029 ~友情と家族の絆~
アルト達に近づいて来た大型トラックから降りて来た男にジャップは駆け寄った。
すると、その男からここに来た理由を話される。
そんな中、ケレスの引っ越しの手伝いをしていたジャップが急にそわそわし始め……。
アルト達の前に大型のトラックが大きな音を引き連れ現れた。
そう、ジャップの自信の源となったのはこの大型のトラックだったのだ。
そのトラックはアルト達の傍で停止した。
「おーい。ここだ!!」
「ジャップ、待たせたな」
ジャップがそのトラックに向け大きく手を振ると
そのトラックからジャップと同年代くらいで刈り上げた緑髪の男性が降りてきた。
その男性はジャップより身長は少々低いが同じぐらいの体格でジャップと同じ様な小麦色の肌、
深い緑色の瞳で優しくジャップを見つめる事でわかる様にその性格が顔に出ていた。
「すまんな、マルク。せっかくの休暇に」
「いいのって、お前の頼みだからな」
その男性にジャップは駆け寄った。
すると、マルクと呼ばれた男性は大きく頷く。
どうやらそれが彼の名の様だ。
「こいつがケレスかい? 思ったより小さいな!」
が、その彼はアルトを見て笑顔でそう言ったのである。
はっ!? 彼は今、何て言った?
アルトの時は一瞬止まる。
「小さいとは失礼な!! それに、ケレスはこっちだ!!」
と、すぐに背伸びをしてケレスを睨みつけた。
絶対にケレスの方が小さいはずだと意志を込めて睨む!
「そうか、すまんなケレス! 俺は、マルク。ジャップの同僚だ。今日はよろしく!」
「はい、マルクさん。よろしくお願いします! ところで、何がよろしくなんですか?」
ジャップの同僚は笑顔のままケレスに右手を差し出し、その手をケレスは取った。
そんな風に握手までしたケレスだったが首を傾げた。
そのケレスにジャップの同僚はガクッとなる。
「おいおいジャップ!? 説明してねえのか?」
「言ってない」
ジャップの同僚が苦笑すると、ニッコリしたジャップは大きく頷いた。
するとジャップの同僚は苦笑したままだったがある事を話した。
その話の中でジャップの同僚はジャップに頼まれケレスの引っ越しを手伝いに来た事がわかった。
しかも他の同僚に声を掛け古着やら必要そうな物までも集めて持って来ていたのだ。
なのでジャップの同僚が乗って来たトラックにケレスの引っ越の荷物を全て積み込む事となった。
「よし、お前ら、俺は先に行くぞ」
そして全ての荷物を積み込むとジャップの同僚は一人でトラックに乗って出発した。
(さて、僕達も戻るとしよう……)
アルトも出発しようとする。
「そういえばケレス。姉貴から何か預かってないか?」
だが、ジャップが急に そわそわし出したのだ。
何だ? ジャップの様子が変だ。まあ、いつもの事だけど……。
違和感を持つアルト。
「そうだった! これ……。これ、何だ?
姉ちゃんが兄貴との俺へのプレゼントだって言ってたけど……」
アルトが黙ってジャップの様子を窺っているとケレスがポケットからある鍵を取り出した。
「これって……」
その鍵を見たアルトは貸金庫の鍵だと気づき、それを言いそうになった。
だが、バッ!と、取り乱したジャップから口を塞がれてしまった。
「だああ!! アルト。言うなぁ!!」
さらにジャップは叫ぶ。
「バッヴ!? ううにをずるんだ?」
正面から押さえているジャップの力は強くアルトは何も言えなかった。
それでも暴れて抵抗した。
「ケレス、付いて来い!」
すると、手を放したジャップは何処かへ駆け出してしまった。
「あ、兄貴!? 待てよ!!」
ケレスはジャップを追い掛けた。
全く、ジャップは本当に子供っぽいんだから……。
溜息をついたがアルトもジャップを追い掛けた。
そんなジャップを追い掛けてアルトが到着した場所は勿論、銀行の貸金庫だった。
そこでジャップが支持し、ケレスがその通りにすると貸金庫の中から通帳と印鑑が出て来た。
その通帳の中身はラニーニャとジャップがケレスの為に四年間貯めていたものだったのだ。
そして、その説明をまるで子供が大人に善い行いをして褒めてほしいかの様にジャップはしていた。
だが、
「兄貴……これは、もらえない」
と、言ったケレスはその通帳をジャップに返したのだ。
えっ……? ケレスの奴、何を言っているんだ!?
アルトはケレスの行為が信じられなかった。
そう、蕾と宿り木の家は焼けてなくなり、色々とケレスは困っている。
だからどう考えても今、ケレスはこのジャップ達の気持が詰まった通帳が必要なはずだが、
ケレスはそれを拒んだのだ。
ケレスの気持がアルトには全くわからなかった。
だが、ジャップには、わかっていた。
「どうしてだ?」
だから、ジャップは通帳を受け取ろうとしない。
「こんなに、金をもらえる訳ないだろ……」
ケレスの声はふるえ出す。
「だから、どうしてだ?」
ケレスにジャップは低く、優しい声で語り掛けた。
「それは……」
ケレスは下を向いて、言葉を詰まらせた。
「なあ、ケレス……受け取ってくれ。俺達の気持をさ」
ケレスの傍にジャップは歩み寄る。
とても優しい顔で……。
それからケレスの左肩にポンと手を置いた。
「ケレス、お前は姉貴の希望なんだ。姉貴は途中でアカデミーを辞めた。
だから、お前には絶対アカデミーを無事に卒業してほしいんだ。
俺も、姉貴と同じ気持ちだ。俺も、お前の夢を叶えてやりたい。
俺達が出来る事はこれぐらいしかないがケレス、受け取ってくれ」
優しい笑顔のままのジャップはジャップ達の思いをケレスに伝えた。
先輩……あなたにとって、ケレスは、そういう存在なのですね?
そして、ジャップとあなたは……)
アルトの心の中で何かがチクリと刺さった。
すると、そこを隙間風が擦り抜ける。
アルトは孤独を感じた。
それは今のアルトでは決してそこに入れない関係だからとアルトはわかっていた。
だからアルトはケレス達の間に入る事が出来ず、
そのもどかしい気持ちを胸の奥に、そっと隠す事しか出来なかった。
「兄貴……ありがとう。受け取るよ!」
アルトの前で顔を上げて言う事が出来たケレス。
「おう! 姉貴にも、礼を言っとけよ!」
が、早速ジャップに頭をグシャグシャにされる。
「だーかーら!! それは、やめろって!!」
眉を吊り上げて怒鳴ったケレスは怒っている様で、とても幸せそうだった。
すると何故かアルトはケレすに少し意地悪をしたくなってしまった。
「君は、呑気だね。以前も言ったけど、アカデミーに合格してからの事を想像するなんてさ。
ケレス、アカデミーの受験勉強はしてるのかい?」
つい水を差したアルト。
「それは、その……。まあ、それなりに……」
案の定ケレスの目は泳ぎ出し、話し方も しどろもどろになった。
「はあ……。これだから君は……。
全く、僕ぐらい秀才ならいいけど、君は違うだろ?」
一つ息を吐いたアルトはケレすに徐に近づいてその距離を縮めた。
「 僕も、手伝うよ」
「ア、アルト? 手伝うっていうのは、一体……?」
ケレスを真直ぐ見つめ、逃げられない様に追い詰めたアルト。
「特別に僕が家庭教師をしてあげるよ。感謝したまえ!」
そう言いながら髪をかき上げ、涼し気な目でケレスを見つめた。
「家庭教師だって!?」
叫んだケレスはアルトから逃げる様に一歩、後ずさりする。
「もし、君がアカデミーに合格しなかったら先輩が悲しむからね。それは困るし」
アルトは一歩近づきケレスとの距離を縮めた。
アルトは何故こうしたのかその理由がはっきりとはわからなかった。
考えるより前に勝手にそうしてしまったのである。
いつもなら考えて行動するアルトはそれに違和感を覚えつつもそうした事が不思議と楽しかった。
そしてそれを感じるとアルトに吹いていた隙間風は消え、アルトの表情は自然と緩んだ。
「おお、それは頼もしいな!
実技は俺がいればいいとして、アルトもいれば鬼に金棒だ! やったなケレス!」
すると、ジャップが勝手にケレスの良い未来予想図を描いたのだ。
その事に少々アルトは苛立つ。
「いくら僕が協力したからって、ケレスが努力しなくちゃ意味ないからね。
落ちても僕のせいにするなよ」
アルトはジャップの良い未来予想図を壊し掛けた。
後から考えれば少々調子に乗っていたのかもしれない。
「おう、そりゃそうだ! まあ、ケレス、がんばろうや!」
「だああぁ! わかったから、それは、やめろ!!」
それでも傷一つ付かない絆の未来予想図を見せびらかせる様に
ジャップはケレスの頭をグシャグシャにした。
それからケレスの目からまた涙が溢れてきたが、ケレスは、とても嬉しそうで、
それを見たアルトも嬉しくなった。
そんなアルト達はケレスの引っ越しの続きを再開した。
そしてアルト達がラニーニャの職場に到着した時には
既にジャップの同僚がケレスの荷物を家の中までほとんど運び終えていた。
ちなみにケレスの部屋は二階の様だった。
「運ぶのは俺達がするから、ケレスは設置に回るといい」
「わかりました。ありがとうございますマルクさん」
ジャップの同僚が頷くとケレスはラニーニャの職場の二階へ上がって行った。
「よお、そこのオチビさんもケレスの手伝いに回ってくれや!」
そしてアルトが黙ってケレスを見送っているとジャップの同僚から気軽に言われた。
カチンときた。
手伝いたくない!
「アルト、ケレス一人じゃ心配だから頼むぜ!」
「わかってるさ」
だが、ジャップに気軽に言われるとアルトは素直に言えた。
それからアルトはケレスの手伝いをし、ケレスの部屋は完成した。
そして、
「勉強の件は追って、連絡する」
と、アルトは言い残しケレスの部屋を後にしたがこの後にまさかの事態が待っていた。
次回【心をざわめかす言葉 ~背中に突き刺さった友の止めの言葉~】
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