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番外編 龍宮 アルトの憂鬱  作者: 紅p
第五章   倒された運命のドミノの中で
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050 ~救いの神子再び~

 息を飲んでラニーニャの祈りを静かに見守っていたアルトの前でとてつもない奇跡が起こる。

 その奇跡は目を開けれなくなる程の輝きの中で起こったが、アルトはしっかりとその目に焼き付けた。

 そして、その輝きがなくなると……。

 アルトは息を飲んでラニーニャの祈りを見守っていた。

 不思議な事に満月が光る程度のミラの船着き場でも

目前の瞳を閉じている着物姿のラニーニャの背中は、はっきりと見えた。

 すると、そのラニーニャの体が白銀に輝き出したのである。

 しかもその輝きの強さはどんどん増していき、

あっという間に満月の輝きを飲み込み、アルトが目を開けれなくなる程までとなった。

 こ、この力は!?

 見えなくともラニーニャの力の前にアルトは全身に鳥肌が立ち、身震いした。

 だが、アルトは薄目を開け今起きている奇跡をしっかりと目に焼き付け様とした。

 そんなアルトの薄目の間から見える奇跡は神々しい光がラニーニャから溢れ出し、

ミラの街を優しく包んでいくものだった。

 そして、その輝きが薄れるとアルトは、はっきりと目を開ける事が出来たのである。

 そのアルトの目には一見、先程と変わらぬミラの街が広がっていた。

 だが、明らかに違いをアルトは感じていた。

 この街は救われた……。

 それに、ジャップも!

 アルトはそう確信出来たのだ。

「ほっほう。さすが、嬢ちゃん♪」

 アルトと同じ事を確信したヘルは大きな鼻を上に上げる。

 満足しているのだろう。

 その後ろ姿からでもわかった。

「せ、先輩。凄すぎる……」

 まだふるえが止まらないアルトの口からは言葉が漏れた。

「やはりな……」

 それから右隣にいるケレスの頭の上にいるユミルが呟く様に言うと、

ケレスの左肩にいるアウズンブラは何度も頷いた。

「喜蝶、やったな」

 そして、ラニーニャに近づきながらそう言った炎(イェン)が右手で優しくラニーニャの左肩を抱き寄せると、

ラニーニャは嬉しそうな顔で頷いた。

 そんな二人はアルト達に向き直った形となった為、二人の嬉しそうな顔がはっきりと見えた。

「姉ちゃん。ありがとう!」

 そのラニーニャにケレスが笑顔を向けると、

炎(イェン)に寄り添っているラニーニャは首を横に振って微笑んだ。

「先輩、こんなに目立つ事をしたら人が集まって来ます! 早く帰りましょう!!」

 そこでアルトはこの事に気付き、そう言ったが、

「はぁーあ……。これだから、お坊ちゃんは、さぁ……」

と、何度も大きな溜息をつきながら言ったヘルは顔の左半分だけをアルトに向け、

チロリと嫌な視線を送ってきたのである。

 そのヘルの態度に苛立ったアルトの眉間にはしわが寄った。

「何だい? その言い草は!」

「俺様がいるんだよぅ? 周りの奴等に見せるヘマをするとでも思うのかい?」

 だが、顔を左上に上げたヘルから見られたアルトのその眉間のしわは無くなった。

「まさか……君はそんな事も出来るのかい?」

「御名答! お坊ちゃんも出来る様になったねぇ♪」

 そんなアルトはゆっくり左側に近づいて来て止まったヘルから頭を尻尾で、よしよしと撫でられた。

 さらに逆方向に並んでいるヘルはアルトに顔だけを向け、目を細めて大きな鼻を見せつけてくる。

 これは褒められているのか馬鹿にされているのか……。

 恐らく後者であると考えたアルトの眉間にはまたしわが寄った。

「意外と君はやるんだね……」

「そうでしょ? もっと、褒めて、褒めて♪」

 それでも腕組みしたアルトがヘルを見直していると、

調子に乗ったヘルは喉をゴロゴロと鳴らし出した。

 その時だった。

 急に炎(イェん)に抱き寄せられているラニーニャがある方向を見て

何かを言いたそうに炎(イェン)を見つめたのである。

 すると、

「喜蝶、どうした?」

と、炎(イェン)に聞かれたラニーニャは炎(イェン)の左腕を右手で引っ張り、

「何処かに行きたいのか?」

と、また炎(イェン)がラニーニャに聞くと、

「まさか、この感じは!?」

と、ユミルが叫んだのだ。

「オサ殿? どうしたんだ?」

「代替わりが、始まる……」

「代替わりだって!? スレイプニル様のか?」

 静かに話すユミルを見上げながら話していたケレスの目は丸くなり、大声を出した。

「そうじゃ。じゃが……」

 だが、ユミルは奥歯にものが挟まった様な言い方をしたのである。

「何だよ? 何か言いたそうだな……。はっきり言ってくれ!」

「このままでは、代替わりは失敗に終わる」

 そして、ケレスが挟まっていたものを突くとユミルはそれを出したのだ。

 代替わりが失敗に終わる、だって!?

 そ、そうか……祟り神が発生したせいでマナは不足し地は汚れてしまっている。

 このままだとそうなってしまうのか……。

 それはアルトの思った通りだった。

 それと同じ様な説明をユミルは皆の前でしたのである。

 そのユミルとケレスはまた話し始めた。

「そんな!? もし、代替わりが失敗したらどうなるんだよ?」

「簡単な事じゃ。守り神がいなくなる。それだけじゃ」

 焦っているケレスとは対照的にユミルは終始、落ち着いていた。

「守り神がいなくなると、どうなるんだ?」

「質問が多いな!」

 そして、ゴクット唾を飲み混んだケレスの正面にヘルがすっと位置を変えた。

「あの地はなぁ……、終わるんだ。何もかも失って、なぁ♫」

 すると、多くの歯を見せながら不気味に笑ったヘルはそう話したが、

「終わる? 失う?」

と、この状況を全くわかっていないケレスは言葉を並べたのである。

「守り神はその地のマナを守ってきた。

 その守り神がいなくなるって事は、その地にマナがなくなると言う事だろう」

 険しい顔になってもアルトが冷静に説明すると、

「御名答! さぁすが、お坊ちゃん♪」

と、言った上機嫌なヘルは右後ろ足を軸にその場で、くるっと左に一回転した。

「そんな!? それじゃあ、ニョルズはどうなるんだ?」

「滅ぶんじゃなぁい?」

 そのヘルにケレスは言い寄ったが首を少しだけ右に傾けたヘルは猫撫で声を出すだけだった。

「簡単に言うなよ!!」

 眉を顰めるケレス。

「仕方がないじゃない? 爺さんも言ってたでしょ? 自業自得なーの!!」

 そう言ったヘルは、トンッと音を立てラニーニャの傍に飛び跳ねて行った。

 その距離は数メートル程か。

「嬢ちゃんをこれ以上、困らせないでね!!」

 そこでそう怒鳴ったヘルは鋭い金色の目でケレスを睨んだ。

 ケレスはヘルを睨み返す。

「ヘル、やめろ!」

 だが、そこに袴スタイルの炎(イェン)が仲裁に入ったのである。

 ちなみにその炎(イェん)の装いはメイサが揃えたもので、

袴は濃い灰色でその上の半着(はんぎ)は爽やかな水色だった。

 勿論、その腰の左側には炎(イェン)の身長の半分程の長さの刀が刺さっている。

「どういうつもりだい……炎(イェン)坊ちゃん!!」

 ヘルはケレスに向けていた睨みを右隣にいる炎(イェン)に向けた。

 しかも姿勢を引くくし威嚇している。

「喜蝶、お前はどうしたいんだ?」

 だが、ヘルを無視した炎(イェン)が話し掛けると、ラニーニャは炎(イェン)を見つめて微笑んだのである。

「わかった……。俺も行く。安心しろ」

 そして、そう言った炎(イェン)がラニーニャに微笑み返すと、

「おいおいおい!? 勝手に話を進めてるんじゃない!」

と、何度も瞬きしたヘルは叫んだ。

「先輩は代替わりを成功させたいんだ。スレープニル様との約束を守る為にね。

 僕も行きますよ。約束ですからね」

 そのヘルを無視したアルトが髪をかき上げながら言うと、ラニーニャは嬉しそうに笑って頷いた。

「おいおいおい!? 俺様の話を聞けって!!」

「姉ちゃん、勿論俺も行くからな!!」

 そのアルトの言葉で焦ったヘルは叫びながらラニーニャと炎(イェン)の間に入ろうとしたが

ケレスからその声をかき消す程の大声を出されてしまったのである。

 そのケレスの声にもラニーニャは嬉しそうに笑って頷いた。

「おいおいおいおい!?!? 爺さん。いいのかい?」

 そして、やけくそになったヘルはその場で足踏みを始めた。

 しかも右へ左へとうろちょろと動き回る。

「仕方があるまい。あの娘が決めた事じゃ。それに、守り神がいなくなっては色々と困るからの」

 だが、そう答えたユミルは溜息交じりにラニーニャの望みを受け入れたのだ。

「そうかもしれねえけど、さぁ……」

 ヘルはうろちょろ動き回る事はやめたが尻尾はまだピンピンと上下に早く動いていた。

 そう、まだ不服まみれだった。

「さっき、お前は何と言うたかの?」

「何て言ったかしらね?」

 そんなヘルにユミルが静かに問うと、

ヘルは尻尾を左右に動かし出し、明後日の方向を見てユミルとは目を合わさなかった。

「確か、姉ちゃんが出来る事をしないで、姉ちゃんの大切なものを守れなかったらどうするとか、

じゃなかったっけ?」

 そして、つっこんだケレスはヘルを見ながら含み笑いをした。

 その顔はとても嫌らしい顔だった。

「僕ちゃんは余計な事を言うなぁーーー!!」

 すると、強く瞳を閉じたヘルは尻を上げ怒鳴ったが、

「時間がない、行くぞ! バカ虎め!!」

と、ユミルがケレスの頭の上でピョンピョン飛び跳ねながら大声を出すと、

「だああぁ!! オサ殿、やめてくれ!!」

と、瞳を閉じて叫んだケレスは頭を押さえた。

「はぁ……。全く、嬢ちゃんはどこまで、お人好しなのかしらねぇ?」

 結局ケレス達に負けたヘルはそう言いながらトボトボとラニーニャの周りを時計回りに一周回った。

 そのヘルを困り顔のラニーニャは目で追っていた。

「乗りな、嬢ちゃん!」

 そんなヘルはラニーニャの前で止まって姿勢を低くした。

 すると、ラニーニャは不思議そうな顔をしたが、

「嬢ちゃんに何かあったら困るんでな! この時間なら俺様が絶対嬢ちゃんを守ってやる!

 野郎共には任せられねえし!!」

と、言ったヘルがラニーニャを、じとんと見ると、ラニーニャは、くすっと笑った。

 それからヘルの頭を優しく撫でたラニーニャがヘルの背に横向きに乗ると、

ラニーニャの右肩に乗っていた たぬてぃはヘルの頭の上に移動した。

「じゃあ、行くかね♪」

 こうしてラニーニャを背に乗せたヘルの号令でアルト達は歩いて雪桜の園へと向かう事となった。

 次回【倒された運命のドミノの中で ~奇跡の後に見せた彼の力~】

 投稿予定日は2026年9月14日☆

※この作品は無断転載禁止でございます♪

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