038 ~ダーナの神話を語る時~
ケレスと対話する事を決めたアルトだったがケレスの情けない声を聞いてしまった。
どうするか悩むアルト。
そのアルトが出した決断とは……。
ケレスと対話する事を決めたアルトはケレスがいる部屋の扉に手を掛けた。
「もっと、聞いてくれよ、ぴゅーけん……」
が、その部屋から聞こえてくる情けないケレスの声。
全く、ぴゅーけん君が呆れるのも仕方がないな。
こんなにもケレスがだらしないのだから!
アルトの眉間にしわが寄った。
アルトは先程ぴゅーけんの意思を汲み取っていた。
それは、ぴゅーけんがケレスに幻滅していたという事だったが、
実際ケレスの声を聞くとアルトも幻滅しそうになった。
はあ……先輩のお爺様にああは言ったものの、ケレスが逃げ出したらどうしようか?
アルトは一抹の不安を覚える。
だが、その扉を開けた。
「ケレス。君は、またレディーに失礼な事を言ったんじゃないのかい?」
そう言いながら眉間にしわを寄せてしまったアルトは部屋に入る。
「アルト、そのさ……レディーって、誰だ?」
すると、顔を上げたケレスの頭の上に、?マークが見えた。
「ぴゅーけん君に決まってる。そういう所が駄目なんだよ」
ぴゅーけんと同じ様な溜息をつくアルト。
「ぴゅーけんが、レディーねぇ……それは、失礼でした」
何故かアルトと同じ様な溜息をついたケレス。
そして、ずずずっと音を出しながら湯のみに入れられているものを飲み始めた。
匂いからしてそれは緑茶だろうが、不快な音だった。
「何だい? その溜息は?」
ケレスのその態度の全てにアルトはイラっとした。
「どうせ、俺は駄目な男だよ!!」
すると、ケレスは何故か不貞腐れ、一気に緑茶を飲みほした。
……何なんだ? 今度は何故、ケレスは怒ってるんだ?
まあ、これからの事を考えると情緒不安定になるのも仕方がない事なんだけど……。
今度はアルトの頭の上に、?マークが出現した。
それでもめげずにケレすと話そうと思った。
「今更どうした?」
が、素気ない態度を取ってしまった。
「なあ、アルト。聞いてもいいか?」
ケレスは怯まなかった。
だが、湯のみを机の上に置いたその目はアルトに助けを求めていた。
「僕が先に聞いたんだけど……。まあ、言ってごらん?」
そして、心苦しくなったアルトはケレスの右隣に座り、話を聞く事にした。
「なあ、アルト。俺、ここにいてもいいのか?」
そこでケレスは顔を右に向け、アルトに何か言ってほしい様な顔をした。
「いたくなければ、帰ればいいさ!」
即座にアルトの眉間には深めのしわが出来る。
「もう少し何か言ってくれよ……」
それでもまた助けを求める様にアルトを見つめてくるケレス。
その顔は非常に情けなかった。
見ているだけでイライラする!
「ふーん? では、どうしてそんな事を言うんだい?」
アルトがケレスから視線を逸らすと、
「お前って奴は……。まあ、いいけど。なあ、アルト。
俺はお前みたいに何か出来る訳じゃないし何も知らないのに姉ちゃんの傍にいてもいいのか?」
と、ケレスはその顔同様情けない事を言った。
だが逃げずにアルトを見続ける。
そんなケレスからアルトは頼られている事を感じ取れた。
そう、ケレスよりアルトの方が優れ、ラニーニャの為に何か出来るとケレスは思っている。
だが、それは間違いだ!
「君は、何か勘違いをしている。僕だって、先輩の為に特別何か出来る訳じゃないよ。
それに、知らない事があったなら、何故知ろうとしないのかい?
無知が悪いんじゃなくて、何もせずに無知でいる事が悪いんだよ」
だから、アルトはケレスの間違いを正した。
「あと、一緒にいる事は、誰かに言われなきゃ決めれない事かい?」
さらにケレスを真直ぐ見つめ問い、ケレスの決断を待った。
すると、ケレスは何かが吹っ切れた様な顔で笑った。
「そうだよな! それぐらい自分で決めなきゃな! アルト、俺さ、姉ちゃんの傍にいるよ!!」
ケレスのその瞳には力強さが戻っていた。
「ふーん。まあ、当然だけどね」
が、アルトに安心感と恥ずかしさが生まれ、また視線を逸らしてしまった。
「アルト、色々と聴いてもいいか?」
「僕に答えれる事ならね……」
アルトを真直ぐ見続けたケレスからは揺るぎない覚悟が伝わってきた。
そして、アルトはケレスと視線を合わさないまま頷いた。
そんなアルトはケレすに、代替わりとダーナについて話した。
勿論、この時にはケレスと視線を合わせており、
ケレスはアルトのその話を一度も見た事のない真剣な顔で聞いていた。
ふぅーん。そういう風に集中して聴く事も出来るんだね……。
これが勉学の時にも出てくれれば、もっと楽なんだけどなぁ……。
説明し終わったアルトがそう思いながら一息ついていてもケレスのその顔は継続していた。
そのケレスは問いを重ねる。
「じゃあ、代替わりは今までどうやってきたんだ?」
「数少ない神話の中だけど、数人のダーナがその祈りの力によって土地を豊かにする事で、
老いた神から若き神を誕生させている事ぐらいはわかっているんだけど……。
具体的にはわからないね」
アルトは冷静に説明した。
「そうか。アルトでもそこまでしかわからないのか……」
すると、ケレスは肩を落とした。
それでもアルトはダーナの神話に付いて話を続ける。
「そうだね。でもね、そのいずれの神話でもダーナと豊になった土地は狙われている。
中には、命を落としたダーナの話もあるんだ」
「嘘だろ!? どうしてそんな事になるんだ?」
声を荒げたケレスの目は丸くなった。
相変わらず無知だ。
「それは、ダーナの力があればその土地は豊かになる。誰もがその力を欲しがるのは必然だ。
それにね、そのダーナの亡骸でさえ争いの種になってきたんだよ。
そして、ダーナ自体は他に危害を加える力はない。簡単に、奪われる。
だから、僕達の様な水鏡の国の者や力の民が協力し、ダーナを守ってきたんだ」
呆れたアルトは溜息交じりに話した。
「亡骸までもって……どういう事だ?」
ゴクットケレスが唾を飲んだ音が聞えた。
「ダーナの亡骸はね……土地を再生する事が出来るんだ。
だから、ダーナが祈りを捧げなければ人柱としても利用されていたんだ。
だけど、これは昔の話だけじゃない!!
一六年前のあの時も、ダーナは多くのものに狙われていたんだ!!」
アルトは声をふるわせながらも憎むべき事実を話した。
そう、信じられない事にあの大恐慌が続いていた時、ダーナは多くの者に狙われていた。
あの大恐慌の中でダーナはこの世界が滅ばない様に世界樹の下で祈り続けていたにもかかわらずだ。
自らが弱り命の危機に直面し、支え合っていたダーナは、
自分さえ助かればよいと考えていた多くの者達に狙われ続けていたのである。
ダーナ達はその事で深く心を痛めた。
だが、それでも未だにダーナはこの世界の為に祈りを捧げている。
だから、大恐慌が終わりを迎え滅びかけていた世界は滅ばずに済んだ。
たった一つの国を除いて……。
「そんな……」
ケレスの口は開けっ放しになった。
ダーナの悲しい過去を知ってショックを受けたのだろう。
だが、アルトは揺るぎないケレスの覚悟を信じ、話を続ける。」
「だから、何故先輩がここに一人でいるんだ? 誰かに狙われるかもしれないのに!!
まして、剣の国なんかに行って、もしダーナだとばれたらどうなっていたか……」
アルトはなるべく怒りを抑える為に拳を握り締めながらここまで話した。
それは憎むべき国である剣の国の事を考えると仕方がない事だった。
「剣の国に姉ちゃんがダーナだとばれたらヤバかったのか?」
だが、そう聞いたケレスの息を飲む音が聞えるとアルトの中で何かのタガが外れてしまった。
そしてこの後、憎むべき国の事を声を荒げてケレスに話してしまう。
次回【心をざわめかす言葉 ~彼が出した答え~】
投稿予定日は2026年7月16日☆
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