032 ~忍び寄る倒された運命のドミノ~
ラニーニャを命に代えても守る……。
そんな覚悟を胸にアルトは約束の場所へ赴いた。
すると、そこにはある人物が既にいて……。
「あれ? アルト、お前も今日、花梨様の護衛なんか?」
アルトは約束の時間、約束の場所であるヴィーンゴールブ城に到着した。
すると、そこには既にジャップがいたのである。
そのジャップから不思議そうな顔を向けられイラッとした。
「僕にも色々と事情があるんでね」
アルトの言葉に溜息が交じる。
「ふーん。事情ね……」
ジャップは何か意味深な顔をしたのでさらにイラッとした。
「何だい、その顔は?」
「いや、別に?」
苛立ちをぶつける様に睨んだがジャップから視線を逸らされ、
アルトの眉間にはさらにしわが増えてしまった。
その時だった。
「アルト、どうしてここに?」
ケレスとケレスの居候先の男性がそろって合流したのだ。
あれは、ケレスの処の……。
一体、どうして彼がここにいるんだ?
眉間のしわが減らないアルトがケレスの居候先の男性を窺っていると、
ケレスが何度も瞬きしながらアルトがここにいる理由を聞きたそうな顔をしてきた。
「僕にも色々と事情があるんだよ、ケレス」
アルトは適当にケレスを遇った。
「ふーん。事情ね……」
ジャップと全く同じ顔で同じ事を言うケレス。
どうしてこういう所は兄弟そっくりなんだろう……。
アルトの眉間のしわがさらに増えてしまった時だった。
「皆の者、待たせたの」
花梨とイヴが合流し、眉間のしわを治したアルトは気を引き締めた。
「ほーぅ。そういう事か!」
が、何ともムカつく顔のケレスから含み笑いをされアルトの眉間にまたしわが戻った。
「何だよ、君は……」
ケレすから顔を背けるアルト。
全く、ケレスの奴、絶対に姉上の事で変な勘違いしてる!! 困ったものだね!!
と、眉間のしわが直らないまま宝珠の国の飛行船であるレーヴァレイティン号に乗船した。
ー●
レーヴァレイティン号、か……。
宝珠の国の番犬である、フィード様の炎のマナの加護を享け、稼働している飛行船。
この美しい紅蓮の炎は、かつて災いを祓ったと言うだけあるね。
アルトはレーヴァレイティン号の窓から空を眺めていた。
その空は雲一つなく、何処までも青い空が広がっていた。
そして、その窓から時々見える紅蓮の火の粉に美しさの中に、ぞっとするものを感じた。
そう、レーヴァレイティン号とは宝珠の国の守り神であるフィードの加護を享けた飛行船である。
このフィードの炎は悪しきものを払う力が宿っている。
それは勿論フィードがアマテラスの加護を享けているからだ。
なのでこのレーヴァレイティン号は安全な空の旅が出来るのである。
「……ミュー!」
「もう、花梨ったら!」
窓の外を眺めているアルトの耳に楽しそうにはしゃいでいる声が聞こえてきた。
それは花梨達の声だった。
その声の方を見ると花梨とハマルの羽衣を纏った宝珠の国の皇女が特にはしゃいでおり、
時折ジャップも加わって三人で楽しそうにはしゃいでいた。
ちなみにハマルとはアマテラスの執事霊獣の事で金色に光輝く羊毛を携えた羊の姿をしている。
そして、そのハマルの羊毛にはアマテラスの光のマナの力が宿っている。
そんな楽しそうな三人をイヴとケレスの居候先の男性は静かに見守っていた。
だが、ケレスだけは蚊帳の外だったのである。
ケレスの奴、どうしたんだ? いつもならジャップの傍にいるのに……。
いや、意図的にあの中に入らない様にしているのか……。
アルトがケレスを観察している間にレーヴァレイティン号はニョルズに当直した。
ー●
お忍びだったはずだが、花梨がニョルズに降り立つや否やニョルズ中の人が集まり、
この場はお祭り騒ぎとなった。
それは花梨が一度も昴を出た事がない事も相まって凄まじいものだった。
その観衆に花梨は手を振り、花梨の隣を歩いていた宝珠の国の皇女も手を振ると、
どよめきとも取れる声が沸き上がった。
ふーん……あんな皇女でもこの国では人気があるみたいだね。
宝珠の国の皇女に冷ややかな目を向けているアルトは花梨の後ろを護衛していた。
一応、花梨と宝珠の国の皇女の周りにはイブによる冬夏青々が張られている。
そのおかげで花梨達に仇なすものを寄せ付けない様になっていたが万が一に備え任されていた。
そんな事は露知らず花梨と宝珠の国の皇女は楽しそうにニョルズを見て回った。
そこで花梨が笑うとその周りの者、全てが幸せそうに笑った。
さすが、花梨様だ。その存在だけで人を幸せに出来るなんて! だけど……。
アルトは笑えなかった。
どうしても幸せな気持ちにはなれなかったのである。
婆やはああ言ってたけれど、どうかこのまま何事も起こらないでほしいものだね……。
密かにそう願いアルトは花梨の護衛を続けていた。
「花梨。私ね、絶対見せたい場所があるの!」
すると、宝珠の国の皇女がある提案をしてきた。
その提案とはケレス達家族が知っている場所で雪桜が生えている場所、雪桜の園を見せる事だった。
雪桜とは宝珠の国に点在する雪の様な白い花弁を持った桜の事である。
その高さは約一〇メートル程、幹の太さは約三〇センチメートル程。
花弁の枚数は五枚で花弁の美しい白さからその名が付いたのである。
それから宝珠の国の皇女から目配せされケレスにしては魅力的にその場所を紹介した。
さらにジャップの補足が加わるとアルトもその場所に興味をそそられた。
「ほう。その様な所があるのか。是非行きたいぞ!」
勿論花梨もそそられた
そして、花梨は宝珠の国の皇女の腕をしっかりと握る。
とても幸せそうな顔をして……。
「じゃあ、今から行きましょう!」
宝珠の国の皇女が優しく花梨の腕を取り、皆で雪桜の園へと向かう事となった。
ー●
一五分程歩くと日光に照らされているリンゴ園が見え出した。
皆に続いていたアルトはそのリンゴ園の光景に目を奪われた。
そう、そのリンゴ園のリンゴ達は赤く染めた頬を太陽に見せつけるかの様に木々で踊っていたのだ。
そして、静かに収穫を待ち望んでいる様だった。
「あれは、果物園だよ。赤き女王も栽培されているんだよ!」
そこに宝珠の国の皇女の声が聞え、赤き女王の話を始めた。
赤き女王……確か、先輩の祖父が育てている話を聞いた事がある。
じゃあ、あそこは先輩の祖父の果樹園なのか。
何だか嫌な予感がするよ……。
ラニーニャの祖父が果物を栽培して生計を立てていると聞いていたアルトは不安に襲われていた。
何故ならアルトの想像通りならこのまま花梨とラニーニャは近づいてしまうのだ。
そして、この時のアルトはまだ知らなかった。
運命の悪戯が触れたドミノが次々と倒れ、傍まで来ていた事を。
その止まらないドミノ倒しの中にいるアルトが、その連なるドミノ倒しに翻弄される事も……。
そんなアルトはケレス達が言う雪桜の園へと到着した。
すると、絵にも描けない美しい雪桜達から出迎えられた。
その雪桜達はアルト達を囲む様に並んでいた。
ぞわっ……!と、アルトの全身を何かが下から上へと吹き抜ける。
そして、身震いしたアルトは動けなくなった。
「ここがそうか……」
花梨はアルト達より少し前に出た。
「そうなんだけど……」
宝珠の国の皇女は言葉を失っており、その場から動けずにいた。
「ミュー、どうした? この様な素晴らしい景色がどうかしたか?」
そう、花梨が振り返ってそう言った時には花梨以外の者はアルトと同じ状態となっていたのだ。
何て美しさだ……こんなに美しく儚い雪桜は見た事がないよ。
でも、どうしてこの時期に雪桜がこんなに咲いているんだ?
それに、あの光は一体……?
花梨のその声が耳に入らない程アルトは白銀に輝く雪桜の景色に心を奪われていた。
またアルトの全身は、ぶるっとふるえる。
今の時期、雪桜は咲いていないはずだった。
なのに目の前にある二〇本ちかくある雪桜は五分咲きぐらいだとは言え咲いており、
しかもその花弁は薄っすらと白銀に輝いていたのだ。
その輝きには神々しさがあった。
勿論、普通の雪桜にはこの様な輝きは無い。
「わらわ、もっと傍で見てみたい!」
そんな雪桜の木の方へ花梨が駆け寄って行く。
「花梨様、お待ちください! 走ると危ないですよ!」
叫んだイブが花梨を追い掛け、他の者もそれに続いた。
「何じゃ、其方は?」
すると、花梨は立ち止まった。
そして、そんな花梨の前にはアルトの心をざわめかす出会いがあった。
次回【心をざわめかす言葉 ~企てた計画の第一段階の決行~】
2026年6月13日 初めての評価に御礼申し上げます! m(__)m
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