043 点と点が繋がる時
アルト達の付近で何かが爆発する音が聞えた。
そして、その音の方を見るとそこにある者がいたのである。
その者はアルト達をある所まで導くのだが、
その途中でアルトの頭の中で次々と点と点が繋がっていく……。
ボンッ!
ラニーニャを浦島の背に乗せたアルト達の近くで何かが爆発する音が響いた。
「何だ!?」
驚いたアルトがその音の方を見ると、
そこには開いた扇子で埃を払う様な仕草をしたメイサがいたのである。
「アルトお坊ちゃま、申し訳ありません。少々、蠅が気になったものですので……」
「婆や……」
静かに話し始めたメイサを見たアルトは、ほっとした。
パンッ!
すると、小さく頷いたメイサは扇子を閉じた。
「さあ、急ぎますよ!」
「ああ、わかった!」
メイサの言葉にアルトは力強く頷いた。
そして、ラニーニャの祖父に目を転がす。
「先輩のお爺様。行きましょう!」
「わかった……」
了承しし頷いた彼を見たアルトは後ろめたかったが、ケレスを放置して歩みを進めた。
ー●
アルト達はニョルズの片隅に停泊させていたアルトの飛行艇に乗り込み、宝珠の国を出航した。
(とりあえず誰にも会わなかったのはよかった……)
飛行艇で胸を撫で下ろしたアルトがソファーに腰掛け空の海を眺めていると、
「安心するのはまだ時期尚早ですよ?」
と、茶を運んで来たメイサに注意された。
「すまない、婆や……」
「何があったのか話していただけますね?」
その茶を受け取ったアルトの眉は下がったが厳しい顔のメイサに何があったのか全てを話した。
そして、アルトはアルトが辿り着いた真相をも話した。
そう、それはラニーニャこそが救いの神子であるという事……。
こんな事を話しても誰も信じる訳がないと思ったがアルトは話したのである。
だが、
「そうでしたか……」
と、アルトの左隣でどっしりと腰を掛けているメイサはその一言だけを発したのだ。
そのメイサに驚いたアルトは何度も瞬きする。
「婆や!? 君は何か言いたい事はないのかい?」
「言いたい事とは?
「いや、だから君はこんな馬鹿げた話をすんなり信じるのかい?」
首を傾げているメイサにおずおずしながらもアルトは聞いた。
バシッ!
すると、アルトの額にあの衝撃が走る。
そう、メイサによりアルトの額に扇子が叩き付けられたのだ。
「……っ! わかっていたけど、痛い!!
そこから生じた痛みにアルトが歯を喰いしばり、額を押さえながらメイサを睨むと、
「馬鹿げた事ではありませんよ!
それにアルトお坊ちゃまは私を誰だと思っていらっしゃるの?」
と、言ったメイサの目尻はキッと釣り上がっていたのである。
それに臆したアルトの眉は下がってしまった。
「わかっているけど……。何も、扇子を叩き付けなくってもいいんじゃ……」
「……私も少々腑に落ちない処があったのです」
「腑に落ちない処?」
目尻が戻ったメイサの言葉に今度はアルトが首を傾げた。
「ええ。あの大恐慌が終わってもビフレスト山に続いている異変……。
アルトお坊ちゃまもお気づきでしょう?」
このメイサの言葉で、はっとしたアルトの頭の中でどんどん点と点が繋がっていく。
そう、ビフレスト山で続いている異変。
それは、世界樹があるにもかかわらず、ビフレスト山はマナが不足してきている事である。
正確に言えば不足ではなくマナを保てなくなっているのだが、そうなっている理由は一つしかない。
それはマナを保つ力を持つ精霊神がいなくなったという事だった。
ちなみにビフレスト山には、ユミル、アウズンブラ、ノルン、青龍といった四大精霊神がいる。
何故そんなビフレスト山にいるはずの四大精霊神達がいなくなったのか?
その理由はたった一つだった。
そう、四大精霊神達は昴の者達の行いで人を見限りビフレスト山を去った……。
そうか……やはりそうなんだ!
先輩のお爺様が言った事は間違っていなかった!
証拠はこんなにあるのに、それなのにどうしてこんな事になっているんだ……。
どうして先輩は……。
アルトはやっと今のこの世界の真相に辿り着いた。
だが、どうしてもわからない事が二つあった。
一つはアマテラスのお告げがあった日の真相。
もう一つはラニーニャの望みの意図。
一つ目のそれは考えても徒労に終わる。
何故ならそれを考えた処で証明出来ない限り、それは推論でしかないからだ。
では、もう一つはどうか?
アルトはラニーニャの傍にいて、ラニーニャの事を知ったはずだったがわからなかった。
それこそラニーニャが望めば全ては解決する話なのに、ラニーニャはそれを望んでいない。
そのラニーニャの気持がどうしてもアルトにはわからなかったのだ。
答えが出ないアルトは頭を抱え俯いた。
すると、
「モウ、モウ、モウ……」
と、聞き覚えのある泣き声が聞こえてきたのである。
「こ、この声は、ベコ殿!?」
「あなた様は!?」
その声で顔を上げたアルトと息を飲む程驚いたメイサの前にある机に
徐にベコがトコトコと歩いて入って来た。
「婆や。彼女はベコ殿だ。
彼女の贈与と治癒の力で僕は助かったんだ!」
「そう……でしたか……」
そのベコを見たアルトの声は嬉しさのあまり弾んだが、
ベコを見たメイサの顔は一瞬で何かを察していた。
「ベコ様。アルトお坊ちゃまを助けていただき、誠にありがとうございました」
それでもメイサが深々とベコに頭を下げると、
「ゥモウ、モウ、モウ……」
と、ベコは満足そうに鳴きながら首を縦に振った。
「ベコ殿。いつの間に飛行艇に乗り込んだのですか?」
そんなベコにアルトがそう聞くと
アルトのポケットから抜け出した浦島が、のそのそとベコの前まで歩いて来た。
「ウモウ、モウ、モウ……」
すると、ベコが浦島に感謝する様に鳴きながら首を縦にふり、
「そうか。浦島が乗せてあげたんだね!」
と、言ったアルトが浦島に笑い掛けると浦島はコクコクと首を縦にふった。
そして、その一連の流れを見守っていたメイサが一つ息を吐いて話し始めた。
「さて、状況を整理出来た処で、私の方も少し話させていただきますね」
「ああ、婆や。そう言えばどうして僕の居場所がわかったんだい?」
「はい。昨日イヴ様からご連絡がありましたので」
アルトの問いに答えたメイサは小さく頷いたがその顔は厳しいものだった。
それでも気恥ずかしくなったアルトの頬は赤くなる。
「そうか。姉上が……」
「はい。それでだいたいのアルトお坊ちゃまの居場所は把握していたのですが、
乙姫がどうも胸騒ぎがすると申しまして……。
それで私はニョルズ付近に待機していたのです」
「さすが乙姫だね」
厳しい顔のままのメイサと話していたアルトは一つ息を吐いた。
すると、のそのそと赤い肌を持った乙姫がアルトの前まで歩いて来た。
ちなみにこの乙姫も寿族である。
そんな乙姫は長きに渡り龍宮家に仕えている女性だ。
「ほほ。そこは乙姫ですので」
そう言ったメイサは乙姫の甲羅を優しく撫でたが、
「さて、これからラニーニャ様をアルトお坊ちゃまの屋敷に運び入れます。
そこでひとまずは落ち着けるでしょう。
ですが、あの男の正体がアルトお坊ちゃまの想像通りでしたら厄介な事になりましたね……」
と、言ったメイサの眼光は鋭くなった。
そう、アルトはラニーニャを助けた漆黒の炎を操る男についてある推論を立てていた。
だが、もしこれがアルトの推論通りならば、その男はアルト達の敵となるのである。
「そうだね。まだ何とも言えないけれど、あの男は先輩の昴での名を知っていたんだ。
これが何を意味するのかが重要だね」
そんなアルトの顔が厳しいものに変わると、
「そうですね……。
いずれにせよ、ラニーニャ様に危害を咥え様ならば、誰であろうと容赦は致しませぬ!
アルトお坊ちゃま、宜しいですね?」
と、閉じられた扇子でピシャリッ!と左掌を叩いたメイサは己の覚悟を伝え、
「ああ。構わないよ。僕達で先輩を守ろう!」
と、アルトも覚悟を伝えた。
そうやって話をしているとアルト達は水鏡の国の端にある島、アケルナル島に到着した。
この島は丸ごとアルトの所有物となっており、この島にアルトの屋敷がある。
そして、アルトとメイサ以外の人間は立ち入る事が出来ぬ様に、
この島にはメイサによる金城湯池の結界が張り巡らされているのだ。
金城湯池とはメイサが扱う水の盾の名である。
この金城湯池はいかなる敵もその結界の中に入れる事を許さない技だ。
そして、そんなアルトの屋敷に密かにラニーニャを運ぶと時刻は夕暮れに差し掛かっていた。
ここまで来ると一時しのぎとは言え、アルトは少しだけほっとする事が出来たのである。
だが、これは本当に一時しのぎにしかならなかった。
何故なら、この後にまた運命の悪戯が倒したドミノが襲いかかってくるのだから……。
次回【倒された運命のドミノの中で ~今、出来る事~】
投稿予定日は2026年8月10☆
次話から章が変わるよ~☆
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