042 ~小さな救世主の到来~
アルトの窮地を救ったのは小さな存在だった。
だが、その存在に対し、ラニーニャの祖父はその名を呼んだ。
その存在に感謝しつつアルトがこれからの事を考えていると紅蓮の炎がまた沸き上がり……。
「モウ、モウ、モウ……」
上半身を起こしたアルトの前にいたのは掌ぐらいの大きさの赤い牛の精霊だった。
そして、その牛の精霊は鳴きながら何度も首を縦に振り、アルトに何かを語り掛けてきたのである。
「君は、一体……」
アルトがその牛の精霊の気持を汲もうとすると、
「ベコ殿。助かりました……」
と、言ったラニーニャの祖父はその牛の精霊に深々と頭を下げた。
「ベコ殿? 彼女はベコ殿と言うのですか?」
「そうじゃ。ベコ殿は地のマナを吸収し、他のものに分け与える事が出来る精霊じゃ。
それとお前さんの様に、治癒術も使えるんじゃ」
アルトの問いに彼は頷く。」
「そうだったのか……。
ベコ殿、数々の行為、感謝します!」
そして、アルトも深々とベコに頭を下げ、その感謝の意を伝えると、
「モーウ、モウ、モゥ……」
と、鳴きながらベコはゆっくりと頭を縦に振った。
しかし、どうしたものか……。
アルトがケレス達の方に目をやるとそこは惨状が広がっていた。
そう、木々も、そこに生えていたであろう草も、地面ですら焼け焦げていたのだ。
いや、そうではない部分もあった。
それは、場所によっては地が死んでいたのである。
マナを全く感じれなくなっていたのだ。
あの部分はあの男の漆黒の炎のせいだろう……。
だとすれば、まずい事になったね……。
アルトは漆黒の炎の力を使った男の正体を考えた。
そして、一つの答えに辿り着いていた。
だが、これがアルトの予想通りならば、決してラニーニャをその男に近づけてはならない。
そういう事になってしまう。
さて、どうするか……。
とりあえず先輩を避難させる事が優先だけど、何所にそれがあるんだ……。
アルトは考えたが、答えはなかった。
ブブブッ……。
すると、ポケットに入れていたアルトの携帯電話が振動する。
「誰だ? あっ、ば、婆や!?」
その発信者を見たアルトは思わず叫んだ。
そう、その発信者はメイサだったのだ。
何で今、電話してくるかな!
今電話している場合じゃないのに……。
その発信者の名を見たアルトは、イラっとした。
だが、ある事を思い出したのである。
ーー
『 そして、覚えておいてください。
あなたは、一人ではない、という事を。
私はいつ如何なる時も、アルトお坊ちゃまの味方である、という事を……』
ーー
婆や……君を信じるよ!
意を決したアルトは電話に出た。
「早く出なさい!」
が、いきなり電話越しにメイサに叱られたのである。
その事にさらに苛立ったアルトだったが、ぐっと堪え、メイサと話す事にした。
「婆や、いきなり怒る事じゃないだろう? 僕だって色々と大変だったんだ!」
「お黙りなさい! 昨日から私は何度も電話しているのですよ!!
それを何ですか? 謝るどころかその様な口草は!!」
「そ、それは悪かったよ……」
メイサに捲し立てられたアルトは何も言えなくなった。
だが、
「……今からそちらに向かいます」
と、メイサから思いも寄らない事を言われたのだ。
そして、息を飲んだアルトだったが話しを続ける。
「婆や、君は何を言ってるんだい?」
「……ラニーニャ殿に何かあったのでしょう?」
「そ、そうだけど、どうして……」
「話は後です。そちらを出立する準備をなさってください」
ブッ。
メイサの方から電話を切った。
婆や……
切られた携帯電話をアルトが呆然と見つめていると、
「今のは?」
と、彼から問われた。
そして、アルトは自身を落ち着かせる為に一つ息を吐く。
「僕の執事です。とても信頼出来る人物です。
ですので、今からここを離れる準備をなさってください」
「じゃ、じゃがそれではお前さん達に迷惑が……」
「言ったでしょう?
僕は先輩の傍で、先輩を守るって。
それに彼女も同じ気持ちです。
今はそれしか言えませんが、どうか僕達を信じてください!」
困惑した彼にアルトは言葉で、そして目で自身の覚悟を伝えた。
すると、彼は目を潤ませ、アルトに深々と頭を下げた。
さて、ケレスには申し訳ないけど、ここでお別れだね……
アルトはこれ以上ケレスを巻き込まない様にする為、そう決めた。
なので、ラニーニャと彼とでここを離れ様とした。
だが、そのアルトの目の前で有ろう事か、漆黒の炎を操る男が覚醒したのである。
そう、その男は顔を顰め額に手をやって首を横に振っており、
まだ状況が飲み込めていない様だったが立ち上がったのだ。
な、何であの男が目を覚ましたんだ!?
マンドレイクの悲鳴を聞いた者は一週間は目を覚まさないはずなのに……。
目の前で起きている事実に動揺したアルトが動けずにいると、
「……バルがあの男に蜜を飲ませたのであろう」
と、彼の呟きが聞えてきた。
「そ、そうか……。
悲鳴を聞かせたマンドレイクの蜜は、気絶させた者を覚醒させる事が出来るのでしたね……」
「今はあの男と敵対しても仕方があるまい」
この状況に眉を顰めたアルトは小声だった。
そんなアルトは彼から諭される。
「そ、そうですね……」
そして、俯いてしまったアルトの前に浦島がいたのだ。
その浦島の顔は「自分に任せてほしい!」と言っていた。
「浦島……。わかった!」
その浦島を信じアルトが立ち上がると、
「喜蝶は無事化?」
と、駆け寄って来た漆黒の炎を操る男はラニーニャを見て、違う名を呼んだのである。
えっ? キチョウ……?
もしやその名は昴での先輩の名!?
だとすれば、どうしてこの男がその名を知っているんだ?
アルトは漆黒の炎を操る男を色々と勘ぐった。
「……お前さん、どうしてその名を知っておる?」
すると、そう聞いた彼の顔は恐ろしくなっていた。
だが、
「……昔、彼女から聞いていた。
すまない。俺がもう少し早く到着していれば喜蝶をこんな目に合わせなかった……」
と、言葉少なく話した漆黒の炎を操る男は眉を顰め、深々と頭を下げたのである。
昔……。それは、いつの事なのだろう?
まあ、今はそんな事を考えても仕方がない。
早く婆やと合流して……。
そんな二人を静かに見守っていたアルトが警戒しながらもこれからの事を進め様とした時だった。
紅蓮の炎がラニーニャを傷つけた男を守る様に取り囲んだのだ。
それからその紅蓮の炎は爆音を伴いそのまま空へとその男を連れ去って行った。
「宝珠の国の守り神か!? どこまで彼は主人に忠実なんだ!!」
その紅蓮の炎を見送るアルトの顔は怒りに満ちたが、不意に浦島が大きくなった。
「ああ、そうだったね……。悪かった、浦島。
先輩のお爺様。早く先輩を浦島に乗せてください」
その浦島のおかげでアルトは怒りを鎮める事が出来た。
「わ、わかった!」
それから彼はラニーニャを浦島の背に乗せた。
そして、アルトはラニーニャを見つめる。
浦島の背に横たわっているラニーニャの顔は白蝋の様に白く、かろうじて息はしていた。
そう、早く安全な所で休ませなければどうなるのかわからない状態だったのだ。
そんなラニーニャを見たアルトの眉間にしわが寄ると、
漆黒の炎を操る男はそっと自身の上着をラニーニャに掛け、その上にふわっと たぬてぃが座った。
先輩、申し訳ありません……。
あなたを守ると言っておきながら……。
そう覚悟を決めていたのに、僕は……。
その光景が目に焼き付いたアルトは後悔の念に襲われた。
それからアルトの胸に突き刺さる後悔は激しい痛みとなる。
そして、その痛みを堪える為、アルトは拳を強く握り締めた。
すると、
「キャ!」
と、鳴いたバルがアルトの傍に駆け寄って来た。
「バル君、どうしたんだい?」
そのバルにしゃがんでアルトは視線を合わせると、
「キャア!」
と、バルからは「頼んだよ!」と訴えられたのだ。
「バル君……。ああ、わかってる!
今度こそ、守ると約束する!
だから、僕を信じてくれ!」
そして、そう伝えたアルトは優しい目でも語り掛け、大きく頷いた。
だが、その時だった。
ボンッ!
この場に何かが爆発する音が響き渡った。
次回【点と点が繋がる時】
投稿予定日は2026年8月5日☆
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