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番外編 龍宮 アルトの憂鬱  作者: 紅p
第三章 因縁の国
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027 木漏れ日の中に突如現れた花畑

 ラニーニャを見つける事が出来たアルトの前でラニーニャは見知らぬ男性とケレスとその姿を消す。

 そして、その三人をアルトは追い掛ける事は出来なかった。

 そんなアルトはある者から声を掛けられ……。

 ミラの端まで来たアルトの前にラニーニャはいた。

 だが、そのラニーニャは中年の男性に背負られており、その隣にはケレスもいたのである。

 その中年の男性の肌はベージュ色で、決して整っているとは言えない耳下までの黒髪と対象的に

整った黒い口髭を鼻の下だけ生やしていた。

 さらに不機嫌さを少しは紛れさせる黒淵眼鏡は夕日の茜色が照らしていたが

その下の瞳は茜色に負けない深みのある茶色で中肉中背の体はケレスより大分身長が高かった。

 そんな中年の男性はラニーニャを負ぶったままもの凄い速さで走り去り、

それをケレスが慌てて追い掛けて行った。

 アルトはその光景をただ黙って見る事しか出来なかった。

 ケレス達に続く事は出来ず、浦島にラニーニャの居場所を聞く事も出来なかった。

 無力感がそれを許さなかったのだ。

 アルトが出来た事と言えば逃げる様に自家用機の所へ行く事だけだった。

 そしてアルトがぼんやりと足を進めた時だった。

「アルトお坊ちゃま!?」

 いつの間にか傍にいたメイサに声を掛けられた。

「婆や……どうして?」

 アルトは何日も砂漠を彷徨った様な顔をメイサに向ける。

「心配しましたよ……。本当に、無事で良かった……」

 メイサは瞼の裏に貯めていたものを流し、頬を伝わらせた。

 アルトに申し訳ないという気持ちが込み上げてくる。

 それからアルトはメイサに付き添われ自家用機まで帰った。

 その後の記憶は全くないが、アルトは自家用機のベットの上で眠り続けていた。

「アルトお坊ちゃま、お目覚めでしょうか?」

 アルトが目を覚ますとそこには木漏れ日の様なメイサの穏やかな顔があった。

「ああ、婆や……」

 その木漏れ日にアルトは優しく笑い掛ける。

「何か、召し上がられますか?」

「では、軽いものを頼むよ?」

 優しく笑い掛けてきたメイサにアルトが頷くと、頷いたメイサは部屋を出て行った。

 アルトは十分睡眠をとれたはずだった。

 なのに、重力に勝てずに体は一向に動きそうになかった。

 そして、何も欲しなかった。

 そう、先程までは。

 だが、今の今までほとんど腹等減っていなかったのに

メイサの顔を見ると何故か、腹が減ってきたのである。

「不思議だ……」

 今まで経験した事のない事ばかりのアルトは天井を見つめ、そう呟いた。

 まだアルトの胸の奥に何かが居座り、胸はつかえていたが、

アルトの周りを安らぎの様な感覚が包んでくれているのがわかると頬を温かいものが伝わった。

「アルトお坊ちゃま、起きれますか?」

 すると、アルトの下にメイサが食事を運んで来てくれた。

「ああ、起きれるよ」

 メイサの顔で重力に打ち勝ったアルトが体を起こすと

にこにこしながらメイサは匙を使い、アルトに食べさせ様としたのだ。

「……婆や、ワザとだろ?」

 一体何のつもりなのだろう?

 アルトはムッとする。

「まあ、アルトお坊ちゃま!? 私奴がその様な事をするとでも?」

 匙を戻したメイサは驚きの顔で大袈裟に右手で口を覆った。

 全く……何故メイサはこういう子供っぽい事をするのだろうか?

 眉を顰めたアルトは溜息をついた。

「食事を進めながらで構いませんので、話していただけますね」

 メイサも一つ溜息をつく。

 その溜息から、アルトはメイサの気持を受け取った。

 そう、どれだけメイサがアルトを心配していたのかという気持ちを。

 だから、アルトは全て話した。

 祟り神を追ってからの事。

 そして、アルトが感じ取った事、その全てを話した。

 それを話した後、アルトはある覚悟を告げた。

 どんな事をしてもダーナであるラニーニャを守ると言う覚悟……。

 だが、それを伝えた後メイサの表情は厳しいものへと変わった。

 その表情を見てアルトは自身の覚悟は己のみのものだと察し、俯いた。

 バシンッ!

 凄まじい音と衝撃。

 アルトの頭頂部にメイサの扇子が一刀両断の如く叩きつけられ目の前に涙の粒と火花が飛び散る。

「い、痛っ!? な、何するんだい!? 痛いじゃないか!!」

 アルトは顔を上げて怒鳴った。

 痛すぎる!

 絶対に瘤が出来ている!!

「その様な顔で覚悟等、軽々しく口にするものではありませんよ!!」

 メイサは鬼神と化していた。

 その声までもが鬼神となっている。

「軽々しく言ってない!! 誰が何と言おうと僕はそう決めたんだ!!

 例え婆やであろうと邪魔はさせない!!」

 鬼神に立ち向かったアルトは怒鳴る。

 バシンッ!

 また走った音と衝撃。

  今度はアルトの額に扇子が叩きつけられ目の前に火花の花畑が出現した。

「……その覚悟とやらが本物ならば、まずは食事をすませなさい。

 そして、覚えておいてください。

 あなたは、一人ではない、という事を。

 私はいつ如何なる時も、アルトお坊ちゃまの味方である、という事を……」

 火花の花畑の中からこんなメイサの声が聞こえた。

 そしてその花畑が消えた時にはメイサの姿はなく、

代わりにベットの上に置かれたアルトの携帯電話があった。

「婆や……」

 アルトが自身の携帯電話を見るとそこには、ズラッとジャップからの不在電話の表記が並んでいた。

「ジャップ……これじゃあ、ストーカーだよ?」

 ふっと笑ってしまったアルトが携帯電話を弄っていると、

一通のメッセージ通知があった。

「へえ、珍しいね。ジャップがメッセージを送るなんて……」

 首を傾げたアルトがメッセージを開くとそこにはこう書かれていたのである。

☆・☆

 アルト、ありがとう

 アルトのおかげで私、家に帰れた

 お礼に今度アップルパイ作るから、またお茶を点ててね

☆・☆

 それは、ラニーニャからのメッセージだった。

 そのメッセージは滲んでいた揚げ句、振るえていた為、とても見にくいものだったが

アルトは自身の目と心にしっかりとそれを焼き付けた。

ー●

 アルトは食事を終えたが悩んでいた。

  これは、どうするべきなのか……。

 僕が、電話をするべきなのか……。

 それとも、待つべきなのか……。

 でも、それじゃあまた婆やの扇子が飛んでくるし……。

 電話をするにしてもまだ朝の五時だから、いくらジャップとはいえ失礼に当たるだろうし……。

 そう、アルトの携帯電話には、ズラッとジャップからの不在電話の文字が並んでいる。

 これをどうするべきなのか悩んでいたのだ。

 ジャップ……一体、何の用があるんだい?

 僕が出ないのなら、メッセージを入れてくれればいいじゃないか!

 なのに電話ばかりしてきて……!

 イライラしてきたアルト。

 ま、まさか、彼はメッセージ機能を使えない、のか!?

 この答えに辿り着いてしまいジャップに電話をしようと指が動いた。

 そして、発信ボタンに手が触れる。

「うわわ!? だ、駄目だって! さすがに、マズイって!!」

 アルトは携帯電話をお手玉する程焦った。

「いや、今ここで電話を切ってしまっても一緒だ……いくらジャップでも起きるだろう!

 だったら、このまま電話をして、要件を聞いて、一言謝ればいいんだ!」

 アルトは自身を落ち着かせ、ジャップが電話に出るのを待った。

 プルルルルル、プルルル……。

 アルトの左耳に聞こえるコール音。

 これで何回目だろうか?

 一向にジャップは電話に出ない。

「一体、何をしてるんだい? こんなにコールしてるっていうのに……。

 いくらこの時間だと言えさすがに軍人である彼は起きるはずだ!

 でなきゃ、軍人として失格だよ!!」

 イライラしているアルトは左手で携帯電話を耳に当て、

右手の人差し指で机をトントンと叩き、イライラを流していた。

 プルルルルル、プルルル……。

 鳴り続くコール音。

 いくら待ってもジャップは電話に出なかった。

 なのでアルトは電話を切った。

「何で僕がイライラしなきゃいけないんだ?」

 アルトの携帯電話を持つ手がふるふるとふるえ出した。

「そもそも彼は勝手過ぎなんだよ!

 用もないのに電話はするし、用があるのに電話には出ないし!!」

 アルトは携帯電話をベットに放り投げ、大きな溜息をついた。

 もうジャップに対する苛立ちしかない!

 と、そこにコン、コンとアルトの部屋をノックする音が聞えた。

「アルトお坊ちゃま」

 ノックをしたのはメイサだった。

 基本的にメイサはいつもそうやって入って来る。

「婆や、何の様だい?」

 アルトの眉間にはしわが出来ていた。

 するとその目にまさかの人物が飛び込んで来たのだ。

 次回【心をざわめかす言葉 ~再会から無茶ぶりへ~】

 次話から章が変わるよ~☆

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