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番外編 龍宮 アルトの憂鬱  作者: 紅p
第四章   心をざわめかす言葉
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041 ~白銀の天使と漆黒の悪魔の到来~

 治癒術を続けるアルトに小さな天使がそっと舞い下りた。

 すると、その天使はとてつもない奇跡を起こす。

 そして、何が起きたのかがわからないアルトの前に今度は漆黒の悪魔が現れる……。

 治癒術を続けるアルトの傍に、ひらひらと近づいて来たものは白銀に輝く小さな一枚の花弁だった。

 その何処からか舞って来た花弁は、そっとアルトの手の甲に落ちた。

 その事にアルトが気付く事なく治癒術を続けていると、その花弁は奇跡を起こす……。

 そう、その花弁はそのままアルトの手の甲に吸収されたがその時だった。

 アルトの治癒術の光が、誰もが目を開けれなくなる程光輝いたのだ。

 それは白銀の輝き。

 そしてその輝きが収まるとラニーニャの血は止まっており、か細いながらも息を吹き返していた。

 今のは一体!? 僕の力だけではこんな事は起こらないはず……。

 だけど、先輩は助かった!

 今、起きた奇跡に驚いたアルトは、ほっと胸を撫で下ろしたが、

徐に宝珠の国の皇子が自身が持つ銃口をラニーニャに向けたのだ。

 それでアルトはわかった。

 ラニーニャを傷つけたのはこの男であるという事が。

「何をするんだ!? あなたは、間違っている!!

 先輩はもう傷つけさせません!!」

 アルトはラニーニャの前に立ち塞がり、ラニーニャを傷つけた男を前に戦闘態勢をとった。

「すまんな……水鏡の者とはもめたくない。

 それに、お前には、関係のない事だ。邪魔をするな」

 だが、ラニーニャを傷つけた男が溜息をつくと、紅蓮の炎の塊からアルトは突き飛ばされたのだ。

 なっ!?

 一瞬の事で何が起きたのかわからなかったアルトは全身に走った激痛で一言も声を出せず、

ラニーニャ達から離れた処で倒れていた。

 そんなアルトは、はっきりと意識はあり、

目前に紅蓮の炎の様な体毛を靡かせている犬の精霊が いる事がわかった。

 その炎の犬の精霊は体毛が紅蓮に燃えている様に見え、見た目は朱雀一族に似ていた。

 だが、美しい黒褐色の瞳が際立つのに加え鋭い目つきの為、

顔立ちが朱雀一族より一段と凛々しいものに見えた。

「フィード。手加減しろよ」

 そして、ラニーニャを傷つけた男はその精霊をこう呼んだ。

 ま、まさか……彼はこの国の守り神!?

 だったら、何故、彼は先輩を傷つける事に加担しているんだ!?

 その犬の精霊を見たアルトは信じられなかった。

 そう、宝珠の国の守り神である精霊神が救いの神子であるラニーニャを傷つける事に加担したのだ。

 だが、この後、さらに信じ難い事が起こる。

 それはラニーニャを傷つけた男の前にラニーニャの祖父が何の抵抗もせず首を差し出した事だった。

 先輩のお爺様、何をしているのです!?

 動けないアルトの目の前では無情にも事は進んでいく。

 そう、何処からともなく深紅の炎が轟音と熱気と共にラニーニャ達の周りに一本ずつ沸き上がる。

 その高さは周りに生えている木々よりも高かった。

 そしてその炎柱の一本に宝珠の国の守り神は溶け込み、

炎柱の色を次々と紅蓮のものへと変えていった。

「チビ、すまんな……。儂に出来る事は、これぐらいじゃ。

 なぁに……怖くないからの。もう、お前一人に、苦しい思いはさせん……」

 周りでそんな事が起きていてもラニーニャの祖父はラニーニャを強く抱きしめるだけだった。

 その二人と たぬてぃを無情にも紅蓮の炎柱達がまるで意志を持った様に取り囲んでいく。

 すると、その火柱は一つとなった。

 その轟音に紛れ、ケレスの怒鳴り声も聞こえた気がした。

 だが、ここにいる者では誰も運命の悪戯が倒したドミノを停める事は出来なかった。

 そう、倒されたドミノの終着点はラニーニャ達の死であったのだ。

 嫌だ……そんなの嫌だ!!

 誰か、どんな事をしてもいい!! 僕の命を奪っても構わない!!

 だから、先輩を救ってくれ!!

 あと一つのドミノが倒れれば終着を迎えるはずのところで、アルトは強くそう願った。

「ギャワワン‼」

 すると、宝珠の国の守り神の悲痛な叫び声が響く。

(何だ!?)

 そして、アルトがその鳴き声の方を見ると、

ラニーニャ達を取り囲んでいた紅蓮の炎柱は漆黒の炎に焼き尽くされていたのだ。

 さらに宝珠の国の守り神は紅蓮の炎から犬の姿に戻り、

その体が漆黒の炎で焼き尽くされ様としていた。

 何だ……何が起きたんだ!?

 宝珠の国の守り神が炎の攻撃を受けるなんて……。

 あの漆黒の炎は一体……?

 ラニーニャが助かる様に願ったものの、アルトは何が起きているのかわからなかった。

 だが、有り得ない現実を前にしたアルトの耳にこんな声が聞こえてくる。

「お主は?」

 その声の主はラニーニャの祖父だった。

 そして、彼の前には見覚えのある黒髪の若い男性が立っていた。

 そう、その男性はあのニブリヘイムでラニーニャ達といた男性だったのだ。

 その男性は吸い込まれる様な黒い瞳でラニーニャを傷つけた男を睨み、

片刃の長い刃先を向けていた。

「彼女と、下がってくれ」

 それからその男性は静かに刀を下し、彼に指示した。

 だが、何が起きているのかわかっていない彼は呆気に取られ、動けない様だった。

「こちらです!」

 アルトがそんな彼をラニーニャを傷つけた男から離れた処へ誘導するべく叫ぶと、

「あ、ああ……」

と、小さな声で返事をした彼はラニーニャを抱えて立ち上がり、アルトの誘導に従った。

 これからどうするべきか……。

 例え逃げた処で、無駄だろう……。

 アルトは彼を誘導しながら考えた。

 だが、よい考えは一つも浮かばなかった。

「う、浦島?」

 すると、アルトのポケットにいる浦島から「あれをやりましょう!」と目で訴えられたのである。

「浦島。あれって、まさか、冬夏青々の事かい!?

 でも、その技は僕じゃ使えないよ……」

 その浦島にアルトが尻込みした。

「ぅわっ!?」

 だが、アルトの目の前で水の泡が破裂する。

 そのせいでアルトの顔が濡れたので叫んでしまった。

「浦島!?」

 そして、アルトはその水の泡の正体が浦島が口から出したしゃぼんだとわかっていた。

 アルトの眉間にしわが寄る。

 すると、そんなアルトに「覚悟を決めてください!」という浦島の意思が伝わって来た。

「……わかったよ、浦島! 僕に力を貸してくれ!」

 その浦島の意思を受け取ったアルトは瞳を閉じ、こう念じた。

ーー

 我 願う

 彼の者を守りし強固な盾になる事を

 万人に屈する事のない我が意志よ

 今ここに具現化せよ

 冬夏青々!

      ーー

 瞳を開けたアルトと浦島のマナが融合し、アルト達をすっぽりと覆う強固な水の盾が出現した。

 その水の盾は仄かに青い輝きを放つ。

「こ、これは!?」

 その水の盾を見た彼はうろたえた。

「これは我が龍宮一族の秘術 冬夏青々。

 僕と浦島で作った水の盾です。

 この中なら何ものの攻撃も受けませんから安心してください!」

 そして、アルトはこう説明して彼を落ち着かせ二人の男の戦いを見守った。

 すると、見守り始めてすぐにその男たちの周りに爆音を立てながらいくつもの深紅の火柱が出現し、

その火柱は周辺に生えている木々よりも高く燃え上がった。

 だが、その火柱は先程見た漆黒の炎でかき消されたのである。

 どうやら、ラニーニャ達を救った男が刀に漆黒の炎を宿らせ、そうした様だった。

 あれは、まさか……!?

 だが、それを見たアルトは自身が先程願った事を後悔した。

 そう、自身が願ったせいで、漆黒の悪魔を呼び寄せてしまったのだ。

 もう、後戻り出来ない。

 そう後悔しているアルトの前で何故かケレスを含め、男達はほぼ同時にその場に倒れたのである。

「な、何が起きたのでしょうか?」

 その戦いの終焉を見たアルトの口からぽつりと言葉が漏れると、

「恐らく、バルの叫びじゃろう……」

と、彼の口からもぽつりと言葉が漏れた。

 そう、マンドレイクは自身に危害が加わりそうになると、叫び声を上げる。

 そして、その声を聞くと全身がしびれ、意識を失う。

 さらにその状態は何もしなければ一週間は続くのである。

「そうか。バル君はマンドレイクでしたね……」

 アルトの気が抜けると全身に激痛が走りその場に崩れる様に倒れた。

 さらに冬夏青々は跡形もなく消えた。

 そう、アルトは大怪我に加え、マナの不足状態に陥っていたのだ。

「お前さん、大丈夫か!?」

 彼のおろおろした声がアルトの上から聞こえ、

「何とか……」

と、苦笑いしか出来ないアルトは答えた。

 すると何所からともなく現れた赤い木漏れ日が降り注がれ、

アルトの全身の痛みは消え去り、脱力感もなくなったのである。

「えっ!? これは一体……」

 それから何が何だかわからなかったがアルトが体を起こし、瞬きすると、

アルトの傷とマナの補給を行ったものがそこにいた。

 次回【心をざわめかす言葉 ~小さな救世主の到来~】

 投稿予定日は2026年8月3日☆

※この作品は無断転載禁止でございます♪

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