028 ~再会から無茶ぶりへ~
剣の国から無事に帰還したアルトだったが苛立っていた。
そんなアルトは背後からメイサに声を掛けられた。
そして眉間に深いしわが出来ているアルトが振り返るとそこにいたのは……。
「アルトお坊ちゃま」
「婆や、何の様だい?」
部屋に入って来たメイサに後ろから声を掛けられたアルトは顰め面だった。
機嫌の悪さがそのまま顔に出ている。
そして、そのままの顔をメイサに向けた。
「よお、アルト!」
だが、にこやかに微笑んでいるメイサの後ろには何故か陽気な顔なジャップがいたのだ。
「へっ? な、な何で君がここにいるんだ!?」
ジャップと目が合ったアルトは瞬きを忘れる程呆然となる。
今の状況を整理するだけで精いっぱいだ。
「お前に会いに来たんだ!」
ジャップはアルトが赤面する事を平気で言い放つ。
「そういう事じゃなくって! 急に来るなんて失礼だぞ!! 普通、連絡ぐらいするだろう?
それに、今、何時だと思っているのかい?」
恥ずかしすぎる!
頬がどんどん熱くなったアルトは前のめりになりながら怒鳴ってしまった。
「だって、何度も電話したんだぜ? なのにお前は全然、電話に出ないし……。
昨日、急にお前もいなくなるから心配してたって言うか……。
ジャップは少し上を見て、右頬を右指で掻き出した。
何故か困っている?
アルトはさらに恥ずかしくなり、ジャップから顔を背けてしまった。
それどころか背までも向ける。
(な、なな何なんだ!? 彼が、僕を心配してただって?
何で、僕が彼に心配されなきゃいけないんだ?
そ、それに、電話に出ないのは、君だって同じじゃないか!!)
アルトは落ち着こうと深呼吸をしたが、アルトの心臓は胸を激しく揺らし続けた。
グラリ!?と、アルトの頭までもが急に揺れ、目の前の光景も揺れる。
そして、その現象を齎したのが何なのかがわかっているアルトは振り返った。
「ジャップ何をするんだい!?」
「へへっ! 隙を見せたお前が悪いんだぜ?」
そう、ジャップのお決まりの他人の頭をグシャグシャにするといった悪戯だ。
それが決まったジャップは満面の笑みを浮かべている。
しかもそのジャップは両手を構え指を軽快に動かし、まだアルトの頭を狙っていた。
ちなみに、アルトのすぐ後ろはベットだった。
アルトとジャップの距離はそうない。
どうかするとジャップが少し手を伸ばしただけでベットに押し倒されそうなぐらいの距離だった。
つまり、アルトはジャップの悪戯からすぐには逃げられない。
しまった逃げ場がない⁉
ゴクット唾を飲み混むアルト。
またジャップの悪戯の餌食になる覚悟を決め、頭を押さえて身構えた。
……ポン。
だが、ジャップはアルトの頭ではなく優しく左肩に手を置いたのだ。
「なあ、アルト……。頼むから、俺に何も言わずいなくなるな……」
ジャップのその手はふるえ出した。
それからその手同様ジャップの声もふるえ出す。
さらにジャップの顔は胸がつんと痛くなる様な悲しみに満ちたものとなった。
そのジャップの全てからアルトの胸に何かがチクリと刺さった。
その刺激は小さかったがアルトの心を痛め、アルトは俯いてしまった。
「悪かった……」
手を下したアルトの口からこの言葉が俯いた衝撃で洩れる。
いや、これは本音だ。
本当に申し訳ないという気持ちで押しつぶされそうになった。
が。
バンバンッ!とジャップがアルトの右肩を叩いてきた。
結構痛い……!
文句の一つでも言わなきゃ気が済まない!
苛立ったアルトは思いっきり顔を上げた。
「なら、よぉーしっ!
なあ、アルト。ケレスの奴が今日引っ越すんだ。だから、お前も手伝え!
つぅー事で、一〇時にイザヴェルの駅のショッピングモールに集合な! じゃあな!」
が、言えなかった。
勝手に決めたジャップは部屋を出て行ったのだ。
「てっ!? 何、勝手に決めてるんだい? それにショッピングモールのどの店なんだい!?
ああっ、ぅもうっ!! 頼むから人の話を聞いてくれ!!」
頭を抱えたアルトの叫び声が空しく響いた。
「……ほほほ♪」
続き静寂の中、メイサの笑い声も響く。
「婆や!? 笑いごとじゃないんだよ?」
「さぁーて、アルトお坊ちゃま♪ 私は、御召し物の準備をいたしますね? ほほほ♪」
眉間にしわを寄せたアルトの眉は下がったが
メイサはまるでデートに誘われた少女の様に浮かれて部屋を出て行った。
「二人共、何なんだ……」
呆れ果てたアルトの口からその言葉だけが出る。
そして少女の気分でいるメイサには逆らえず、
約束された時間に間に合う様にそのショッピングモールへ向かわされた。
ー●
「さて……浦島、頼むよ?」
ショッピングモールの一角で右手にのせた浦島にアルトは話し掛けた。
すると浦島からジャップ達のいる方向を知らされ、アルトはそれに従い進んだ。
そしてそこには予想通りどう考えても大きすぎる机を購入しようとしているジャップと
その隣にはケレスの姿もあった。
はぁ……。ここでも、大は、小を兼ねる、か……。
アルトは呆れ果てて溜息しか出なかった。
それでもジャップ達に近づく。
「君さあ……サイズとか、測ってるのかい?」
「アルト! 良い所に来た。どうよ、この机? デカくて良いだろ?」
ジャップは鼻高々に購入しようとしている机を見せびらかしてきた。
……駄目だこれは。
「君は、僕の話を聴いてたのかい? ケレス。部屋の大きさを教えてくれ」
眉間にしわが寄ってしまったアルトはジャップからケレスに目を転がした。
当人の事だ。
少しはましな答えが返って来るだろうと期待を込める。
「実は、測ってない……」
が、苦笑いしながらケレスは後ろ頭を右手で掻き始めたのだ。
……こっちも駄目なのか⁉
「どうするんだい!? 部屋の大きさがわからなければ、家具なんか置けないだろう!!」
信じられないケレスにアルトの眉間のしわはさらに増える。
「よーし! ケレス。あれをやるぞ!」
「兄貴、頼む!」
それでもこの兄妹は笑顔のままだった。
そして、兄のジャップは弟のケレスの右肩に手を置いて瞳を閉じた。
そのケレスも瞳を閉じる。
(ジャップ達は何をする気だ?)
ジャップ達の様子をアルトは大人しく窺った。
「よし! 部屋の間取りはわかった!!」
すると、数秒で瞳を開けたジャップは家具を選び直しに行ってしまった。
「ジャ、ジャップ!? 何処に行くんだい?」
「アルト、大丈夫だ! 兄貴に任せてくれ!」
ジャップが心配になったアルトは止め様としたがそれを涼し気な顔をしたケレスから止められた。
「ケレス……何が、大丈夫なんだい?」
アルトの瞳には疑いの雲が漂う。
「まあ、見ててくれよ! 兄貴には、バッチリ読心術で伝わってるはずだから!」
ケレスは何所からか湧き出た自信を見せてアルトの疑いの雲を払った。
読心術とは、マナを通して相手に術者の心や記憶を見せる特殊な能力の事である。
そして、この読心術に近い術として時読みと呼ばれる能力がある。
これは生きているものからそうでないものまでのマナを感じ取る事が出来る能力で、
ケレスが扱える能力なのだ。
ちなみにこの能力を生かした仕事にケレスは就きたい様だが、
そうなる為にはまずはアカデミーに合格して無事に卒業しなくてはならない。
さらに、ラニーニャの先生とやらで、これからケレスが厄介になる者も扱える。
なので、恐らくそこでケレスはその能力を磨くつもりなのだろう。
読心術、か……確か、時読みの力の一つだったはずだ。
じゃあ、あの数秒でケレスの記憶をジャップに見せたという事だね。
そこまで言うのなら彼等の絆とやらを拝見しようじゃないか!
そう思ったアルトは大人しくジャップ達を見守る事にした。
するとそれからのジャップはまた考えずに次々と家具を選んでいったが、
見た感じでは真面な家具を選んでいる様だった。
ふーん……これが、読心術なんだね。
さすがケレスと言ったところか。
それにジャップも相変わらず良い勘してる……。
そんなケレス達を見ていたアルトの胸をざわざわと逆撫でる波が何処からか現れる。
初めて感じるとても不思議な感覚。
とても嫌な感覚だった。
アルトは軽く胸を触り、それを抑えた。
そして家具を買い揃えたケレス達の手伝いをしたアルトはとある場所まで家具を一緒に運んだ。
「これだけ買ったのは良いけれど、どうやって運ぶんだい?」
「それは俺に任せなって。もう少し待ってな!」
アルトの問いに答えたジャップの顔には余裕があった。
そして一〇分程待つと、その自信の源となるものがアルト達の傍に近づいて来た。
次回【心をざわめかす言葉 ~友情と家族の絆~】
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