049 ~答え合わせをする時~
白い虎の精霊の前でアルトは次々と自身が辿り着いた答えを述べた。
すると、白い虎の精霊からは笑顔が消え……。
「ほう? 炎坊ちゃんを何故疑うのかい?」
「彼は剣の国の者。しかも、月の瞳の持ち主……。
となると、彼は帝一族の物だ。
あの国は鎖国制度に加え秘密主義が濃いから家族構成は知られてないけれど、
恐らく帝 氷月の弟にでも当たるのだろう。
信用しろって言う方が無理だね」
アルトのプレジャーボートの甲板の上で不気味に目を光らせた白い虎の精霊の問いに
腕を組んで立っているアルトは溜息をついた後、そう答えた。
そう、アルトはプレジャーボートの右翼側にラニーニャと並んで座っている炎の正体を
そう推測していた。
ちなみに月の瞳とは帝一族に代々受け継がれる瞳の名の事で、
マナを消滅させる力があると言われている。
「御名答! さぁ~すが龍宮のお坊ちゃんだねぇ♪」
すると、アルトの前で白い虎の精霊は上機嫌にゴロゴロと喉を鳴らし出した。
「君は彼がそうだと知っていて彼に協力するのかい……闇の番人 ヘル様?」
だが、アルトは白い虎の精霊に鋭い視線を向ける。
そう、アルトはさらに白い虎の精霊の正体にもそう目星を付けていたのだ。
ちなみに闇の番人 ヘルとは剣の国の守り神であるがその姿を見た者はほとんどいないと言う。
「ほほほう! まさか俺様の正体にまで気づくなんて!?
俺様、お坊ちゃんを見縊ってたカモ♪」
それを認めたヘルは何度も瞬きした。
「ヘル様、冗談を言っている場合ではないのですよ?
それにあまりふざけてばかりいるとケレスの頭の上にいる彼からまた怒られますよ?」
アルトは何故か肩を落として座っているケレスの頭の上にいるであろう鼠の精霊に目を転がした。
船首の方にいるアルトと左翼側にいるケレス達との距離は約一〇メートル程あるので
鼠の精霊の姿を見る事は叶わない。
そのアルトの前で不思議そうな顔をしたヘルは首を右にかたむけた。
「おんや? 何故に俺様が鼠の爺さんに怒られなきゃいけないのかい?」
「彼は、始まりの精霊神 ユミル様……。
そして、ベコ様は大地の母の精霊神 アウズンブラ様。違いますか?」
そのヘルにアルトが鼠の精霊とベコについて自身の見解を述べると、
「……さすがは龍宮の者だね。ここまで簡単に俺様達の正体を見破るなんて……」
と、言ったヘルの顔は真面目なものとなった。
「お褒めの言葉、感謝いたします♪」
「なぁなぁ、龍宮のお坊ちゃん? 俺様達の事は……」
そのヘルにアルトが勝ち誇った様にふっと笑うとヘルの顔は気まずいものとなった。
しかも下げた尻尾を申し訳なさ気に左右に揺らした。
「わかっています。誰にも言いませんよ。
ですが、婆やにはバレているでしょうからあきらめてくださいね?」
「まあね♪
実はメイサ嬢にはバレちゃってたから俺様、お坊ちゃんの屋敷に入れてもらえてたんだよねぇ~」
そして、ヘルの言葉を遮ったアルトだったが
目を細めたヘルから思いも寄らない事を告白されてしまったのだ。
その告白にアルトの目は丸くなる。
「えっ!? 婆やはそんな事までしてたのかい?」
「そぉ~よぉ!
メイサ嬢ったら最初っから俺様に気付くは正体を見抜くはで生きた心地がしなかったんだぜ?
それに、鼠の爺さんも牛々ちゃんだってそうだったんだ!
全くあんなに若井癖に凄い洞察力持ってんだから俺様達、困っちゃった♪」
首を優雅に左右に振りながらさらに告白するヘル。
「まあ、婆やだからね」
「お坊ちゃんも、な?」
ヘルとアルトは、ふっと笑い合った。
「またまた、お褒めの言葉、感謝いたします!」
「さぁ~てお坊ちゃん?
そろそろ目的地に着くからいつも通りで頼むぜい!」
「任せてください!」
そして、上品に言ったアルトが頭を下げるとヘルは両前足を前に伸ばした。
そんなヘルから任されたアルトは気を引き締めた。
こんなアルトとヘルの秘密の話から数分後の事である。
「大変長らく、お待たせしましたぁ! 当船はミラの港に到着しました♪」
頭の上に たぬてぃを載せた上機嫌のヘルがプレジャーボート中に響く声を出した。
「もう、着いただって!? そんな訳ないだろう?」
そして、ヘルの調子に合わせ右口角を上げたアルトは目の前にいるヘルをチラッと見た。
ちなみに今のアルトは腕を組んで座っている。
「それがそうなのよねぇ……お坊ちゃん♪ まあ、自分の目で確かめなよ♫」
それからヘルが不気味に笑ったその時、プレジャーボートを包んでいた闇の帷は消え去った。
すると、アルトの屋敷で見送ってくれたはずの満月がアルト達を真上から出迎えたのである。
さらに、船首方面には小さいながらもミラの港の灯りまでもが見えたのだ。
「う、嘘だ……」
ヘルから聞かされていたとは言え、ヘルの力を目の当たりにしたアルトの口は開けっ放しになった。
しかも気付かない内に腕を下し、ふらふらと歩いてミラの方へ近づいていた。
「ねぇ、俺様は嘘をつかなかったでしょ? わぁかったぁ、お坊ちゃん?」
だが、調子を崩さないヘルはアルトに纏わりついて喉をゴロゴロと鳴らす。
「これこれバカ虎!! おふざけはそのくらいにして、さっさと用事を済ますのじゃ!!」
そこにユミルの喝が飛んで来る。
「へえへえ。爺さんは、うるさいんだから……チッ!」
すると、ヘルは喉を鳴らすのをやめ舌打ちをした。
そして、チラリと金色の瞳をアルトに向ける。
「さあて、お坊ちゃん? 出番だよ♪」
「出番って、いったい何のだい?」
「何って……。俺様達を陸までその亀さんで運んでおくれなさいな♪
目立つこの船じゃ、ここが限界だもんね?」
不思議そうに尋ねたアルトにヘルは首を横に振りながら答えた。
しかもとても楽しそうなリズムにのせる感じで。
「浦島でかい!?」
驚いたアルトは何度も瞬きした。
「他に、亀さんはいるのかい?」
「そうだけど……」
そして、首を振る事をやめたヘルに少々苛立ったアルトは口を尖らせた。
「浦島、頼むよ」
それでもアルトが優しく言うと、
プレジャーボートの左翼側にほぼ音を立てず大きくなった浦島が海中から姿を現した。
「ほっほう。これは、これは♪ じゃあ、レディーファーストって事で!」
すると、浦島の甲羅にヘルは たぬてぃを頭に載せたまま飛び乗った。
その浦島の甲羅の中心にヘルが乗ってもまだ十分な広さがある。
「じゃあ、次は嬢ちゃんだ。炎坊ちゃん。ちゃんと、エスコートしなよ?」
そこでヘルが背を向けたまま顔だけチラリと炎を見ながら言うと、
「お前に言われるまでもない。喜蝶、行くぞ」
と、ヘルと目を合わさず言った炎は優しくラニーニャを見つめながら左手を差し出した。
そして、ラニーニャは小さく頷いて自身の右手を炎の左手に重ねて握った。
それから炎がラニーニャの手をしっかりと握ると二人で一緒にゆっくりと浦島の甲良に乗り込んだ。
プレジャーボートの左翼側にある出入り口と浦島との間には段差がほとんどなく
着物姿の二人でもスムーズに移動出来た。
「ケレス、行くよ」
「ああ。行こう」
そんな二人をケレスがぼんやりと見ていたので呆れたアルトが声を掛けると、
ケレスは反応し、アルト達も浦島に乗り込んだ。
「浦島、出発してくれ」
それからアルトの号令で浦島はミラの船着き場へと進んだ。
すると、ものの数分でミラの船着き場迄到達した。
勿論、音は立てず静かな時間だった。
だが、ミラの船着き場に近づくにつれ静けさが増した。
そう、ミラの船着き場には人気がなかったのだ。
余り灯りもなく、はっきりとはわからないがミラの街は滅びに向かっている感じがしたのである。
そして、そのミラの街を見つめていたラニーニャは悲しそうな顔をしていた。
「さあ、嬢ちゃん。俺様の背に乗りな!」
そんなラニーニャに声を掛けたヘルが姿勢を低くすると、ラニーニャはその背に横向きで座った。
さらにヘルの背にいた たぬてぃはラニーニャの膝に移動した。
それからラニーニャが合図をする様にヘルの頭を撫でると、
「よぉーし。行くぜぃ♪」
と、言ったヘルはラニーニャ達を乗せたまま闇に消えたかと思うと、
一瞬で数メートル離れた船着き場に姿を現したのだ。
あれが、僕達をここまで運んだ"闇歩き”の力……。
闇から闇なら何処でも移動出来るとは言え、実際目の前で見ると驚きだね!
アルトはヘルの力に感心していた。
「ヘル!? 姉ちゃん? たぬてぃ!?」
ケレスは何が何だかわからないと言う様に叫んだ。
「野郎共は自分でここまで来るんだな♪」
「ど、どうなってるんだ!? 信じられないよ!!」
そして、尻尾を優雅に左右に振りながらヘルが目配せしてきたので
それに気付いたアルトはケレスの調子に合わせ動揺しているふりをした。
「アルト。俺達も行こう!」
「そ、そうだね!」
ケレスに言われ色々と振り回されていたがアルトは念じ、
浦島と協力して目の前に水の盾の大きな泡を出現させた。
淡い青の輝きを放つ泡はアルト達三人が乗ってもまだ余裕がある大きさだった。
「さあ、これに乗ってくれ」
「これって、バルの時の泡か?」
アルトの向かいにいるケレスはその泡を左手の人差し指で突き出した。
「そうだよ。僕達が乗っても割れないから、これに乗って上陸しよう」
アルトはその泡を右手でポンポンと叩きながら答える。
「じゃあ、行くよ」
そして、その泡の上でアルトがそう言うと
アルト達三人を乗せた泡はゆっくりとミラの船着き場まで浮遊して行ったが、
「やっと来たのかい? 待ちくたびれたよぅ……」
と、アルト達が到着するや否や
目の前にいるヘルから尻尾を上下に動かしながら不服そうに言われてしまった。
さらにその泡が消えアルト達が地面に足を付ける間に
ヘルは尻を上げて背伸びをして待ちくたびれた感をアピールしてくる。
「さあて、嬢ちゃん。出番だぜ? 周りは気にすんな。俺様がいるんでな!」
だが、急に態度を変えたヘルが左隣に立っていたラニーニャを見上げて言うと、
頷いたラニーニャは瞳を閉じ天に祈りを捧げた。
先輩……。どうか……。
アルトはそのラニーニャを息を飲んで見守った。
すると、アルトはこの後すぐにとてつもない奇跡を目の当たりにする事となる。
次回【倒された運命のドミノの中で ~救いの神子再び~】
投稿予定日は2026年9月3日☆
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