次回【倒された運命のドミノの中で ~闇の番人の意味深な言葉と笑い~】
投稿予定日は2026年9月21日☆
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