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番外編 龍宮 アルトの憂鬱  作者: 紅p
第四章 心をざわめかす言葉
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035 ~辿り着いてしまった真実を口にする時~

 バルと楽しく戯れていたアルトの耳に弱弱しい声が届く。

 そして、アルトがその声の方を見るとそこには引き戸の隙間からアルト達を窺っていた者がいて……。

「バルちゃん?」

 アルト達の様子を密かに窺っていたのは弱弱しい声を出したラニーニャだった。

 ラニーニャは引き戸の隙間からアルト達を覗いていたのである。

 そのラニーニャの顔色は悪く、目は腫れていた。

 さらによくよく見るとやはりだいぶ痩せていた。

 するとラニーニャは静かに引き戸を全て開いた。

「ケレス君、アルト。悪いけど、帰って……」

 悲しそうな顔でアルト達を見つめるラニーニャ。

 その目からもアルト達を拒絶している事がわかった。

「姉ちゃん、そんな事言うなよ!! どうしたんだ?」

 それなのにラニーニャに近づくケレス。

 相変わらず空気が読めないデリカシー〇の男の行為にアルトの口から溜息が漏れた。

「理由なんてない。もう、私には関わらないで」

「帰りません、先輩」

 だが、アルトも空気を読まなかった。

 ラニーニャが泣きそうな顔で離れようとしたがアルトはそうはさせなかったのだ。

「アルト……。お願いだから、帰って……」

 アルトにさらに拒絶の目を向けるラニーニャ。

 その瞳からは今にも涙が零れ落ちそうだった。

「嫌です。先輩をほっとけませんから」

 その瞳をある思いを込めて、じっと見つめるアルト。

「どうして、私なんかをほっとけないの?」

「僕は、水鏡の国の者ですから」

 ラニーニャの瞳に戸惑いの色が宿ってもアルトは優しい眼差しのまま見つめ、気持ちを伝えた。

「だから、何でそれが関係あるの?」

 が、ラニーニャはアルトの眼差しから逃げ様とした。

 そのラニーニャを見て、アルトは決心した。

 はっきりと、伝えるべき事を伝えると。

「煩わしいのは、やめます」

 アルトは一つ息を深く吸って、それから吐いた。

 気持ちを落ち着かせる。

「先輩はダーナですね」

 そしてアルトは伝えた。

 すると、はっとしたラニーニャは黙ってしまった。

 だが、

「だったら何?」

と、言ったラニーニャはふるえた声で笑ったのである。

「だったら、じゃないでしょ!! しかも、先輩は代替わりを一人で成功させようとしている!!」

 眉を顰めたアルトはラニーニャに近づいた。

 抑えていたものの全てが溢れ出し、表情だけでなく言葉としても出してしまった。

「さすが、アルト。秀才ね。何でもお見通しなんだから……」

 ラニーニャはアルトに悲しい目を向け、ふふっと笑った。

 そんなラニーニャがダーナである事に気付いていたアルトは雪桜の園で感じた事、

それに聞えたあの声からある推論を立てていた。

 そして、答えを導き出していた。

 そう、ラニーニャが代替わりを一人で成し遂げ様としている事……。

 その導き出した答えをアルトはラニーニャの前で言葉にしてしまったのだ。

 だが、アルトはまさかラニーニャがこの様な反応をするとは思ってもみなかった。

 このラニーニャの反応は、世界の常識を覆すものだったのである。

 まず、代替わりとはその地の守り神である精霊神の入れ替わりの事で、

守り神はその地のマナを基にし、先代の記憶を持って生まれ変わる事が出来る。

 そして、この代替わりには古よりダーナの祈りの力が必要とされているが、

決して一人のダーナでは成し遂げる事は出来ない。

 それは、一人のダーナだけでは力が足りないからだ。

 だが、それは普通のダーナの話である。

 では、普通ではないダーナであるラニーニャとは?

 それを一人で成し遂げる事が出来るラニーニャの存在は世界の常識を覆すものだったのだ。

「ふざけないでください!! 先輩、どうして僕に相談してくれなかったんですか?」

 そこに到達したアルトは悔しさや惨めさといった気持ちに押しつぶされそうになりながらも

一心にラニーニャを見つめた。

「相談した所で、何も変わらないでしょ?」

 顔を背けるラニーニャ。

 すさんでしまい、やはりアルトを頼ってはくれなかった。

「そんな事はない!! 僕を頼ってください!!」

 それでも必死に訴えるアルトはラニーニャを見続けた。

「君も、そういう事を言うんだ……」

 すると、ラニーニャは、ふふっと笑った。

「じゃあ、頼ってみようかな?」

 そして、また悲しい目をアルトに向けてきた。

「何でも言って下さい」

 アルトはそんなラニーニャを大きな心で受け止めるつもりだった。

 だが、ラニーニャの苦悩はアルトの想像以上のものだった。

 そう、苦悩を語り始めたラニーニャの瞳から一粒の涙が零れ落ちた。

 そのラニーニャが落とした涙は苦悩という砂が入った砂時計の最初の一粒にすぎなかったのだ。

 砂時計の中でさらさらと落ち行く苦悩の砂は、止まる事を知らず積み重なっていっく。

 その砂の音を聞いたアルトは知ってしまった。

 この地の守り神であるスレイプニルが寿命を迎える事を。

 そのスレイプニルは何故か代替わりで生まれ変わる手伝いをラニーニャ一人に願っていた事を。

 ラニーニャがとてもスレイプニルの事を好きでそれはスレイプニルも同じだったという事を。

 それにもかかわらずそれを願い、ラニーニャに伝えていた事を……。

 だが、それは即ち、スレイプニルの最期をラニーニャ一人で看取る事を意味する。

 スレイプニルは大切なラニーニャにその重き荷を一人で背負わせる気なのだ。

 それがわかっているラニーニャは泣き崩れてしまった。

 苦しかったのだろう。

 今までこんな事を打ち明けられる者なんてそうはいなかったのだから

 その苦しみを吐き出すと、こうなってしまうのは仕方がない事だった。

 そして、そんなラニーニャにアルトが出来る事は一つしかなかった。

「先輩。僕はこう思います。そのスレイプニル様は、先輩が大好きなんです。

 だから、最期の時まで、先輩に傍にいてほしいんだと。

 それに、代替わりは仕方がない事です。どんな生命にも、命に限りがある。

 逃れられない宿命なら、受け入れるしかない。

 その宿命をスレイプニル様は、先輩と乗り越えたいんだと。

 先輩……僕にも、一緒にいさせてください。

 一緒に乗り超えましょう、先輩!」

 アルトはラニーニャの傍でしゃがみ、その泣き顔を見つめてこう伝えた。

 アルトが出来る事はラニーニャの傍で支える事だけだったのだ。

 その思いを言葉で、目で、そして、優しく包み込む笑顔でアルトは伝えたのである。

「アルト……一緒に、いてくれるの? 頼っても、いいの?」

 アルトの思いが伝わったラニーニャは声をふるわせた。

「当たり前じゃないですか!

 それに、お願いするのは僕の方です。一緒にいさせてください」

 ラニーニャの全てを優しく包み込む笑顔で受けとめるアルト。

「アルト。ありがとう……」

 すると、ラニーニャは微笑んでくれた。

 だが、そう呟いたラニーニャはそのまま意識を失ってしまった。

「先輩!!」

「姉ちゃん!?」

 アルトとケレスは同時にそう叫ぶ。

 そして、ラニーニャの祖父がラニーニャを他の部屋に運んで行った。

ー●

 暫くの間、先程の部屋でアルト達は無言の時を過ごしていた。

 正確な時刻はわからないが外はすっかり暗くなってしまった事だけはわかる。

 そこでアルトは正座し、ケレスは両膝を立てその前で両手を組んで座っていた。

 ケレスは何だかいじけている?……気がした。

 そして、まだその後のラニーニャの容態は何もわからなかった。

 すると、黄色いひよこの様な霊獣がアルト達に近付いて来たのである。

 その霊獣の身長は約三〇センチメートル。

 横は一五センチメートルと言ったところか。

 白いフリルが着いたエプロンを着用し、丸顔の三頭身でぽんぽんの様な可愛らしい尾が生えていた。

 さらにその顔にはつぶらな黒い瞳に豊かな桃色の嘴があり、

頭の頂点から立派な黒くて長い毛が同じ所から二本だけ生えていた。

 毛の生え方の見た目はMの様な感じで、盛り上がった部分の長さは約5センチメートル。

 垂れた部分はギリギリ下についていなかった。

 その黄色い霊獣は、じぃーとアルトを見つめてくる。

 何か言いたそうだった。

「えっと、君は……」

 黄色い霊獣の気持をアルトは汲もうとした。

「お、おい、ぴゅー兼!? また、悪い事を考えてんじゃないだろうな!」

 と、何故か慌て出すケレス。

 それはレディーに対し、とても失礼な言い方だった。

 その顔もレディーでなくとも嫌になるものだった。

 だが、そのおかげでレディーである黄色い霊獣の名がわかった。

「君は、ぴゅーけん君というのかい?」

 なのでアルトは、ぴゅーけんの名を呼んで笑い掛けた。

 すると、ぴゅーけんは、こくんと頷く。

「僕に何か用があるのかい?」

 ぴゅーけんはアルトに付いて来てほしい様な顔をした。

「わかった。行こう」

 アルトは立ち上がった。

「お、おい、アルト! そいつは妙な事をすんだぞ! うかつに信用すんなって!!」

 と、余計な心配をするケレス。

 明らかに嫌な顔をする ぴゅーけん。

 その ぴゅーけんにケレスは気付いていない様だった。

 全く……どうして彼はこうあるかな?

 いつもの事とは言え、ケレスのデリカシーのなさにアルトは溜息をついてしまった。

「ぴゅー兼君、すまないね。彼に代わって僕が謝るよ」

 気持ちを落ち着かせたアルトは ぴゅーけんに笑い掛ける。

 すると、ぴゅーけんは右手を差し出してきた。

「じゃあ、行こうか?」

 アルトはその手を取り、ぴゅーけんと部屋を出た。

 それから ぴゅーけんがまず案内したのはラニーニャの部屋の前だった。

 そして、ぴゅーけんがその部屋の戸を叩くと戸が静かに開き、ラニーニャの祖父が姿を見せた。

「ぴゅーけん……」

 彼は何か言いたげに ぴゅーけんを見た。

「こっちに来なさい……」

 が、彼はアルトを見らずに別の部屋へと案内を始めた。

「はい。わかりました」

 その彼にアルトが付いて行こうとすると、ぴゅーけんから心配そうな顔をされた。

「大丈夫だよ、ぴゅーけん君」

 ぴゅーけんを心配させまいとアルトは微笑む。

 すると、ぴゅーけんの頬が赤くなり、ぷいっとアルトから顔背けた。

 きっと恥ずかしがっているのだろうとアルトは思った。

「ありがとう。では、言ってくるね」

  アルトは、ぴゅーけんの頭を優しく撫で、その場を後にした。

 次回【心をざわめかす言葉 ~一六年前の真相~】

※この作品は無断転載禁止でございます♪

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