023 ~新たな決意を胸に~
ラニーニャを守ると心に決めていたはずなのに何も出来なかったアルトは
用意された部屋で待機する事を強いられていた。
そんなアルトの下に、ある人物があれを配置していき……。
「アルト様、お茶が入りましたよ」
ニーズヘッグに滞在中のアルトの部屋に先程の剣の国の民族衣装を着た女性が入って来た。
その女性の横にはアルトが手を大きく広げたぐらいの大きさの長方形の物が浮いている。
「お気遣い、感謝します。ですが、結構です」
「左様ですか……。では、執事ロボットのp?をお渡ししておきます。使用方法はわかりますか?」
「ああ、大体ならね」
表情崩さず接する二人。
すると、剣の国の民族衣装を着た女性は隣で浮いていた長方形の物を残し静かに部屋を出て行った。
この物体こそp?である。
(ふーん。これが噂に聞く、剣の国の技術を集合させた傑作のp?か……。
まあ、こいつで僕達は監視されている、という事だね……。全く、厄介な物を配備するもんだ!)
p?は雷のマナを動力源として稼働している機械である。
p?には多種多様な機能が備わっており便利だが、
アルトが思っている可能性が十分ある機械なのである。
その後アルトはp?を睨みながら、アルトの部屋の前の事に聞き耳を立てていた。
それにはちゃんとした理由がある。
それは、アルトの部屋の前がラニーニャの部屋だからだ。
(ここで僕が変に行動すると、疑われてしまうね……。
そんな事はさせずに、しっかり気を張り詰めて見張っておかないと!)
アルトとラニーニャとの関係が深いものだと剣の国に思われてはならない。
この様な理由もあり剣の国ではアルトは公にラニーニャに近づけなかった。
だが、そう心に決めて緊張の糸を張った。
すると、浦島がアルトのポケットから顔を覗かせた。
その浦島はアルトを見上げある意思を伝える。
「わかってる。君も、しっかり見張ってくれ!」
アルトが浦島の目を見ると浦島は両前足を上下に動かして了解した意志を示した。
それからアルト達はそのままの状態で日が沈むまで過ごした。
すると、p?からベルの音がし、その画面に、紅 湖藍という文字が写し出された。
そんな p?にどうするかと聞かれたアルト。
眉間にしわが寄る。
(面倒だけど……変に疑われない様にしなきゃね!)
眉間のしわを直したアルトは、p?に対応した。
すると、p?は電話機能になる。
その p?越しに剣の国の民族衣装を着ていた女性から夕食会の招待を受けてしまった。
そして、アルトは不本意ながらもその食事会に参加する事になった。
だが、その会にはラニーニャの姿はなかったのである。
(はぁ……。先輩を浦島に任せているとはいえ、早くこんなつまらない会は終わってくれないかな?
だけど……先輩がいないというのに、どうして彼等はこんなにも楽しめているんだ?)
食事会中、ケレス達を見ていたアルトの眉間にしわが寄りかける。
すると、ケレス達は剣の国の民族衣装を着ていた女性から翌日、剣の国を観光する事を提案された。
そして、宝珠の国の皇女を筆頭に、アルト以外は皆、それに参加する意思を示した。
「僕は、遠慮させてもらいます」
無論アルトはその誘いを断った。
それからアルト以外は何か楽し気に話していたが、
アルトはケレス達を見る事なくそれを全て聞き流していた。
それは特に興味がなかったというのもあったが
それ以外に集中して考えなくてはならない事があったからである。
(さて、どうするか……。先輩を無事に宝珠の国に送り届けるには……)
そう、アルトが考えていた事はどうにかラニーニャだけは無事に剣の国から脱出させる事だった。
そうやって部屋に戻る間もずっとアルトが考えていると、
ケレスが宝珠の国の皇女の機嫌を損ねてしまったのである。
(全く……これ以上、事を拗れさせないでほしいね!!)
カチンときたアルト。
「おやすみ」
一言だけ言葉を残し、ケレスを見ずに部屋に入った。
そして、
「浦島、お疲れ様。変わった事はなかったかい?」
と、アルトが聞くとラニーニャを見張っていた浦島は首を縦に振り、その意思を伝えてきた。
「そうか……」
胸を撫で下ろしたアルト。
それからアルトも加わりラニーニャの部屋を見張ろうとしたその時だった。
アルトの部屋のドアが勝手に開いたのだ。
「よっ! アルト、ちょっと、いいか?」
ドアを開けた犯人はいつも通りの陽気な顔をしたジャップだった。
「君……相変わらずだね。何か用かい?」
眉間にしわが寄るアルト。
「明日……姉貴を頼む」
ジャップの眉間にもしわが寄った。
すると、アルトの胸に何かが閊える。
「……随分、無責任な事を言うんだね。どういうつもりだい?
君達は大事な妹君と、明日、楽しむのだろう? 今の先輩を放っておいて……」
ジャップの顔を見ているとイライラして息がつまる。
アルトはジャップから顔を背けた。
それどころか背を向ける。
「頼む……お前にしか、頼めねえんだ……」
ふるえたジャップの声。
一度も聞いた事のない悲しい声がアルトの背から聞こえた。
その声でアルトに閊えていたものは薄れていく。
「……君に言われるまでもなく、そうするさ」
「すまん……」
アルトが振り返る事はなかった。
それでもふるえたままのジャップの声が聞こえ、その気配は消えた。
「全く……開けたら、閉めていってほしいものだね」
開けっ放しのドアを静かに閉めたアルト。
その眉間のしわは少しだけ減っていた。
アルトは先程のジャップの様子をみて、わかった。
彼も悩んでいる。
何故なら彼はどちらの見方も出来ないからだ。
(兄弟の上の者は大変なんだね……。まあ、僕は彼に言われるまでもなく先輩を守るさ!
そして……)
アルトはそんなジャップの味方をする事も決めた。
それからアルトは浦島と交代しながらラニーニャを見守り、
夜通しそれを続け、何も異変はなかった。
朝を迎えるグリンカムビの鐘の音が響く。
昨日に引き続き聞きほれる音色。
(さて、先輩の様子をみに行ってみよう。少しは良くなっていれば良いんだけど……)
アルトは自室を出た。
グリンカムヴィの鐘の音が余韻を残し静まっていく。
(ど、どうなってるんだ!? どうして、先輩が部屋の外にいたんだ!?)
グリンカムビの鐘の音は静まった。
その時、アルトは自分の目を疑った。
何故なら、アルトの前を顔色の悪いラニーニャが たぬてぃと通り過ぎたからである。
そして、ラニーニャ達はそのまま部屋に入り施錠した。
(そんな馬鹿な!? 僕達は、ずっと見張っていたはずだ!! なのにどうして……)
考えてもアルトに答えは見つからなかった。
頭の中が真っ白になる。
そんな心境の中、アルトは気が進まない朝食会に出席し、足早に部屋に戻った。
そして、自室の窓際にある長椅子に腰掛け、俯き、考え込む。
(僕は何をしてるんだ……。こんなんだから、誰も僕を頼ってはくれないんだ!!)
自身の無力さに右拳を握り締めるアルト。
ググっと爪が掌にくい込んでいく。
すると、その拳に浦島がのってきた。
「……浦島?」
浦島は、口を引き締め、アルトを見つめてくる。
アルトも暫く見つめた。
そうやってアルトと浦島の心が通い合う。
「……わかっているさ。こんな事をしてないで、僕がすべき事をしよう!」
アルトは顔を上げて立ち上がった。
そんなアルトはp?にいくつか注文した。
それはかなり無理がある注文だったが、p?はすんなりとアルトの注文を引き受けた。
(気に障る機械だけど、少しは役に立ちそうだね……)
p?を冷ややかな目で見送るアルト。
アルトが、p?に注文した事は二つ。
その一つが、これからアルトが行う事を監視するなという事。
もう一つは、これからアルトが行う事の準備だった。
二つ目の準備に時間が掛かる為、アルトはその時を静かに待った。
そして、準備が整う予測時間まであと一〇分前になり、アルトは立ち上がった。
(もう、次はない!)
気合いを入れて部屋を出たアルトが向かったのは、無論、ラニーニャの部屋の前だった。
そこで深く息をしラニーニャの部屋のドアをノックして声を掛けた。
すると、
「アルト?」 どうしたの?
と、ドアは開かなかったがラニーニャの声が聞えた。
そのドアの向こうにいるラニーニャにある事を伝えるとアルトは覚悟を決める。
「先輩、ちょっと、お時間をいただけませんか?」
「ごめんね。何か、気分が優れなくって……」
ドアは開かない。
「先輩に、大切な話があるんです……。どうか、ここを開けてください」
開かないドアに向かいアルトは一礼する。
「急に、どうしたの?」
「先輩、お願いがあります。どうか、僕が点てた茶を飲んでいただけませんか?」
ラニーニャの怯えた声。
アルトはドアを真直ぐ見つめ続けた。
……カチャリ。
暫くして鍵を開ける音が聞える。
それからドアは半分だけ開き、そこから怯えた顔のラニーニャが覗いてきた。
だが、そのラニーニャの顔はアルトを心配しているという事も覗かせていた。
「どうしたの、アルト? 何か、あったの?」
「別に、何もありませんよ。ただ、気分転換に茶でもどうかなと思いまして。
まあ、僕の茶でそうなるか微妙な所ですが……」
ラニーニャを優しく見つめたアルトの眉に少し、しわが寄る。
「……じゃあ、お誘い、ありがたく受けるね!」
ふふっと笑ったラニーニャ。
、残りのドアを全て開けてくれた。
それからある場所へ向かう間、アルトはラニーニャの左横を歩幅を合わせ、歩いた。
そして、ラニーニャは時々、アルトの顔を見て、ゆっくりと歩く。
勿論、ラニーニャとアルトの間には たぬてぃが浮遊しており、アルトに目を光らせていた。
そう、ラニーニャに変な事をするんじゃないぞ?とその目は物語っている。
その間、特に二人は話す事はなかった。
だが、アルトは、ラニーニャが自分を頼っている事を感じ取れた。
そして、
(ここであの事を正直に伝えるんだ! 僕は、水鏡の国の者だから……)
という決意を固め、p?に用意させた所へ向かった。
次回【因縁の国 ~あなたへの思いを込めて~】
※無断転載禁止でございます♪




