044 ~今、出来る事~
ラニーニャを無事に屋敷にまで運ぶ事が出来たアルトはそこで集まった者と話し合う事になった。
その話し合いの冒頭でメイサは漆黒の炎を操る男に何ものであるのかを問うた。
すると、その男は言葉を濁したがメイサは特に追及する事はなく……。
アルトは無事にラニーニャをアルトの屋敷に運び入れる事が出来た。
さらにラニーニャを寝かしつける事も出来た。
そんなアルトはこれからアルトの屋敷に集まった者達と話し合う事となった。
まずアルトの屋敷にいる者はアルトにメイサ。
それからラニーニャの祖父であるハーゼ・ホフマン。
そして、漆黒の炎を操る男、炎だった。
彼の名は、炎……名前からしてもやはり彼は……。
その漆黒の炎を操る男の正体にかなり近づいたアルトの眉間にはしわが寄っていた。
何故ならその男がアルトの予想通りならば、決してラニーニャに近づけてはならない。
それどころか敵になるかもしれなかったからである。
厄介な事になったね。婆やの話からすると、先輩は見張られていた……。
やはり彼が見張っていたという事だろう。
アルトは冷ややかな目でその男を見張っていた。
メイサによるとアルト達と合流した時、破壊したが一台の p?がアルト達を見はっていた。
正確に言えばラニーニャを見はっていたのだろうがそれを誰が配備したのか?
いつからラニーニャは見張られていたのか?
それにあのタイミングでその男が現れた等々と考えるとその男を信用する事は出来なかった。
その男は苦悩な表情を浮かべ、眠っているラニーニャを見守っていたが、
その男を見ているとアルトは気付かない内にどんどん眉間にしわが寄っていったのである。
「少し落ち着きなさいな」
すると、そう言ったメイサがアルトの肩に優しく手を置いた。
「すまない、婆や……」
そして、そう言えたアルトの眉間のしわは少しだけ減る。
「ほほ。いざとなったら私奴もいますので!」
「そうだったね!」
さらにメイサから目配せされるとアルトの眉間のしわは無くなった。
「さあ、始めましょうか?」
それからメイサのこの言葉でラニーニャ都は別室で話し合いを始める事となった。
そこではピンと張り詰めた空気が流れ、皆険しい顔で正座していたが、
「さて、皆様。私は鼓 メイサと申します。
アルトお坊ちゃまの執事を務めさせていただいている者です。以後お見知りおきを」
と、メイサの言葉から話し合いは始まった。
「メイサ殿。この度は何と礼を言って良いものか……」
そこでラニーニャの祖父は深々と頭を下げた。
「ホフマン様。我々は当然の事をしており、その様な事は不要!
それより、これからの事を話し合わねばなりません」
「そ、そうじゃったの……」
だが、厳しい顔のメイサは話しを修正させ、
そのメイサで彼は顔を上げたが、その顔は気まずいものだった。
「いえ。では……」
その彼を見たメイサは一度視線を下し、深く息を吸った。
「……炎様。あなた様は何者ですか?」
そんなメイサは眼光鋭く漆黒の炎を操る男を睨みつけ、問うたが、
「俺の正体は今は言えない」
と、その男は表情崩さずそう答えたのだ。
その態度でメイサの眼光は一段と鋭くなった。
「ほう……何故に?」
「理由は話せない。だが、信じてくれ。
俺は喜蝶の味方だ。命を懸けても、守る!」
その男はメイサの眼光に負けない強さでメイサを真直ぐ見つめた。
「……まあ、いいでしょう」
すると、その眼差しにメイサは一つ息を吐き、握っていた扇子の手を緩めたのである。
「婆や!? 何を言ってるんだい? 彼は……」
そんなメイサに納得がいかないアルトは立ち上がろうとした。
バシンッ!!
が、顔面にメイサの扇子が直撃し、立ち上がれなかった。
「……っっ!」
あまりの痛さで顔を押さえ、瞳を強く閉じているアルトは悶絶した。
「龍宮の者、大丈夫か?」
「大丈夫ですわ。手加減はしておりますので♪」
そこに彼の心配する声を遮るメイサの楽しく、そしてそれ以上何も言わせないといった声がすると、
「あぁ……」
と、彼はそれ以上何も言えなかった。
っうぅ……! 全く、婆やったら!
これのどこが手加減なんだい? 滅茶苦茶痛いじゃないか!!
どうして、いつもいつも扇子をぶつけるかな!
いや、今はそんな事よりどうして婆やはあの男に何も言わないんだ?
額を摩りながらアルトは考えた。
何故、敵である可能性が高いその男に対してメイサは何も追及しないのか。
だが、答えは出なかった。
揚げ句の果てにメイサはその後、特に話す事なく話し合いを終わらせ、
その男に部屋だけでなく着替えまでも用意したのだ。
ー●
全く、婆やは何を考えているんだい!
あんな男にどうしてああまでするかな!!
話し合い終了後、自室で一人で待機していたアルトはイライラしていた。
そして、行き場のない怒りを抑える為、部屋をウロウロし続けていた。
すると、
「龍宮の者、少し良いか?」
と、ノックの後、ラニーニャの祖父の声がしたのである。
「あっ、はい。どうぞ!」
その声に慌てて立ち止まり表情を直したアルトが返事をすると、
音を立てずに彼は引き戸を開けた。
だが、その彼は何か思いつめた顔でアルトを見つめてきたのである。
「立ち話も何ですので……」
それからアルトは自室にある畳張りの部屋に彼を招き入れた。
だが、向かい合って座り、暫く経っても彼は一言も喋らなかった。
「あの……何か僕に話があるのですか?」
「ああ、そうじゃったの……」
アルトの声で思い出したかの様に彼は口を開いた。
「この度は儂等の為の数々の行為、何と礼を言ってよいものか……」
それからそう言った彼は頭を畳のすれすれにまで下げた。
「先輩のお爺様。その様な事はなさらないでください。
婆やも言ったじゃないですか? 僕達は当然の事をしているだけなのですから」
「そう……じゃったの……」
アルトの優しい声で言葉を漏らしながら徐に彼は体勢を戻した。
「すみません、先輩のお爺様。先に先輩の容態を伺っても宜しいでしょうか?」
その彼にずっと気掛かりだった事をアルトは尋ねた。
今、ラニーニャは別室で眠っており、それをラニーニャの祖父とメイサとで看護している。
ラニーニャを運び入れてから何時間も経つがアルトはずっとラニーニャの顔を見ていない。
なのでとても気掛かりだったのである。
「……ふむ。まだ眠ったままじゃが、お前さん達のおかげで少しはよいみたいじゃ」
「そうでしたか……」
頷いた彼の答えにアルトは胸を撫で下ろす。
「で、先輩のお爺様、話と言うのは?」
「おお、そうじゃった……」
それからアルトが話を戻すと彼は一つ息を吐いた。
そして、アルトを真直ぐ見つめ話し始めた。
「龍宮の者。お前さんはこれからどうするべきだと思う?」
「それは先輩の事でしょうか?」
「そうじゃ」
「そうですね……」
彼と話していたアルトは大きく息を吐いて考えた。
本当は今すぐにでもラニーニャを昴の者に認めさせるべきなのだろう。
そうする事でラニーニャを傷つけた男、宝珠の国の皇子が手を出せなくなるからだ。
だが、今はそんな事が出来る状態ではない。
しかも、その事を何故かラニーニャは望んでいない。
なので彼の問いにアルトは答えられなかったのだ。
「……龍宮の者、すまぬの。これは老い耄れの戯言と思って忘れてくれ……」
すると、答えがない事を知っていた彼からは乾いた笑いが生まれる。
「申し訳ありません……」
その笑い声が耳を掠めたアルトの眉は下がってしまった。
「いいんじゃよ。儂の方こそすまぬの」
それでもそう言ってくれた彼はアルトに優しい目を向け、
その彼のおかげでアルトの眉は戻った。
「先輩のお爺様。今はその答えは出せませんが、どうか、先輩の傍にいてあげてください。
それが先輩が今、一番望んでいる事ですので。
僕も微力ながら先輩を守ります。ですのでどうか……」
そして、今出来る事をアルトは言葉と目で伝える。
そう、心を込めて……。
「龍宮の者……」
すると、アルトのその心が伝わった彼は目を潤ませた。
「わかった……。龍宮の者よ。お前さんは本当に優しいんじゃのう」
それから穏やかな顔になった彼はそう言って静かに立ち上がった。
そんな彼はアルトをそれ以上見る事なく退室した。
その彼を静かに見送り一人になったアルトはある事を悲しく呟く。
次回【倒された運命のドミノの中で ~悲しい呟きと虚しさ~】
投稿予定日は2026年8月17日☆彡
このエピソードから本編で掲載していた番外編を進めたものとなります
※この作品は無断転載禁止でございます♪




