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番外編 龍宮 アルトの憂鬱  作者: 紅p
第四章 心をざわめかす言葉
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037 ~ダーナの神話 そして、彼の正体~

 ラニーニャの祖父と話す中でアルトにいくつか気掛かりな事が生まれた。

 そして、その内の一つに付いては彼は案ずるに至らないと言う。

 だが、その先の事になると彼の表情は曇り、アルトにも見えない恐怖が襲いかかって来る……。

「……龍宮の者。そう気負いこむでないわ」

 自問自答し続けるアルトにラニーニャの祖父がこう優しく声を掛けてくれた。

「申し訳ありません……」

 そう言えたアルトの心に何か刺さっていたものの痛みは少しだけ軽減する。

「いいんじゃよ。お前さんはさっきチビを救ってくれたんじゃからの。

 それだけで儂は本当は満足しとるんじゃから」

 すると、彼はアルトの左肩に優しく手を置いた。

 その彼の手と優しい言葉からもアルトの胸の痛みは軽減していく。

 そう、そのおかげでアルトはまた彼と真直ぐ見つめ合って話す事が出来たのである。

 そんなアルトと彼の話し合いは夜更けまで続いた。

 その間はアルト達以外の声は聞こえない。

 ずっと静かな時間が流れていた。

「……一つお聞きいたしますが、先輩のお爺様。

 あなたは、ダーナですか?」

 アルトは彼と話し合った中で、最後にある期待を込めこの問いをぶつけた。

 何故ならこの問いはかなり重要なものだったからである。

「いいや。儂はダーナではない」

 だが、彼からの返答はこうだった。

 彼の返答は期待外れだったのだ。

 そう、いくらラニーニャの祈りの力が強力とは言え、

もしもの事を考えた場合、ダーナの祈りの力が使える者がいた方がよかったのだ。

 それが顔に出てしまったアルトが一つ溜息をつくと、

「なあに。お前さんが心配しておる事にはならんよ。

 そこは、あの娘の力を信じてもよいぞ?」

と、穏やかな顔の彼はこう話を続けた。

「そうですか……」

 彼のその言葉を信用出来たアルトは胸を撫で下ろす。

じゃが……」

 だが、彼は言葉をつまらせたので、

「ですが、ダーナの神話、ですね?」

と、アルトが彼がつまらせた事を代わりに言葉にすると、

「さすが龍宮の者じゃの……」

と、言った彼は深い溜息をついた。

 代替わり。

 これは、いつ、何所で行われていたのか、明確な資料は残っていない。

 それは、そうそう代替わりが行われないからである。

 代替わりで残っている資料はダーナに語り継がれし神話のみなのだ。

 そのダーナに語り継がれし神話において、

ダーナと豊かになった土地は何者かにより必ず狙われ奪われている。

 ダーナは、誰かに危害を加える力はない。

 故に誰かが守らなくてはならないのだ。

 だが、その誰かとは今はアルトと彼しかいない……。

 代替わりで何かが起こる、か……。

 一体、何が起こるというんだ?

 でも、ここは宝珠の国の守り神がいるから大丈夫なはずだ!

 だけど何なんだろう……この気持ちは?

 アルトは見えない恐怖に襲われていた。

 想像も出来ない何かがすぐ傍にいて、今にも襲いかかって来そうだったのである。

 いや、それはアルトにだけではない。

 ラニーニャにも何らかの危険が迫っている様な気がしてならなかったのだ。

 その恐怖に押しつぶされない様にアルトが平静を保っていると、

「全く……何故に、こうも辛い事ばかり続くのかの……。

 何故に、あの娘ばかりに辛い事が訪れるのじゃろうな……。

 まあ、全ては儂のせいなんじゃが……」

と、言った彼から、また乾いた笑いが生まれた。

「それは、どういう……」

 その彼の乾いた笑いが耳をかすめたアルトは彼の正体に近づき、言葉をつまらせた。

「そうじゃ、龍宮の者よ。儂が、あの娘に重き荷を背負わせたのじゃ。

 全ては儂があの様な事を言わなんだければよかったのじゃよ……」

 するとアルトの顔でもう戻れないと察した彼はそう言った後、彼の正体を明かした。

 そう、一六年前、ラタトスクであった己がアマテラスのお告げを聴いた事を……。

 ラタトスクとはアマテラスの使いと交流できる一族の事である。

 そんなラタトスクは清らかな水と世界樹から零れ落ちる雫を使い、

アマテラスの使いと心を交わす事が出来る。

 勿論、アマテラスの使いはアマテラスの意思を伝える為に舞い下りる。

 そして、それはお告げとして世界に公表される。

 そんな彼にアルトがもう一度辿り着いた真実をぶつけると、

彼はすんなり一六年前の真相を話したのである。

 そう、ラニーニャが救いの神子であると昴の長に告げたと。

 だが、それは受け入れられなかったと。

 それを伝えたばかりに幼きラニーニャは陽の光が届かぬ地下の岩戸の牢に閉じ込められ、

両親は処刑されたと……。

「そ、そんなの、間違ってる……」

 あまりにも簡単に一六年前の驚愕の真相を聴かされたアルトは脱力し、項垂れた。

 アルトが辿り着いた真実は間違っていなかった。

 それに、彼もその真実を知っている。

 だが、何故かこの世界はその真実と真逆の道を進んでいたのだ。

 それなのに、彼もラニーニャも何も言わずに生きて来ている。

「どうして昴の者達に言わないのですか?

 それに、水鏡の国の者にだって訴えれば……」

「今更、遅いんじゃ……。何もかもな」

 何とかこの愚かな間違いを正そうとアルトは顔を上げたが、

彼の全てを明らめている顔を見るとそれ以上何も言えなかった。

「それにの、その様な事はあの娘が望んでおらんのじゃよ。

 龍宮の者、これ以上あの娘を傷つけぬ為にもあの娘の望みを叶えてやってはくれぬか?」

 結局アルトは彼のこの願いを受け入れるしかなかった。

 そのアルトを見て穏やかな顔になった彼は立ち上がった。

「今日はもう遅い。泊まっていきなさい」

 すると、そう言った彼は部屋を出様としたので、

「あ、あの、どちらに?」

と、顔を上げたアルトは尋ねたが、

「……もう一人の客人の所じゃ。ふぅ、さて、どうしたものかの……」

と、答えた彼の顔は曇った。

 そう、彼はケレスについて迷っている様だった。

 ケレスをここまで巻き込んでしまい後戻り出来ないのはわかっているが、

彼はこれ以上ケレスを巻き込みたくないのだ。

 そして、その気持ちはアルトも同じだった。

 だが、ここでラニーニャとケレスを引き離す事は果たしてラニーニャの為になるのか?

 当然、それは間違いである。

 そう思ったアルトは口を開いた。

「先輩のお爺様。僕が先にケレスと話しても宜しいでしょうか?」

 それを確信しているアルトは立ち上がって彼を見つめた。

「お前さん、何を……」

 彼の足はそれ以上進まなかった。

 そして動揺の色を見せる。

「ケレスに何を言っても彼はここに残ると言いますよ?

 姉ちゃんを放っておけないとか何とか言って、ね。

 ですので、ここはまず僕に任せていただけませんか?」

 ケレスと対話する事を決めていたアルトは彼の隣に並んだ。

「すまぬの……」

「いいえ。ケレスは無知な所が多い。

 ですので、僕が少し享受して参ります。

 その後の事は彼が決める事ですので……」

 彼の呟きを聞いたアルトはそう言って彼に一礼し、足を進め様とした。

 すると、アルト達の前から ぴゅーけんが不機嫌そうな顔で歩いて来たのである。

 聞こえないがドスドスと足音が聞えそうな歩き方で近づいて来た。

「ぴゅーけん君、どうしたんだい?」

 ぴゅーけんが心配になったアルトがしゃがんで目を合わせると、

ぴゅーけんは頬を赤くし、何かを訴える様にアルトを見つめてきた。

 そして、ぴゅーけんからはだらしなさすぎるケレスへの幻滅したという気持ちが伝わってくる。

「そうか……ケレスは相変わらずだね」

 ケレスのだらしなさを想像したアルトの口から一つ溜息が漏れる。

 それでも大きく頷いたアルトは顔を下げる事はなかった。

「ぴゅーけん君、彼に代わって謝るよ。だから、そんな顔をしないでくれ」

 優しい顔のままアルトがそう言うと、ぴゅーけんは、こくんと頷いた。

「では、僕はケレスの所に行くよ」

 そして、そう言ったアルトは立ち上がり、ケレスがいる部屋へと向かった。

 そのアルトを静かに彼と ぴゅーけんは見送ってくれた。

 次回【心をざわめかす言葉 ~ダーナの神話を語る時~】

 投稿予定日は2026年7月9日☆

※この作品は無断転載禁止でございます♪

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