024 ~あなたへの思いを込めて~
アルトは気に入らない機械であるp?に茶会を開く準備をさせた。
そこでアルトはラニーニャへ思いを込めて茶を点てる……。
アルトがラニーニャと向かった場所は剣の国の若き皇帝の屋敷の庭園だった。
そう、アルトはラニーニャの為に茶会を開こうと考えたのだ。
空は快晴。
その空に浮かぶ太陽は夕暮れに向け傾いていたが肩をすぼめる程寒い。
だが、そこは茶会を開くには最適な場所であり、さらに茶会の道具は全て揃っていたのである。
(ふぅーん……機械が選んだ場所にしては、まあまあじゃないか。
それに指示通り、僕達を監視していないみたいだね……)
アルトは辺りを観察した後、畳に敷かれた座布団に正座した。
「さあ、先輩、どうぞ」
そこで穏やかな顔でラニーニャを見つめる。
「失礼します」
ラニーニャも穏やかな顔でアルトの前に敷かれた座布団に正座した。
「では、始めさせてもらいますね?」
アルトは、茶を点て始めた。
まず、茶釜から取り出した湯で茶碗と茶筅を温めた。
そして、程好く温まった茶碗から湯を捨て、茶碗を拭く。
それから茶匙を使い茶筒に沿って抹茶をたっぷり掬い、茶碗にそっと入れた。
最後に、茶筒の抹茶の山から抹茶をいただき、また、茶碗にそっと入れた。
(よし! 順調だ!)
ここまで進めたアルトは一度深呼吸する。
それから湯を注ぐ手順へと進んだ。
まず、茶釜から柄杓を使い湯を茶碗の壁に沿って、ゆっくりと注いだ。
それをもう一度行った。
(さあ、集中するんだ!!)
アルトは最後の山場を迎えた。
アルトはいつもここまではメイサの指導通りに行い、扇子を額に叩きつけられる事はなかった。
だが、ここからは何故か上手くいった事がなかったのである。
そう、ラニーニャの事を思い茶を点てたあの時を除いて……。
(どうか、僕の気持が伝わる様に……)
アルトはラニーニャへの思いが伝わる様に心を込めて茶を点てた。
あの日以上に気持ちを込める。
すると、アルトが点てた茶は、ふわっとした泡が出来ていたのだ。
それを崩さない様に泡を中心に集め、そっと、茶筅を抜く。
(婆や程ではないけど、上出来だ!)
自身の点てた茶を見たアルトの顔は綻んだ。
「先輩、どうぞ。
それと、茶菓子なのですが、さすがにあの店の様な物はなくって……」
茶を出したアルトは茶に合いそうな菓子を出した。
その茶菓子は、龍鬚糖という、剣の国でポピュラーな駄菓子だった。
ちなみにこれはp?に用意できる菓子を聞いて、アルトが選んだ。
だが、その龍鬚糖を見たラニーニャは何か思いつめた顔になってしまったのである。
「あ、あの……、先輩、お気に召しませんでしたか?」
アルトの眉は下がった。
「ううん、違うの。私ね、龍鬚糖、とても好きなの!」
ラニーニャは嬉しそうに笑う。
「じゃあ、いただきます!」
茶を一口飲み、龍鬚糖を一口食べた。
すると、ラニーニャの笑顔は弾け、アルトの眉は戻った。
「アルト、御馳走様でした。とても、美味しかった」
それから茶を飲み終えたラニーニャは穏やかに笑った。
勿論龍鬚糖も残さず食べていた。
「先輩。龍鬚糖、もっと食べませんか?」
アルトはアルトの分の龍鬚糖を差し出した。
「えっ? でも、これは、アルトの分でしょ?」
きょとんとなるラニーニャ。
「先輩だって、僕達に先輩の分のリンゴを全てくれたじゃないですか?」
そんなラニーニャにアルトはずっと言えなかった事を遂に言った。
そして、ふっと笑う。
すると、暫くしてラニーニャはくすっと笑った。
その笑い声にアルトの眉は下がってしまった。
何となく気まずくなる二人。
「……もう、アルト。気付いてたの?」
「すみません。気付いていたのですが……」
ラニーニャから見つめられたアルトは軽く息を吐く。
「さすが、アルト。秀才だね!」
くすくす笑うラニーニャ。
「先輩、どうか召し上がってください」
アルトはまた自身の龍鬚糖を差し出したが、
たぬてぃがその龍鬚糖を転がして遊び始めてしまったのだ。
「た、たぬてぃ!? それは、おもちゃじゃないの!!」
慌てたラニーニャは たぬてぃを捕まえる。
まだ龍鬚糖を狙っている たぬてぃ。
じたばたとラニーニャの手から逃れようとしていた。
「たぬてぃ君。すまないが、これは先輩にあげたんだ」
そんな たぬてぃの頭をアルトが優しく撫でると、たぬてぃは鼻息を出したがあきらめてくれた。
「じゃあ、アルト。これは遠慮なく、もらうね!」
しょんぼりしている たぬてぃを放したラニーニャは龍鬚糖を拾い、
アルトに笑顔をくれた。
「はい。どうぞ」
なのでそう言えたアルトの眉は元に戻った。
「姉ちゃん。体調、良くなったのか?」
そこに突然現れたケレス。
二人のいい感じな雰囲気をぶち壊した。
それに気付いていないケレスの顔は少し嬉しそうだった。
もう溜息しか出ない。
「ケレス君。あの……」
だが、何かを答えかけたラニーニャからは笑顔が消える。
「ごめん。アルト、戻るね。御馳走様でした……」
それから呟く様にそう言ったラニーニャは持っていた龍鬚糖を置き、
逃げる様に俯いて たぬてぃと屋敷に入ってしまった。
「先輩、待ってください!!」
アルトが呼び留めたもラニーニャの足が止まる事はなかった。
アルトは気付いていた。
何故、ラニーニャが逃げたのかを……。
「君がそんな怖い顔をするから、先輩が逃げたんだ!!
どうして君はそんな事が出来るんだい?」
それはケレスの後ろにいる宝珠の国の皇女がラニーニャを戦慄の目で睨んでいたからだった。
拳を握り締め、その宝珠の国の皇女を睨みつけるアルト。
沸き上がる怒りを抑えきれそうにない。
「お姉ちゃんは私達よりアルトさんを択ぶんだね……」
その宝珠の国の皇女とアルトとの視線が合う事はなかった。
揚げ句の果てにクリオネを抱いて屋敷へ戻っていった。
「お姉ちゃん、だって? 家族なら、そういう態度はしないだろうに……」
その宝珠の国の皇女を冷ややかな目でアルトが見送るとケレス達は何か言い合い始めた。
(まあ、どこの家族も変わらないという事か……)
心が苦しくなったアルト。
ケレス達に気付かれないまま屋敷に戻った。
(こういう時、どうしたら良いんだ? 教えてくれ、婆や……)
足を止め、苦悶の表情を浮かべ、ラニーニャの部屋を見つめるアルト。
窓から差し込む茜色の光が寂しくアルトの陰を作る。
それから何も出来ず自室に戻り、一人考え込んでいたが、
p?を通し、最後の夕食会に剣の国の若き皇帝が参加する事を知らされた。
(こんな時に、奴が来るなんて……、最悪だね)
アルトの眉間には、また深いしわが出来てしまった。
だが、剣の国の若き皇帝を見張る為、その食事会に参加する事にした。
すると、その食事会にはラニーニャだけでなく、ケレスまでもが不参加だったのである。
(ケレスめ……どういうつもりだい?
参加したくない気持ちはわかるけど、これ以上、宝珠の国の皇女の機嫌を損ねないでほしいよ!!)
アルトは色々な事に苛立ちながらも食事会に参加し続けた。
その食事会では、会の進行を剣の国の民族衣装を着ている女性が行い、
ジャップはケレスがいない事にご立腹の宝珠の国の皇女の機嫌を取っていた。
剣の国の若き皇帝はというと無言を貫いていた。
(しかし、奴等は本当に気付いていないのだろうか……。
だとしても、何故、今になって剣の国の若き皇帝はここに来たのか?
このまま何事も起こらなければ良いのだけど……)
その食事会中、アルトは剣の国の若き皇帝を見ていた。
「アルト様、お食事が進んでおられない様ですが、お口に合いませんか?」
と、眉が下がっている剣の国の民族衣装を着た女性から聞かれた。
「申し訳ありません。僕は小食なものでして……」
軽く頭を下げるアルト。
剣の国の若き皇帝を見ていた事を誤魔化す。
「すみません。アルトの代わりに、俺が食べますから!」
と、何故か陽気に笑ったジャップ。
アルトに気を使っているつもりなのだろうか?
そんなジャップのおかげで食事会は順調に進んでいった。
(しかし、本当に退屈だ……。もう、終わりそうだから先に退席させてもらおうかな?)
食事会もそろそろ終わりを迎え様とした時、またアルトの眉間にしわが出来た。
だが、この後アルトの下に現れた者により、そのしわは消え去る。
次回【因縁の国 ~消えた蝶の行方を捜して~】
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