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番外編 龍宮 アルトの憂鬱  作者: 紅p
第四章   心をざわめかす言葉
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040 ~素晴らしい朝を迎えた後に~

 ラニーニャの祖父の好意によりアルトはその家で一夜を過ごす事となった。

 そして、次の日ラニーニャと少しだけ笑って話す事が出来た。

 そんなアルトはバルに連れられある所まで行くのだが……。

 ラニーニャの祖父の意味深な顔が気にはなったがアルトは ぴゅーけんから案内された部屋で、

バルと休む事となった。

 その部屋には式布団が一枚敷かれており、さらに男物の灰色の寝巻がたたんで置いてあった。

 これはラニーニャの祖父の物だろうが恐らくこれを着てよいのだろう。

 へえ、こんな感じで眠るのも久しぶりだな……。

 そう思いながらアルトがその布団と寝間着を眺めていると、

そこでバルが楽しそうに飛び跳ね出してしまった。

 そして見事、布団と寝間着はぐしゃぐしゃとなった。

「おいおい、バル君。今から僕はそこで寝るのだけど……」

 そのバルに少々呆れたがバルを宥めたアルトはバルとぐっすりと眠った。

ー●

 次の日の朝早くにアルトは目が覚めた。

 すると、

「キャア! キャア!」

と、バルが「一緒に来てほしい所がある!」と言う様に鳴き、

「わかったよ、バル君。顔を洗ってから一緒に行こうか?」

と、言って、バルの誘いを受けたアルトが部屋を出るとそこにラニーニャがいたのである。

 本日のラニーニャの服装はベースが白色の七分袖のシャツに薄い青色の膝までのズボンだった。

 ちなみいにシャツは胸辺りに少し濃いめのピンクのラインが入っている。

 アルトはラニーニャと会えたのは嬉しかったがその目は腫れており、

元気もなかったので眉は下がってしまった。

「せ、先輩!? 起きて大丈夫なのですか?」

「うん。少し気分がいいの。全部、アルトのおかげだよ」

 心配するアルトにラニーニャは笑ってくれた。

 すると、ラニーニャの下ろしていた黒髪が微かに揺れる。

 だが、無理をしている事がわかった。

 そんなラニーニャの態度にアルトは言葉をつまらせたが、ラニーニャは笑ったまま話を続けた。

「あのね、アルト。私、あなたがああ言ってくれなきゃわからなかった。

 スレイプニルの気持……。

 私ね、昨日、彼の気持ちを考えた。

 そして、わかったの……。

 彼が、どうして代替わりを私に頼んだのかが……」

 ここまで話しを続けたラニーニャだったが、唇を噛みしめ、黙ってしまった。

「先輩?」

 眉が下がったままのアルトが優しく声を掛けると、

「……わかったんだけどね、やっぱり、辛いの。

 大好きな彼と別れるのってさぁ……」

と、呟く様に言ったラニーニャの頬に涙が道を作ってしまった。

 それを見てしまったアルトの目頭は熱くなる。

 それでも、ぐっと堪え穏やかな顔で笑った。

「……先輩、辛くない訳がありませんよ。

 だけど、大好きなら最期の時まで彼の傍にいてあげなくては」

「……うん。一緒にいたい。彼の傍に……」

 そのアルトを見たラニーニャも涙を拭って笑う。

「僕もいますからね!」

 その決意を伝える為、アルトが大きく頷いて言うと、

「キャァーー!」

と、「僕を忘れないで!」と言わんばかりに、バルが鳴いたのだ。

「そうだったね、バル君!」

 そのバルをアルトが抱き抱えると、

 「ふふっ。バルちゃんも、お願いね?」

と、言ったラニーニャはアルト達に信頼を寄せてくれたのだ。

 それはラニーニャの声と微笑みからわかり、アルトの胸は高鳴った。

「任せてください、先輩!」

「キャア! キャァ!」

 が、せっかくのいい雰囲気だったのにバルから「早く行こうよ!」と言う様に鳴いて急かされた。

 なので、アルトのその胸の高鳴りは静まり、眉は下がってしまった。

「わかった、わかったから。せめて顔ぐらい洗わせてくれないかい?」

「バルちゃん。アルトを何処に案内したいの?」

 そんなアルトの前でラニーニャは、くすくす笑った。

「キャァーアーーッ!」

 すると、バルが「それは秘密!」と言う様に鳴いたので、

「だってさ、アルト。行ってからのお楽しみみたいね?」

と、少し残念そうな顔をして言ったラニーニャはアルトを洗面所に案内してくれた。

ー●

 それからラニーニャに見送られたアルトはバルと出かけた。

 すると、外はまだ薄暗く、鳥達や虫達はまだ眠っている様だった。

 とても静かで、朝日が見えそうにはなかったが、その世界をバルは掛け続ける。

「バル君、そんなに走ったら危ないよ?」

 アルトは声を掛けたがバルは「こっち、こっち!」という様に鳴きながら走り続けた。

 そんなに急いで、何所に行くのだろう……。

 そう思いつつもアルトはバルを追い掛けた。

 アルトとバルの足音だけがノーアトゥーン山に静かに響く。

 そして、暫くバルに付いて行くと、小高い崖に到着した。

  そこはまだ周りの景色ははっきりとは見えないが見晴らしが良さそうで、

そこで止まったバルはアルトに駆け寄って来たのである。

「バル君。ここかい?」

 アルトがバルを抱き抱えると、

「キャア!」

と、バルは「そうだよ!」という様に鳴き、

「ここに何があるのかい?」

と、言ったアルトが首を傾げると、

「キャア、キャッ!」

と、バルは「もう少ししたらわかるから!」という様に鳴いた。

「わかったよ……」

 なのでアルトはその時を静かに待った。

 すると、何処から始まったとも言えない一筋の白い光が水平線に線を引いた。

 その水平線から新しい日を告げる朝日が顔を覗かせる。

 そんな朝日は空と海を自身の光で輝かせ、そこにある景色をどんどん自身の色に染めていった。

 そして不思議な事に今まで聞こえなかった波の音が聞える様になった。

 その波の音はゆったりと引いては戻ると言った、とても穏やかなものだった。

 それから見える様になった海の水面では穏やかに寄せては返す波の中で

朝日に導かれた光達がきらきらと踊っていたのだ。

 そう、アルトがバルから見せられた光景はこの様な息を飲む新しい朝を告げる光景だったのである。

 その光景に紛れ、少しだけ潮の香りをのせた風が心地よくアルト達を吹き抜ける。

 アルトはその光景を見守る様に聳え立つ崖で、刻一刻と変わる景色を暫くバルとその風とで眺めた。

 すると、息を飲む美しい光景の余韻がまだ残っている中、

「キャ?」

と、バルが、「どうだった?」と聞いてきた。

 その顔を朝日が照らし、バルの頭の蕾についていた雫も照らしきらきらと輝かせる。

「ああ。素晴らしい景色だったよ。バル君、こんな景色を見せてくれて、ありがとう!」

 穏やかに笑えているアルトはその気持ちを言葉にしてバルに伝えた。

 だが、その時だった。

 アルト達の周りで、ありとあらゆる生き物達がざわめき出したのだ。

 それは何かの危険を知らせるもので、アルトの周りの景色を一変させ、

アルトの胸に激しい衝撃を齎した。

「君達、どうしたんだ!?」

 その全ての事からアルトに底知れぬ不安が訪れる。

「キャアーーーーッ!!?!!」

 バルも気持ちを汲めないぐらい動揺していた。

「ま、まさか……!?」

 そして、その不安の原因がラニーニャである事を察したアルトはバルを抱え駆け出した。

 嫌な予感がする……。まだ、代替わりは始まってもないのに、どうして……。

 先輩、どうか無事でいてください!

 アルトはただ、ラニーニャの無事を祈り続けた。

 そして、生き物達が指し示す方向へ走り続ける。

 だが、 その場所に着いたアルトは目の前の光景に目を疑った。

 そう、何故かラニーニャの服は血で染まり、青白い顔でぐったりと横たわっていたのだ。

 さらに口からも溢れた血が呼吸を塞いでおり、ぴくりとも動いていなかったのである。

 そのラニーニャの傍には何が起こっているのかわからないといった顔をしたラニーニャの祖父と、

十数個の収穫されたばかりであろう果物が散乱していた。

 アルトは考える間もなくラニーニャの傍に駆け寄り、治癒術を施した。

 必ず助ける!

 そう願い続けて……。

 だが、動かないラニーニャの血は止まる事を知らず、溢れ続けた。

「無駄じゃ……。もう、やめてくれ……。このコは、助からん」

 それでも治癒術を施し続けるアルトの耳に彼のこんなふるえた声が聞えてくる。

 そう、その声は絶望に満ち、全てをあきらめていた。

「嫌です!! 僕は、絶対あきらめません!!

 約束したんです!! 一緒にいると!

 一緒に代替わりを成功させるって!! 頼ってくださいって!!」

 目に涙を浮かべたアルトは治癒術をやめなかった。

 そんなアルトに音も立てずに、ひらひらとあるものが近付いて来ていた。

 そして、それに全く気付かずラニーニャに治癒術を施し続けるアルトの手に

それはそのまま、そっと音も立てずに落ちた。

 それは偶然だったか必然だったかは定かではないがとてつもない奇跡を見せる。

 そう、アルトが目を開けれなくなる程輝いた後に……。

 次回【心をざわめかす言葉 ~白銀の天使と漆黒の悪魔の到来~】

 投稿予定日は2026年7月29日☆

※この作品は無断転載禁止でございます♪

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